起きてから・・・いや・・・起きる前から、こんなに鼓動が高鳴ったのは、生まれて初めてだった。小学校の遠足の時や運動会の時、青葉台高校の受験発表の時も、こんな風じゃなかった。唯一近い事といえば、陸上部の大会の時くらいだけど、それでも今日ほどの高鳴りは初めて。
自分で鼓動を数えられるくらい。
いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち、きゅう、じゅ・・・・
十を超えた辺りから、わからなくなった。
数えるより先に、鼓動が言葉を置いていってしまう。
そんな事はもういい。
今日、いよいよ今日。
カレンダーの印の日。

夏は、私はそんなに好きじゃない。
暑いのは大丈夫でも、とにかく日差しは苦手だった。
今日だって、たっぷり塗ってきた筈の日焼け止めクリームが、効いているのかどうかわからないくらいに、日差しは強い。こんな事ならノースリーブじゃなくて、ちゃんと袖のあるのを着れば良かった。でも、もうそんな事してる場合じゃない。これを着る事にしたのだって、散々考えた。これから服なんか変えたら、もう間に合わなくなる。
私は歩き出した。
これからの道のりを考えると、目も眩みそうなくらい暑い。
うちから駅までの道。
今日は歩いて行こう。日に焼けても構わない。
すぐに着いてしまったら、きっとつまらないから。
だから歩いて行こう。
ずっと待った今日という日。
少しでも時がゆっくり流れるように。


時計をちらりと見ると、ガラスに反射した日差しが私の目を刺した。
一瞬目を細めてから、空を見上げる。
太陽が、雲一つ無い青空に、ぽつんと一つだけあった。
なんでだろう。どうして、こんなに広い空で、一人であんなに輝いていられるのだろう。寂しく無いのだろうか?
私だったら、駄目かもしれない。寂しくて、きっと泣いてしまう。
でも、もう泣かない。そう決めたから。
私が決めた、私だけとの約束。
涙のせいで、困った顔を見たくないから。


待ち合わせの時間は、十一時だった。
目一杯ゆっくり歩いたつもりなのに、青葉台駅に着いたのは十時半だった。
確かに、二十分くらい前には着くようにしたいとは思ったけれど、こんなに早く着くとは思ってもみなかった。もしかしたら、ゆっくりしたつもりでも、足が勝手に急いでいたのかもしれない。
でも、足を責める気は無かった。
本当ならもっと早く出て行こうと思ったくらいだから。
改札の前に立ってから、初めての人の流れがやってきた。
上り電車のホームからの流れ。これには乗ってない筈。
それでも、鼓動は高鳴っていた。
どんな風に歩いてるのだろう。何を着てるのだろう。髪型は変わってないだろうか。背は伸びてるのか。人ごみの中から、私の姿を探してくれるだろうか。


改札の上にある時計を見た。
十一時まで、あと十五分。
階段から降りてくる人の流れを見る度に、止まりそうなくらい、昂ぶる気持ち。高鳴る鼓動。
この駅は初めてじゃない筈だから、降りてくる時は、一番最初の方だと思う。
降りてこない。
しばらくぶりに電車を使ったから、乗る位置を間違えてしまったのかもしれない。きっともうじき来る筈。
まだ居ない。
久しぶりに来たから、ホームで景色でも見てるに違いない。
階段に人の流れが無くなった。
やっぱり、まだ十五分前じゃ早過ぎるんだ。
でも、後十五分後には、会える。そうすれば、胸の高鳴りだってきっと落ち着いてくれる。


電車が入ってくる音がした。しばらくして、発車のベル。
約束の時間の前に来るには、これが最後の電車。
今までのが比べ物にならないくらい高鳴る鼓動。
来てくれる。
これが最後。
階段から、今電車から降りて来た人達の足が見えた。スポーツシューズだ。
来た?
違っていた。
背格好が似ていたせいで、一瞬鼓動が止まりそうだった。違うとわかっていても、少し目で追って、確認してしまった。
すぐに人の流れに目を移して、今か今かと待つ。
来ない。まだ来ない。そんな筈は無い。絶対に乗ってる。でもまだ来ない。
段々と人の流れが薄くなっていく。
まだ来ない。
心臓を、誰かに握られてるようだった。今にも止まりそうなくらいに。

