「あのぉ……宗光さん」
宗光が自分の部屋で横になっているところへ、美樹が控えめに声をかけた。
「あ、美樹ちゃん。どうしたの?」
「あの、学校の課題をやるのに、宗光さんのパソコンを貸してもらいたいんですけど……。」
「ああ、いいよ。学校のパソコンと同じだから、使い方は分かるよね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
美樹が、ぺこりと頭を下げた。
「それじゃあ、お借りします」
美樹は、パソコンの前に座って持ってきたディスクを机の上に置き、電源を入れた。すぐにOSが立ち上がり、学校で見慣れた画面がディスプレイに表示された。
「え〜と、これをクリックすれば……」
「美樹ちゃん、俺風呂に入ってくるから、ゆっくりやってていいよ」
宗光は、パソコンに向かう美樹にそう言って、タオルと着替えを持って部屋を出た。
「あ、はい。わかりました」
美樹はそれだけ言って、再びパソコンに向かった。
しばらくして、努力のかいあって課題が終わった。
「これで、終わりね。セーブもしたし……あら、これは……?」
課題を終えた安心感で、美樹は宗光のパソコンを観察する余裕ができた。そして、その美樹の目に入ったのは、「ゲーム」のアイコンだった。
「ゲームかぁ……。ちょっとだけなら、いい、かな?」
少しためらったが、大した事ではないと考えた美樹は、そのゲームを立ち上げた。
次の瞬間、美樹は両手で口を押さえて立ち上がった。
画面に現れたのは、少し幼さの残る女の子だった。おそらく、歳は美樹と同じくらいだろう。
しかし、彼女は何も着ていなかった。つまり、裸だったのである。
しかも、全身を縄で縛られ、口には猿ぐつわがされていたのだ。
これを見て驚かない方がどうかしている。
驚きで言葉を失った美樹の背後から、このパソコンの持ち主の声が聞こえてきた。
「ふう〜、さっぱりした。美樹ちゃん、課題は終わった?」
部屋に入った宗光は、美樹の様子がおかしいのに気付いたが、やがて、パソコンの画面が目に入り、大声を上げた。
「ど、どわ〜っ、美樹ちゃん、何て事おっ!!」
なんとも間が悪い事に、前回の最後にセーブしたのは、ちょうどその場面に突入している真っ最中だった。
大声を上げた宗光とは逆に、言葉を失った美樹は、よろめきながら、宗光の部屋を逃げ出した。
後には、どっと疲れた顔の宗光と、美樹のフロッピーだけが残されていた。
「はあぁ〜、まさかあれを見られるとわ……」
宗光は、脱力してベッドに座り込んだ。
「これで、この同居生活も終わりかな……」
そう呟いた宗光の前に立ったのは、驚くほど冷静な美樹だった。
「いいえ、人生の終わりです……」
そう言った美樹の手には、包丁が握られていた。
「どわっ、ちょ、ちょっと美樹ちゃん、それはいくら何でも冗談にならないんぢゃ……」
「冗談なんかじゃありません……」
後ずさる宗光に、美樹は一歩、また一歩と確実に迫ってきた。
「私というものがありながら、あんなゲームをやるなんて……」
「……へ?」
何の事だか分からない、といった表情の宗光を見て、美樹の顔に驚きの表情が浮かんだ。
「あの、美樹ちゃん……俺達って、いつそうなったの?」
じわっ……
その言葉を聞いて、美樹の瞳に涙が溢れた。
「ひどいです……。私の全てを奪っておきながら、そんな事を言うなんて……。あの時、私の事をかわいいって……ずっと私だけだって言ってくれたのも、嘘だったんですね……」
「ええっ!? お、俺そんな事言ってないよ! あまつさえ、君の全てを奪っただなんて……」
その言葉が引き金となり、美樹は包丁を構えて、宗光に向かって走り出した。
「あなたを殺して、私も死にますっ!」
「どわあっ!」
間一髪で宗光は、包丁を避けた。
美樹は壁際で立ち止まり、再び宗光に包丁の切っ先を向けて構えた。
「安心して下さい。私もすぐに後を追いますから……」
