学生の短い休み。冬休み突入まで、もう間もなくという時期。
今年は、暖冬だと騒いでいたが、いざ蓋を開けてみると、そんな噂さえも
凍りついてしまうのではないかというくらい、厳しい冬がやってきていた。

 僕は、背中に視線を感じていた。
ニンジンを切っている時も、鍋の火加減を見ているときも、常に背中から
刺すような視線を感じる。
思い切って振り向くと、僕が振り向いた事がスイッチにでもなっているかのように、
美樹ちゃんがぱっと視線を逸らす。
数秒僕は固まってから、またキッチンに向き直ると、また背中に視線。
何度繰り返したかわからない。
「・・・・もうじき出来るよ」
僕は、背中越に美樹ちゃんに向けて言った。
「は、はい」
慌てた返事が返ってくる。
「随分お腹減ってるとか?」
「あ・・・いえ。違うんです」
「そっか・・・・・」
僕は、それっきり何も言わずに包丁で、野菜を切り続けた。


 食事中も、美樹ちゃんは視線を、僕の方に向けて固定させる事が多かった。
僕の方とはいっても、顔より下、腰より上…今はテーブルについているのだから
当然だが、とにかく視線が僕の方に向けられている事は確実だった。
箸を持つ手が時々止まるのは、そのせいだろう。
僕が意識を向けようとすると、美樹ちゃんは敏感にそれを察知して、瞬時に
視線を逸らして、止めていた箸を動かし始める。
さっきから味わっているこの感覚。
もしかしたら、絵のモデルというのは、こんな気持ちになっているのかもしれない。
「観察」されるという気持ちに。
「今日のこの肉ジャガ、とってもいい味ですね」
美樹ちゃんが、僕の心境を知ってか知らずか、にっこり笑って、熱々のジャガイモを
口に運んで、はふはふと冷ましながら食べた。本気で言っているようにも見えるし、
誤魔化したくて言っているようにも思える。
ただ、笑顔にぎこちなさを感じないだけ、本気で言ってくれている気はした。
「美樹ちゃんの教えてくれた通りにやっただけだよ」
僕の作れる料理の七割ほどは、美樹ちゃんから教えて貰った物だった。
その美樹ちゃんに言われれば、まんざらでもない気分だ。料理の味を誉められれば、
悪い気はしない。それでも手放しで喜べないのは、やはり美樹ちゃんの「観察」を
思わせる視線の事が、まだ心に引っかかっているせいだった。
「でも、駄目だなぁ。やっぱ僕には料理とか向いてないのかな」
「そんな事ないですよ。…さん、とっても飲み込み早いじゃないですか」
「そう言ってくれると嬉しいけどね。でも、やっぱり僕が自分で作る奴なんて
美樹ちゃんのには敵わないよ。これだって、僕のより美樹ちゃんのやつの方がいいしなぁ・・・」
「別に、お料理なんて、勝った負けたじゃないと思います。要は、なんの
為に作るかって事になると思うんです」
「なんの為に・・・か。また随分深い所に来たね」
「そうですよ。たとえば、美味しい物を食べたいとか、健康になりたいとかっていうのが
ありますよね。でも、わたしが一番いいと思うのは、やっぱり、誰かに食べさせたいって
いう気持ちがある料理だと思います。それが一番の基本じゃないかなぁ・・って。
良く言いますよね。料理は愛情って」
美樹ちゃんは、真顔で言った。照れくさそうに思える台詞でも、美樹ちゃんにとっては
真剣な事なのだろう。
「…さん、最近一生懸命に作ってますよね」
「い、いや・・・そこまで言われる程じゃないと思うけど」
確かに、一生懸命作っていないくもない。でも、自分じゃまだまだだと思っているし、
実際僕が作った物より、美樹ちゃんが作った物の方がうまい。同じ料理を比較対象に
しているから、ハッキリする。
ただ、言われて悪い気はしないのは、美樹ちゃんが一生懸命に言ってくれているのが解るからだ。
「まだまだ教えてもらわないとね」
「はい。わたしで良ければ」
美樹ちゃんは、にっこり笑って、胸に手を当てた。
「…さん、熱心ですよね」
「そんな訳じゃないんだけどね」
僕は、空いた手で、頬を掻いた。照れくさくてたまらない。
ただ、美樹ちゃんに甘えるのは、なるべくやめようとしているだけだ。
同居して、家事を分担するようになってから、最初のうちは、面倒で確かに手を抜いた事も
あったが、今じゃ違う。僕も僕なりにこだわりを持つようになったし、何より、今みたいに
美樹ちゃんが僕の料理をちゃんと食べてくれて、しかも、おいしいと言ってくれる。
もっともっとおいしいと言わせたいというのが僕の目標だ。
もしかしたら、これが、誰かの為に・・・って奴なのだろう。
暮らし始めた頃の手抜き料理が嘘のようだ。
「ほんと。家事って大変ですよね・・・」
美樹ちゃんが、しみじみと言った。美樹ちゃんには、似合わないように見えて、
実は、意外と似合う言葉だった。
「だよね。掃除洗濯料理・・・一人だったら、こんな綺麗になってないよ」
僕は部屋を見回した。整理整頓が染み付いた部屋だ。散らかってもすぐに片付
くのは、根本が整理されているからだ。それはここだけじゃなく、僕の部屋も
同じだった。美樹ちゃんの影響による所が多いのは、言うまでもない。
「あっ・・・・・」
不意に、美樹ちゃんが目を丸くした。何か、心の中で弾けたかのように。
「え? なに?」
「あ・・いえ、別に。なんでも無いです」
大袈裟に首を振った。髪とリボンがふわふわと揺れる。どう見ても、なんでも
無い訳がない振り方だった。しかし、それを聞いても美樹ちゃんは何にも答えて
はくれないだろう。こうだと思ったら頑として譲らない所があるのは、一緒に
暮らしてきて、わかった事の一つだ。
「そっか・・・・あ、そだ。美樹ちゃん、明後日なんか予定ある?」
さらっと流して、僕は話題を逸らした。答えてくれそうも無い以上、いつまでも
引きずっていい話題じゃない。
それに、待望の冬休み第一日目だ。せっかくだし、美樹ちゃんとどこかへ出
かけたい気持ちもあった。
「明後日ですか? 別に何もないですけど」
「んじゃさ、どっか行こうよ」
「ほんとですか?! いいですね。行きましょう!」
美樹ちゃんの表情が輝いた。
「それじゃ、オッケーって事で?」
「はい。あ・・・それで、どこへ行くんですか?」
半ば、勢いで変えた話題だ。予定はなかったせいもある。美樹ちゃんの素朴な
疑問が刺さった。まあ、もっともな質問ではあるが。
「美樹ちゃん、どっか行きたい所ある?」
「決まってないんですか?」
「いや、ごめん。実はその通り」
僕は笑って誤魔化した。悪びれていない、快活な笑顔という奴を目指して。
「丁度良かった。それじゃ、えっと・・・そうだ! 丸井ハンディに
行きませんか?」
「丸井ハンディ? 別にいいけど・・・もしかして、画材とか買うの?」
この町で、絵画手芸工作の類をやる人なら、まず知らない人は居ないという
大きなデパートだ。美樹ちゃんが行きたがるのもわかるし、僕も結構好きな
場所だった。しかし、町外れにあるせいか、よほどの事が無い限り、行く事も
あまり無いのが玉に傷だ。
「え、ええ・・・まあ、そんな所です」
「だったら、角井画材でいいんじゃない? 美樹ちゃんの行き付けだし」
丸井南交差点の角にある、小さな画材屋の事が頭に浮かんだ。家から近い
事もあって、美樹ちゃん御用達の画材屋だ。
「いえ・・・あそこでもいいんですけど、折角だから、もっと大きな所で
色々見て来ようかと思って」
「ふぅん・・・」
「駄目ですか?」
「いや、別にいいよ。どうせ予定も無いんだし、美樹ちゃんに付き合うよ」
「本当ですか!? ありがとうございます」
美樹ちゃんの目が、嬉しそうに細まった。
ぱぁっと輝くような笑顔は、いつ見ても、いい物だ。
「何言ってんの。予定なしに誘ったのは僕の方なんだから、遠慮しなくていいよ」
「あ・・・そうでしたね」
はっと気づいてから、くすっと笑みをこぼした。
ふと思った。
いつからだろう、こんな食事時間が楽しいと思えるようになったのは。
本当の一人暮らしだったら・・・・・
不意に美樹ちゃんの表情を見たら、そんな事を考えるを必要なんて無いですよ
と言われているような気がした。

