「二人とも、ちょっといらっしゃい」
ブランコに乗っている香織と紗織に声をかけた。
すると、二人ともすぐにブランコを漕ぐのをやめた。
「なぁに? お母さん」
跳ねるようにブランコから降りる香織と、ゆっくりと立ち上がる紗織。
二人の性格、おもしろいほどに反対。だから、わたしも飽きないんだけど。
「お母さんどうしたの?」
駆け寄ってきた紗織が見上げながらそう聞いてきた。
きっと、わたしが笑っていたからかもしれない。
笑顔に敏感に反応してくるっていうのは、親として凄く嬉しい。
来年は小学生になる紗織。香織と違って甘えん坊だけど、芯の強さじゃ、香織と同じくらいかもしれない。
「あなたたち見てると飽きないって思ってたの」
「なに、それ?」
きょとんとした香織が聞いてくる。
「いいの。気にしないで。それより、ちょっと来てごらんなさい」
二人を手招きで呼んでから、
「ちょっとここに立ってみて」
先に香織を立たせた。一本の木の幹の元に。
その木の幹には、懐かしい跡がある。遠い昔の懐かしい跡。
その時に背を比べた人との子供が、今こうやって同じ風にしているかと思うと、すごく不思議な気がする。
「香織、結構大きくなったね」
昔の傷跡にはまだ及ばないけど、香織の歳を考えたら、当時のわたしよりも大きくなるかもしれない。
どんな事かは分かっていないと思うけど、香織はなぜか楽しそう。
わたしはわたしで、ついこないだまでヨチヨチ歩きをしていたと思っていた子達が見違えるほど大きくなっている事が、凄く嬉しい。
いつのまに、こんなに大きくなったのかしらね。
香織は、「大きくなったね」という言葉が、うれしいのかもしれない。
「お姉ちゃん、次あたし」
せがむように紗織が香織の腕を引っ張っている。
「紗織待ってて。今お姉ちゃんの番なんだから」
香織が困った風に言った。
それでも、香織はいつも紗織には優しい。
わたしは兄弟とか姉妹とかってなかったから二人を見ていると、なんとなく羨ましく思う。
でも、姉妹の機微がわからないから、困る事もあったりするけど‥‥
あ‥‥兄弟は居なかったけど、あの人は時たまお兄ちゃんだったり弟だったりした事もあったっけ‥‥‥
懐かしい。とっても。
「早く早く」
「紗織。お姉ちゃん困ってるでしょ」
「いいよ。次紗織ね」
「うんっ」
香織がすぐにどいて、紗織を立たせている。香織の面倒見がいいせいか、わたしも安心していられる部分が多いのも確か。
ニコニコしながら、背筋を伸ばしてしっかりと立っている姿を見て、わたしは思わず笑った。
幼稚園での身体測定の気分なのかしらね。ふふっ。
「お母さん、紗織どう?」
わたしの言葉をずっと待っている紗織。目がまっすぐわたしの方を見てる。
母親になってみて、こうやって見られる事が、どれだけ嬉しい事か初めてわかった。
お母さんも、わたしが小さい頃、こんな風に思ったのかな‥‥‥
「‥‥‥お姉ちゃんの方が大きいのはしょうがないけど、紗織も結構大きいのね」
「お姉ちゃんみたいになるぅ」
「なんでも好き嫌いしないで食べれば、すぐなれるから‥‥ね?」
「うん。紗織、好き嫌いしないっ」
「あ、あたしもっ」
そのまま、二人は今の事を忘れたかのように、今度は滑り台の方へ走っていった。
「ふざけて走らないの!」
子供達の前では、出来るだけ笑顔で居てあげたいと思っていた。
でも、そんな気構えは必要ないって分かった。二人を見てるだけで、勝手に笑顔が出てくるから。
今日の事は、‥‥あの人が帰ってきたら報告しなくちゃね。
喜んでくれるかな。
作品情報
作者名 | じんざ |
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タイトル | あの時の詩 |
サブタイトル | 45:香織と沙織 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/あの時の詩, 藤崎詩織 |
感想投稿数 | 280 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月09日 04時35分18秒 |
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- [★★★★★★] 何とも素直でかわいい娘たちですな
- [★★★★★★] 「詩織お母さん編」、実はとっても気に入っています。(^^♪ もっといっぱい読みたいです。 作者さん、頑張って描いて下さいませ。m(__)m