ゴーン……ゴーン……

テレビから、除夜の鐘の音が流れてくる。1984年まで、あとわずかである。

「来年まで起きているとか言っていたくせに……まだ子供だな」

啓介は、こたつで眠りこんでしまった息子の竜之介を横目でちらりと見て呟いた。
竜之介の身体には、しっかりと毛布と布団が掛けられている。

「まだ小さいんですから、仕方ないんじゃないですか?」

そう言いながら、美佐子がこたつに入ってくる。

「それなら、唯ちゃんみたいに、最初から素直に寝ていればいいんだ」
「いいじゃないですか、男の子なんですから。それに、この方が竜之介君らしいですよ。
それより、唯の方が……」
「唯ちゃんがどうかしたのかい?」
「まだ、竜之介君に慣れていないようなんです……」

一緒に暮らすようになってから、そろそろ半年になろうとしている。
美佐子はこの半年で、竜之介については、ほぼ掴むことができたような気がしていた。もっとも、竜之介の性格は一ヶ月も経たないうちに十分理解できるだろうが……。
それよりも問題なのは、娘の唯が未だに竜之介に慣れていないことである。
元来、唯は人見知りが激しい方だ。加えて、父親を亡くしたショックもあるのだろう。
竜之介の方が唯と仲良くなろうとして何かと努力しているおかげで、少しずつ慣れてはきているのだが、まだ、どこかビクビクとしているのが、美佐子は気になっていた。

「まぁ、アイツが死んでからまだ半年だからなぁ……そのうち、慣れるんじゃないかな」
「だといいんですけど……」
「それより、竜之介の方が問題だ。
母親が死んでからまだ半年だというのに、こんなに元気があるんだからな」
「自分の殻に閉じこもろうとしないんだから、大丈夫ですよ。
元気を出そうと一生懸命なんでしょうね……」

眠ってしまった竜之介を見つめる美佐子の目には、自分の子供を見るときのような優しさが満ちていた。

「そうか……」
「ええ、そうですよ。誰かさんと一緒で……」
「お、俺は、何も無理をしてないぞ!」
「あら、私は、誰とも言ってませんよ?」
「……だいたい、竜之介も竜之介だ!
人が帰ってくるなり、蹴りを入れるとは……父親を何だと思ってるんだ」

形勢不利を感じた啓介は、話題をすり替えようとした。

「そんな事を言うくらいなら、たまには、父親らしくしてください。
この半年間、一度も帰ってこなかったのはどこの誰でしたか?」

啓介は、自分が藪をつついてしまった事に気がついた。
しかし、気づいた時には、すでに手遅れだった。美佐子は笑っているように見えるが、視線が少し冷たくなっている。

「だ、だから、こうやって帰ってきたんじゃないか!」

自分は蛙だと思いながらも、一応反論してみる。

「はいはい、これからもそうしてくださいね」

美佐子に、にこやかに言われてしまう。こうなれば、返事は一つしかない。

「…………はい」

完全に負けである。
その瞬間、ふたりの決着が付くのを待っていたかのように日付が変わった。テレビからも、レポーターの声が聞こえてくる。

「午前0時を回りました。テレビの前のみなさん、新年おめでとうございます……」
「ふふっ……」
「ははは……」

どちらからともなく、笑いが漏れた。

「新年、あけましておめでとうございます。今年も、よろしくお願いします」
「おめでとう、美佐子君。こちらこそ、よろしく頼むよ」
「はい、わかりました。……でも、ずっととは言いませんから、せめて家にいる間だけでも父親らしくして下さいね」
「わかったよ……それじゃ父親らしく、この悪ガキを布団まで運ぶとするか……」

こたつから出た啓介は、父親の部分を強調して言いながら、竜之介を抱き上げた。
美佐子も、こたつから出て立ち上がった。

「私ももう休みますから……お休みなさい」
「ああ、お休み。……そうだ、明日、みんなで如月神社に初詣に行かないか?」

階段に向かって歩き出した啓介が、思い出したように振り返った。

「ええ、いいですよ。朝は何かと慌ただしいでしょうから、お昼からでどうですか?」
「そうだな。それじゃあ、昼から出かけようか」
「はい」

啓介が階段を上っていくのを見届けてから、美佐子も自分の部屋に戻った。
部屋では、すでに唯が布団の中でかわいい寝息を立てている。
去年は、色々なことがありすぎた。
唯もつらい想いをした事だろう。父親の死という事実は、唯にはまだ早すぎたのだ。

