処分場からの汚水による汚染問題。
それが、今見ているTVで流れている特集番組の内容だった。
僕の部屋のTVの前には、僕の他に、美樹ちゃんが居る。
部屋着のまま、自分の部屋から持参したクッションを抱きしめながら
それを見ていた。
「こうやってどんどん地球が汚れていくんですよね」
廃水が流れ出る様を見て、美樹ちゃんが嘆いた。まるで、あと地球滅亡まで
何日とテロップが出てしまうんじゃないかと思える口調だ。
「確かに。こんな汚いの流れてる側の人はたまったもんじゃないだろうな」
「わたしだったら絶対に嫌です」
「いいと思う人は居ないよなぁ・・・なんか臭ってきそうだ」
画面に写った、いかにも有害物質大量含有してますと言った汚水を見ると、
胸がむかむかしてくる。
「地球なんてみんなの物なのに、どうしてみんな汚すんでしょうね」
美樹ちゃんが眉を寄せていた。
「人類に埋め込まれた、破滅のプログラムって奴かな」
「破滅のプログラム・・・ですか?」
「ああ、人類には、そういうプログラムが入ってるって事を聞いた事がある」
先日大森君に借りた漫画の影響で、思わず説明口調になる。大往生という文字が
額に入ったキャラの台詞だ。
もし漫画なら、ここで僕の顔の線は十倍くらいに増えていただろう。幸いにも
これは小説だ。顔の線を描かなくてもオーケーだから楽ちんだ。きっと作者もそう
思っているに違いない。
「どんどん上を目指すけど、それと引き換えに色んな物を失う事になるんだ。
欲望に歯止めが利かさない限り、自分の足元をどんどん削っていくんだ。気が
つけば、自分の立つ所が無くなって、自分も自滅しちゃうという訳さ」
「なんでもかんでも食い尽くしていっちゃうって事ですか?」
「そうそう。人間が食物連鎖のピラミッドの頂点に立っているなんて、思い
あがった台詞だよ。頂点は、下層部分の積み重ねで成り立ってるんだから」
僕は力説した。荒波が岩場に打ち寄せる日本海をバックに。BGMは美樹ちゃんの
歌う演歌だ。曲名は「日本列島荒波街道」だ。
こぶしが効いている。やっぱり日本の心は演歌だぜ。くぅ。
「あ、さんきゅ」
演歌を歌ってくれた美樹ちゃんに礼を言ってから。
「で、まあそういう訳だ」
「そうですか。確かにそうですよね。人間驕っちゃいけませんよね」
「ああ、おごりは良くない。金のある時でも極力奢らない事だ。油断してると
すぐに貧乏だ」
「わかりました」
美樹ちゃんが、従順な生徒のように返事をした。
これでもう先生の教える事は何も無い。
「まあ、今の地球を救えるのは、せいぜいドラえもんとウルトラセブン
くらいだな」
「情けないですよね。もっと人類ががんばる必要がありますね」
「そうそう。だから、家庭から出るゴミは減らす事から始めるといいかもね」
「それなら大丈夫です。包装紙は常に取ってあるし、お風呂の残り湯を洗濯に
使ってるし、コンビニに行っても、軽い買い物だったら、いちいち袋に入れて
もらったりしてないし、生ゴミは極力出さない料理を心がけてますから」
すっかり家庭人になっている。いい奥さんになれるだろう。
誰の奥さんかって? そんな恥ずかしい事聞くんじゃない。
「…さんは何かこころがけてますか?」
「ああ、もちろんだ。ゲームは一日三時間で、ちゃんと休憩は十五分取ってるぞ。
ジュースの空缶はちゃんと分別で捨ててるし、ペットボトルはつぶして捨ててる。
あれは不然物扱いなんだよ」
「ええ、知ってます」
美樹ちゃんは力強くうなずいた。
「とにかく、地球の平和は個人の一歩からだ」
「そうですね。地球が綺麗になれば平和にもなりますよね。これでまた一つ
賢くなったような気がします」
ピコピコっと、美樹ちゃんのインテリジェンスパラメーターが上がる音がした。
音からして、ファミコンの音源に違いない。
特番が終わり、続いてUFO特集が始まった。特番ばっかりな放送局だな。
「UFOは地球に来ているか!」と、でかでかとしたテロップを見て、僕と
美樹ちゃんは、
「来てるよなぁ」「来てますよね」
と、顔を見合わせて、「来て」の部分だけハモらせた。
丸井公園で良く見掛ける。毎週定時に出現しては、適当な曲芸飛行を披露して
去っていく。おひねりが飛びかう始末だ。いずれ座布団も飛ぶんじゃないかと思う。
「UFOなんてでたらめです。あれはプラズマです。ええ。プラズマですとも」
大学教授が力説していた。
「この世界はなんでもプラズマで出来ているんです。猫も杓子もみんなプラズマ
だ・・・君も私もみんなプラズマだ・・・うひひ」
そう叫んだ大学教授は、慌てて集まったスタッフ数人に、運ばれていった。
「ああ、勉強ばっかしてるから、あんな風になっちゃったんだな」
「気をつけないといけませんよね」
しばらくお待ちください。と画面に出てから、いきなりCMになった。
「・・・・やれやれ」
「・・・・ふぅ」
僕と美樹ちゃんは、二人して脱力のため息をついてから、
「それじゃ、わたしそろそろ部屋戻ります」
「そっか」
すると、不意に目の前が歪んだ。美樹ちゃんも歪んで見えた。
だんだんまぶしくなって、目を開けていられなくなる。
僕が消えていく。美樹ちゃんも消えていく・・・・
突然、すべてが消え去った。何もかも。


「あれ? TVつけっぱなしだ・・・」
僕が部屋に入ると、TVがついていた。ジュースのCMが流れている最中だ。
「美樹ちゃん、TVいじって・・・・ないよね」
後ろの立っていた美樹ちゃんに聞くと、美樹ちゃんはこくんと肯いた。
僕が美樹ちゃんの部屋に行く前に、確かにTVは消した筈だった。誰にも
いじれる筈が無い。
まるで、誰かが今までここで見ていたような気さえする。
「変だなぁ・・・壊れたかな?」
「リモコンが落ちた時に、なんかに当たって電源ボタン押しちゃったんじゃ
ないですか?」
美樹ちゃんが、床に落ちているリモコンを指差した。
「あ・・・うん、そうなのかな」
確かにその可能性も無くはない。ただ、僕はリモコンを落ちるような所に
置いた記憶は無い。ハナっからそこに置いてあった物だ。
美樹ちゃんを不安がらせる事もないと思って、僕は笑ってごまかした。
「さって、それじゃもうすぐ始まるから、視聴準備だ」
「はいっ」
と言っても、ベットの上を整えて、椅子代わりにするだけの話だ。
僕と美樹ちゃんは、並んでベットの上に座って、壁に背中をもたれかけさせた。
こうしてTVを見るなんて、僕にとっては不思議な感覚だった。女の子と同居して
いるだけでも普通じゃないのに・・・だ。
いつ、すべてが消えて無くなっても、不思議じゃないような気がした。

Fin

後書き

 適当にコメディでもやろうとおもったら変な話になってしまいました。
もっとキレなアカンですね(^^;
楽屋落ちはあまり好きじゃないんですが(笑

 ニャンマゲ


作品情報

作者名 じんざ
タイトルふたりぼっち
サブタイトル破滅のプログラム
タグずっといっしょ, ずっといっしょ/ふたりぼっち, 石塚美樹, 青葉林檎
感想投稿数155
感想投稿最終日時2019年04月11日 01時38分44秒

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