最初は、女の子と同居なんていう、夢のようなシチュエーションだと思った。
しかし、それは一瞬も同然の喜びだった。
暮らしていくうちに、元々持っていた僕の暮らしのスタイルと、美樹ちゃんの暮らしの
スタイルのズレで、何度も衝突することはあったからだ。元々、お互い見も知らない間柄
からの同居だ。わからない事は多すぎた。
それこそ、美樹ちゃんの一挙手一投足にまで、神経が行った事さえもあった。ぴりぴりと
張りつめて破裂してしまいそうな状況。しかし、それがストレスと感じる事はあっても、
極限状態にまで昇りつめて、破局を迎えるまでに行かなかったのは、一重に、喧嘩をする
せいかもしれなかった。
僕も美樹ちゃんも、不満が鬱積した時点で、なんらかの爆発がある。
その時はもちろん感情的にもなる事はあったが、お互い言いたい事を言って、ぶつかって
気がつくと、いつのまにか不満が一つ消えていた。
相手・・・美樹ちゃんの事が一つ解って、解ると同時に、喧嘩の元となった事では、
同じ喧嘩にはならなくなっていった。
つまり、一つ喧嘩する度に、僕は美樹ちゃんの事を一つ知る。美樹ちゃんも、僕の事を
一つ知ってくれていると思う。
喧嘩が、お互いを知る手段の一つになっていると言っていい。
もしかしたら、下手に知り合ってから同居になる関係よりも、てっとり早く、しかも
深くわかり合える関係なのかもしれない。
ゼロから作っていく関係。今の僕たちはそんな関係なのかもしれない。
「…さん、その格好で歩くのやめてくれませんか?」
美樹ちゃんが、刺すような口調で言ってきた。
冷蔵庫で冷やしておいたジュースを、冷蔵庫の前で飲んでいる時の事だ。風呂上がりの
一杯を魂の底からうまいと思っていた気分が、一気に薄れていく。
「え?」
「だから、Tシャツにトランクス一丁ってのをやめて欲しいんです。暑いのはわかり
ますけど、わたし、そういう格好でうろうろされるのイヤなんです」
心なしか、頬を赤らめながら、心底困った風な顔をしている。僕の格好を見ては、困った
風に視線を反らす。
「あ・・・」
確かに、いいものじゃない。人前で見せる格好じゃないと言われれば、確かにその通り
かもしれない。特に、美樹ちゃんの前で見せていい格好ではない・・・と思わなくもない。
しかし、楽な格好ではあるし、なにより、今の僕は、体裁よりも、ライフスタイルが束縛
される事を拒んだ。前だったら、僕の方が美樹ちゃんを意識して、こんな格好はしなかった
物だが、一緒に暮らすようになってから、もう随分と経つ。生活になれてきたと理解して
くれても良さそうな物だ。
「大丈夫だよ。見られても別に恥ずかしくないし・・・」
「だから、そういう問題じゃないんです。わたしがイヤなんですよ!」
美樹ちゃんの表情に浮かんで来たものは、あからさまな嫌悪と怒りだった。
「イヤだって言われても・・・・」
「イヤな物はイヤなんです。そんなみっともない格好」
少しだけ、カチンと来た。言葉の毒に触れたせいかもしれない。
「みっともないって、そりゃないよ。そりゃ確かにいいカッコじゃないかもしれないけど、
せめてうちの中に居る時くらいは、こんな格好しててもいいじゃないか」
「だったら、一人の時にやってください。わたしの居る前でそんな格好しなくたって
いいじゃないですか!」
僕と美樹ちゃんの言葉に、次第に熱が籠もっていくのが解る。
「しょうがないだろう。僕がこんなカッコ出来る時間に、美樹ちゃんだって家に居るんだし」
「だったら、見えない所でしてください!」
「見えない所って、台所までなんて責任もてないよ。ここは僕の住んでる所なんだから」
飲み終わったジュースを、ダイニングテーブルに強く叩き付けるように置いた。
「何言ってるんですか! わたしの家でもあるんですよ!」
美樹ちゃんが、手をテーブルに叩き付けられた。柔らかい手なのに、バンと
景気よく音を立てる。
「・・・・・」
