「メリークリスマス!!」

掛け声とともにグラスのカチンという澄み切った音が響き渡る。
今宵はクリスマス。芳彦は織倉家に訪れていた。大学のほうはすでに冬休みに入っており、それでここ、織倉家にいるのだ。

芳彦が織倉家に訪れるのは、久しいことではなかった。
彼は月に一度、泊りがけで遊びにいくようにしていた。理由はもちろん最愛の人、織倉香奈と会うためであった。
いや、他にも理由はあった。香奈の母、弥生や、その妹の真奈美と会いたいからだ。芳彦にとってはもはや織倉家はもう一つの我が家であり、彼女たちはすでに家族同然の存在であった。

「ほらほら、芳彦くん。飲み物はとりあえず後回しにして、料理のほうに手をつけてちょうだい。
今日は腕によりをかけて作ったんですからね」

向かいに座っている弥生は片目を瞑ってウィンクすると、芳彦に食を促した。

「そうだよ、お兄ちゃん。今日、お母さん、ものすごくはりきっていたんだから!
エヘヘ☆ あとね、真奈美もいろいろ手伝ったんだよぉ〜!!」

弥生の隣に座っている真奈美が満面に笑顔を浮かべながら、嬉々として声を上げる。

「へえ、そうなんだ。どれどれ…………」

芳彦はテーブルをところ狭しと並んだ皿に乗っている料理に手をつける。そして、それを口へと運んだ。その様を弥生と真奈美はじっと見つめている。

「美味しい! 美味しいよ、これ!真奈美ちゃん!」

芳彦の第一声はそれだった。その彼の言葉に真奈美は、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せた。

「うわぁーい!!やったねっ!!」

真奈美は両手を上げて大喜びしている。そんな彼女の姿に、言った芳彦のほうもなんだか嬉しくなってくる。

「よかったわね、真奈美。芳彦さんに喜んでもらえて」

芳彦の隣に座っている香奈が、優しい笑みを湛えながら真奈美に声をかけた。
そんな彼女たちとは反対に弥生は少し頬を膨らませ、芳彦のことを軽く睨みつけている。

「芳彦くん? 真奈美には誉めて、私には誉めてくれないなんてどういう事かしら?
やっぱり私の様なおばさんなんて、芳彦くんの眼中にないのね。よよよ……」

言いながら彼女は、泣いている振りをした。そんな彼女の態度に芳彦は苦笑する。

「誰もそんなことは言ってませんよ。とても美味しいですよ、弥生さん」
「ふふ、ありがとう」

芳彦の言葉に弥生は先程とは違って、少し照れた表情を見せた。

「もう、お母さんったら」

香奈は呆れ声を上げるが、彼女の顔は笑っていた。
それから四人は、料理を食しながら他愛ない話で盛り上がっていった。学校のこと、最近気になったもの。とにかく何でも良かった。話すことでお互いを感じられれば。