「追わなくていい、追わなくていい! だから、その包丁をしまってくれ!」
「もう遅いんです、宗光さん……」
「と、とりあえず逃げよう……!」
宗光はドアに向かって走り出した。しかし、次の瞬間、脚が絡まって、派手に転んでしまった。
「い、いてて……」
幸い、ひどい怪我にはならなかった。しかし、顔を上げた宗光の顔のすぐ前には、包丁の切っ先があった。
「さようなら、宗光さん……」
「わ、わあ、美樹ちゃん、俺が悪かったよ、あんな事は二度としない、データも消すから、許して!」
「大丈夫です、すぐに楽になれますから……」
包丁は、少しずつ少しずつ、確実に宗光の胸に近付いていた。
「わ、わああああああああっっっ!!!」
「う、うう、美樹ちゃん、助けて……」
「宗光さん、大丈夫ですか!? 宗光さんっ!」
「う、うう……」
ゆっくりと目を開けた宗光の前にいたのは、心配そうな顔で宗光をのぞき込んでいる美樹だった。
宗光は、掛け布団をはねのけ、ベッドの上で土下座した。
「美樹ちゃん、ごめんなさい! 謝ってすむ事じゃないけど、許して下さい!」
「あ、あの、宗光さん……どうしたんですか?」
「えっ?」
驚いて顔を上げた宗光の前には、呆然とした美樹が立っていた。
「あ、あれ、美樹ちゃん、包丁は……?」
「や、やだ、どうして私が包丁なんか持ってるんですか?」
「あ、あれ……夢?」
「あの、私、宗光さんにお願いがあってきたんですけど、部屋に入ったら宗光さんがうなされてて、それで……」
美樹は、少し控えめに事情を説明した。
「あ、そうだったの……ごめんね、驚かせて。それより、俺、何か変な事言ってなかった……?」
「いえ、特に、意味のあるような事は……」
「そう、それならいいんだ」
そう言って、宗光はため息をついた。
「あの、本当に大丈夫ですか? 顔色もあまりよくないようですけど……体の調子でも悪いんですか?」
「いや、本当に大丈夫だよ。あ、それより、頼みってなに?」
「あ、はい。学校の課題でパソコンを使わせてもらいたいんですけど……」
「ぱ、ぱそこんっ!?」
宗光が大声を上げたので、美樹は驚いて、一歩後ろへ下がった。
「あ、あの、駄目ならいいんです」
「あ、いや、駄目じゃないけど、今設定をいじってるから……うーんと、後三十分くらい待ってくれないかな?」
「あ、はい、わかりました。それじゃあ、三十分したらまた来ます」
「うん、ごめんね」
「いえ、いいんです。それじゃあ」
「……ふう……」
美樹が部屋から出るのを確認して、宗光は大きくため息をついた。
ゆっくりと立ち上がり、パソコンの電源を入れる。
やがて、いつもの見慣れた画面が表示された。マウスを動かし、アイコンのひとつをクリックする。
すぐにプログラムが起動して、裸の女の子が画面に映し出される。
「……とりあえず、美樹ちゃんには分からないところに移しておくか……」
後書き
みなさんこんにちは、おサルです。
…………………………ふう。
あはははは、美樹ちゃんファンの視線が痛い……(^_^;)
またしても暴走してしまいました。
いえ、誤解のないように言っておきますが、おサルも美樹ちゃんは好きですよ。ずっといっしょでは、一番のお気に入りです。
ただ、時々、宇宙からの電波がビビッときて、こういうのを書いてしまうんです。
はうぅ、次はラブラブなのを書きますから、許して下さい。m(_ _)m
それでは、またの機会にお会いいたしましょう。
作品情報
作者名 | おサル |
---|---|
タイトル | どこまでいっしょ? |
サブタイトル | |
タグ | ずっといっしょ, 石塚美樹 |
感想投稿数 | 11 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月12日 01時11分42秒 |
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