「唯……今年はいい年になるといいわね。竜之介君とも仲良くしてね……」

心からそう祈りつつ、美佐子も布団に横になった。

「父さん、早く行こうぜ」

翌日の昼過ぎ、四人はそろって如月神社に向かった。むろん、初詣のためである。
ちなみに、竜之介が目を覚ました後、啓介とふたりで「なぜ起こさなかった」「いや、起こした」という言い合いがあったが、それも、微笑ましい親子の光景であった。

八十八町から如月町に向かう電車は、竜之介たちと同じく、如月神社に初詣に向かうらしい乗客で普段よりも混雑していた。
如月駅で電車から降りると、竜之介はすぐに、啓介の手を引きつつ先を急いだが、啓介はそれに逆らって、ゆっくりと歩いていた。
美佐子の手を握ってゆっくりとついてくる唯に歩調を合わせていたからだ。
その唯は、七五三で着た着物をそのまま着ていた。
着物を着た唯が、美佐子の手を握って一生懸命歩く姿はとてもかわいく、啓介はご機嫌だった。
最初に家で唯の着物姿を見た時、啓介は思わず感嘆の声を上げていた。
もっとも、啓介に「唯ちゃん、着物がよく似合って、とってもかわいいよ」と言われた当の本人は、恥ずかしそうな声で小さく「あ、あの……」と言ったきり、美佐子の後ろに隠れてしまったが。

駅から神社までは、歩いて5分程度である。
神社に近づくにつれて、次第に混雑の度合いが増していった。四人が向かっている方向からも、たくさんの人が歩いてきた。

「唯ちゃん、神社の中はすごくたくさんの人がいるだろうから、はぐれないように、ちゃんと手を握っているんだよ」
「う、うん……」

唯は、不安そうな顔で、美佐子の手をしっかりと握り直した。

「俺は、はぐれてもいいのかよ?」

竜之介が、少し拗ねたような声で啓介に抗議した。

「おまえの場合は、注意しても無視してどこかに行くからな……まあ、迷子になっても、泣いて俺を呼ぶことがないようにしておけ」
「ちぇっ、勝手に言ってろよ」
「あの……竜之介君、迷子になるの?」

唯が、少し心配そうな顔で竜之介に聞いた。

「あんなの、父さんが勝手に言ってるだけさ。相手にしなくていいよ」
「こら竜之介、おまえ……」
「じゃあ……迷子にならないの?」
「当たり前だろ」
「そっか……よかった」

竜之介の答えを聞いて、唯は安心したように笑った。

「竜之介、はぐれないように、手をつなぐか?」

啓介が、にやりと笑って竜之介に手を差し出す。

「……そんな事、しないよっ!」

子供扱いされたことが悔しかったのか、竜之介の声が荒くなった。

「まあ、そう怒るな……。おっ、そろそろ神社が見えてきたな」
「あっ、ほんとだ!」

神社に着いたことで、ふてくされていた竜之介も、機嫌を直した。

「最初にお参りして、少し歩いてから、一休みするか。どこか喫茶店ででも……」

啓介の言葉に、美佐子は首を傾げた。

「あら、憩でじゃないんですか?」
「憩は、正月の三が日は休みじゃないか。せっかくの休みなんだし、わざわざ働くこともないだろう。
それに、憩で休憩するくらいなら最初からリビングにいるよ。その方が気が楽だ」

啓介が、美佐子に向かって苦笑する。美佐子もつられて笑った。

「ふふっ、そうですね。それじゃあ、今日は完全にお休みさせてもらいます」
「ああ、その方がいい……ところで、竜之介」
「なんだよ、手ならつながないぞ」

竜之介の言葉に、啓介は再び苦笑してから、真面目な顔に戻った。

「そうじゃない。もし、万が一はぐれた時は……ほら、神社の入り口の、柱の所で待っていろ。そうすれば、間違いなく見つけてやる」
「……わかったよ。父さんも迷子になったら、あそこの柱の所にいるんだぞ」
「……いいだろう」

竜之介がにやりと笑いながら啓介に言い返すと、啓介も同じように、にやりと笑った。

「二人とも、話に夢中になってはぐれないようにね」

二人がにやにやしていると、美佐子から注意が飛んだ。

「親子そろって迷子なんて事になったら恥ずかしいですからね」
「やれやれ、美佐子君にはかなわんな」

そんな事を言いながら、四人は神社の中へ入っていった。


神社の中は、初詣に訪れた人でごった返していた。
親子やカップルで来ている人たち。
今買ったばかりの破魔矢やお守りを持っている人たち。
参道の真ん中辺りにある、巨大なたき火に当たっている人たち。
露店で売られている甘酒やお汁粉、おでんなどで身体を暖めている人たち。