 夕食が、胃の中でいい具合にこなれた時だった。美樹ちゃんがひょいと部屋の
ドアから顔を覗かせてきたのは。
「…さん、なにかアイロンかけるような物ありますか?」
「アイロン? いや、別に・・・」
「ワイシャツとかどうですか? わたし、これからかける所なんで、ついでに
かける物があったら、かけてあげますよ」
「あ、そう? それじゃ、ズボンとかいいかな・・・ちょっとシワっちゃって」
「いいですよ。じゃ、ついでにワイシャツとかにもかけちゃいましょうか」
「あ、いいよ。まだパリっとしてるし」
僕が言うと、美樹ちゃんは部屋に入ってきて、ワイシャツに手を伸ばした。
「駄目ですよ。ほら、ここがこんなにシワになっちゃって。これもかけて
あげます。身だしなみの基本は、こだわりからなんですからね」
そう言って、手早くハンガーからはずして抱え込んだ。言われるほど、シワに
なってなかったような気はしたが、そこはこだわり派の美樹ちゃんの事だ、
やるとなったら、とことんやらないと気が済まないのだろう。そう解釈した。
「そ、そう・・・」
「それじゃ、これ持っていきますね」
美樹ちゃんがワイシャツを抱えて持っていこうとするのを、僕は呼び止めた。
「あ、美樹ちゃん、ズボンは?」
「え? あ・・・・そうでした。忘れてました」
眉尻を下げながら、苦笑した美樹ちゃんは、ハンガーにかけてあったズボンも
抱えた。
部屋から出て行こうとした美樹ちゃんは、不意に立ち止まって振り返り、
「とりあえず、今日は特別ですよ。たまたまついでがあったからですよ」と、
言った。確かに、基本的には自分の事は自分でする・・が、僕達の間の不文律
だ。しかし、念を押されるほど、きつい物じゃなかった筈だ。昨日もバイトの
都合で家事当番を代わってくれた時も笑顔だったし、洗濯物もついでに洗って
くれる事も多くなった。今更アイロンがけ一つで、何か言うとも思えなかった
だけに、僕は少し呆気に取られた。
「う、うん・・ありがとう」
「あ・・でも、またかけてあげてもいいですけど」
「・・・・・・」
何か変だな。と思っているうちに、美樹ちゃんは、そそくさと部屋を出て行っ
てしまった。
一体、なんだったのだろう? それより、ワイシャツやズボンは、持って行った
というより、連れて行かれたような気がしてならなかった。


 程なくして、綺麗にアイロンがかけられて、折りたたまれた物が部屋に届け
られた。さすがのこだわりなのか、シワ一つ無い。このまま店頭販売しても
商品になりそうな気がするくらいだ。
適当にかけるような僕とは、やっぱり違う。
「ありがとう」
届けてくれた美樹ちゃんに礼を言うと、
「ワイシャツのサイズとか、きつくありませんよね?」と、聞いてきた。
「別にそんな事ないけど・・・なんで?」
「あ、ただなんとなくそんな気がしただけですけど・・・」
視線を僕から逸らして、呟くように言った後に、
「それならいいんです。それじゃ、おやすみなさい」
「あ、ああ・・」
答えると、美樹ちゃんはすぐに出ていった。
しばらく呆然としてから、ふと時計を見ると、まだ夜も早い時間だった。
今日日の学生が寝るには、早すぎる時間・・・だと思う。
おやすみ?
美樹ちゃん、こんなには早く寝ない筈だけど・・・
もう眠いのだろうか・・・などと思って、それ以上考えるのはやめた。
折りたたまれたワイシャツとズボンに、なんとなく顔を近づけてみると、
微かに柔らかい匂いがした。

 翌朝。
僕を起こしたのは、目覚し時計でも美樹ちゃんの声でもなく、他愛も無い、
記憶にも残らないような夢だった。あとは、この時期お約束の寒さのせいだ。
ううんと寝返りを打つと、布団の透間から冷たい空気が滑り込んでくる。何
より一番嫌な目覚しだ。悪夢の次に・・・だが。
ふと、目覚し時計の奴と目があった。長針と短針に目が合った僕は、数秒
固まった。短針の場所を最初に確かめて、頭の中で整理した。次に長針だ。
長針の奴が、こんな時間になっちゃってすいませんねぇと苦笑しているような
気がした。
「・・・・・・・・」
どういう事か、理解出来るまでに数秒かかった。
「うわぁっ!!」
僕は布団を跳ね飛ばして、バネ仕掛けの人形のように飛び起きた。