「・・・・・」
僕と美樹ちゃんの睨み合いに発展した。
普段は、あまり目を合わせて来る事が多いほうじゃない美樹ちゃんが、僕と視線を戦わせ
るように、じっと見つめてきている。
「どうしてもしちゃ駄目か?」
「どうしてもしたいんですか!?」
睨み合いほどの停滞じゃ、状況は改善なんかされる筈もなかった。
「そりゃ、僕だって、美樹ちゃんの前だし、あんまりいいカッコじゃないってわかるけど」
「じゃあ、解っててやってるっていうんですか?」
怒りも驚きも忘れて、美樹ちゃんは目を丸くした。
「わかっててやってないって言ったら嘘になる。でも、僕だってこの格好好きなんだよ」
「わたしは、そんな格好嫌いです!」
きっぱりと言われた。
「なんで。恥ずかしいから?」
僕が問いつめるように言うと、美樹ちゃんの頬が途端に沸騰したように赤くなった。
「・・・・・」
「こんな格好なんて、男にしてみりゃ、普段着も同然だよ」
「だったら、その格好でコンビニとか行けますか?」
頬を赤くしながらも、責めるような瞳で、僕をじっと見てくる。
「これで外へ行けるなんて言ってないだろっ。家の中での普段着って事だ!」
言ってから、僕はハッとなった。思いもしないほど、口調が荒くなっていたせいだ。
すでに遅かった。
美樹ちゃんの目が、びっくりしたように丸くなっていた。微かに揺れているのは、怯えの色。
正直、しまったと思った。
元々、僕の勝手から始まった喧嘩だ。確信犯なのもわかっている。だから、僕の方が
先に引いてもいいとさえ考えてもいた。今となっては、遅いかもしれない・・・
じっと見つめていた美樹ちゃんの目に、じわじわと沸き上がってくる物があった。
涙。
ここ最近の喧嘩では、すっかり陰を潜めていた筈の涙が、今再び美樹ちゃんの目に在った。
おそらく、美樹ちゃん自身も、意識していないに違いない。拭おうとしていないのが、
その証拠だ。
ずるいとしか言えなかった。
例え意識してないで出した物でも、涙を見せる事は、僕にとってはジョーカーを
出されたも同然だ。
「・・・・・・」
絶句しながら、僕は、ただ美樹ちゃんの涙だけを見ていた。それに気づいてか、あるいは
自分で気づいたのか、ハッとして美樹ちゃんは自分の目尻に手をやった。涙が指先に触れた
せいか、涙が一筋、つぅっと柔らかそうな頬を伝う。
僕は考えていた。「ごめん」と言うべきか「ずるいよ」と言うべきか。
きつい事を言って泣かせたのは僕だ。しかし、涙を見せたのは美樹ちゃんだ。 泣けば、
僕が困るのを知っていながら。
「・・・・」
自分の涙に気づいた美樹ちゃんは、慌てて涙の後をこすり落とすように、何度も何度も
目尻を頬を指先でなぞっている。涙を見せる事が恥ずかしいというより、涙を見せてしまう
弱さを必死に隠そうとするかのように。
「ずるいよ・・・・」
僕が選んだ言葉とは、反対の事が、口から勝手に出てきた。
美樹ちゃんは、僕の言葉にハッとして、涙を拭う手を止めている。
こんな風に言われるなんて思ってもしなかったのだろう。
僕の気持ちの中には、泣かれた事への怒りはなかった。むしろ、なんでそんな事くらいで
泣けるんだという、哀れみにも近い感情の方が大きい。
美樹ちゃん、すっかり強くなっていると思ったのに・・・
ここしばらくの喧嘩でも見なかった涙を見て、忘れかけていた物を思い出した感じだ。
「・・・わ、わたし」
「・・・・・泣かれたら、どうしようもないじゃないか」
僕は、自分の口から勝手に出てくる言葉から逃げるようにして、立ちすくんでいる美樹
ちゃんの横を通り過ぎて、自分の部屋向かった。
ちらりとみた横顔の頬には、涙の跡。
たった一筋でも、あんなに跡が付くんだ・・・
そんな事を考えて、僕は部屋に入ってから、後ろ手でゆっくりとドアを閉じた。
いつもの喧嘩と同じようで、全然違う。
もっと言い合って、もっと本音をむき出しにして、気が付けば胸の中のもやもやも全部晴れて