「う〜ん、やっぱり初詣はいいなぁ……。なんだか、わくわくしてくるんだよなぁ」

時間がたつにつれて、竜之介の瞳が次第に輝きだした。

「わくわくするのもいいが、調子に乗ってはぐれるなよ」
「わかってるよ……」

返事はしているものの、竜之介には啓介の言葉は聞こえていない。

「やれやれ……唯ちゃん、悪いけど、竜之介の奴を捕まえててくれるかな?
どこに行くかわかったもんじゃないからね」
「え、あの……唯が?」
「ああ、頼むよ……」

唯があまり気乗りでないのを感じて、美佐子が助け船を出した。

「唯、竜之介君と手をつないでいてね」
「う、うん。わかった」

美佐子に言われて、唯は竜之介の手を握ろうとした。

「ん? なに?」
「あ、あの……手……」

竜之介に不思議そうな顔をされて、唯は再び困ってしまった。

「唯が、竜之介君と手をつなぎたいんですって」

美佐子の言葉に、竜之介は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑って唯に手を差し出した。
唯は、差し出された手を複雑な気持ちで握った。

(別に、唯が手をつなぎたい訳じゃないのに……)

唯にとっては、啓介と美佐子に言われて、手をつないだだけである。
それを、唯が手をつなぎたがったように言われては、おもしろくなかった。
美佐子は、唯が少しでも竜之介に慣れる事ができればいいと思っていただけだが、唯には美佐子のそんな気持ちは分からない。
「親の心子知らず」とはよく言ったものである。

]

そうしている間にも参拝の列は進み、四人の番が回ってきた。

「はい、ふたりとも、お賽銭よ」

竜之介と唯は、美佐子から100円玉をもらい、賽銭箱に投げ入れて手を合わせた。

「よし、じゃあ戻るか。二人とも、手を離すなよ」
「……竜之介君、手……」
「おう」

参拝の列から離れるために、竜之介は再び唯と手をつないだ。そして、竜之介と手をつないでから、唯は美佐子と手をつなごうとした。

「あっ……」

その瞬間、竜之介が人波に流され、それにつられて、唯も一緒に流されてしまった。

「唯っ!」

美佐子が声を上げたが、二人はあっという間に人波の中に消えてしまった。

「ど、どうしましょう!?」
「……まあ、大丈夫だろ」

あっさりとそう言うと、啓介はさっさと歩き出した。

「あ、でも!」

慌てて啓介を追いかける美佐子とは対照的に、啓介は落ち着いていた。
竜之介は、年の割にはしっかりしているし、待ち合わせ場所らしきものも決めてある。問題が起きる事はないだろう。

「竜之介には、はぐれたら鳥居の所で待っているように伝えてあるし、唯ちゃんは竜之介と一緒にいるだろうからね。
表通りで待っていれば、そのうちに会えるさ」
「でも、二人ともまだ小学生ですし……竜之介君はしっかりしてるみたいですけど、唯は本当に子供で……」

美佐子には、自分たちと離れて泣き出す唯と、その側でおろおろしている竜之介の姿が容易に想像できた。

「でも、闇雲に歩き回ってもかえって逆効果だろうし、しばらく様子を見るとしよう。
この神社は、他に出入りするような場所はないからね。表で注意して見ていれば、見逃すことはないさ」

神社から出ると、啓介は立ち止まって道の反対側にある喫茶店を指さした。

「予定とは少し違うけど、あの喫茶店で一休みしていよう。
あそこからなら、神社から出てくる人も見えるからね」
「……わかりました。竜之介君を信じます」

不安を隠せないながらも、結局は美佐子が折れた。

「それにしても、昔から物事に動じないんですね」
「そんなことはないよ、そう見せていただけだ。今は本当に平気だけどね」

二人は喫茶店で窓際の席に座り、子供たちが出てくるのを待つことにした。


「ど、どうしよぅ……」
「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても」
「でも……迷子になっちゃったんだよ……」

親とはぐれた二人は神社の脇にある木の下に立っていた。
不安そうな唯を、竜之介は懸命になだめようとするが、知らない場所で親と離れてしまった不安は、そう簡単に消せるものではない。

