笑ってくれ……
駄目なんだ……
お前がいないと駄目なんだ……
頼むから笑ってくれ……
マルチ……
壱
『先週末に、来栖川グループから発売された、HMX−12は、メイドロボット売上最高記録を僅か1週間で更新し、なおもその記録を伸ばしつづけています。
このメイドロボット、通称[マルチ]は、基本性能以外の機能を一切排除し、低価格を売りとして一般家庭向けに発売されたもので……』
耳障りだったのでテレビの電源を切った。
重たい腰をあげ、俺はマルチがいる2階へと向かった。
部屋のドアを開けるとマルチは俺の椅子にチョコンと座っている。
「おーい、マルチ」
俺が呼びかけても何も反応しない。作動状態にしていないのだから当然だ。
「なあマルチ、昨日雑誌で読んだんだけどさあ……」
俺はマルチに話しかける。マルチの目は開いていない。
こうして見ているとまるで眠っているだけに思える。
そう、俺は眠っているマルチに話しかけているのだ。
マルチは眠っているだけなのだ。
「………でさあ、それでその店が……」
俺はマルチが目を覚ますのを待っていられない。だから話している。
自分が何をしているかはわかっている。
わかっているのだ。
これはマルチなんかではない。マルチは……
俺はこの現実を認めたくない。だから逃げているのだ。
背後に人の気配がした。俺は振り返らない。誰かはわかっている。
「……浩之ちゃん」
俺の母はあかりに鍵を預けている。だからあかりはいつでも俺の家に入ってこられるのだ。
あかりは俺がマルチと一緒になってから毎日顔を見せに来る。
俺を、救いに来ているのだ。
「……何しているの?」
「……マルチと話しているんだよ」
あかりは見ていてそんなこともわからなかったのだろうか。
「マルチちゃん……?」
「ああ、マルチだ」
他に誰がいるっていうのだ。
俺は首だけ曲げてあかりの顔を見た。その表情からは悲しみと哀れみしか見て取れない。
「……もうやめてよ浩之ちゃん…」
あかりの目からいく筋もの涙が流れていく。俺は首をマルチの方に戻した。
「やめる? 何をだ?」
「何って……浩之ちゃん、それはマルチちゃんじゃないんだよ?
起動していないメイドロボに話しかけて何になるの?」
(なに言っているんだ。これがマルチじゃなくて何なんだ)
(そんなことはわかっているさ)
「マルチちゃんに会えなくて悲しいのはわかるよ……
浩之ちゃんがマルチちゃんのことを好きなのも構わないよ……
でも、でもそれは駄目だよ、そんなの駄目だよ」
(何が駄目なんだよ、何言っているんだあかり)
(ごめんな、ごめんなあかり)
「帰れ」
俺の口から出るのはいつもこの言葉だ。
「………浩之ちゃん」
「勝手に家に入ってくるなと言っただろ、帰れ」
あかりの顔を見たくない……
「……わかったよ、でも私は又来るよ」
「…………」
「浩之ちゃんがわかってくれるまで、何度でも私は来るよ」
そう言い残しあかりは部屋を出て行った。
俺が好きなのはマルチだ。俺はマルチを求めているのだ。
目の前にいるのはマルチなんだ。マルチなんだよ、あかり。
何でさっきから涙が止まらないんだ? 何を俺は悲しんでいるんだ?
………わかっているからさ、わかっているから泣いているんだよ…
……でも。
駄目なんだ。
止められないんだ。
俺は俺を抑えることが出来ないんだ。
抑え込んでしまうと、全部終わってしまうような気がして、怖いんだよ。
「……うう………ちくしょう……ちくしょおぉぉぉーーー!!!」
弐
昼飯を買いに行く途中に、思いがけない人物に出会った。
綾香だった。
「あら! 浩之じゃないの、ひさしぶり〜」
「よう」
1年ぶりくらいだろうか、なんにも変わってないなあ、こいつは。
「? ひろゆき、あんた痩せた?」
いきなり綾香が変なことを聞いてきた。
「痩せたって……さあ?」
「なんかげっそりして見える」
そんなに痩せたのか、俺は。
この1週間まともに食ってないからなぁ……
「……ねえ、せっかく久しぶりに会ったんだし、お茶しない?」
「ああ、いいぜ」
いうなり、俺は綾香と近くの喫茶店に入った。
「ねえ、何かあったの?」
席につくと、綾香が心配そうに俺の顔をのぞき込んだ。
(なんでもないさ)
その一言がどうしても言えなく、俺は黙り込んでしまった。
「あ……」
綾香が何かを思い出したような素振りを見せた。
「もしかして……マルチのこと?」
さすがに綾香は勘がよかった。
「まあな」
「…………」
「…………」
……お互いに黙りこくってしまった。
「あ……あのさあ」
綾香が何か言いかけたときに、
「イラッシャイマセ、ゴ注文ハオ決マリデショウカ?」
店員が割って入ってきた。
その風貌はマルチと同じである。
「あ、じゃあコーヒーを」
「あ、え、えーと、じゃあわたしもコーヒーで……」
「カシコマリマシタ」
しっかりとした足取りで店員は去っていった。
「調子はどうだ?」
今度は俺から話しかけた。
「え? ああ、うん、まあまあよ、え〜と、そっちはどう?」
「最悪だな」
最悪、か……
何も考えずに口からでてきた。
「…………え、えーとね」
綾香が困ったように自分の髪をいじくった。
「なあ綾香、マルチがどうなったか知らないか?」
俺は唐突に綾香に問いかけた。
「え? マルチって、あの?」
綾香が向こうにいる店員を指さした。
「違う、高校のとき、俺が愛しているマルチだ」
「あ、う、うん……」
綾香はうつむいてしまった。
「…………ごめん、わからない」
そしておれに頭を下げた。
「そうか…………」
また長い沈黙が訪れた。
「あのっ、あのさあ」
「オ待タセイタシマシタ」
またタイミング悪く店員が割って入った。
「どうも」
「あ、ど、どうも」
「ゴユックリドウゾ」
俺たちの目の前に湯気のたつコーヒーが置かれた。
「…………わたしさあ、探してみるわ」
綾香がコーヒーをかき混ぜながらつぶやいた。
「マルチ、探してみるわ」
「そうか」
それからはお互いに一言も話さなかった。
店を出る際に、
「ありがとう」
それだけを綾香に告げて、俺たちは別れた。
僅かにだが希望は見えてきた。後は綾香に任せるしかない。
…………さあ、家に帰るか。
玄関のドアを開けるといい匂いが鼻をくすぐった。
キッチンにいくとあかりが何かを皿に盛っているところだった。
「あ、浩之ちゃん。お帰りなさい」
「何やっているんだ」
「お昼ご飯を作っているんだよ、浩之ちゃんコンビニのお弁当ばっかり食べていて体に悪いと思ったから」
「帰れ」
「たまには栄養のあるものも食べなくちゃね」
あかりは料理が盛られた皿を持っていこうとした。
「帰れって言ってるんだよ!!」
俺はあかりから皿を奪い取り、まだ湯気のでている料理を流しにぶちまけた。
「あ! 浩之ちゃん!」
「出てけ! さっさと出てけ!」
俺は目をつぶった。もう、あかりとあうのは嫌だった。
今のこんな俺をあかりに見てほしくなかった。
しばしの静寂のあと、
「…………ねえ浩之ちゃん……もうあの頃には戻れないの?」
あかりがポツリとつぶやいた。
「志保や、雅史ちゃんもいて、四人みんなで仲良くしていて……あの頃、本当に楽しかった」
「…………………………」
「みんなでお花見いったり、カラオケで歌ったり……いろんなことしたよね……」
「…………………………」
「…………明後日にね、志保が日本に帰って来ることになったんだよ。
仕事の関係らしいけど、結構時間があるらしくて、明後日会いに行くんだ。
今日はね、浩之ちゃんも一緒にいかないか誘いにきたんだ。お昼ご飯は…………ついでだよ」
「行かない…………俺はマルチの傍にいる」
「…………そう」
「……………………」
「私、また、あの頃に戻りたいよ……ねえ浩之ちゃん、まだ遅くないよ、もうマルチちゃんは、その…………」
あかりはそこまで言うと黙り込んでしまった。
そして又沈黙
苦しい、あかりの傍にいるのが苦しい。
「用事が済んだならさっさと帰れ」
あかりと一緒にいたくない。
「…………でも」
あかりはなかなかその場から動こうとしなかった。
「帰ってくれ! 頼むから帰ってくれ!」
俺はあかりを掴んで無理やり玄関まで連れていった。
「あ、浩之ちゃん、待って!」
「もう二度と家に来るな!」
俺は玄関のドアを開け、力任せにあかりの体を外に押し出した。
「待って浩之ちゃ…………あっ!」
ズザサッ!