いつのまにか笑顔。僕と美樹ちゃんは、今までそうして解り合ってきたつもりだった。
どうしてこうなったのだろう。たまたま日が悪かっただけなのか? それとも・・・・
ベットに寝転んで天井を見ながらそんな事をぼんやりと考えていた。
いつまで経っても答えなんか出る筈のない思考だ。こんな事をしている暇があったら、今すぐ
にでも美樹ちゃんの所へ行って、僕の望むままの喧嘩をして、胸の奥にある物を全部残らず
吐き出したい。それで、最後に「ごめん」と僕が折れればいいだけの話だ。
こんなイヤな気分になるくらいなら、美樹ちゃんの指摘した格好なんてしなくてもいい。
トランクスの上に、ショートパンツの一枚でも履けばいいだけの、簡単な話だ。
しかし、心の片隅にこんな事を言う僕が居た。
いいのかそれで。自分を曲げてもいいのか。思うままに出来なくて本当にいいのか。涙の言いなり
でいいのか・・・・
「わかんねぇよ・・・」
もう一人の自分に、小さく声に出して言い返した。
僕が強ければ、こんな風に弱く答える事はなかったかもしれない。
どれくらい時間が経っただろう。
長く考えているようで、そんなに時間が経っている気もしなかったが、こんな時に限って
時間は進んでいる物だ。
ただ、時計を見てそれを確認する気持ちにはなれなかった。もし時間が進んでいなかったら
僕は今までのもやもやの時間を、まだ続けなければならないし、経っていたらいたで、また
美樹ちゃんと顔を合わせるまでの時間が近づいているだけだ。と言っても、明日の朝の事だ。
このまま寝てしまえば、明日は何事もなかったかのように顔を合わせられるかもしれない。
もっとも、本気でそんな事を考えてはいない。そうでなければ、今こんな重い気分にはなって
いないからだ。
僕は、壁を見た。壁の向こうにある筈の美樹ちゃんの部屋を想像しながら。美樹ちゃんはその
部屋で、どうしているだろう・・・僕と同じ気分だろうか。それとも、気にしないで寝てしまって
いるだろうか・・・
考えるのがイヤになって、僕は俯せた。
昼間に干したせいか、柔らかい匂いがした。太陽の匂い。今日はいい天気ですねと言った美樹
ちゃんの表情・・・笑ってたな。
そっか・・・布団・・・美樹ちゃんが干してくれたんだっけ・・・
何度ノックしようと思ったかわからない。
手をあげて、勢いをつけてドアを軽く叩くだけの事が、どうして簡単に出来ないのか。
あげた手を下ろし、またあげる。それの繰り返しだ。
その度に、履いたショートパンツを確認して、また同じ事の繰り返し。
別に許して貰おうと思って履いた訳じゃない。自分なりに、みっともない格好なのを改めただけだ。
日和ったな。という自分の中の声を無視して、僕はまた手をあげた。今度こそ・・・と
思ったが、それも何度繰り返した事か。
ゆっくりドアに折り曲げた指を近づけた時、不意にドアが動いた。
一瞬、ドアが開いたとは思わずに、超能力かなんかでドアを開けてしまったのかと、本気で
思ったほどだ。それだけ絶妙なタイミングだった。
瞬きするのも忘れて、僕はノックをしようと思った体勢のまま固まってしまった。
「・・・あ」
ドアの隙間から僕の事を確認した美樹ちゃんが、小さな声をあげた。
居る人によって、こうも部屋の匂いが違うのかと思わずには居られなかった。
甘くて柔らかい匂い。
美樹ちゃん自身が匂いに変わったら、こんな匂いになるんじゃないか。
そんな風にぼうっと考えていると、美樹ちゃんがトレイに湯気立つカップを二つ乗せて
やってきた。
言葉少な目に、僕を部屋に入れてくれた事も驚きだったが、なんとなく美樹ちゃんの顔を
見づらくて、まだろくに顔を合わせても居なかった。
「・・・・」
美樹ちゃんは、無言でテーブルに紅茶を二つ置いた。いい匂いが鼻をくすぐる。
「・・・ありがと」
我ながらぶっきらぼう過ぎると思えるほどの声で言ってから、カップに手をかけた。