「美樹ちゃん、美樹ちゃん! 遅刻だよ!」
悠長にノックをしている暇はなかった。派手にドアを拳を作って叩いた。
普段なら開いている筈のドアが、今日は鍵がかかっていたせいだ。開いていた
ら、問答無用で飛び込んで、揺すり起こす所だ。
何回叩いただろう。
鍵が開く音がしたかと思ったら、すぐにドアが開いた。
「なんですかぁ・・・」
目をこすりながら、美樹ちゃんが、ドアの透間からこっちを見ていた。
不満そうな美樹ちゃんの表情。せっかくの綺麗な髪がボサボサだった。
「遅刻だよっ! 遅刻!!」
「・・・ちこく?」
なんの事かと言わんばかりに、呆然と呟いている。
「早く早く、今日は終業式だよ!」
美樹ちゃんの頭の中で、遅刻と終業式が結びついたのかもしれない。途端に
目をぱっちり開けて、その場で振り返った。壁掛け時計に目をやたったのだろう。
「きゃぁ! 遅刻よ遅刻!」
「だから、そう言って・・・・」
いきなりドアを閉じられたせいで、僕の言葉はそこで止まった。
な、なんだ?
「とにかく、今日は早く終わるから飯要らないよ。帰ってから食べる」
ドアの向こうに向かって、大きな声で言ってから、返事を待たずに
部屋に戻って、着替えを済ませた。
それにしても珍しい。遅刻するにしても、美樹ちゃんが僕より遅く起きる
なんて。
着替えた僕は、鞄を抱えて玄関へと急いだ。
美樹ちゃんを待たずに、僕は玄関のドアを開けた。
一緒に行かない。一緒に帰らない。それが、僕達の同居がバレない為の、約束
事の一つだった。
「美樹ちゃん、先に行くよ!」
「あ、はい!」
玄関から出て行こうとするのと、美樹ちゃんの部屋のドアが開いて、美樹
ちゃんが顔を覗かせて返事をしたのは、ほとんど同時だった。
驚いた。あんな寝乱れていた姿が、欠片も無い。
例え遅刻しようと、身だしなみは整えてから出る。なんて事を言っていたのを
思い出して、僕は苦笑した。

 終業式は、退屈の一言に尽きた。
僕は僕で、意識半分に席に座っていた。いつもの事だ。
退屈な時は、寝るに限る。
もしかしたら、今ごろ美樹ちゃんも寝ているかもしれない。
体育館に入る時に見た、一年生の居る辺りにみかけた、赤いリボンが、
こくりこくりと船を漕いでいるのを、夢心地の中で想像しながら、退屈な
終業式を過ごした。
これが終われば、待っているのは冬休みだ。
そう思っても、長い物は長い。
それがなんたら式という奴の特徴だろう。


「…君は、本当に良く寝るよね。知ってるかい? 一年のなんとかっていう
女の子と君は、この学校じゃ有名な睡魔なんだって」
教室で、僕の前の席に座った大森君が、サラっととんでもない事を言ってのけた。
「睡魔ってなんだそりゃ・・・」
僕は睡魔には良く連れていかれるが、自分が睡魔になった覚えはない。
「ところで、・・・一年のなんとかって子って?」
「僕も詳しい事は知らないけど、なんでも髪の長い子らしいよ。名前は知ら
ないんだ。よければ、今度調べておくよ」
「いいよ。名前知ったってしょうがないから」
気持ち良さそうに、机の上に突っ伏して寝ている美樹ちゃんの姿が浮かんだ。
もしかして・・・という予感があった。いや、むしろ確信に近いかもしれない。
「それもそうだよね。僕達には関係無いしね」
「まあ・・ね」
もしかしたら、関係が無くはないかもしれないが、それをこの場で大森君に
説いても仕方の無い事だ。
「そういえば、…君はどうするんだい? 冬休みになにか予定でも?」
「んー・・・特に無いかな。短い休みだしね。適当にぶらぶらしてたら
あっという間に終わってるかも。とりあえず、折角の休みだから、どっか
行きたいとは思うけどね」
そうは言った物の、実際は家の事もあるし、そうそうどこか遠出という訳にも
行かなかった。別に、美樹ちゃんを一人残して心配だとか、そういう訳じゃ
ないし、近くに居たいから、なんて思ってる訳でもない。
なんて言うのは、僕の本心かどうか、自分でも解らない。
そんな他愛も無い話をしていると、担任がやってきた。
嬉しそうに、表情が緩んでいる。
先生にとっても、うるさい高校生のおもりから開放される時期だ。嬉しそうな
顔をしている理由はそういう事なのかもしれない。

「林檎ちゃんが言ったんです。わたしと二年生のなんとかっていう男子は
有名な睡魔なんだって・・・」
美樹ちゃんが不満そうな顔をした。美樹ちゃんにこんな表情にさせられる
のは、林檎ちゃんくらいだろう。
「それは確かに、わたし、睡魔には良く負けますよ。でも、わたしが睡魔
なんてひどいと思いませんか?」
「確かに。ひどいよな・・・人の事睡魔扱いなんて」
僕は、チャーハンを食べる手を休めて憤慨した。
学校は午前中に終わり、まだ朝食抜きだった僕と美樹ちゃんは、早々に家に
帰ってご飯を食べている最中だ。。
今日の家事当番の美樹ちゃんが、手早く作ったチャーハンと、ちょっとした
サラダ、それに味噌汁が、今日の朝食と昼食を兼ねていた。
窓からは、学生の休日突入を祝ってくれているかのような、日の光が差し込ん
で来ている。しかし、外は冷たい風が吹きまいているのを知っている。こんな
日は、出かけるべきか否か迷う所だ。
「でも、二年生のなんとかっていう男子って、一体誰なんでしょうね? 林檎
ちゃんも詳しく知らないっていうんですけど・・・ …さん、知ってますか?」
「んー・・知らないな。睡魔呼ばわりされそうな奴なんて、居ないけどなぁ」
僕を除いては。とは言わなかった。
「まあいいじゃないか。寝る子は良く育つっていうし」
「わたし、子供じゃないです」
可愛らしい唇が、軽くへの字型になった。眉はハの字だ。
「それに、あんまり育たれても困るんですけど・・・」
「へ?」
蚊の泣くような声に、思わず反応した。言葉の内容まではわからなかったが、
ぼそっと言われる内容ほど気になる物だ。
「あ、い、いえ、べべべ別になんでもないです」
大慌て丸出しの言葉の次に、頬の血管の心配をしたくなるほど、美樹ちゃんの
顔が真っ赤になっていく。
「?」
「と、とにかく、わたしを子供扱いしないでくださいね!」
何を誤魔化しているのか知らないが、叱るような勢いで言われた。
きっと、何か僕の考え及ばない事が、美樹ちゃん・・・いや、女の子には
あるのだろう。
「わかってるよ。それに、美樹ちゃんが子供だなんて言ってないし、思っても
ないから」
「・・・ほんとうですか?」
本気で心配しているような瞳をしていた。もしかしたら、本心から心配して
いる事なのかもしれない。
「本当だよ」
真顔で答えた。嘘じゃなかったし、そんな事で気にさせる事もない。
そう思っての事だ。
僕の目を見ていた。まるで、目の奥の本気を探るように。
いつもと勝手が違った。僕がもしこんな事をすれば、先に目を逸らすのは
美樹ちゃんな筈だった。
直接心臓を見られているような気がして、気が落ち着かなくなるくらい、
鼓動が高鳴っていく。
「・・・ありがとうございます。…さん、冗談ばっかりだけど、本気の時
って、ちゃんと本気ですよね」
なんだか解らない事を言って、表情を輝かせた。
なんにしても、笑っているのならば、なんの問題も無いか。
僕は、残ったチャーハンを平らげてから、
「さってと・・・午後から何しようかな」
一息ついてから、話題をさりげなく変えた。
午後以降も、しばらくは、バイト以外は自由になる時間だ。気持ちが大きく
広がっていく。
「どっか行こうかな・・・美樹ちゃん、一緒にどう?」
「・・・・わたしは、部屋でちょっとする事がありますから」
僕が言ってから、答えるまでに、かなりの間があった。その間の意味は
僕にはわからない物なのだろう。
「そっか・・・」
「ごめんなさい。折角誘ってくれたのに」
「ああ、いいって。どうせ外をぶらぶらする程度だったし」
うつむいた美樹ちゃんが、心底残念そうにしていた様に見えて、僕は手を
振りながら言った。こんな姿を見たら、美樹ちゃんの気もちを勘ぐる気持ち
なんて出て来ない。
「でも、そういうのがいいんですよ。今度良かったら二人でそうしませんか?」
不意に、美樹ちゃんが顔を上げて表情を輝かせた。名案が浮かんだ時に、
電球が灯る様だと言うが、それが表情に出たのかもしれない。
「いいね。適当にでかけて、宛てもなくさ迷うって奴とかやろうよ」
「あ、それいいですね。今やってるのが終わったら・・・あっ!」
美樹ちゃんは、箸を持った手ごと、口を隠した。目が丸くなっている。
明らかに、自分の口が先走った事にびっくりしているようだった。
「・・・やってるって・・・なに?」
「な、なんでもないです。気にしないでください。全然なんでもないですから」
気にしないでという方が無理なくらい、慌てている。とはいえ、気にした
所で、美樹ちゃんは絶対に教えてはくれないだろう。こうと思ったら、一直線な子だ。
「大丈夫大丈夫、全然気にしてないから」
嘘だった。誰だろうと、気にしないでと念を押される程、余計気になるものだ。
ましてや、それが美樹ちゃんの事であれば、なおさらだ。
「それじゃ、また今度って事で」
僕は、自分の分の食器を片づけて、立ち上がった。
「・・・怒って・・・ません?」
不安げに聞いてくる美樹ちゃんに、怒ってないよと笑顔で答え、食器を流しに
持っていった。
自分の食器は自分で洗う。が、一応の不文律だが、同時に食べ終えた時は、
家事当番が優先される。もっとも、美樹ちゃんが僕より先に食べ終える事は
ほとんど無いと言っていい。たまに、美樹ちゃんが食べ終えるまで付き合って、
ついでに洗うという事はあるが、今はさっさと退散した方がいいような気がしていた。
しばらくの間、僕の食器を洗う音だけが、ダイニングに小さく響いた。
「それじゃ、後よろしく」
「あ、はい」
手早く片づけた僕は、タオルで手を拭きながら、部屋へ向かった。