「ねえ、お姉ちゃん。そろそろケーキを食べようよぉ〜?」

真奈美が香奈のほうを見ながら、そう言った。その口調から、彼女はずっとそのことばかりを考えていたようだ。

「そうね……香奈、そろそろ頃合いじゃないかしら?」

弥生は時計を見ながら、真奈美の意見に同意する。

「それじゃあ、私、ケーキ持ってくるね」

香奈は言いながら席を立ち、リビングの奥にあるキッチンへと足を運んだ。

「へえ、ケーキもあるんだ」

芳彦は驚き七割、期待三割といった声を上げた。そんな彼の様子に真奈美は得意げな表情を見せた。

「うん! お姉ちゃんが、朝からがんばって作ってたんだよぉ〜!
けっえきぃ〜、けっえきぃ〜」

真奈美は本当に嬉しそうに語る。やはり、ケーキが食べられるからだろうか。真奈美らしい態度に芳彦は小さく笑みをこぼす。

「香奈、芳彦くんに美味しいケーキを食べてもらうために息巻いていたわよ?
『芳彦さんのために、愛情を込めて作らなきゃ』ってね。良かったわね、芳彦くん?」

弥生はグラスを口にしながら芳彦に話し掛ける。彼女の目には意地悪い色が浮かんでいた。
この彼女の言葉に芳彦の顔は赤く染まっていく。

「あ〜っ! お兄ちゃん、赤くなってるぅ〜!!」
「ま、真奈美ちゃん!!」

芳彦は恥ずかしさのあまりからか、妙に大きな声を上げる。その彼の顔は、今にも火を吹きそうな感じだ。

「ふふ。芳彦くん、真っ赤になっちゃって。ひょっとして照れているの?」

弥生は口の端を上げながら、芳彦に問いかける。

「や、弥生さんったら! もう酔っちゃっているんですか!?」

芳彦は口を尖らせながら、彼女に不平を言う。しかし、そんな芳彦の態度も彼女にとっては、いい酒の肴になってしまう。

「どうかしたの?芳彦さんとお母さん楽しそうに話してたけど、何かあったの?」

芳彦と弥生と言い争っているところに、香奈がケーキを手に持って現れた。

「か、香奈!?」

芳彦は香奈が突然現れたので、驚きの声を上げる。この彼の行動に香奈は目を丸くした。

「ど、どうかしたんですか……芳彦さん………?」
「えっ!? あ……い、いや、別に…な、なんでもないよ、香奈」

香奈に問いかけに、しどろもどろに答え返す芳彦。だが、香奈は彼の態度に少し眉を顰める。

「ひどい、芳彦さん。私だけ、除け者なんですか?」

香奈は可愛く頬を膨らませて、芳彦に非難の声を浴びせた。芳彦はというと、彼女となるだけ視線を合わせないようにして、自分のそれを泳がせている。そんな二人の様子を弥生は笑いをかみ殺しながら眺めている。

「香奈。実はねぇ〜、芳彦くんは……」
「あっ!! そ、そうだ!!俺、部屋に、わ、忘れ物したみたいだ!
ちょ、ちょっと取ってくるね!」

芳彦は弥生の声を掻き消すように大声を上げた。そして顔を赤らめながら、リビングを出ていった。

「よ、芳彦さん!」

香奈は芳彦の背中に声をかけたが、彼はその言葉に振り向きもせず部屋から出ていった。

「もう、芳彦さんったら……そんなに言いたくなかったのかなぁ………」

香奈は芳彦が出ていったドアを見つめながら、不満そうに漏らす。そんな彼女に、弥生は笑みを浮かべながら話し掛ける。そう。また、あの意地の悪い笑みで。

「香奈ぁ〜。芳彦くんね、香奈が作ってくれたケーキをものすごく楽しみにしていたわよ。
『香奈が作ってくれるものだったら、なんでも美味しいんだろうなぁ〜』とも言ってたわ」

もちろん、弥生が言ったことは嘘である。芳彦はそんなことを一言も口にはしていない。
要は、今度は香奈を肴にしようとしているのだ。

「えっ!? よ、芳彦さん、そ、そんなこと言ってたの!?」

弥生の言葉に、頬を赤く染める香奈。自分の思った通りに反応してくれる娘に対して、弥生は可笑しくて堪らない。

「香奈、照れちゃって可愛いぃ〜」

笑いながら弥生。

「あ〜っ! 今度はお姉ちゃんが赤くなってるぅ〜」

見ると、真奈美のほうも声を上げて笑っている。二人に笑われ、香奈の頬はますます赤く染まっていった。

「もう! お母さん! 真奈美! そんなこと言っていると、ケーキは上げません!!」

声を上げながら香奈はテーブルの上に置いたケーキを、また手に持ってキッチンへと戻ろうとする。彼女のこの行動に慌てたのは真奈美だった。

「や、やぁ〜ん! お、お姉ちゃ〜ん。ケーキ、持ってかないでぇ〜!!」
「知りません!」

真奈美の懇願する声にも、香奈は耳を傾けず足を止めようとしない。さすがにやりすぎたと思ったのか、今度は弥生のほうが声をかける。

「香奈ったら、ほんの茶目っ気じゃないの。ね?」

弥生は可愛くウィンクしてみせる。そんな彼女の仕草に香奈は呆れたような表情する。
しかし弥生のそんな振舞いは、どこか憎めない。香奈は肩でため息を一つつくと、ケーキを再びテーブルの上へと置いた。