あかりがバランスを崩して転んでしまった。
「う………痛い、痛いよ…」
あかりの膝から血が出ているのが見えた。
けれど俺は何も言わずに俺は玄関のドアを閉め、その場に座り込んだ。
ドアの後ろからあかりの泣く声がかすかに聞こえた。
………ごめん、ごめんあかり…
………もう、疲れたよ……マルチ……………
参
ジャァァァァァ…………
俺はマルチと一緒に風呂にはいっていた。
作動状態にはしていない。
しかし、主電源は落としていないので、呼吸もしているし、触れてみれば体温も感じられる。
本当に眠っているみたいだ。
本当に形だけはあの時と変わらない。
かわいい顔も。
小さな胸も。
イキやすいあそこも。
あの時と同じだ。
俺はマルチを犯した。そして、何度もマルチの中で果てた。
(死体を抱くとこんな気分になるのかな……)
ぼんやりとした意識の中、そんなことを考えていた。
もう、よくわからなかった。
もう、どうでもよかった。
とにかく、マルチと交わりたかった。
それだけだ。
その時、ドアが開いた。
「……浩之ちゃん」
視界の片隅に、あかりが立ち尽くしているのが見えた。
「…………どうして?」
「……どうしてって?」
「どうしてこんなことをするの?」
「マルチのことが好きだからだよ」
「違う! そんなの違うよ!」
あかりが悲痛な声で叫んだ。
「これはマルチちゃんじゃない! 違うんだよ! ねえ、これはマルチちゃんじゃないんだよ!」
これは……マルチじゃない………マルチじゃない?
「もうやめてよ! そんな浩之ちゃん見たくないよ! もうマルチちゃんは…いないんだよ………ねえ」
「帰ってくれ」
鈍い頭痛がした。
あかりが嫌だった。
そして、あかりを拒む俺も嫌だった。
「わたしじゃあ、マルチちゃんの代わりにはなれないの!?」
いきなりあかりが叫んだ。
「わたしじゃ駄目なの!?
わたしは、ずっと前からひろゆきちゃんのことが好きだったよ。ずっと、ずっと、ひろゆきちゃんのことを思っていたよ。
一番ひろゆきちゃんのこと分ってるつもりだよ。
わたしは一体なんなの!?
わたしはなんなの!?
ねえ! ひろゆきちゃん! わたしは今までひろゆきちゃんのなんだったの!?
わたしより、ロボットの方がいいの!?
それじゃあ、わたしはなんなの!? ねえ! なんなの!? 答えてよ!」
あかりが凄い剣幕でまくし立てた。
「あかりは、『明かり』なんだよ……」
「!?」
「それで、俺は闇か影なんだよ、だからお前が傍にいると、消えちゃうんだよ、だから帰ってくれ」
「……浩之ちゃん」
あかりがいると俺が俺でなくなってしまいそうに思えた。
「わたしは絶対に許さない……」
顔こそ見えないが、明らかに憎しみのこもった声だった。
「…………」
「絶対に許さないから!」
あかりは風呂場から飛び出して行った。そして玄関のドアが閉まる音。
俺は闇……か、
闇は光を拒み、さらなる闇を欲する……
なら、マルチも闇なのか?
鈍く重たい頭痛がいっそう強くなったように感じた…………
四
マルチをオンにした。
ブゥーン……
「……オハヨウゴザイマス、ヒロユキ様、何カ、オ申シ付ケハゴザイマセンカ?」
『……ごめん浩之、あの頃のテストマルチ、もう来栖川グループでは所持していないんだって』
電話から綾香のすまなさそうな声が聞こえる。
『つまり……そのマルチはもう…いないの………』
「…………」
『………ごめんね、浩之……』
「……何言ってるんだよ、綾香…」
『……? 浩之?』
「マルチならいるじゃないか、俺の部屋に」
俺は静かに受話器を置いた。
———————
目の前ではマルチが俺の言葉を待っている。
「………………」
濁った目で俺を見ている。
………
バキッ!!
俺はマルチを殴った。
「オ止メクダサイ、ヒロユキ様」
頭の中でうずくものがあった。
目の前には頬を青くしたマルチがいる。
「………くっ」
俺はそれの電源を切って、床に放り出した。
マルチが目の前で転がり、うつぶせになって俺の顔を睨んできた。
「…………うわあああああああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!」
わからない!
わからない!!
わからない!!!
わからない!!!!
わからない!!!!!
何故目の前にマルチが転がっているんだ!?
何故俺はマルチを殴ったんだ!?
俺はマルチを愛している、なら何故殴ったのだ!?
痛い、割れるように頭が痛い!
助けてくれ! 助けてくれマルチ!
マルチは……どこだ?
どこにいるんだ………マルチ…
マルチ………お前は何なんだ……
マルチ……
伍
風呂場にいたら電話の呼び出し音が聞こえた。
最初は放っておいたが、あまりにもしつこいので俺は電話がある玄関に向かった。
『あ………浩之ちゃん? お願い、もう一度だけ私に会って…』
あかりからだった。
なんだこいつ、絶対に許さないとか言ったわりにはやたらと腰が低いな……
「俺は……」
『明日10時、駅の入り口で待ってるから……』
「行かな……」
ガチャッ
「………………」
一方的に切られてしまった……何なんだ一体?
まあどうでもいいことだ、あかりと会うことは、もう絶対にないのだから……
俺はさっきまでいた風呂場に戻った。
俺は現実を受け入れることにした。
マルチは……死んだのだ。だから俺に会いに来ないのだ。
マルチは待っているのだろう、俺がやってくるのを。
ならば俺は逝くしかない。マルチが俺を求めているのならば。
俺はそれに答えてやらなければならない。
待ってろマルチ……
もうすぐ会えるぞ………
俺は剃刀を持って風呂場の中にいる。
浴槽には水が満タンに入っていて、蛇口からの水も出しっぱなしである。
後は手首を切って浴槽の水につけておけば………逝けるだろう。
この頭痛も止むはずだ……
隣にマルチの抜け殻が置いてある。
まるで眠っているだけのようなマルチの横顔を見ていると、マルチが生きていた高校の頃の事が次々に頭に浮かんでくる。
一緒に掃除したり……
昼飯買ってやったり……
ゲームセンターで遊んだり………
今でも鮮明に覚えている。
始めて会った時は……マルチが階段から転げ落ちそうになったのを俺が助けたんだよな……
………何言ったのかも全部覚えてるよ…
『すっ、すすすすすす、すみませんっ!