 この壁の一枚向こうに美樹ちゃんが居る。そして、今何かをしている。
僕にはわからない何かだ。
何かわからない事を気にしてもしょうがないのは判っているが、気になる物は気になる。
「やれやれ」
ベットに座り、壁に背中をもたれかけさせながら呟いた。
別段、本気で気にしている訳でもなかった。ただ、どこか心の隅っこの方に、
指一本でぶら下がっている程度の事が気になるのがどうにも癪だった。どちら
かというと、満たされない好奇心が不満を漏らしている感じだ。
そうだ。別に他愛も無い事だ。どうでもいいじゃないか。知ったら、なんだ
そんな事で・・・と思う事なのかもしれない。
心の隅でかろうじて引っかかっている指を、僕は軽く蹴飛ばしてやった。
最後の引っ掛かりを外された物は、奈落の底へと落ちていく。
「さてと・・・出かけるかな」
気分転換の一番の方法だ。僕はジャンパーを羽織って、部屋を後にした。


「僕、ちょっと出てくるよ」
美樹ちゃんの部屋のドアをノックをしてから、ドアに向けて言うと、
「あ、はい。いってらっしゃい」と返ってきた。
いつもと同じ声。何事も無かったような声。
実際、こんな物なのかもしれない。
気にするだけ損だ。
そう思って、僕は部屋を後にして、玄関へ向かった。
靴を履いて準備万端の所で、家のドアを開けた。
家の中からは、暖かい空気が流れ出し、外からは冷たい風が流れ込んでくる。
一瞬、外に出るのをやめようかと思ったほどだ。
「うう、さみ」
折角家の中の暖かい空気も出たんだ。しばらくは僕も付き合うとするか。
僕が帰る頃には、夕飯の準備で暖かくなっている事だろう。
それを味わう為に、今のうち冷えておくのも悪くないかもしれない。
寒風吹きすさぶ町へ向かって、僕は一歩を踏み出した。

 ここの所、美樹ちゃんは部屋に篭りっきりだった。
丸井ハンディに行った時以来、家事当番以外の時は、ほとんどと言って
いいほど、部屋に篭っている。
普段も、別段今と変わらない状況なのだが、何か違和感があった。
「今日はバイトだから、ちょっと遅くなるよ」
何度、ドアに向かって話し掛ける事が続いただろう。以前ならば、何回に
一度は、ドアから顔くらいは覗かせてくれた物だが、ここ数日はそんな事すらない。
「はい、行ってらっしゃい」
今や、美樹ちゃんの分身と化したドアが、僕の話相手なのかもしれない。
「戸締まりもきちんとね。頼むよ」
「わかってます」
美樹ちゃんの返事を聞いてから、僕はアルバイトへと出かけた。