「・・・・・」
美樹ちゃんが、僕の向かいに座って、同じ様にカップを取る。
しばらくの間、紅茶を飲む音だけが美樹ちゃんの部屋に響いた。このまま居ても、どうにも
ならないんじゃないかと思えるほどの時間が過ぎた後、不意に、
「あの・・・」
「え、あ、なに?」
僕は言葉を待っていたのかもしれない。慌てて返事をした。もうちょっと長く沈黙が続いたら
僕の方から何か言うつもりだっただけに。
「どうして部屋の前に居たんですか?」
「え・・・あ・・えと」
肝心の言葉が出てこなかった。仲直りしにきたようなそうでないような。よくよく考えれば
僕はなんで美樹ちゃんの部屋の前に居たんだろう。
「・・・・・・・」
「さっきから、わたしの方をあまり見てくれないですもんね・・・」
美樹ちゃんが、弱々しく苦笑しながら、うつむいた。僕は一瞬だけ、言葉の意味を理解
出来ずに居た。
「わたし、てっきり仲直りしに来てくれたのかな・・・って期待しちゃったんですけど、
そんな訳ないですよね・・・すぐ泣いちゃうような女の子なんて嫌いですよね・・」
「ちょ、ちょっと・・・・」
「いいんです。とにかく来てくれただけで。本当ならわたしが行こうと思ってたんですけど
…さん来てくれだたけで・・・・」
声は消えていきそうだった。
「待って、待ってよ。なんでそう勝手に話を進めるの、美樹ちゃんは」
「え・・・?」
「僕まだ何も言ってないよ。聞きもしないで話進めるの。訳わからないよ」
「でも、何も言ってくれないと、わたしだってなんだかわからないじゃないですか!」
美樹ちゃんの声に勢いが戻ってきた。
「わたしがどんな気持ちで居るかなんて、…さんにはわからないんだ」
「そりゃわからないよ。言ってくれなきゃ。黙ってればなんでも通じるなんて、そんなの
ある訳ないじゃないか」
僕はなるべく落ち着いた口調で言った。沸き上がる物をなんとか飲み込みながら。
「それは…さんも同じです! なんか話してくれなければ、不安に・・・なるんですから」
勢いが戻ってきたと思ったのも束の間、美樹ちゃんの声がどんどん細く小さくなっていく。
美樹ちゃんを飲み込んで消えていってしまうのではないかと思った程だ。
不意に思い出した。
僕がなぜここに居るのか。
僕はただ、美樹ちゃんの笑顔が見たかった。くだらない意地で消してしまった笑顔。本当に
消えるのは、くだらない意地の方だ。
「ちょっと待った」
「・・・?」
「まず、落ち着こう。ね。話はそれから」
言ってから、息を思いっきり吐いた。わだかまった気持ちと、ひねくれたもう一人の自分を
外に放り出すように。
それから息を吐いた時より長く吸い込んだ。微かな匂いに、気持ちがどんどん和んでいく。
今なら、なんのためらいも無く言える。邪魔する物は何も無い。
「ごめん。やっぱ僕が無神経だったよ。謝るのは僕の方だ。本当にごめん」
さっきまでの自分が嘘のようだ。悪いのは僕だけじゃない。そう思っていた自分は、
今僕の中には居ない。
「…さん・・・」
「美樹ちゃん悪くないよ。今度の事は全面的に僕が悪い」
「そんな! なんで…さんが全部悪いんですか!? わたしだって・・・ちょっと言い過ぎた
かな・・って・・・その・・」
「・・・・」
そうだ。とは言えなかったが、はっきりと、違う。とも言えなかった。
どちらを言うにしても、今この時には、相応しいとは思えなかったからだ。僕の意地が残って
いた訳じゃない。
美樹ちゃんを悪者にする気もないし、美樹ちゃんの気持ちを一蹴するつもりも無かった。ただ、
自分勝手にどんどんと悪者になっていこうとするのだけは、止めるつもりでいた。美樹ちゃんが
そういう風になるのは、わかりきっている。
「いいって。僕が無神経なのは確かなんだから。今度から気を遣うよ。やだろ、同居人が
無神経な奴だったら」
「あ・・・いえ・・」
「親しき仲にも礼儀ありだもんな」
親しい仲・・・なんだろか。と、言ってから思った。