 結局乗っていなかった。
時間は、すでに十一時を十分回っていた。
次に来た電車にも、その次に来た電車にも乗っていなかった。
もしかして、来られなくなったのだろうか。うちに電話が来てるかもしれない。でも、電話に行ってる時に来たらどうしよう。やっぱり携帯くらい持っておけば良かった。
次に来た電車が行っても来なかったら、うちに電話をしよう。
でも、もし電話がなかったら・・・連絡も無かったら・・・
時計をまた見た。もう二十分は過ぎている。
こんなに遅刻した事無かったのに。
どこかで事故に巻き込まれたんじゃ・・・
それとも・・それとも・・・
考えたくは無かった。無かったけど、どうしても浮かんでくる。
もしかして、私の事・・・・
あんなに楽しみにしてるって言ってたのに。だから、絶対そんな訳無い。
そんな訳・・・・
また電車が来た。
結局乗っていなかった。家に電話をしても、誰からも連絡は無かった。
もう三十分過ぎていた。
来ないのかもしれない。
この日を待ってた事だって、遠く離れてても大丈夫だって、全部一人で浮かれて舞い上がってただけなんだ。私が思うほど、距離って甘い物じゃなかったんだ・・・
折角・・・折角、楽しみにしてたのに・・・
時計を見た。滲んで見えた。
泣いてる。こんな事くらいで泣いてる。まだ流れないけど、目を閉じたら涙がこぼれちゃう。
泣いてる自分が情けなくて、惨めで、目を閉じようとした時、いきなり暗くなった。手の感触だった。誰かが後ろから!
怖くて悲しくて動けなかった。声も出せない。
「だーれだ」
声がした。
え・・・うそ・・・・
怖い気持ちと悲しい気持ちが、嘘のように消えた。でも、何も言えなかった。どうして、改札からじゃないの? 見逃したの? でも、そうなら、どうして声をかけてくれなかったの?
「・・・あゆみちゃん?」
「・・・・」
「あ、怒ってる? ごめん・・・ちょっと親戚の所へ寄って、その後バスに乗ったら渋滞にハマって・・・」
目隠しが解かれた。
後ろを振り向けなかった。
見せたくない物が目にたまっていたから。
「ごめん、ほんとごめん・・・」
あやまるのは私の方だった。ほんとなら、笑顔で会いたかった。会って、「先輩」って言いたかった。なのに、泣いている。
「ごめん・・・だから、泣かないで」
「え?!」
驚いて振り向くと、先輩が困っていた。
ああ、こんな顔見たくなかったから泣きたくなかったのに・・・
「どうして・・・」
「あ・・・うん、濡れてたから・・・」
目隠しした手を見ながら、そう言った。
「せんぱあい・・・」
笑う筈だった。笑う筈だったのに。
「あ、あゆみちゃん・・・久しぶりだね」
そう言って、照れくさそうに、申し訳なさそうにハンカチを渡してくれた。変わってなかった。笑顔も声も優しさも。嬉しかった。あの時のまんまの先輩が居る。目の前に。
「笑ってくれないと、目立っちゃうよ。女の子泣かせてるみたいで」
「は・・・はい」
不思議と涙はとまった。今までの涙は、炭酸ジュースの栓をぬいた時と同じなのかもしれない。
「お詫びに、今日はたっぷり付き合うよ。こっちで泊まる所用意したから、二、三日たっぷりね」
「本当ですか!?」
一日だった予定が、三日になった。たった三十分の遅刻が、三日に化けた。
「でも、部活とか・・・」
「無いです。大丈夫ですっ! 今お休みなんですっ!」
もう涙は止まっていた。
これからの三日間を思えば、涙なんて流してる場合じゃない。


End

後書き

トゥルーラブストーリー2より。
瑞木あゆみちゃん。

うーん、駄目ですねーっていうか駄目すぎる。
一日かそこらででっちあげた物だし。
「駄目駄目だね」という評価項目を選ぶためにある作品になったかと思われます。

もっと直したいんですけどね〜もうインスピレーション湧かないです(^^;
終了〜そして敗北〜〜
次回があったら、もっとなんとかしたいと思います。

でも、トゥルーのあゆみちゃんいいですねー
可愛い後輩って感じで。
でも、トゥルー1の時は弥生ちゃんじゃなかったです。
みさきでした(笑


作品情報

作者名 じんざ
タイトルトゥルーラブストーリー
サブタイトル瑞木あゆみ
タグTrue Love Story R, みさき, のぞみ, 南弥生, 七瀬かすみ, 波多野葵, 瑞木あゆみほか
感想投稿数45
感想投稿最終日時2019年04月10日 18時58分28秒

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  • [★★★★★☆] いつの世も可愛い後輩は良い
  • [★★★★☆☆] けっこういいと思いますよ
  • [★☆☆☆☆☆] wana bitch !!