わっ、わわ、わたしったらホントにドジで、いつもいつも失敗ばかりしちゃって、その上人様にまで迷惑を——』
『まあ、まあ、少しは落ち着けよ』
『あっ、は、はいっ!………………』
『どうだ? 落ち着いたか?』
『は、はい』
『ま、とにかくケガがなくてよかったじゃねーか。
運良く俺がいて助かったな』
『あっ、どうもありがとうございましたっ!』
『……あれっ? あんたの、その耳んところ……』
『えっ?』
『それ、なに?』
『あ、これですか? いちおうはセンサーになってるんです』
…………え?
『……セ、センサ〜?』
『はい。でも本当は、人間の方と見間違われないために付けられているそうです』
『人間と見間違われないため……? もしかして、いま、うちの学校で試験中の新型メイドロボってのは……』
『はい。わたしのことだと思います』
……………?
頭の中がすうっとしていく感覚にとらわれた。
………マルチはメイドロボ?
……………………………………
……そうだよ、マルチはロボットなんだよ!
ロボットが死ぬわけ無いじゃないか!
なら、俺が今ここで死んだって何にもならないじゃないか!
「………あぶねぇ〜…」
俺は剃刀を投げ捨てた。
死んでなんになるというのだ。死んだら全部終わってしまうじゃないか。
俺は何を考えていたのだ、頭がおかしくなっていたのだろうか?
俺は大きく息を吐いて天井を見上げた。
……俺はマルチの存在が否定された、この世界に絶望し、ただ逃げたかっただけなのかもしれない。
………あきらめちゃ駄目だ。俺があきらめてどうするんだ。
たとえ綾香がいないといっても、俺は探す。
いつか見つけてみせる。
でも、………ひとまず明日、あかりに会おう。会って、謝ろう……………
六
さて……そろそろ行くか。
まだ時間まではかなりあったが、やることもない俺は早めに家を出た。
駅へ向かいながら、俺はあかりにどうやって謝るかを考えていた。
本当に、馬鹿なことをしていたものだ。
俺がマルチのことを愛していたのは間違いないが、アレはマルチなんかではないのに、俺はアレを愛していた……
あまつさえ、アレを愛しているところをあかりに見られてしまった……
……弁解の余地がないように思える。
けど、あかりに許して欲しいと言うつもりはない。ただ、今までのことを謝りたいのだ。
良い謝り方を考えつく前に駅前についてしまった。
俺は腕時計で時間を確認した。9時30分。まだ時間まで十分にある。
「そうだ、あかりに何かプレゼントでもしてやるか!」
ご機嫌取りと言ったらそれまでだが、謝罪の印にはなるだろうし、あかりもきっと喜んでくれるだろう。
俺は商店街に足を運んだ。
で、購入したものは、【熊の全て 最新版】だ。
店員に聞いたところによると、この本は一昨日に発売されたばかりならしいので、さすがの熊マニアのあかりもまだ買ってないだろう。
さて……俺は時間を確認した。10時00分。…やべえぇ!!
俺は猛スピードで駅前まで走った。
しかしあかりはまだ来ていなかった。時間を確認。10時04分。
……まさかもう帰ってしまったということはないよな。
また謝り方でも考えておくか……
そういえば、さっき家の鍵をかけてくるのを忘れたような気がする………………
時間を確認。10時30分。もう30分の遅刻だ。
………ったく、何やってんだ? あかりのやつ…
電話してみるか………
「…………あ、そうですか、すいません。ええ、はい、まだ……わかりました。はい、失礼します」
俺は受話器を置いた。おばさんによると、あかりは9時前にもう家を出たらしい。
………どうしたのだろうか。まさか交通事故とか……?
……待つしかないか。
さらに30分経過。そろそろ腹が減ってきた。
……もしかしてあかりのやつ、夜の10時のことを言ったのか?
…そんなわけないよなぁ、う〜ん。
後10分待って来なかったら帰ろう…………
時間を確認。ジャスト12時………あきらめるか。
精神的にも限界だったので、俺は帰ることにした。
「……あ、念のために伝言板に何か書いておくか」
もしもあかりが来たときのためだ、俺はここで待っていたという証拠を残しておこう。
あかりへ、いいかげん帰ります。(現在正午)
俺もいいたいことあるから電話くれ。
浩之より
よし。こんなもんで良いだろう……
俺は最後に駅前周辺を見回してみた。やはりあかりの姿は見えない。
「…じゃあ、帰るか……」
家に向かっている途中、嫌なことを俺は考えた。
(もしかしてあかりはわざと来なかったのではないのか……?)
『絶対に許さないから!』
あのときのあかりの声が頭に響いた。
こんな嫌がらせをするほどあかりは怒っているのだろうか……?
……怒り狂ったあかりの顔を想像しようとしたが無理だった。
「………ひたすら謝るか…」
そんなことを考えているうちに我が家が見えてきた。が、
「…………ん?」
………今、俺のうちから誰か出て行ったような…
あかり…っぽくはなかったような…気のせいかな?
……まあいいか。
俺は玄関までたどり着いて鍵を取り出そうとポケットを探った……が、
「あ、そういえば鍵閉め忘れたんだっけ」
俺は突っ込んだ手を出してドアを開こうとしてみた。
ガッ
あれ? 開かない……ちゃんと閉めてたか、
「……老化が進行してきているのかも…………」
馬鹿なことを考えながら鍵を開け家に入った。
……もう一度あかりに電話をかけてみるか、
カチャ、ピッポッパ…………
「あ、藤田です、あかりは……
え? 帰ってきた? じゃあ今いるんですか?
え? 今出て行った? どこに行ったかは……
え、俺んちですか? あ、そうですか、じゃあ待ってますね。
はい、失礼します」
………じゃあ待つか。ったく、どうしたんだろうなぁ、あかりのやつ…
お菓子でも用意しておくかとリビングに行こうとした時、あることを俺は思い出した。
「あ、そういえば………アレをまだ出しっ放しだったな…」
………押入れにでも閉まっておくか、あかりが見ると厄介だからな…
俺は方向転換をして自分の部屋へと向かった。
……あれ?
部屋の真ん中でアレが突っ立っていた。
センサーが反応して首がこっちを向き、濁った目が俺を捕らえた。
「………電源切ったよなぁ…」
あ、でも、俺が持ち上げて押入れまで運ぶより、自らの足でそこまで動いてもらったほうがラクだな。
そんなこと考えていたらアレがつかつかとこっちに歩み寄ってきた。
「……ついて来い」
俺は後ろを向いて部屋を出ようとした、が…
ガシッ!
「うぐぁっ!!?」
突然何かが俺の首に巻きついてきた。
ギ……ギ……
「……げ、が! ぁ!?」
何だ!? 何が起こっているんだ!?
俺は自分の首に巻きついているものに手をやった。
「………く」
……これは……人間の指?
! アレか!? アレが俺の首を締めているのか!?
「ぇ……か!」
振りほどこうとしても全く離れない。
何故だ? 何故アレが俺の首を締めるんだ?
アレは、主人の命令がない限り動かないのではないのか?
それに、何で、何で俺の首を締めてくるんだ!?