「もう、本当にしょうがないんだから………」

口から出る言葉は不満の色を帯びているが、香奈の表情は笑顔だった。そんな彼女の表情に真奈美はほっと一息をついた。

「えへへ☆ 真奈美、ケーキ食べられなかったらどうしようかと思っちゃった」

笑顔を浮かべながら真奈美。そんな妹の姿を見て、そして次に弥生のほうを見て、香奈は人差し指を立てながら一言。

「お母さん、真奈美。ケーキを食べたかったら、私にまず言うことがあるでしょ?」

香奈の言葉に、弥生と真奈美はお互いの顔を見合わせると、彼女に向かって頭を下げた。

「ごめんなさい、お姉ちゃん」
「ごめんね、香奈」
「………ん、よろしい」

二人の謝罪に満足したのか、香奈は両手を腰に当て胸を張った。

「……………香奈、な、何やってるの?」

香奈の背中から芳彦の声が届く。振り返ってみると、彼はリビングのドアの側に立っていた。
手には、恐らく彼が忘れ物と言っていたリュックを持っていた。
彼の突然な登場に香奈の顔は、弥生にからかわれたときよりも真っ赤に染まった。

「よ、芳彦さん!? べ、べべべ、別に、た、大したことじゃないんですよ!!」

香奈は胸の前で両手をさかんに振りながら、芳彦に答え返す。

「あっ、芳彦さん。そんなところにいないで、こっちへ来てケーキ食べましょ、ね?」

引きつった笑みを浮かべながら手をポンと一つ打つと、香奈はケーキを切る準備を始める。
彼女の側では、弥生と真奈美が笑いを堪えている姿がある。何か釈然としないものがあるものの、芳彦は香奈の言葉に素直に従った。

「はい、どうぞ。芳彦さんの分です」

言いながら香奈は、切ったケーキを芳彦の前に置いた。そして弥生、真奈美、そして自分のケーキを置くと席に着いた。

「それじゃあ、召し上がれ」
「わぁーい!! いっただきま……」

真奈美が今まさにケーキに手をつけようとしたとき、芳彦の声がそれを止める。

「あ、ちょっと待って、真奈美ちゃん」
「ええぇ〜〜〜〜っ!! なんでぇぇ〜〜〜〜〜〜っっ!!」

真奈美は心底不満そうに声を上げ、芳彦のことを睨みつけた。朝からずっと、ケーキが食べられるのを楽しみに待っていたのに、それを邪魔されてしまったのだ。普段の可愛らしい彼女の雰囲気はどこへやら。あるのは、食い物の恨みだけだった。
また、香奈や弥生のほうも彼の言葉で出鼻をくじかれた感じのようだ。三人の視線が芳彦に集まる。

「まあまあ、真奈美ちゃん。慌てない、慌てない………」

言いながら芳彦は、先程手にしていたリュックの中身を取り出そうとしていた。

「芳彦さん?」

香奈は、芳彦の行動を不思議そうに見つめている。弥生も彼のことを見つめている。

「どうしたの、芳彦くん?真奈美は朝からずっと楽しみにしてたんだから、
止めたりしたら可哀相でしょう?」

弥生の言葉には少し非難の色が混じっていた。見ると、香奈の視線にそんな色が混じっている。
だが、芳彦は彼女たちににっこりと微笑むと、リュックの中身を真奈美の前に出した。

