わたしはそう思ってない。
思ってないと思っていた。


親しい友達。小さい時からの幼なじみ。
気が付けば近くに居る人。

ううん……居てくれた人。
そう思うようになったのは、いつからだったかわからない。
ただ、あの人の笑顔を見るだけで、わたしはすごく幸せになれた。
声を聞くだけで、なぜかドキドキした。

これが……本当の気持ち?

わたしには、まだわからない。
鼓動や気持ちは、もう知っているのに。
わたしには、それを信じていいのかわからない……。

「詩織、一緒に帰ろう」

先に待っていようと思ったわたしに、そう言ってくれた。
あなたは気づいてないのかもしれない。
トクトクとちょっと騒がしくなった心臓の音。

「うん、一緒に帰りましょう」
精一杯の笑顔を作ったつもり。うまく出来ているかな……
ただ顔だけが熱い。

身体の中、心の中では、一生懸命気持ちが叫んでいる。
でも、わたしには聞こえなかった。ううん……わたしが耳を塞いでいるだけ。
もう知ってるのにね。もう自分でも気づいているのにね。

「今日、どこか寄ってから帰らない?」

…が言った。友達を誘うように、明るくニコリと笑いながら。
少し照れくさそうに見えるのは、わたしの気のせい?
「うん、いいわよ」
「じゃ、どこに行く?」
わたしは、少しだけ考えた。秋の高い空が目にはいる。

「きらめき大通りの並木道とか……だめ?」
思いついたのはその場所だった。小学校の頃、一度だけ…と、秋の中通った所。

覚えてる?

そっと心の中だけで聞いてみた。でも、それだけじゃ絶対に答えてはくれない事はよくわかっている。
言わなくちゃ、絶対に伝わらない……って。

どんな事でも。

「いいね。もう秋だからなぁ……たぶんイチョウが綺麗だろうな」
…は高い空を見上げながら言った。
とっても気持ち良さそう。

「ね、ねえ……」
わたしは、思い切って聞いてみた。あの頃の事を。
「あそこの並木道………小学校の頃、お母さんに連れられて一緒に歩いたの覚えてる?」
そう言ったあと、…はほんの少しの間だけ、考えるようにしていた。
やっぱり……覚えてるのはわたしだけなのかな。
わたしにとっては、…と一緒の思い出。とっても大事な………思い出。
だから、忘れない。ずっとずっと。

「そうそう、確か映画見に行くってんで、おばさんに連れてってもらったんだよね」

今度は、わたしが一瞬考えた。

本当に? ちゃんと覚えていてくれたの?
信じられない気持ちで一杯。

「え……」
「なんだっけ、なんかアニメ映画だったよね。なんだったか忘れたけど」
「わたしも……忘れちゃった」

ちゃんとそこまで覚えていてくれた事が嬉しかった。だからそこまで思い出せなくてもいいと思った。
口元が、嬉しくて緩んだような気がする。
苦笑している風に見えてないかな……
その時、不意に吹いた風が、やわらなかな秋の匂いを運んできた。
そういえば……あの時も、こんな匂いのする風が吹いてたっけ……
小さい頃、…と一緒に歩いてる時、すっごく楽しかった事は、今はまだ内緒。


いつか……いつか教えてあげるね。
わたしのメモリアル。

Fin

作品情報

作者名 じんざ
タイトルあの時の詩
サブタイトル30:私のメモリアル
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/あの時の詩, 藤崎詩織
感想投稿数279
感想投稿最終日時2019年04月09日 08時33分12秒

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  • [★★★★★★] 詩織一人称ものですね。良い感じですよ〜(^^♪