「ぐ………ぁ」
その時、最後に聞いたあかりの言葉が頭をよぎった。
『絶対に許さないから!』
……まさか、あかりが? でも、どうやって……
ギ……クキ……ギ……
「ぁ…………」
頭の中が白くなってきた。
嫌だ、死にたくない、俺はあかりに謝りたいんだ。
助けてくれ、誰か助けてくれ……誰か……
助けてくれ……マルチ……
最後に頭に浮かんだのはマルチの笑顔だった。
目の前には私が愛している人の背中がある。
その人の愛は壊れている。
私はその人が壊れていくのを止めたかったのだ。
ただ、止めたかっただけだったのに…………
壱
「………浩之ちゃん、何しているの?」
私はなかなか振り返ってくれない浩之ちゃんの背中に話しかけた。
「マルチと話しているんだよ」
浩之ちゃんは当然といった口調でこっちを向かないままで言った。
「マルチちゃん……?」
自分で声が震えているのがわかった。
「ああ、マルチだ」
「……もうやめてよ浩之ちゃん…」
……私はこんなに泣き虫だったろうか? いくら止めようと思っても勝手に涙が溢れてくる。
「やめる? なにをだ?」
「なにをって……」
そんなの、決まっているじゃない……
「浩之ちゃん、それはマルチちゃんじゃないんだよ?
作動していないメイドロボに話しかけて何になるの?
マルチちゃんに会えなくて悲しいのはわかるよ……
浩之ちゃんがマルチちゃんのことを好きなのも構わないよ。
……でも、でもそれは駄目だよ、そんなの駄目だよ」
「帰れ」
私が今の台詞を言うと決まって浩之ちゃんはこう返す。
「……浩之ちゃん」
私だって本当はこんなこと言いたくないよ。でも、浩之ちゃんがいけないんじゃないの……
「勝手に家に入ってくるなと言っただろ、帰れ」
「……わかったよ、でも私は又来るよ」
「……………」
「浩之ちゃんがわかってくれるまで、何度でも私は来るよ」
そういい残して私は家を出た。
私は今日の晩御飯のおかずを買いに商店街を歩いている。
……一体、いつまで続くのだろうか。
浩之ちゃんは、アレを買ってから壊れてしまった。
大学にも全然行かなくなってしまったし、人との関わりを極力避けている。
「私が……私が止めてあげないと……」
スーパーの自動ドアが開くと、視界にアレが入った。
「イラッシャイマセ」
私は特に会釈もせずに店内に入っていった。
最近多くの店でアレが使われている。
それぞれの持ち主がいろいろ服装や髪型を変えているが、私にはすべて同じに見える。
一通り目的のものを買い終え、アレがいるレジを避けて人間がしているレジに向かおうとしたら、一冊の女性週刊誌の見出しが目に付いた。
【謎の誤作動!? メイドロボが殺人!】
私はその週刊誌を手にとってそこのページを開いてみた。
先月四日、○△×グループから発売されているメイドロボ【R‐3】が、包丁で主人を殺害するという事件が起こっていたことが明らかになった。
自殺と誤作動の両面から調査が進められたが、遺書も見つかっておらず、ロボットからバグも発見されず、捜査は難航。
一時は主人の命令ミス、ということになった。
しかし、ロボットのデータを調べても、殺害行動を取るような命令履歴は残っていなく、最終命令は『部屋の掃除』であった。
捜査は以前進行中であるが、解決への糸口はまだ見つかっていない。
「………………………」
何かが私の背中を走った。慌てて週刊誌を棚に戻した。
私は今何を考えていたのだ? なんかとても恐ろしい事を考えていたような気がする……
レジを済ませ、店を出るときに私は後ろを振り返った。
私の視線の先には無機質に動くアレがいる。
アレが誤作動すれば…………
私はブルルッと頭を振ってその考えを振り払った。
「…今日は早く寝よう………」
弐
〔ピンポーン………〕
「……いないのかなぁ、浩之ちゃん………」
何回チャイムを押しても反応がない。仕方がないので私はおばさんから預かっている合鍵でドアを開けた。
「…………浩之ちゃーん?」
しかし返事はない。また2階にいるのだろうか…独りで。
二階に行ってもやはり浩之ちゃんはいなく、アレが電源を切られたままで置いてあるだけだった。
「……どこに行ったんだろう? もうお昼ご飯食べに行っちゃったのかなぁ………」
ドアを閉めながら私はため息をついた。
昨日、久しぶりに志保から電話がきた。
国際電話だからお金がもったいないと、話の内容は簡潔なものだった。
『明後日、そっちに一時帰国するから、時間があったら会わない?』
勿論、私は二つ返事でOKした。
浩之ちゃんの事も伝えたかったし、志保と話したら少しでも昔を思い出せるような気がした……
志保は高校を卒業した後に、私たちから逃げるようにいなくなってしまった。
たまに手紙が来て、少なくながらも連絡はとっていた。
志保はアメリカの会社に就職して、毎日忙しい日々を送っているらしい。
だが、何度たずねてもその仕事の内容を教えてくれなかった。
聞かれたくないこともあるのだろうと、私はもうその事について尋ねない事にしていた。
私は家から持ってきたエプロンをカバンから取り出し、準備にかかった。
今日は、志保のことを伝える為に来たという事もあるが、本当の目的は浩之ちゃんにご飯を作ってあげることだった。
最近は改善されてきたとはいえ、どうしてもレトルト食品やコンビニのお弁当はカロリーも高いし栄養のバランスも悪い。
(……たまにはまともなものを食べさせてあげなきゃ……)
どうせ冷蔵庫にまともな食物は入っていないだろう。
私はさっき八百屋さんで買ってきた材料で野菜炒めを作ることにした。
温野菜は栄養の吸収もいいし、量も多く取れる、栄養失調気味の浩之ちゃんにはうってつけの料理だ。
「よし、もういいかな」
火を消し、お皿に盛ろうとしたときに、誰かがぬっとキッチンに入ってきた。
「あ、浩之ちゃん。お帰りなさい」
声を震わせずに言うのが大変だった。
「何やっているんだ」
「お昼ご飯を作っているんだよ、浩之ちゃんコンビニのお弁当ばっかり食べていて体に悪いと思ったから」
「帰れ」
やはり浩之ちゃんの声は冷たい。
「たまには栄養のあるものも食べなくちゃね」
盛り付け終えたお皿を持っていこうとしたら、
「帰れって言ってるんだよ!!」
浩之ちゃんは怒鳴り、私の手からお皿を奪って流しに捨ててしまった。
「あ! 浩之ちゃん!」
「出てけ! さっさと出てけ!」
……こうなることを全く予想していなかったわけではない。でも、それでもやっぱりショックだった。
私は押し出すようにボソッと言った。
「………ねえ浩之ちゃん……もうあの頃には戻れないの?」
浩之ちゃんは上を向いて目をつぶっている。まるで何かに脅えている様にも見えた。
「志保や、雅史ちゃんもいて、四人みんなで仲良くしていて…あの頃、本当に楽しかった」
「……………」
「みんなでお花見いったり、カラオケで歌ったり…いろんなことしたよね…」
「……………」
私の声だけがキッチンの中に響いていた。
「……明後日にね、志保が日本に帰って来ることになったんだよ。
仕事の関係らしいけど、結構時間があるらしくて、明後日会いに行くんだ。
今日はね、浩之ちゃんも一緒にいかないか誘いにきたんだ。お昼ご飯は ……ついでだよ」
嘘だ。ついでなんかではない。私は、嘘をついている…………
「行かない……俺はマルチの傍にいる」
「……そう」
「…………」
「私、また、あの頃に戻りたいよ……
ねえ浩之ちゃん、まだ遅くないよ、もうマルチちゃんは、その……」
私はそこまでで口を止めた。もうあのセリフは言いたくない。
押しつぶされそうな沈黙———
「用事が済んだならさっさと帰れ」
その沈黙を浩之ちゃんは冷たく破った。
「……でも」
「帰ってくれ! 頼むから帰ってくれ!」
浩之ちゃんは私を掴んで無理やり玄関まで引っ張ってきた。
「あ、浩之ちゃん、待って!」
「もう二度と家に来るな!」
「待って浩之ちゃ……あっ!」
浩之ちゃんに強く押し出され、私はバランスを失った。
ズザサッ!