「はい、真奈美ちゃん。メリークリスマス」
「ほ、ほえ!?」

芳彦が出したのは綺麗な包装紙に包まれた細長い箱だった。彼の唐突な行動に呆気に取られてしまう。

「はい、これは弥生さん。そして………これは、香奈の分だよ」

隣にいる香奈の胸の前に、芳彦は手に持っているものを差し出す。

「………えっ!?」

香奈は差し出されたものを受け取りながら、驚きの声を上げた。弥生は弥生で、目の前に置かれた小さな箱を呆けたように見つめている。

「いつもお世話になっている感謝の気持ちを込めて、俺からみんなへのクリスマスプレゼントです!」

芳彦は照れくさそうに、それでもはっきりとした口調で言った。
だが三人は、それぞれのプレゼントと芳彦の顔を交互に見つめているだけだ。
何の反応も示そうとしない彼女たちに芳彦の表情は暗くなっていく。

「あ、あの……ひょ、ひょっとして気に入らなかったかな………?」

頬を掻きながら、気まずそうに芳彦。

「く、クリスマスプレゼントですか………? 私たちに……?」

最初に口を開いたのは香奈だった。差し出されたものがまだ理解できていないのか、彼女は芳彦に問い掛けた。

「う、うん……そのつもりだったけど………どうやら気に入ってもらえなかったみたいだね?」

芳彦は苦笑いを浮かべながら答え返した。

「そんなことありませんっ!!」

香奈は芳彦の言葉をかき消すかのような声を上げた。その彼女の声に芳彦は驚きを隠せない。
彼女は受け取ったプレゼントを胸に抱きしめる。

「………ありがとうございます、芳彦さん」

言いながら香奈は、芳彦に頭を下げた。
顔を上げた彼女の目には、ほんの少し涙が浮かんでいた。

「とっても嬉しいです」

香奈は満面に笑顔を浮かべながら、涙を拭った。
そんな彼女の行動を合図に、弥生と真奈美も感嘆の声を上げる。

「うっわぁーいっ!! お兄ちゃんからのクリスマスプレゼントだぁー!!」
「芳彦くん! どうもありがとう!」

彼女たちの喜ぶ姿を見て、芳彦は嬉しいそうに微笑んだ。

「ねえ、お兄ちゃん。開けてもいいかな?」

プレゼントを手に持って、真奈美が尋ねてきた。芳彦は彼女の言葉に一つ頷く。
はやる心を押えながら、真奈美はプレゼントの包装を解いていく。そして包みを取り去ると、ゆっくりと箱を開けた。

「ああ、可愛い腕時計だぁー!!」

真奈美に上げたプレゼントは、時計の針が羽の形をした可愛らしい腕時計だった。

「どう? 気に入ってもらえたかな、真奈美ちゃん?」
「うん、ものすっごく!! お兄ちゃん、ありがとう!!」

真奈美の嬉しそうな顔を見つめながら、芳彦の心の中に満足感が広がっていく。

「……よ、芳彦さん。わ、私も開けてもいいですか……?」

遠慮がちに香奈が聞いてきた。顔を赤らめ、もじもじしながら上目遣いに芳彦の顔を見つめている。
彼女の仕草に苦笑しながら、芳彦はこれまた一つ頷いた。

「ねえ、芳彦くん。私も開けてもいい?」

今度は弥生も聞いてきた。

「ぷっ………ええ、構いません。そのためにプレゼントしたんですから」

小さく吹き出しながら、芳彦は弥生の答え返した。

「もう、そこで笑うことないじゃないのよ」

弥生は口を尖らせるが、すぐに笑顔に戻った。やはり、思いがけないプレゼントが嬉しいのだろう。今の彼女の姿は、香奈と真奈美とそう変わらなかった。
芳彦が香奈のほうに視線を戻すと、すでに彼女は包みを解き終えていた。

「綺麗なペンダント………」

香奈がため息に近い声を漏らした。
銀製のペンダントは、シンプルなデザインをしたものであったが、彼女の雰囲気を損なわないものだった。むしろ、彼女の魅力をより引き立てそうである。
香奈はペンダントをつけると、芳彦のほうへと向かい合う。