「う……ひっく……お母さん……」
「だ、大丈夫だって! すぐに会えるからさ」

泣きそうになっている唯を勇気づけるように、竜之介は、つないでいた唯の手をぎゅっと握った。

「ぐす……竜之介君……?」
「絶対に大丈夫だよ!」

唯は、竜之介の励ましと手の温かさで、不思議と落ち着いていった。しばらく前には、いつも感じていた安心感……。

「……お父さん……」
「え、なに?」
「な、なんでもない……」

唯の呟きは、竜之介の耳には届かなかった。
竜之介は、何だかよくわからない顔をしたが、すぐに元の笑顔に戻った。

「それにさ、会ったときにも泣いてたら、美佐子さんが心配するだろ?」
「お母さん……?」
「そうだよ。美佐子さんがすごく心配するし……父さんだって、笑ってる唯の方が好きだと思うよ」
「うん……」
「な、もう大丈夫だろ?」
「あのね……竜之介君は?」

涙の収まった唯が、今度はじっと竜之介を見つめた。

「え、お、俺?」
「うん……」

唯に見つめられて、竜之介の鼓動が早まった。
唯の瞳にはまだ涙が残っていて、大きく見開かれた瞳は普段にも増してキラキラと輝いている。

「ねぇ……竜之介君は、笑ってる唯が好き?」
「お、俺は……」

竜之介の言葉が一瞬詰まった。
唯は、プロポーズの返事を聞くかのような真剣さで、竜之介の返事を待っている。

「……笑ってる唯の方がいいかな……」
「ほんと!?」
「ああ、笑ってる唯の方がかわいいよ」

竜之介の返事を聞いた瞬間、唯の顔に満面の笑みが浮かんだ。

「じゃあ、唯、もう泣かない!」

そう言って、唯は竜之介の手をしっかりと握り返した。

「よし、外に行こうぜ。入り口の柱の所で待ってろって言ってたからさ」
「うん!」

唯の元気な返事を合図に、二人は並んで歩き出した。ついさっきまで泣き出す寸前だった唯も、うれしそうに歩いている。
そして、今度は二人ともはぐれることなく、無事に神社の外に辿り着いた。
二人は辺りを見回したが、啓介も美佐子も、どこにもいる様子はなかった。

「なんだよ……ここで待ってろって言ったくせに」

父親に悪態をつきながら、竜之介は密かに唯の方を見た。二人がいないことで、また泣き出さないか心配だったのだ。
だが、竜之介の心配をよそに、唯はにこにこと笑っていた。

「どうしたの、竜之介君?」

唯が、竜之介の顔を覗き込むようにして聞いてきた。

「べ、別に……なんでもないよ」

唯の顔を間近で見た竜之介は、顔が熱くなるのを感じて、視線を反らせた。

「? ……変な竜之介君」

そう言って、唯はおかしそう笑った。

「竜之介君! 唯!」

二人が声がした方を見ると、ちょうど美佐子が走ってくるところだった。

「あ、お母さ〜ん!」

唯が、大きく手を振りながら美佐子を呼んだ。
二人の前に来た美佐子は、少し驚いたような顔で唯を見つめた。

「唯……?」
「なぁに、お母さん?」

唯は、にこにこと笑いながら、美佐子を見ている。特に泣いていたような様子もなかった。

「……何でもないわ」

そう言って、美佐子は頭を振った。

「それにしても、美佐子さんはここまで来てくれてるのに、あのバカ親父はどこで何してるんだよ?」

誰に言うともなく、竜之介が呟いた。

「ふふ、あそこの喫茶店にいるわよ」

美佐子が指さした方向を見た竜之介の目に、にこやかに手を振っている啓介の姿が映った。

「な……」
「竜之介君のことを信じてるのよ」

竜之介が口を開くより先に、美佐子がそう言った。

「待ち合わせ場所も決めてあるし、竜之介君なら大丈夫だ……って」
「そ、そんなことないよ……」

口では否定した竜之介だが、嬉しそうに紅潮した顔は隠しようがなかった。
そんな竜之介を見て、美佐子は優しく笑いかけた。

「そんなことないわ。竜之介君は、ちゃんと唯を守ってくれたもの」

優しく微笑む美佐子に見つめられ、竜之介は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

「ね、唯もそう思うでしょ?」
「うん!」

唯は、美佐子の言葉にすぐに頷いた。
竜之介は益々恥ずかしくなり、完全に下を向いてしまった。

「さぁ、お話はこれくらいにして、中に入りましょう。あまり待たせても悪いわ」
「うん! 唯、いちごパフェ!」
「はいはい、着物を汚さないでね。竜之介君も行きましょう」
「竜之介君、早く行こうよぉ」