膝に鋭い痛み、恐る恐る見ると赤い血が生々しく流れている。
「う……痛い、痛いよ…」
玄関の閉まる音がした。顔を上げてもそこに浩之ちゃんの姿はない。
私は膝を抱え込んで泣いた。
膝よりも、心が何かにえぐられたように痛かった………………
ビッコを引きながら家に帰り、色々と声をかけてくる母を無視して私は自分の部屋に閉じこもった。
私は何でこんなことをしているのだろうか?
何日も学校を休んで……自分のお金でご飯を作って捨てられて……追い出されて傷つけられて……
「……浩之ちゃんのことが好きだからじゃない……………」
そう、浩之ちゃんだからだ。
私は浩之ちゃんの為に、こんなことをしているのだ。
私は浩之ちゃんのことが好きだ。
たとえ変な人形に取り付かれていても好きだ。
私は浩之ちゃんのためだったら何でもする。
愛する人のためだったら何でもしてみせる。
そのつもり……だった……
参
2階に行っても浩之ちゃんはいなかった。そして、アレもなかった……
そして、今浴室から水の音と、人間の荒い息遣いが聞こえる。
「…………………」
私はドアを開いた。
私は信じたくなかった。嘘であって欲しかった。
「………どうして?」
そう言うので精一杯だった。
「……………どうしてって?」
「どうしてこんなことをするの?」
「マルチのことが好きだからだよ」
「違う! そんなの違うよ!」
変態!
死姦!
気違い!
狂っている! 狂っている! 狂っている!!
「これはマルチちゃんじゃない! 違うんだよ!
ねえ、これはマルチちゃんじゃないんだよ!」
全てを否定したかった。
浩之ちゃんをも否定したかった。
「もうやめてよ! そんな浩之ちゃん見たくないよ!
もうマルチちゃんは……いないんだよ…ねえ」
「帰ってくれ」
浩之ちゃんの冷たい声が聞こえた。
目の前が赤くなったように感じた。
「わたしじゃあ、マルチちゃんの代わりにはなれないの!?」
何がなんだかわからなくなった。
「わたしじゃ駄目なの!?
わたしは、ずっと前からひろゆきちゃんのことが好きだったよ!
ずっと、ずっと、ひろゆきちゃんのことを思っていたよ。
一番ひろゆきちゃんのこと分ってるつもりだよ。
わたしは一体なんなの!? わたしはなんなの!?
ねえ! ひろゆきちゃん! わたしは今までひろゆきちゃんのなんだったの!?
そんなにわたしより、ロボットの方がいいの!?
それじゃあ、わたしはなんなの!? ねえ! なんなの!? 答えてよ!」
一気に捲し立て、私は息をついた。
「あかりは、『明かり』なんだよ……」
「!?」
「それで、俺は闇か影なんだよ、だからお前が傍にいると、消えちゃうんだよ、だから帰ってくれ」
「……浩之ちゃん」
…………何を言っているの浩之ちゃん…そんな、そんな冗談なんかで私が納得するとでも思っているの…?
「私は絶対に許さない……」
鈍い頭痛を感じた。
「絶対に許さないから!」
私は走った。
家に帰って、部屋に鍵を掛けて閉じこもった。
「う…うぐっ……うわああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………」
四
「…………う…うん」
目を開くとぼんやりと天井が見えた。……あのまま眠ってしまったのか。
「……う〜ん」
重たい上体を起こして、時計を見る。
そろそろ志保を迎えに行かなければいけない時間だった。
頭の中に昨日まではなかった、黒く赤い宿るものがあった。
「あっ、あっかり〜!! こっちよこっち! Hello!?」
空港のロビーで座っていると、懐かしい声が私を呼びかけた。
「あ、志保……」
私が立ち上がるよりも早く、志保は自分からこっちに走ってきた。
「うわ〜! おっひさぁ! 元気だったぁ!?」
志保は私の手を掴んではしゃいでいる。
志保から感じる空気は懐かしく、暖かかった。
「あははは、あんまり元気じゃなかったかも…」
志保の格好は、当然高校のころの制服ではなく、髪の色も金色だった。
「何言ってんのよあかり……あれ? あかり、ダイエットでもしたのぉ?」
…………?
「え、別にしてないよ…?」
「でも…あんた、前よりなんかほっそりした感じがするわよ。絶対に痩せてるって」
…ここ最近食事が喉を通らなかったせいかも……
「志保、お腹減ってない? お昼ご飯食べに行こうよ」
「そうね、私もうおなかぺっこぺこ…機内食はあまり私には向いてないわ……」
おなかを抱えてよろけながら歩く志保と一緒に、私たちは空港のレストランに入った。
「私はサンドイッチセットとサラダとコーヒー、ブラックお願いするわ♪ あかりは?………あかり?」
私は店員の顔を睨みつけていた。昨日、浩之ちゃんに犯されていた奴の顔を睨んでいた。
「あかり? あかりってば!」
志保に肩をゆすられて私は正気に戻った。
「あ……注文か、じゃあ私も志保と同じのでいいよ」
「あ………そう」
「ゴ注文ヲ繰リ返シマス。サンドイッチセット、サラダ、コーヒーガ其々2ツズツデヨロシイデスカ?」
「ええ、オッケーよ」
「コーヒーハオ食事ノ前ニオ持チシテモヨロシイデスカ?」
「ええ、じゃあそうして」
「デハ、料理ガデキルマデ少々オ待チクダサイマセ」
私は正しい足取りで去っていくアレの後ろ姿をずっと睨んでいた。
アレさえいなければ…
「いっや〜……本当にあのメイドロボ凄いわよねぇ。
見た目だけじゃ人間と完璧に同じね……って、どうしたのあかり?」
「えっ……」
志保が怪訝な顔をして私の顔を覗き込んできた。
「どうしたの? メイドロボをずっと怖い目で睨んだり。
あんなに怖い顔のあかり見たことなかったわよ」
「…………うん…」
「何? ヒロとなんかあったの?」
志保が体を乗り出してきた。
何でも知りたがるこの性格は昔から変わっていない。
「……あのね、浩之ちゃんがね………」
「うんうん」
「壊れちゃったの」
「…………え?」
「浩之ちゃんね、壊れちゃったんだ」
「………あかり?」
「アレのせいなの……アレのせいでね……」
「ちょ、ちょっとストップ! 何がなんだかわからないわよ!