ただの成り行きでの同居人だ。それまではお互いがお互いの事をまるで知らない同士。一緒に
住む羽目になったからと言って、即親しい仲だなんていうのは、おかしな話だ。
ただ、僕は・・・気づいている。この気持ちに。胸の中にある気持ちに。
さっきだってそうだ。美樹ちゃんの笑顔を思い出したら、その気持ちが僕を動かした。
美樹ちゃんに対しての気持ちなのに、美樹ちゃんに伝えられない気持ち。
「親しき仲・・・・」
美樹ちゃんの口の中で繰り返された言葉が、気持ちを乱した。親しいなんて、僕が思っている
だけの事かもしれないからだ。僕の事はただの同居人だと思われているかもしれない。だとしたら
僕の言葉なんか、ただの先走りだ。
「そうですよね。こういう事も大事ですもんね」
気のせいか、弾むような勢いが声に戻ってきた。これがどれだけ僕を安心させたか、美樹ちゃんは
知る由も無いだろう。当たり前だ。言わなければ伝わらないのだから。
「でも、たまになら・・・別にいいです。わたしの我が儘ばっかり通す訳にはいきませんから。
だって、一緒に住んでるんですから」
「いいよ。だって、美樹ちゃんイヤなんだから、わざわざ解っててする事もないし」
「確かにイヤですけど、言うほどイヤって訳でも・・・」
「え?」
「あ・・・えと、お父さん達と暮らしてた時、よくお父さんがそんな格好してて、お母さんに
色々言われてたんですよ・・・」
「そっか・・」
やはり、世の男の家庭内のユニフォームだ。
「美樹が居るんですからね・・・って、お父さん、よく怒られてました」
「親父さんも大変だよなぁ・・・」
「でも、今思えば、お母さん、お小言言うけど、みっとも無いからやめてなんて、一度も言った
事なかったかもしれません」
「・・・・」
「でも、わたしがお風呂上がりにバスタオル巻いたままうろうろしてた時は、みっとも無い
からやめてって良く言われてました」
美樹ちゃんは苦笑して、細い指で柔らかそうな頬を軽く掻いている。
僕は僕で、風呂上がりにバスタオル一枚姿でうろうろしている美樹ちゃんが頭に浮かんできて、
いらない高鳴りを覚えた。まあ、さすがに女の子だ。いくら同居慣れしているとはいえ、そんな
姿で僕の前をうろつくなんて事はしない。
「確かにね」と、僕は苦笑した。美樹ちゃんの親父さんだって、娘がそんなカッコでうろついて
いたら、困るに違いない。
「なんとなくだけど、お母さんの気持ちもわからなくないかなぁ・・・って」
「そっか・・・まあ、僕にはわからないけどね」
美樹ちゃん母娘に限らず、世の女性の気持ちなんか、さっぱりわからない。
「恥ずかしくないって言ったら嘘になっちゃうけど、わたし気にしない事にしたんです」
「な、なんかそう言われると、こっちが恥ずかしくなるんだけど」
「そうなんですか?」
不思議そうに美樹ちゃんが聞いてくる。
「そうだよ」
僕に女の子の心境がわからないのと同じで、美樹ちゃんにも男の気持ちはわからないのだろう。
世の男を代表する訳じゃないが・・・
「とにかく、あまり気にしないでください。いつもとおんなじ気持ちで居てくれた方が
わたしも・・・」
美樹ちゃんは、胸に手をやった。自分の気持ちを暖めるように。
「そうはいかないよ。出来るだけ気をつけるから」
「ほんとにいいんですってば」
「良くない」
「いいんです! …さんのわからずや」
そう言い合ってから、お互い「うー」と睨みあった。
美樹ちゃんのまなざしは、基本的には本気の色が濃い。でも、僕にはなんとなく見える。冗談
めいた物が。誰にでも見える物じゃないと思う事は、自惚れだろうか・・・
「美樹ちゃんって、頑固だよなぁ」
「違いますっ! それを言うなら…さんの方じゃないですか」
心外そうに、声が高くなった。
僕はそれを聞いて、おかしくて口元が緩んだ。
「・・・お互い様だよね」
「・・・・そうですねっ」
美樹ちゃんは、笑顔で答えた。