「…………ど、どうですか? に、似合ってますか?」

顔を真っ赤に染めながら香奈。

「うん。すごく似合っているよ、香奈」
「あ、ありがとうございます! 芳彦さん!」

香奈は彼の言葉をかみ締めるように、そして嬉しそうに微笑んだ。
芳彦は彼女の笑顔を見て、本当にプレゼントして良かったと思った。

「ねね、芳彦くんっ。どうかしら? 私も似合っているかしら?」

弥生は胸のブローチを指しながら、芳彦に問い掛けた。
彼女に上げたプレゼントは木の葉を形取ったものだった。それは心を和ませるような、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

「ええ。弥生さんも、とても似合ってますよ。よかった、喜んでもらえたみたいで」

弥生の嬉しそうな表情を見て、芳彦はほっと胸を撫で下ろした。

「ありがとう、芳彦くん。………でも、これって結構お金かかったんじゃないかしら?」

芳彦の言葉に弥生は嬉しそうに微笑んだ。しかし、彼に負担をかけさせてしまったのではないかと思うと、心の底から喜べない。
弥生の言葉に、香奈と真奈美の表情も硬くなる。
そんな彼女たちの不安を取り除くように、芳彦は穏やかな笑みを浮かべて口を開く。

「大丈夫ですよ、弥生さん。これぐらい、なんてことないですよ!
………それに、さっきも言いましたけど、弥生さんや真奈美ちゃん。そして香奈にいつも世話になっているから、感謝の気持ちを贈りたくて………
だから、いいんですよ」

芳彦はもう一度笑みを浮かべながら、三人の顔を見つめていった。

「芳彦くん……」
「芳彦さん………」
「お兄ちゃん……」

三人は芳彦のくれたプレゼントに手を触れる。彼の想いを確かめるために。
そして三人はもう一度、芳彦にありがとうと言った。

「ははっ。な、なんか照れちゃうな。
そ、そうだ! それよりも早くケーキを食べようよ?」

芳彦は顔を赤らめながら、それを思い出したかのように言う。そんな彼の態度に香奈はくすくすと笑い始める。

「ふふっ、そうですね」
「もう! 真奈美がケーキ食べるを止めたのは、お兄ちゃんなんだよ!?」

口調こそはきついが、真奈美も笑っていた。

「うふふっ。それじゃあ、ケーキでも食べましょうか?」

弥生も笑みを浮かべながら、フォークを手に取った。
四人は先程、香奈が切り取ってくれたケーキを口にしながら、再び談笑を始める。

「んっ! 美味しいよ、香奈。このケーキ!」

ケーキを食しながら芳彦。彼の言葉に香奈は嬉しそうに微笑む。
真奈美は一心不乱にケーキを食べている。まあ、おあずけにされていたので無理もない。
一方、弥生がケーキを食べる手を休めた。そして芳彦のほうに顔を向ける。

「ねえ、芳彦くん。やっぱり、私としてはブローチのお礼がしたいわ」

両手を組んで、それに顎を乗せながら弥生。

「そんなに気を使わなくてもいいですよ、弥生さん。
俺は、みんなの喜ぶ顔が見られただけで満足しているんですから」

芳彦は少し照れくさそうに、それでも笑いながら言った。彼の表情を見ながら、弥生は一つの考えが浮かぶ。
その考えに彼女の口の端が緩む。

「芳彦くん。ちょっと私の側まで来てくれないかしら?」

芳彦に向かって手招きする弥生。

「は、はあ……べ、別に構いませんけど………」

芳彦は弥生の言葉に首を傾げながら席を立った。そして彼女の側へと歩み寄る。
香奈と真奈美も手を休め、その様子を伺っている。

「ねえ、芳彦くん。ちょっと、耳貸してくれない?」

芳彦を見上げながら弥生は、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
彼女のその笑みに、多少の不安は覚えたが、それでも芳彦は耳を傾けた。