アレって何よ!? 壊れちゃったって……」
お冷やの氷がピシッと音を立ててひび割れた。
私はうつむいたままで、今までのことについてゆっくりと話した。
「何………それ…………」
話し終えると、志保は信じられないといった感じで声を漏らした。
「つまり…ヒロは、あかりを捨てて、メイドロボなんかと………?」
捨てる、という言葉がひっかっかった。
そうよ…私は捨てられたのよ……
「そんなのって……あかり、あんたはそれでいいの!?」
志保が両手でバンッとテーブルを叩いた。周りの視線が気になったが、志保はそんなことをお構いなしに言いつづける。
「そんなの、許せないわよ! ねぇ、あかり、許せないわよ!」
「…………………………」
昨日浩之ちゃんに行った言葉を思い出した。
『絶対に許さないから!』
私は確かにそう言った。
「ねぇ! あかり、そんなの認めちゃ駄目よ! ねえ、そうでしょ!?」
志保は凄い勢いで言いかかってくる。
「……………うん、許せないよ…」
私が浩之ちゃんのことを許せないことは間違いなかった。
「オマタセイタシマシタ」
アレが料理を運んできた。アレが行ってから、私はポツリと言った。
「でも……どうすればいいの?」
「……どうするって?」
少し落ち着いた志保がサンドイッチに伸ばしかけた手を止めて聞き返してきた。
「確かに、私は浩之ちゃんのことが許せないよ……でも…なら私はどうすればいいの?」
「………………………」
伸ばした手を引っ込めて、志保はどっかと椅子に座りなおした。
「………わからないよ…私はどうしたら良いかわからないよ…」
「………………………」
「まずは、食べましょう。コーヒー冷めちゃうわ」
「……そうだね」
御互い、黙ったままサンドイッチを食べ、やや冷めたコーヒーをすすった。
渋いコーヒーの味が、昨日から止まない頭痛をいくらか和らげたような気がした。
志保は先に食べ終わり、何か考えているようだった。
私が最後のサンドイッチを手に取ったとき、志保が口を開いた。
「……ねぇ、あかり」
「…………何?」
「浩之のこと、憎んでる?」
「……うん、憎んでるね、きっと」
今まで感じたことのなかった、怒りとは少し違うこの感情は、多分憎しみなのだろう。
「……だったらさぁ、あかり…」
————————頭痛がする
「……ヒロ、殺しちゃわない?」
伍
人間は何故異性を愛するのか?
答えは簡単である。
人間は異性を愛することにより、互いに求め合い、性行為をし、子孫を残す。
仮に、人間に性欲というものが全く無ければ、今の私たちは存在しない。
つまり、人間は自分たちの子孫を残すために他の人間を愛するのだ。
そうなると、浩之ちゃんの愛は壊れている。
浩之ちゃんとアレがいくら性行為を重ねても、新たな命を世に送り出すことはできない。
浩之ちゃんとアレが交わる事は、全く意味の無いことなのである。
私は何度もその事を浩之ちゃんに教えた。
だが浩之ちゃんは全然聞く耳を持たなかった。
私は間違っている浩之ちゃんを見るのが苦しい。
愛している浩之ちゃんが壊れていく事が苦しい。
だから殺す。それだけだ。
誰かに聞かれるとまずい、と志保が言ったので、今私たちは人気がない公園のベンチに二人きりである。
「あかり、この前起きた、メイドロボが主人を殺したって事件知ってる?」
「あ、うん、知ってる。雑誌で読んだよ」
この前立ち読みした雑誌にあった、あの事件のことだろう。
「そう、じゃあ何でロボが主人を殺したかも知ってる?」
「え…何でって…それは知らないよ…確かまだ捜査は進行中って…」
「あれはね、ちゃんとロボが命じられてやったことなの」
「え、でも最終命令は、確か…掃除の命令だったよ?
もし命じられたのなら、命令履歴っていうのに残っているんじゃないの?」
私は当然の疑問を口にした。が
「そうね、普通の命令だったらね」
「え?」
志保は姿勢を低くしてゆっくりと話し始めた。
「……あかりが知っているかはわからないけど、メイドロボは、命じられたら何でもする、というふうにはなっていないのよ。
『〜を殺せ』とか、そういう命令は受け付けないようにガードがついているの。
最近のメイドロボなら、命令に従ったあと、その結果がどうなるかということも判断して、ほぼ100%、人間に危害を加えるような行動は取らないようになっているの」
「……ふ〜ん、そうなんだ」
安全第一、ということなのだろう。
「………でも、そのガードを破壊すれば、何でもいうことを聞くようになるの」
「あれ? でも、この前の事件では、バグは発見されなかったって…?」
確かそんなことが記事に書いてあったような気がする。
「そんなの、後から直せばいいだけのことよ」
「あ、そっか………でも、この話が浩之ちゃんを殺す方法と何か関係あるの?」
「おおありよ、あの事件と同じ方法で、ヒロの家にあるHMX−12にヒロを殺させるのよ」
「!」
志保がバックから何かを取り出した。
「このDVDには、そのデータが入っているわ」
「……………」
「まずガードを破壊して、命令制限機能を解除。次に命令者判別機能を解除。
……それで主人以外の人間の命令を聞くようになるの。
その次は殺人命令。顔をデータに入れて、その人物と出会ったら命令を実行するようになっているわ。
その後、その命令を履歴から消すための、最終命令履歴を消去。
そして、命令制限機能と、命令判別者判別機能を設定しなおして、ガードを復旧。
最後に、データ自身を消去。しかも、データ消去履歴に残らない方法でね。
これで、完全に証拠を残さず……殺せるってわけよ」
「……………」
「これに、ヒロの顔や音声データをインプットして、そのメイドロボにダウンロードさせれば……終りよ」
「……………」
難しい言葉が羅列を並べたところはほとんど意味がわからなかったけど、要約してしまえば……そのデータを使えば、完全犯罪ができるということなのだろう。
「やる……わよね?」
「………うん、もちろん」
やらない理由は何もない。
「………じゃあ、まずはヒロをおびき出さないと。
ヒロがいたらダウンロードできないわけだし、ヒロの顔をデジカメで撮ってインプットしないといけないからね。
音声は……なくても大丈夫だけど、できればあったほうがいいわね」
「わかった。じゃあ、これから浩之ちゃんの家に行って、どこかに連れて行くね」
ベンチから立とうと思った私を、志保が止めた。
「いや、『許さない!』とか言っちゃった訳だから、直接会うより電話のほうが良いんじゃない? なんとなく……」
「それもそうだね」
「公衆電話からかければ、証拠が残りにくいだろうから、そこの電話ボックスからかけなさいね。念には念をってね」
「わかったよ、じゃあ…」
「あ、今デジカメ持ってないから、明日どこかで待ち合わせってことにしてね。
一応色々と確認もしておきたいから」
「うん、わかったよ」
「はい、テレカ。ん、バックは持っといてあげるわ」
「あ、ありがと」
バックを志保に預けて、今度こそ私は電話ボックスへと向かった。
頭痛が昨日よりひどくなっていた。
鈍い痛みが鳴り止まない。
重たい足取りで、ボックスにたどり着き、受話器を取ってカードを差し込んだ。
不思議と、緊張はない。
押しなれた番号を手早く押して、私は浩之ちゃんが出るのを待った。
20回近くコールしたところで、受話器を取る音が聞こえた。
「あ……浩之ちゃん?