さっき僕が一番見たかった物が、今そこに在った。
いつものケンカと同じ結末。笑顔で締だ。これから先、どんな事でケンカになるか、
僕にはわからないけど、例えしても、最後には笑顔で居られたらいいと思う。
笑い合って一息ついた時、不意に美樹ちゃんが聞いてきた。
「なんだか・・・いいですね。こういう」
「ん? 何が?」
「あ、いえ・・なんだか、わたしたちって・・・同居人ってより、家族みたいって気が
する・・って思ってたんです」
一言一言に思いを乗せているかのように、区切り区切り言った内容は、僕も思っていた
事だった。しかし、思う事は美樹ちゃんとは違うかもしれない。最初は、妹が居たらこん
なだろうな・・・と思った時期もあったが、今は違う。兄妹ケンカというより、むしろ
犬も食わないあのケンカをしているような気がする。
「うーん、確かに。妹が居たらこんなだろなぁ」
古い気持ちの方を言葉にした。新しい気持ちを言葉になんて出来る筈もない。
「・・・そうですよね」
明るい返事に、ある意味僕は軽い失望を覚えた。兄妹・・・だよな。そりゃそうだ。
美樹ちゃんにとって、僕は出来の悪い兄貴みたいなもんだろう。
「あ・・・と、お茶、冷めちゃいましたね。また入れ直して来ます」
いきなり思いついたように、ポンと手を打ちならして、立ち上がった。
「なんかお夜食とか食べます? よかったらおにぎりかなんか作ってきますけど」
「あ、ほんとに? それじゃ、頼もうかな?」
「はい。わかりました」
冷めたお茶を乗せたトレイをもって、美樹ちゃんが部屋を出ていこうとした時、僕は声を
かけられた。
「なに?」
「・・・・いえ、なんでもないです」
何かを言いかけた美樹ちゃんが振り返ろうとした時、僕が逆に声をかけた。
「こないだの鮭が余ってる筈だから、それでいいよ」
「はい。それじゃちょっと待っててくださいね」
美樹ちゃんはうなずいてから、部屋を後にした。
もしかしたら、美樹ちゃんが聞きたがったのは、何がいいですか? って事だったんだろう。
今更聞かれる事じゃないが、油断していたら、夜食が朝食を兼ねる所だった。
「なんかやたらぎっしりだね。このおにぎり」
僕はおにぎりを食べた感想を言った。
大きさの割には、ずっしりと重く、噛みご耐えがある。かなりの力で握らないとこうはならない
だろう。
「ちょっと力が入っちゃって」
「ふうん・・・」
なんとなく、おにぎりに別の味が籠もっているような気がして、僕は首を傾げた。
仲直りの味にしては、どこか怒られているような・・・
まだケンカの最中ではないかと一瞬思ったが、美樹ちゃんは笑顔のままだった。
後書き
二人のケンカってのは、たまにこんな事があるんだろーなーって事で。
美樹ちゃんらしさが出てればいいなぁって感じでやったんですが、
どうも今ひとつ性格をつかめるよーなつかめないよーな感じになってしまう〜
もっと、変わっててでも一生懸命で、怒ったりスネたり、いろいろ忙しい
子じゃないかなぁって思うんですが、元のゲームに支配され過ぎてて
そこらへんも表現しきれない・・・ ぅぅ
っつーわけでヨタ文章にて(^^;
あ、そーそー、一回も推敲してないんで、おかしな部分あるかも。
逐一注意を払いながら書いてみるテストなんで、うまくいけば作業短縮
になり得る・・・といいですなぁ(笑
ヨタすぎる
作品情報
作者名 | じんざ |
---|---|
タイトル | ふたりぼっち |
サブタイトル | 男のスタイル |
タグ | ずっといっしょ, ずっといっしょ/ふたりぼっち, 石塚美樹, 青葉林檎 |
感想投稿数 | 154 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月10日 01時15分47秒 |
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