「なぁに、…君。その気の抜けた態度は」
背後から、からかうように、耳の奥に滑り込んでくる声がした。
声にも、味があるのかもしれない。
現に、今の声は脳に直接甘い。美樹ちゃんとは、まったく違った感じだ。
「あ・・・いえ、なんでも」
振り向くと、ショートカットの女の人が、子供っぽい笑顔を見せていた。どこ
か大人っぽいだけに、子供のような笑顔が似合う。そんな人だった。
僕より四つ上なだけでも、こうも違う物なのだろうか。美樹ちゃんにしてみれ
ば、五つ年上だ。美樹ちゃんもあと五年したら、こんな風になるのだろうか。
そんな事を考えていると、
「おい、景子。なんにも用が無いなら、帰って勉強でもしてろ。
大学は遊びに行く為に行ってる訳じゃないだろう」
店長が、煙立つパイプを手に、そう言った。
岩のような身体が、言葉に迫力を付け足している。
「なによ。ちゃんと勉強してるわ」
「だったら、用も無いのに店に居るんじゃない。忙しいんだからな」
「これで忙しかったら、掻き入れ時になったら、兄さんと…君なんて、過労で
倒れちゃうんじゃないかしら?」
奥のテーブルに、一、二人ほどの客だけの店内を見回しながら、皮肉たっぷ
りに言った。それでも、嫌味に感じないのは、景子さんの雰囲気のせいかもしれない。
「ふん・・・」
店長は、パイプを咥えて、そっぽを向いた。事実上景子さんの勝利だ。
「ところで…君。ほんとに浮かない顔してるわよ。お姉さんで良ければ、
なんでも相談に乗ってあげるから、正直に言っちゃいなさい」
景子さんの興味の矛先が、僕に向けられた。
「・・・・・」
「ははーん・・・その顔。女の子の事で悩んでる顔ね」
「え? わかるんですか?」
「あら、本当にそうなの?」
景子さんは、意外そうな表情で僕を見た。
だまされた。
「そういう事なら、女心を説いてあげるから、話ちゃいなさい」
「・・・・」
別に、本気で悩んでる訳じゃなかった。ただ、ここ数日のすれ違いが、
ちょっと気になっているだけの事だ。それを景子さんに言うべきかどうか、
迷ったが、女心を説くという言葉に少しばかりの興味を煽られて、僕は、
ここの所の事情を話した。もちろん、肝心な部分は伏せて。僕と美樹ちゃん
の同居。どういう経路でバレないとも限らないからだ。しかし、そのせいで
かなり脚色が入った話になった。
「・・・ふぅん。じゃあ、今その子とケンカしてるんだ」
「あ・・・いえ、ケンカしてるって訳じゃないんですけど・・・」
「だって、顔をあまり合わせてないんでしょう?」
「いや・・・まあ・・・そうですけど」
ケンカして顔を合わせていない訳じゃなかった。食事の時や、部屋以外の所で
会っている時は、ごく普通の僕達だ。笑い合って話したりもする。ケンカに関
しては、ここ最近、順調に生活しているせいか、とりあえずの衝突はない。無論、
いつ始まってもおかしくない可能性だけは、今回の事に限らず、いつでもある。
「つまり、会う時は普段通りだけど、会う機会があまり無くなったって事よね。
相手も、その機会を作ってこようとしない・・・と」
「ええ、まあそんな所です」
大まかな解釈においては、間違いじゃなかった。これなら話が合うかもしれない。
「ふぅん・・・」
景子さんは、顎に手を当てて、考えるように視線をさ迷わせていた。
「きっと、何か隠してるわね」
「あ、そうです。なんかそんな感じです。何か凄く熱心にやってるみたいです」
「やっぱり」
景子さんは、したり顔になって、唇の端を釣り上げた。
女の人にしかわからない、直感というのが本当にあるのだろうか。
「まあ、そうね・・・時期も時期だし、しょうがないんじゃない?」
「時期・・・ですか?」
僕の頭の中に、ぽっと閃いた文字があった。女の子の宿命の事だ。
「・・・でも、それって機嫌が悪くなるとかって聞きますけど?」
「?」
景子さんの表情はこう言っていた。何言ってるの? と。
「あ、いや・・・なんでもないです」
直感で勘違いだと判って、慌てて取り消そうとすると、景子さんが、何かを
納得したように、「ははぁ」と言ってから、小さく何度も肯いた。
「やあね。違うわよ」
景子さんは可笑しそうに笑った。僕の恥ずかしい勘違いに気づいても、笑い
飛ばしてくれるのが、景子さんだ。
「なんでそこでそういう発想になっちゃう訳?」
「え・・・だって・・・」
「…君って、見かけによらずエッチなのねぇ」
そう言ってくすくすとからかう様に笑ってから、
「でも・・・・ほんとに、わからないの?」
「わからないって・・・時期の事ですか?」
「そう」
「だから、なんですかその時期っていうのは?」
僕がじれて聞くと、景子さんが、はぁと深いため息を付いた。
「駄目ね・・・どうして、こんな鈍ちんさんと付き合おうって子が居るのかしら・・・」
「違います。付き合ってる訳じゃないですよ。それに、なんですかその鈍ちんってのは」
僕には、さっぱりわからなかった。女心を説いてくれる物と期待していたが、
今の景子さんも、かなり女心で喋っている。女の人に女心を説いて貰うのは、
どだい無理があるのかもしれない。
「気にしない気にしない。ま、わからないんじゃしょうがないわね。とりあえず、
時期が来れば自然にわかると思うわ。必ずそうだっていう責任は持てないけどね」
「いいです。景子さんに相談した僕が馬鹿でした」
謎かけみたいな問答はたくさんだった。
それでなくても、美樹ちゃんの行動には、謎が多いのに。
「あら、怒ってるの? ふふっ」
「ちぇ・・・」
僕じゃ、景子さんには勝てそうもない。僕の事など、徹底的に子供扱いだ。
「良ければ、今度男心っていうのを説いてあげますよ」
「遠慮しておくわ。それに、その言葉は、女心が判る男になってから言う物よ」
僕に一つウィンクを投げかけてから、
「それじゃ兄さん。あたし帰るわ」
「ああ」
「それじゃねー」
また子供の様な笑顔を見せて、店を出ていった。
景子さんって、自由な風って気がする女の人だな。
景子さんの背中を見送った店長が、ぽつりと呟いた。
「俺達男はな。永久に女心なんてわからないのさ」
「そうかもしれませんね・・・」
店長の言葉に納得して、景子さんが出ていったドアをずっと見つめていた。
女の子は、いつでもドアの向こうに居る物なのかもしれない。
そう思いながら。

 バイト帰りの道は、冷たい風が吹き抜けていった。
「そっか・・・もうクリスマスか・・・」
街には、赤と緑のクリスマスカラーが溢れていた。木々にはイル
ミネーションの実が成っている。夜になれば一斉に光り出す魔法の実だ。
クリスマス・・・・か。
ただのお祭り騒ぎだと、去年までは思っていた。クリスマスの夜、浮かれ
きっている世の中を、TVの向こうに見ながら過ごすのが、今までのやりかた
だった。高校一年生の過ごし方としては、そんなに珍しい物でもない。まだ
彼女がどうのとか言うにも早い時期でもあったし、外へ飲みに行こうなどと
言える歳でもない。しかし、今年は様子が違った。まず、親元じゃないという
事。そして、一番違うのは、美樹ちゃんが家に居るという事だ。家族以外の他人、
しかも、女の子が常に居る状態。それがどれほど不思議な事か。しかも、それ
が望んで始まった物でなければ、なおさらだ。
今は、望んでいる。美樹ちゃんとの生活が続く事を。
不意に、美樹ちゃんの笑顔が見たくなって、僕は足を速めた。