お願い、もう一度だけ私に会って……明日10時、駅の入り口で待ってるから……」
それだけ言って、私は返事を聞かずに受話器を置いた。
「電話してきたよ、志保」
「……そういえばさあ、あかり」
苦笑いを浮かべた志保が戻ってきた私の顔を見た。
「私さぁ、おびき出せなかったときのこと考えてなかったわ……」
「え…じゃあ、どうするの?」
「………その時はその時で、又電話すれば良いんじゃないの? アハハ…」
「……なんかいいかげんだよ、志保…………」
「……気にしない気にしない……アハハハハ……」
「…そうだね、フフフ…」
人を殺すことを話していたのに、私たちは笑った。
一瞬、昔を感じたような気がした……
私は浩之ちゃんを殺す。
浩之ちゃんのために殺す。
浩之ちゃんを、救うために、アレから解放させる為に、殺すのだ。
この後、私は志保からダウンロードの仕方や、さまざまな注意点を痛む頭をおさえながら聞いた。
一通り話し終えた後、志保は仕事があるらしく、車に乗って公園を去った。
その後、私は又ベンチに座り、天を仰いでボーっとしていた………
この時点で、私は色々な事に気がつかなさすぎた。
六
フィ−−−−ン……
私は、志保のノートパソコンを使って、DVDのデータをアレにダウンロードしている。
ノートパソコンから配線が出ていて、アレにつながっている。
別になにも感じなかった。
周りの目に気をつけながらも、私は浩之ちゃんの家の玄関を見張っていた。
浩之ちゃんは、こちらの予想を反して、待ち合わせの時間よりも早く家を出て行った。
『いざとなったら私が引っ張り出してきてもよかったのに……』
渡された携帯電話から志保の少し残念がる声が聞こえた。
行動事項の最終確認をして、私は合鍵を使って浩之ちゃんの家のドアを開けた。
やる事がない私は、ゆっくりと増えていく数をじっと見つめていた。
もし、浩之ちゃんが急に帰ってきたり、ダウンロードに失敗したり等、何か問題が起こった場合はすぐ志保と連絡を取ることになっている。
迷いはない。
後は、ダウンロードが終わってから、決定ボタンを押すだけだ。
……頭が痛い。一体いつからなのだろうか……
確か……三日前くらいかな…?
今は……10時半…か。
浩之ちゃんを騙したことに、なにも罪の意識は感じなかった。
フィー− −− − − ン……
【ダウンロードが終了しました】
……終わったね…後は、クリックするだけね…
マウスを握ろうとしたら、唐突に携帯電話が震えだした。
「どうしたの、志保、何かあったの?」
『浩之が動いたわ!』
「動いた? 帰ってきちゃうの?」
『まだわからないけど…急いで!
いざというときは私が足止めするから! じゃあね!」
もう大丈夫と伝える前に、志保から切られてしまった。
まあ、いいや……もうこれで終りだもんね。
マウスを掴み、なれない右手でアイコンを操作し、OKの上に持ってきて、クリックを…
【実行をキャンセルします】
アレから配線を引き抜き、私は家を飛び出した。
「あああああ、ああ、ああああああああああああああ、ああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?
何で押せなかったの? 何でキャンセルしたの? わからないよ、わからないよ!!!
私は走った。気づくと、自分の家の近くまで来ていた。
家に駆け込み、自分の部屋に閉じこもって鍵をかけた。
「ハアッ…ハアッ…ハアッ…」
大きく肩で息をしながら、私は落ち着こうとした。
怖くなんかなかったのに、私は、浩之ちゃんのことを殺して、助けてあげたかったんだよね?
助ける? 何から? どうして? なに? なに? わからない、わからないよ!!
う…頭が…痛い………
頭を抱えながらベッドに倒れこみ、そのまま視界が闇に包まれていった。
「う…………う、ん……あ…寝ちゃったのか……」
私は…浩之ちゃんの家から……逃げてきたんだ。
さっきまでと何かが違った。
……頭痛が止まってる。
それでもまだ重たい頭を振って、私はさっきの自分の行動について考えた。
私はあの時は浩之ちゃんを殺すことに対してためらいは感じてなかったはずだ。
だったら、何で押せなかったのだろうか?
………でも、私が浩之ちゃんを殺すことに対して、ためらいを感じないなんてことがありうるのだろうか?
本当は、心のどこかでその行動を拒んでいたのではないのだろうか。
ただ、それに気がつかなかっただけで。
考えれば考えるほどおかしい。
私が浩之ちゃんを殺す?
そんなことできるはずがないではないか。
上体を起こして、私は大きく伸びをした。
私は何であんなことをしようとしたんだったかなぁ……
浩之ちゃんを助ける…と思ってたような気がする。
でも…殺して助ける?
……変だよね、そんなことしても何にもならないもんね……
でも……浩之ちゃんがいけないんだよね……あんな事するから……
私の頭に浩之ちゃんがHMX−12を抱いているときの映像が浮かんだ。
あれで、あれがショックすぎておかしくなっちゃったんだろうなぁ……
……私って、叫ぶと性格変わっちゃうのかなぁ………
薄く笑いながら私は立ち上がった。
勿論、浩之ちゃんの行動を認めるわけではない。
憎しみもないとはいえない。
それでも、今私が持っている感情は殺意ではない。
あの感情は夢の中のものだ。あのときの私は、私ではない。
私は浩之ちゃんを助けたい、それは間違いない。
だから、時間をかけてでも、ゆっくりとでもいいから、浩之ちゃんに戻ってもらいたい。
それだけだ。
「……謝りに行かなくちゃ、浩之ちゃんに謝らなくちゃ」
今日約束をすっぽかしたことを、ということもあったが、それだけではない。
それ以外に何を謝るのか良くわからなかったが、とにかくあって話をしたかった。
志保の事なんかすっかり忘れていた。
「浩之ちゃんの家に行ってくるね!」
心配そうな顔をしているお母さんを尻目に、私は家を飛び出した。
流れていく景色が、さっきまでのものとは全然違う。
浩之ちゃんはまだ壊れているだろう。マルチちゃんを愛しているだろう。
私はそれは否定しない。浩之ちゃんが好きになったのなら、それで良い。
けれども、あのHMX−12は、見た目はマルチちゃんそっくりでも中身はまるで違う。
私は絶対にその事を浩之ちゃんに教える。
それが、私が浩之ちゃんにしてあげられる最善の行動なのだ。
「あ、鍵、おいてきちゃった……」
途中まで来て、私は浩之ちゃんの家の鍵を忘れてきてしまったことに気がついた。
慌てて引き返し、自分の部屋に置きっぱなしになっていたカバンを手に取り私は再度浩之ちゃんの家に向かった。
さっき浩之ちゃんの家を出てくるときに鍵をかけてくるのを忘れてしまったから、もし浩之ちゃんがまだ家に帰ってきていなければ鍵はかかっていない筈だが、いくらなんでももう帰ってきているだろう。
「……自分であけないと入れてくれないだろうからなぁ………」
大きくため息をつきながら、浩之ちゃんの家へと急いだ。
玄関の前までたどり着き、バックの中のお財布から鍵を取り出す。
どうせチャイムを鳴らした所で出てきてくれるはずもない。
「…お邪魔します」
ドアを開け、静まり返っている家の中に一応挨拶だけはしておく。
リビングを覗いても浩之ちゃんの姿は見えなかった。
また、部屋に閉じこもっているのか…
私は2階への階段を上った。
ドアを前にして少し開くのがためらわれた。
また怒られる……
そんな考えが私に歯止めをかけていた。
それでも、ここで立ち止まっていてもしょうがない。
私は浩之ちゃんを救うのだ。
勢いよくドアを開けた。
「浩之ちゃ……ん?」
部屋の真ん中に浩之ちゃんがうつぶせに横たわっている。
眠っているのだろうか。
あんなところで寝ていたら風邪をひいてしまう。ちゃんとベッドに寝かせないと…
駆け寄ろうとしたとき、開け放ったドアの影から何かが私に飛び掛ってきた。
「え?」
それは、HMX−12だった。
ガシッ!
