・・・そこはどこの繁華街にも一軒はありそうな飲み屋だった。

ある友人の呼び出しで来たのだが、つきあいでもあまり飲めない俺は
あいつのペースで飲みたくはないなぁ、などど心配してしまう。
のれんをくぐり、周りを見渡しながら友人の姿をさがす。
高校生のような一団が騒いでるとなりの2人掛けテーブルに、その”友人”はいた。

「ハ〜イ、T。How are you doin〜g♪」

妙な間延びをした声ながらも、しっかりした発音の英語で俺にあいさつをしてくる。

「ぼちぼちだよ。お前さんこそ調子はどうだい?」
「わたし〜ぃ。うふふふ・・・。いまい〜ぃ気分よぅ」

俺が着くまでに相当な量を飲んでいたのだろう。すでに彼女はできあがっていた。

「ったく、もうよっぱらってるじゃねーか」
「Non non non。酔ってないわよぅ。ただいい気分なだけ」

酔っている人間の大体が自分のことを「酔っていない」と言う。なぜだろう。

彼女の名前は片桐彩子。ひょんなことから彼女と知り合ったわけだが
そのかざらない性格に惹かれていた。そして二ヶ月前、彼女の
そのわけへだてなく人とつき合える性格を好意と勘違いし
「当たって砕けろ」を実践。みごとに砕けた。
その後、彼女の言葉通り「いいお友達」な関係におさまっているが
まだあきらめきってはいない俺である。

ちなみにフランスに留学していたはずの彼女がフランス語をまったく
しゃべらず、なぜか英語を会話に混ぜて話すことはいまだに謎であった。

「で、何のようだ」

一度撃沈された身であるから妙に緊張はしなくはなったが
素直に喜びを表せないのは俺の悪い癖である。

「こんなところまで来て『何のようだ』はないでしょう。
一人で飲むのも飽きたからこうしてあなたを誘ったんじゃないの」

と、ころころ笑いながら彩子が言う。
この言葉から
”俺は彩子の気の許せる存在になっている”と言うことと
”彩子は俺を安全牌としか見ていない”ということがわかるであろう。
誰にもわからないためいきを心のなかで一つつきながら
「中生一つ。」
と、オーダーを取りにきたおねえさんに告げ、今日はとことんつきあうことを
行動で示す俺であった・・・・・。

二時間後、結局のところミュージシャンの卵である彼氏と最近うまくいってないと
いう愚痴を誰かに聴かせたかっただけの彩子は
「練習とか言って全然会ってくれないの」とか、
「今が彼にとって大切なのはわかってるけど、あたしのことも大切にしてほしいわよぅ」とか、
「ひょっとしたら他に女が出来たりしちゃったのかしら?きゃー」
などと言うことを同じように散々聞かせたあげく、
「But I hate missing him・・・・・」
と、一言つぶやいて寝てしまった。

ここで俺も酔っているなら、彼女に対して不埒な行為の一つでも
試みようと思うのであろうが、彼女の愚痴の多さにあっけにとられて
酒もあまり飲めなかったことと最後の一言のせいで、
「さて、おくってやるか」
と、素直に思って支払いをすませた。これは当然ワリカンだったが。


タクシーを拾い、彼女の家の近くで降りると
「ほら、起きろよ彩子。もうお前んちだぞ」
と、さすがに家まで送るのはめんどくさいので起こしてやる俺だが
「うーん、だめぇ。おぶってってぇ」
と酔った彩子の色っぽい一言にあっさり従ってしまう。

彼女をおぶって家の前まで行くと、そこに男の姿がある。
(まさか、彩子んちって門限があるんじゃないだろうな)
家の前の男性を親父さんだと決めつけて、そうだったら面倒だなと思い
さらに歩いていくと、どうもその男性は若いようだ。
家族以外に彩子を家の前で待つ存在を思いつかない
いや、思いつきたくない俺は
(彩子には兄貴いたんか)
と自分を納得させ、
「ちょっと彼女飲み過ぎたみたいなんで、送ってきました」
なんてフォローを入れといた。
その男はいぶかしげに俺を見ていたが、一応礼はしてくれた。
そのとき、

「あぁっ、○○○○(ミュージシャンの卵の名前)!!
なんで?今日はスタジオだったんじゃないの?」

彩子が突然目を覚まし、俺の背中から飛び降りて叫んでいた。
どうもこいつが彩子の彼氏らしい。

「ああ。でもさっき出来たこの曲をどうしても彩子に見せたくてね。」
「・・・・・!! How glad I see you!」
「・・・ごめんよ、彩子。今までろくに会えなくて・・・」
「ううん。もういいの。今こうしてあなたといられるから・・・・」

俺の存在というものを全く無視、と言うか他の人間にはまるで
入る余地のない空間を作り出してしまった2人を見て
少し呆然としていた俺だったが、そこにいることがばからしく思えて
何も言わずに後ろを振り向いた。

「あっ、T。Thanks。今日はありがとう」

と、その言葉に振り向く俺が見たのは最高の笑顔の彩子と
軽く礼をする彼氏の姿であった。
何も言わずただ片手をあげ、また家路につく俺の頭にあったことは
(やっぱり彩子・・・・・・。胸でかかったな・・・・・・)
と言うおんぶの余韻だけだった。


Ende

後書き

どうも初めまして。てぃすけと名のるモノです。
けぇ氏の一言で思いついたお話なんです、これ。
公開されるなんて思ってもみなかったのですが(苦笑)
ちなみに設定は「彩の・・・」後。ミュージシャンの卵とは
「彩」の主人公。「T」とは・・・・だれでしょう?(笑)
このお話を読んで笑っていただければ幸いです。

それでは


作品情報

作者名 てぃすけ
タイトルいいお友達のススメ
サブタイトル「いいお友達」のススメ
タグときめきメモリアル, 片桐彩子
感想投稿数10
感想投稿最終日時2019年04月09日 08時30分26秒

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  • [★★★★★☆] 面白かったです!この話の続きが見たいな♪
  • [★☆☆☆☆☆] 主人公の性格が好みではない。
  • [★★★★☆☆] ちょっと短すぎるような・・・ここからまた深い展開を見せても良いのではないかと思いました。
  • [★★★★★★] 片桐さんがかわいいです。後、Tの気持ちがすごい分かる。最近ふられたばっかです。