 ただいまー」
ドアを開けると、迎えてくれたのは、暖かい空気だった。
「あ、おかえりなさい」
美樹ちゃんが、ひょいと奥から顔を覗かせながら言った。
玄関から続く短い廊下の奥に、キッチンとダイニングテーブルがある。玄関からは
見えないが、今の美樹ちゃんみたいに、ひょいと顔を覗かせれば、玄関を伺う事が出来る。
僕は、胸の奥で、美樹ちゃんの言葉を噛み締めていた。
くすぐったくて、どこか心地いい。
誰の為でもない、僕の為の言葉だからだ。
テーブルの所まで行くと、美樹ちゃんの前に置いてあるカップから、湯気と
いい匂いが立っていた。紅茶の匂いだ。僕がバイト先の紅玉館で店長から分けて
もらった紅茶から煎れた物なのは匂いでわかった。
「どうしたの? こんなとこで」
「ちょっと息抜きです」
美樹ちゃんは、カップで両手を暖めるようにしながら、微笑んだ。てっきり
部屋に居る物だと思っていた僕には、嬉しい誤算だった。
「…さんもお茶飲みませんか?」
「ああ、いいね」
「それじゃ、ちょっと待っててくださいね。今いれますから」
「あ、それじゃ、ちょっと着替えてくるよ」
僕は部屋に急ぎ足で駆け込んだ。早くしないと、美樹ちゃんが居なくなって
しまいそうな気がしたからだ。


「もうじきクリスマスですよね」
「ああ、確かに」
僕は、紅茶を飲んで一息入れてから、答えた。
葉っぱのせいか、それとも煎れかたがうまいのか、外から冷えて帰った身体に
染み込むようだ。掛け値なしにうまい。
「・・・・あ、あの・・・ …さん。ちょっと聞いていいですか?」
「ん? なに?」
「あの・・・・・クリスマスなんですけど、もう予定・・・入ってます?」
美樹ちゃんは、恐る恐る手探りでもする様な声で聞いてきた。
「え・・あ、いや、別に」
僕が答えると、美樹ちゃんの表情が、ぱっと輝いた。しかし、すぐに太陽が
雲に隠れたかのように、表情が曇る。。
「これから予定が入る予定とかはないんですか?」
「いや、全然。今年も去年と同じかな。気がつけばクリスマスなんて終わってた
コースって奴だよ。・・・・多分」
多分・・・百パーセントじゃない事だ。去年と同じクリスマス。過ごすつもりは無い・・・
が、このまま一人ならば、去年と同じ事なるのは目にみえている。
「そうですか・・・」
しばらくの沈黙の後、
「もし良かったら・・・良かったらでいいんですけど、どこかへお出かけしませんか?」
沈黙の溜めがあったせいだろうか。美樹ちゃんが、僕の目をじっと見てきた
視線に、迫力みたいな物を感じた。僕は、それよりも美樹ちゃんの柔らかそう
な頬に目が行っていた。紅茶を飲んでいたせいなのか、ほんのりと染まっている
頬は、僕の鼓動を必要以上に高鳴らせる。
「僕でいいの?」
咄嗟に聞いてしまった。言った瞬間、何を聞いたのかと思った。
美樹ちゃんは、小さく肯いた。
ここ数日、どこか引っかかっていた物が、一気に溶けてなくなっていくのを感じた。
正直、笑顔を見せてくれていても、どこか避けられているんじゃ無いかと思った事も
あるくらいだ。小雨を降らし続ける空の雲間に、光が差したような気持ちだ。
「いいよ。じゃ、どっか出かけようか?」
僕の心は、すでにクリスマスの夜へ飛んでいた。なんて台詞、以前ならば
他人事で、しかも陳腐だなんて思ったかもしれない。
女の子とクリスマスを過ごすなんて、頬でも抓りたい心境だ。
「本当ですか?」
「うん、本当だよ」
「良かった・・・もうてっきり予定が入ってるんじゃないかって心配しちゃって・・
・断られるんじゃないかって・・」
まるで、重たい荷物でも下ろしたような、そんな笑顔に見えた。
僕の為に・・・なんて、己惚れすぎだろうか。
でも、もし・・・もしそう思ってくれているのなら・・・
「でも、美樹ちゃんは予定は無かったの?」
「あ・・・はい。いつもなら、林檎ちゃん達とパーティーやるんだけど、
今年は駄目だって・・・予定があるからって」
「そっか」
つまりは、僕は間に合わせ・・・という事になるのだろうか。
「あ、でも誤解しないでください。…さんを誘ったのはしょうがないとか
そういうんじゃ無いですから!」
僕の心でも読んだかのように、美樹ちゃんが慌てながら言った。
「いいよ。一人で過ごすよりはマシだしね」
「違いますっ。違うんです!」
「み、美樹ちゃん?」
「あのその・・・・・・もう、林檎ちゃんったら・・・」
語尾は、僕にはほとんど聞こえなかった。林檎ちゃんが、何か関係してるのだろうか?
「とにかく、今年は…さんと過ごすって、決めたんです!」
「むきにならなくたって、別に気にしてないから大丈夫だよ」
僕は笑いながら答えた。林檎ちゃんと何があったのか知らないが、たかが僕と
クリスマスを過ごす事で、一生懸命になってるのを見れば、気にしてもしょうが
ない気分になる。本気じゃない事に、一生懸命を使う子じゃないのはわかっている。
「でも・・・やっぱり気にしてません?」
上目づかいで、不安そうに僕を見ている美樹ちゃんの瞳を見ていたら、不意に
僕の中に悪戯心がむくむくと沸き上がってきた。
「その、やっぱりってのはなに。嫌なら別にいいよ」
「え、そんな・・・」
「僕だって、間に合わせでクリスマス過ごして貰うほど、暇じゃないし」
「え・・・あ・・・」
美樹ちゃんの表情が、凍り付いたみたいに、固まっていくのが判った。冗談とは
いえ、一気に絶望へ突き落としすぎたかもしれない。
「う、嘘。嘘だよ。ごめん、言い過ぎた。冗談だってば」
「・・・・・」
「あんまり気にしてる風だったから、ちょっとからかってみたくなっただけだよ」
「・・・本当・・・ですか?」
つつけば、今にも泣いてしまうんじゃないかと思う様な表情で、僕の方をじっと見てきた。
「本当だよ」
僕は、本気を示す為に、美樹ちゃんの目をじいっと見つめ返した。
瞬きを我慢しきれなくなった頃に、先に美樹ちゃんの表情がほぐれた。
「ほんとの事言うと、林檎ちゃん達との約束よりも先に決めてたんです」
「・・・え? そうなの?」
そう言うと、美樹ちゃんがこくんと小さく肯いた。同時に、頬に火が入った
みたいに赤くなっていくのが見てとれた。
「だから、本当に気にしないでくださいね」
「わかってるよ。わかってるから美樹ちゃんこそ気にしない。いいね?」
「・・・はいっ」
「それじゃ、クリスマス、何か食いにでも行こ。それでいいよね」
「そうですね。そうしましょう!」
美樹ちゃんに笑顔が戻った。目を細めて微笑んで、嬉しそうに見える。
とりあえず、まだ高校生という立場だ。洒落たレストランで素敵なディナー
なんてのは望めないにしても、二人ならば、どこへ行っても十分な気がした。
「楽しみですね。こんな楽しみなクリスマス、初めてです」
美樹ちゃんは笑った。子供みたいな笑顔だった。景子さんとは違った、本当に
子供っぽい笑顔だ。こんな笑顔が見られるなら、僕の方から、もっと早く誘えば
良かったと思える程に。
楽しみなクリスマス・・・僕にとっても、気持ちは同じだ。
「あ・・・と。それじゃわたし、そろそろ・・・」
「ん? どうしたの?」
「あ、はい・・もう寝ようと思って」
「寝る・・・って、今から?」
まだ、高校生が寝るには圧倒的に早すぎる時間だった。今日日の小学生でも、
こんな早くは寝ないだろうという時間だ。
「寝るって言っても、仮眠ですけど」
仮眠という言葉が引っかかったが、僕の心はクリスマスの事で、勢いづいて
いたせいもあったかもしれない。小さい事と聞き流した。
「そっか。それじゃ、僕は適当に本でも読んでるとするかな」
「じゃあ、まだ紅茶出ますから、ポットに入れておきますね。部屋で飲んでください」
「ありがと」
僕の返事に、美樹ちゃんはにこっと笑っただけだった。