抵抗する暇もなく、私は床に押し付けられた。
首に手がかけられる
「ぇ…う、あ」
息が吸えない。上から体重をかけられているから容易には外れない。
何? 何が起こっているの?
何で私が首を絞められるの?
私はあのデータをダウンロードしてないし、あのデータは浩之ちゃんを殺すデータで、私を殺すためのものではない!
「ぅ……あ」
死んだ魚のように濁った目が私を睨みつけてくる。
助けて…浩之ちゃん……
!!
もしかして…浩之ちゃんも、もう…?
何で?
わからない、わからないよ…
しかし、私はこの状態におかれながらも、私は志保の存在を思い出した。
そして、様々なおかしいことに気がついた。
何故、志保はあのデータを持っていたのか?
志保は何であんなに物騒なデータを手に入れられたのか?
あのデータは警察ですらその存在を知らないのに……
何故志保はわざわざ電話ボックスまで私に電話ををかけさせにいったのか?
携帯電話を持っていたはずなのに、だ。
証拠を残さない、という理由だけでは弱く感じた。
しかしこの疑問はすぐに答えが出た。
あの時志保は私のバックを預かってくれた。この家の鍵が入っているお財布と一緒に…
あの間に鍵の型でも取っていたのだろう。
志保は確実に浩之ちゃんを殺したかったのだ。
私が、殺さない可能性を考えていたのだ。
私が浩之ちゃんの家を飛び出してから、今までにかなりの時間があった。
その間に違うデータをダウンロードしたのだろう。
HMX−12に、浩之ちゃん……それに私を殺させるデータを。
でも何故?
なんでなの、志保!?
「…ぅ、あ…え」
頭の中が白くなってくる。
いやだ、死にたくないよ、死にたくなんかないよ。
浩之ちゃんにまだ謝ってないよ!
視界の隅に横たわったまま動かない浩之ちゃんの姿が見えた。
……でも、浩之ちゃんももう死んじゃったのか……なら、私も………
私は抵抗を止めた。
体が浮いたような感覚にとらわれた。
そして、何も考えられなくなる。
もうすぐあえるよ……浩之ちゃん…………
同日、正午、アメリカに向かう機内——
私はコークを半分くらい飲み、大きく息をついた。
「…ひとまずこれで終わったわね……」
私は、いつまでたっても煮え切らないあかりとヒロを結ばせるために日本を去ったのだ。
それなのに、ヒロはメイドロボなんかにうつつを抜かしてて…
あかりもあかりでそれを黙ってみているだけなんて………
そんなこと許さない。あなたたちは絶対に結ばれないといけないの。
あの世にまでならあのマルチも来れないでしょう……
私は、あかりとヒロを救ったのだ。
おまけに組織から頼まれたデータの実験もすることが出来たしね、言うことないわ。
「……ふぅ」
どうも、最近体調が優れない。
原因不明の頭痛が止まないのだ。薬飲んでるのに…全く、何なのかしらねぇ…
長ったらしい飛行時間を切り抜けるために、残ったコークで睡眠薬を飲み、私は瞼を閉じた。
仲良くやりなさいよ……あかり、ヒロ……
同日、駅前のラーメン屋——
「お、来栖川の御嬢ちゃんじゃねえか! いらっしゃい!」
景気のいいオヤジの声に、私は腹の音で返事をした。
「あ〜…お腹すいたわぁ…」
私は開いているカウンター席に腰を下ろした。
「なんにする?」
「しょうゆチャーシュー…」
注文だけを伝えると、私はテーブルに突っ伏した。
今何時よ…げ、もう2時じゃない…ゲーセンで遊びすぎたわね……4時間は長すぎたか……
「おじさ〜ん…早くねぇ〜〜…」
「はいはい…お、ニュース速報だ」
「ふ〜ん、何があったの〜」
TVは天井に設置してあるため、上体を起こさないと見られない。
面倒くさかった私は、内容だけをオヤジに尋ねた。
「え〜と、本日、午後1時30分に、成田から飛び立ったアメリカ行きの飛行機が墜落したんだとよ…生存者は絶望的だとさ」
「あら〜…そいつは悲しいことで…南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」
適当に合掌しながら、私はラーメンが来るのを待った。
しっかし…主任も馬鹿よねぇ……最初から本体にデータ入れとけばよかったのに…気合で間に合わせなさいよ、ったく。
確かにあの時は、あのマルチある? と聞いただけで、マルチのデータが残っているかどうかまでは聞かなかったけどさぁ……
データが残ってるんならさっさと教えてくれればいいのに…何で2日も経ってから言うのよ……
ま、いっか、これで浩之も喜ぶでしょうし、そんなに急がなくても大丈夫よね……
カバンから取り出したマルチが入っているDVDが、私の手の中でカタカタと乾いた音を立ててないた。
後書き
始めまして皆さん、影無と申します。
まずは、最後まで本作品を読んでいただいたことにお礼を申し上げます。有難うございました。
この『亡骸』は、原案自体はPS版「ToHeart」が発売してすぐに思いついたのですが、時間、力量、きっかけ、その他様々な理由により、今ごろになって書き上げることが出来ました。
といっても、所詮はほとんど執筆経験の無い私が書き上げたものですから、自分で読み返してみても粗ばかりが目に付いてしまい、一時は投稿をすること自体が躊躇われるような始末でした。
やはりまだこんなに長い作品を書き上げる力量は持ち合わせてなかったようです……
最後に、もう一度皆さんにと、私などの為にこの場を提供してくださった K.Ktouth さんに感謝の意を述べさせて頂きます。
本当にどうも有り難うございました。
それでは、ここで失礼致します。
作品情報
作者名 | 影無 |
---|---|
タイトル | 亡骸 |
サブタイトル | |
タグ | ToHeart, 神岸あかり, 藤田浩之, 長岡志保, 来栖川綾香 |
感想投稿数 | 58 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月13日 03時36分47秒 |
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- [★★★☆☆☆] その後の綾香の行動を読んでみたいですね
- [★☆☆☆☆☆] 悲しいお話ですね・・・
- [★★★★★★] とても面白かったです。この後の話も読んでみたいです。
- [★★★★★★] 結局、誰も救われなかったのでしょうか。「if」な話も読んでみたいですね。
- [★★★★★★] 次回作も期待してます。
- [★★☆☆☆☆] いくら志保でもちょっと唐突過ぎるような・・・ ちなみに量産型はXなしのHM-12では?
- [★★★★★★] ToHeartの世界観をぎりぎり壊すことなく面白かったです。でも、自分としてはハッピーエンドも見たいような・・・・・・・。もう1つの未来も見てみたいです。
- [★★★★★★] 何回も驚かされました
- [★★★★☆☆] とても深いものを感じました。私はシリアスな話は好きですが、このままではあまりにも彼らが浮かばれないので、是非続編を書いて下さい!
- [★★★★★☆] ミスもありましたけど、面白かったです。この後どうなるんでしょうね?
- [★★★★★☆] 奇抜な構成にグッときた。
- [★★★★☆☆] 悲しい……
- [★★★☆☆☆] 読後、「???」という感覚がのこります。
- [★★☆☆☆☆] 黒すぎる………