「これでいいですか、弥生さん?」
「ええ、いいわ」

言いながら弥生は、耳を傾けている芳彦の頬にキスをした。

「なっ!?」

突然の、この出来事に芳彦は頭の中が真っ白になった。いや、芳彦だけではない。
香奈と真奈美も真っ白になっていた。

「ありがとう、芳彦くん。プレゼント、嬉しかったわ」

弥生は頬を赤く染め、はにかみながら芳彦に礼を言った。
すると見る見るうちに芳彦の顔は赤くなっていく。

「お、お母さんっ!! 芳彦さんに、な、何てことするのよっ!?」

時間にして数秒、ようやく何が起こったのか理解した香奈が大声を張り上げる。

「やぁ〜ん! お母さんだけずるぅいぃ〜〜!! 真奈美もお兄ちゃんにキスするぅ〜!!」
「ま、真奈美っ!!」

香奈は顔を真っ赤にさせ、再び大声を張る。

「ま、まあ、まあ。香奈、少しは落ち着けよ。大声出したら、近所迷惑だろ?」

芳彦は香奈を宥めるように声をかけたが、すぐに後悔した。なぜなら彼女に睨まれたからだ。

「芳彦さんったら! 鼻の下、でれでれと伸ばしちゃって!
もう、芳彦さんのことは知りませんっ!!」
「ちょ、ちょっと! か、香奈!?」
「ふふっ。嫌われちゃったわね、芳彦くん?」
「や、弥生さん!! 元はと言えば、弥生さんがあんなことするから!」
「真奈美もキスするぅ〜!」
「もう!! 真奈美っ!!」

もう何がなんだか、収集がつかなくなっている気がする。
それでも芳彦にとって、それは楽しい一時であった。
織倉家の人々と過ごす初めてのクリスマス。芳彦の胸は幸せで一杯だ。

fin.

後書き

むう。間に合わなかったか(苦笑)。
本当はクリスマス前に完成させて、ちゃんとその日に載せたかったのですが、
今月の10日ぐらいから仕事が急に忙しくなって、時間が思うように取れませんでした。(^^;
で、実際書き始めたのが23日の夜から(ぉ
#うう、すみません。

今回は香奈ちゃんだけでなく、弥生さん、真奈美ちゃんも交えてみましたが、
いかがなものでしょうか? いつもとは違う雰囲気を出したつもりですが、
うまくキャラを動かせたかどうかちょっと心配です。(^^;;;

こういう、ほのぼのとしたSSを書くのは好きです。
読んでいる方々は、ほのぼのとした雰囲気はお好きでしょうか? :D
この作品を気に入ってくれると幸いです。


作品情報

作者名 KNP
タイトル夕暮れ時に……
サブタイトルはちゃめちゃパーティー!!
タグファーストKiss☆物語, 織倉香奈, 水沢芳彦
感想投稿数69
感想投稿最終日時2019年04月10日 13時29分26秒

旧コンテンツでの感想投稿(クリックで開閉します)

評価一覧(クリックで開閉します)

評価得票数(票率)グラフ
6: 素晴らしい。最高!25票(36.23%)
5: かなり良い。好感触!18票(26.09%)
4: 良い方だと思う。14票(20.29%)
3: まぁ、それなりにおもしろかった9票(13.04%)
2: 可もなく不可もなし2票(2.9%)
1: やや不満もあるが……1票(1.45%)
0: 不満だらけ0票(0.0%)
平均評価4.75

要望一覧(クリックで開閉します)

要望得票数(比率)
読みたい!67(97.1%)
この作品の直接の続編1(1.45%)
同じシリーズで次の話0(0.0%)
同じ世界観・原作での別の作品0(0.0%)
この作者の作品なら何でも66(95.65%)
ここで完結すべき0(0.0%)
読む気が起きない0(0.0%)
特に意見無し2(2.9%)
(注) 要望は各投票において「要望無し」あり、「複数要望」ありで入力してもらっているので、合計値は一致しません。

コメント一覧(クリックで開閉します)

  • [★★★★★★] 弥生さんサイコー(笑) この後の香奈の反撃を期待します(笑)
  • [★★★★★★] うーん、最高
  • [★★★★☆☆] 久しぶりにFKSしたくなった(笑)
  • [★★★☆☆☆] こういうへいへいぼんぼんにな
  • [★★★★★☆] いつ見てもおもしろいでつ\(*⌒0⌒)bがんばっ♪
  • [★★★★★★]