 クリスマス。
といえば、やっぱり付き物なのが、プレゼント。
昔は、サンタクロースなんてのを、ちょっとでも信じていた時代もあったが、
両親の仕業とわかった頃には、そんな夢見る気分はとっくに無くなっていた。
「プレゼントか・・・やっぱりあげないと駄目かな」
心の中だけに置いておけなくて、口に出してみた。当たり前だが、誰も聞いて
くれる人は居ない。
クリスマスプレゼントを、特定の女の子に上げるなんて事は、今まで一度も
したことが無い。だから、何をあげたらいいかなんて事は、少し想像し難い事
だった。小中学のプレゼント交換みたいな訳にはいかない。
花、ネックレス、イヤリング、指輪、ケーキ・・・・など、ありとあらゆる
定番が頭に浮かんでくるが、今一つピンと来ない。こうして考えているだけじゃ、
いつまで経っても変わりはしないのはわかっている。
明日、景子さんにでも相談してみるかな。それとも、美樹ちゃんに欲しい物を
直接・・・いや、駄目だ。やっぱり、自分一人で全部やろう。美樹ちゃんに直接
聞くなんて出来っこないし、それじゃプレゼントとしての意味がない。
僕は、明日のバイトの帰りにでも、プレゼントになりそうな物が売ってそうな
店を回ろうと決意して、読みかけの本に手をかけた。しかし、本の内容が殆ど
頭には入ってこなかった。
結局は考えていた。どんな物がいいのかと。
そんな事を考えている頭に、本の中身を押し込むのは、無理という物だった。

 十二月二十四日。
クリスマスイヴ当日。決してイヴであって、クリスマス当日じゃない。それなのに浮かれて
いるのが、おかしな所でもあったが、僕にはそんな事はどうでも良かった。
僕のバイト終了後、午後六時に、丸井ステーションというデパートの入り口
前の大きなツリーの下で待ち合わせ。それが美樹ちゃんとの約束だった。
「もうこんな時期なんだなぁ」
店長が、コーヒーをカップに注ぎながら言った。
「そうですね。ついこないだ正月だと思ったら、いつのまにか年末ですもんね」
「まったくだ。一年ってのは早いな」
店長のしみじみとした声を聞くと、改めて今が年末だと実感出来た。
一年・・・・僕にとっては、波乱と言っていいほどの一年だった。
年始めは、まだ両親との生活だったが、四月になって、衝撃とも言える程の
出会いをした。こんな事があるなんて、想像さえもしなかった事だ。
美樹ちゃんとの出会い。そして同居生活がそれだ。
いろんな事があった。
ケンカもしたし、笑い合ったりもした。その度に、僕達の距離が近づいて
いるような気がしていた。
そして気が付いてみれば、もう年末。
今年ほど、一年が長いようで短い年になったのは、生まれて初めてだった。
「…、お前、今日は予定はあるのか?」
店長が、パイプを口から放しならが聞いきた。
「え? あ・・・はい」
「なんだ。待ち合わせか?」
「ええ」
僕は時計をチラリと見た。まだ時間はある。
「そうか・・・で、何時に待ち合わせだ?」
「六時に、丸井ステーションです」
「なんだ。意外に早いんだな」
店長はそう言って、パイプの中の吸いカスを、灰皿の中に捨てた。サングラスの
せいで、店長の表情が掴みにくい。
笑っているのか、それとも無関心なのか…
待ち合わせ相手の性別を聞いて来ないのは、もうとっくに見抜かれているせいだろうか。
「だったら、もう上がっていいぞ」
「え? だって、まだ時間が・・・・」
改めて時計を見直した。どう見ても上がりの時間にはまだ遠い。
「待ち合わせ時間にぴったり行けばいいなんて思ってるんじゃあるまいな?」
「いや、そうじゃないですけど、とりあえずプレゼントを探しがてら、
ちょっと早めに間に合えばいいかなって感じです」
情けない話だが、プレゼントはまだ決まっては居なかった。あれやこれやと
悩んだ挙げ句、結局今日になったという訳だ。
僕がそう言うと、店長がはぁと息を吐いて、
「景子の言葉じゃないが、もっと女心を理解した方がいいぞ。待ち合わせの
時間より前に行って、待ってやるくらいじゃないとな」
「・・・」
案の定、店長には見抜かれていた。待ち合わせ相手が女の子だと。
まあ、プレゼント云々と言えば、普通は女の子相手だ。
「勘違いするなよ。待たせないなんてのは心遣いの問題だ。相手が女の子だろうと
なんだろうと、人を待たせるような奴は、心を考える資格もない子供って事だ」
「・・・・店長」
確かに言われてみれば、その通りかもしれない。待つ時の不安さは、自分
でも良く分かっている。それを相手にさせない事が、気遣いという事なのだ
ろう。それが出来ないうちは、男心女心と言っている場合じゃ無いのかもしれない。
「だからって、完璧に行動しろなんて言わん。まあ、要は誠意だ」
店長が笑った。口だけが、ニカっと広がったから、多分笑ったんだろう。
「という訳だ。さっさと上がって、とっとと待ち合わせの場所に行け」
「・・・はい!」
「ああ、それとな」
店長はそう言って、カウンターの裏の棚の辺りをごそごそとやりだした。
「ほれ、これを持ってけ」
僕の前に差し出されたのは、ビデオのリモコン程の大きさの、細長い木の箱
だった。箱だけでも、随分格調高そうな物だった。
「なんですか、これ?」
「まあ、開けてみろや」
僕は、店長の言われるまま、箱の蓋を開けた。
中に入っていたのは、ペンダントだった。
黒い艶のある紐に、親指の爪より少し大きいくらいの、銀色の、星を象った
レリーフが付いていた。星の中央には、蛍の灯でも閉じ込めた様な、綺麗で
小さな石がはめられている物だった。首にかけても、きっと控え目すぎて、
目立ちはしないかもしれない。でも、不思議と僕の心にピンと来た。今まで
ぼんやりとしか形になってなかったイメージが固まった。「これだ!」と
思った程だ。
「店長・・・これ・・」
「どうだ。なかなかいい物だろう? うちの常連の客に装飾品の店をやってる奴がいてな。
そいつが、彼女にでもやってくれってとか言って、置いていった物だ」
「でも、そんなのを僕に?」
「ああ、いいんだ。どうせ今の所そんな相手も居ないしな。それに、お前は今年は
良く頑張ってくれた。だから、お礼代わりって事だ。気に入ったのなら持っていけ。」
「店長・・・」
「そういう事だ、さっさと上がって、早く行ってやれ」
「・・・はいっ!」
僕は、店長に一礼して、エプロンを脱いで、きっちりと畳み、カウンター奥の棚に仕舞った。
雰囲気重視の店だ、みっとも無い事は出来ない。
それは美樹ちゃんの居る家でも、同じ事だった。
「それじゃ、店長」
「ああ、ご苦労さん。今年は本当に助かったよ。ありがとう」
「いえ・・・僕の方こそ。ありがとうございました」
「また来年もよろしくな。親父さんと話す事があったら、よろしく伝えてくれ」
「はい。わかりました」
僕の心は、すでに待ち合わせの場所に先に行っているのかもしれない。まさに
心ここに在らずだ。
「あまり浮かれ過ぎるなよ」
そう言って、店長は笑った。
「はは・・・」
心の中を見抜かれたような気がして、僕は苦笑して頭を掻いた。
店を出ると、すでに夜は降りていた。