パフェのためか、唯は竜之介の手を掴んで引っ張った。
唯に連れられて、竜之介もゆっくりと歩いていったが、まだ照れているのか、顔は下を向いたままだった。

その夜……。

夕食を済ませた唯と竜之介は、ダイニングルームでテレビを見ていた。
美佐子はキッチンで夕食の後かたづけをしており、啓介は正月にも関わらず、書斎に籠もってしまった。

「ねぇ、竜之介君……」
「ん、何?」

唯の声で竜之介が振り返ると、唯は顔を少し赤く染めて、竜之介を見つめていた。
一瞬、竜之介は動揺したが、すぐに平静を装う。

「な、何だよ……」
「あのね…………唯、竜之介君のこと…………」

唯の顔がさらに赤く染まっていく。
それにつられるように、竜之介の顔も少し赤く染まっていた。

「俺が……な、何だよ……?」
「あのね…………竜之介君のこと…………」

竜之介は、思わず息を呑んだ。

「…………お兄ちゃんって呼んでもいい?」
「……は?」

自分の予想が外れたせいか、竜之介の返事はマヌケなものだった。

「……ダメ?」

竜之介の返事がマヌケなものだったせいか、唯は悲しそうに竜之介を見ていた。

「……べ、別にいいよ……」

唯の悲しげな表情に追い立てられるかのように、竜之介はつい、そう言ってしまった。

「ほんと!?」

竜之介の返事を聞いた瞬間、唯の顔に満面の笑みが浮かんだ。

「あ、ああ……」

竜之介も、唯の嬉しそうな顔を見てしまった後では今さらダメだとも言えず、ただ頷くしかなかった。

「お兄ちゃん、大好き!」

そう叫ぶと、唯は竜之介に抱きついてきた。

「わ、わぁ〜っ!」

反射的に唯を避けようとした竜之介は、それまで寝転がっていたソファーから滑り落ちてしまった。

「お、お兄ちゃん!」
「竜之介君、大丈夫!?」

唯に加えて、美佐子も何が起きたのかと、キッチンから飛んできた。

「何でも、ないよ……美佐子さん……」

何でもないことはない。床に落ちて、竜之介は結構なダメージを受けていた。
だがそれよりも、唯の「お兄ちゃん」の方が竜之介にとっては問題だった。
唯はすぐに竜之介のすぐ側にしゃがみ込んで、心配そうな顔をしている。

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

遠からず、啓介や美佐子も、唯が竜之介のことを「お兄ちゃん」と呼んでいることに気づくだろう。
その先の展開に頭を悩ませつつも、今はただ、床に落ちた衝撃が和らいで欲しいと、心から願う竜之介であった。

Fin

後書き

みなさんこんにちは、おサルです。

第2回永遠の妹コンテストも終わりましたね。
唯は14位に甘んじていますが、これもすべて、おサルが何もしなかったことが原因でしょう。おサルが行動していれば、少なくともベストテン入りは果たしていたはずです。
それとともに、時間の流れも感じてしまいますね。やはり、同級生は忘れられていく運命なのでしょうか? 新しい妹もたくさん生まれたことだしぃ(笑)
そのなかでも、加奈は強いですねぇ。ちなみにおサルは、まだエンディング4しか見ていません。でもねぇ……おサル的には、夕美の方が……もごもご(笑)
別に、加奈が嫌いだってことじゃないんですよ。ただ、ほんの少し、夕美の方に傾いてるんですね。確かにサブキャラクターではあるんですが、チクリチクリとやられてしまいました。(^^;

でも、妹ならやっぱり唯ですよねぇ。
さぁ乃絵美、お兄ちゃんと愛を確かめ合おう!(マテ
制服@ロムレットの影響で、密かに乃絵美に傾いているおサルです(逝)
それでは、またの機会にお会いいたしましょう。

なお、賢明なる読者諸兄にはすでにお気づきのことと思うが、締切を1年以上オーバーした件については一切触れないでいただきたい(オイ


作品情報

作者名 おサル
タイトルお兄ちゃん
サブタイトル
タグ同級生2, 鳴沢唯, 成沢美佐子, 啓介, 竜之介
感想投稿数40
感想投稿最終日時2019年04月15日 03時15分48秒

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  • [★★★★★★] 純粋に面白かったです。次を書かれるときは唯と竜之介が結ばれた後のアツアツ話を書いてくださいl
  • [★★★★★★] いつもながらおサル最高
  • [★★★★★☆] 第二の『10years』?続きに期待してます!!
  • [★★★★★★] 貴重な同級生小説、面白かったです!
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  • [★★★★★☆] 最近読みだしたんですが、いいもんですね〜w 期待してます。がんばってください。
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  • [★★★★★★] 同級生2はやったことがあるのですがこのSSは面白く読ませていただきました。続きが読みたいです。
  • [★★★★★☆] 面白かったです。続きを速く読みたいですv
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