 待ち合わせの時間には、ゆっくり歩いて到着しても、二十分ほどの余裕が
ある筈だった。まだ美樹ちゃんは来ていないだろう。そう思っていた。
「ん?」
僕が、待ち合わせの見える場所にまで来ると、すでにイルミネーションで
輝いているツリーの木の下に、誰かが一人立っているのが見えた。遠目
にも判るほど、まるで猫の耳のように飛び出た赤いリボンが目立っている。
まさか・・・美樹ちゃん?
僕は早足で近づいた。店長から貰ったペンダントの箱を入れた包みを、ジャン
パーのポケットの中で握り締めながら。
近づくと、人影は確かに美樹ちゃんだった。まだ僕には気づいていない
らしく、後ろ手を組みながら、ツリーの前を通る人たちを追うように眺めては、
時折、ツリーの前に建っている、時計付きのモニュメントを見あげていた。
深い紫色のシャツは、夜の闇に溶け込んで綺麗に見えたし、羽織った
ジャケットと、胸の下あたりの胴部分から、脛のあたりまで繋がったロング
スカートは、共にクリスマスに相応しい色、赤だった。
風が吹いたら、イルミネーションの光を受けて輝く髪と、赤いロングスカート
は、綺麗になびくかもしれない。
僕は、そんな美樹ちゃんに見とれていた。
今、ツリーの下に居る女の子と、本当に同居しているなんて、信じられなくて
頬でも抓りたい気分だった。もしかしたら、抓っても痛くは無いかもしれない。
そうしたら、僕はこのままずっと夢の中に居てもいいとさえ思った。
どれくらい見つめてただろう。ふっと我に返ってから頭を軽く振って、僕は
美樹ちゃんに近づいた。こんな日で無ければ、悪戯心も沸いただろう。背後から
ゆっくりと近づいて、驚かしたかもしれない。しかし、今はそんな気分には
なれなかった。僕より早く来て待っている。それだけで、今の寒さが気に
ならなくなるほど、胸の奥が暖かくなる思いだ。
僕が近づいたのを、美樹ちゃんが見つけたのか、あっというような顔をして、
小走りに駆けてきた。
「ごめん遅くなって」
駆けてきた美樹ちゃんに、そう言った。
言ってからハッとなって、頬を掻いた。
そうだ。約束の時間まで、まだ二十分はある。
「そんな事無いです。わたしが早く来すぎたんですから」
美樹ちゃんは、そう言って、ただ微笑んだ。
クリスマスの空気のせいなのだろうか。僕の知らない女の子みたいに見えた。
可愛くて、何事にも一生懸命で、内気だけど頑固な所がある、どこにでも
居そうで居ない、僕だけが知っている美樹ちゃん。
今、僕の目の前に居るのは、その美樹ちゃんな筈だ。
「・・・どうしたんですか?」
「え? あ、いや・・・別に」
声が上ずった。
一度、喉直しに咳をしてから、
「どれくらい待ってたの?」
「ん・・・と、五分くらい・・・だと思います」
僕は、店長に心の中で感謝した。
いくら、美樹ちゃんの方が勝手に早く来て待っていたとはいえ、この寒空の
下に、三十分近く一人で待たせなくて済んだのだから。
「こんなに早く来なくても良かったのに」
「ちょっと街を見てから、ゆっくり来ようと思ったんですけど、着いてみたら
全然早すぎちゃって・・」
何か恥ずかしい事をしたと思っているのだろうか。照れくさそうに、僕から
目を逸らしてから、何かを思いついたのか、すぐに僕の方に視線を戻した。
僕は、美樹ちゃんの瞳の中に、ツリーのイルミネーションが映り込んでいる
のを見た。キラキラと綺麗な星のようだった。
今、空に星が無い代わりなのかもしれない。
「…さんこそ、まだ約束の時間まで随分あるのに・・・どうして?」
「い、いや、バイトが早く上がったから、僕もぶらぶらしながらね」
束の間、僕と美樹ちゃんの役所が入れ替わったのかもしれない。僕は美樹
ちゃんから目を逸らして、鼻の頭を掻いた。
「と、とりあえず、こんな所じゃなんだから、歩こう」
「あ・・・は、はい」
よくよく回りを見れば、誰も立ち止まっている奴は居ない。
街の間を流れる水の様だ。
僕は、その流れの中に一歩足を踏み入れた。美樹ちゃんと一緒に。

「おいしかったですね。あの中華料理屋さん」
美樹ちゃんの声が、白く変わって、夜空へと溶けていった。
「いやぁ・・あの豚の角煮、最高だったなぁ」
口の中でとろりと溶けるような味が、舌の記憶にしっかり残っていた。
今、僕達は、街の喧騒から少し離れた路地を歩いていた。まるで、世間が
クリスマスで浮かれているのが嘘の様な静けさだ。
僕達の靴音だけが、妙に響いた。
「でも、あれだな・・・ちょっと悪かったかな。折角のクリスマスなのに、
中華料理屋なんて・・・」
クリスマスの混雑の中、中華料理屋にしようと決めた時、お互いの合意が
あったのだが、今になって、失敗したかなと思えてならなかった。僕は美樹
ちゃんと一緒だったし、それにどこでも良かったが、問題は美樹ちゃんだ。
さすがに僕と同じ気持ちで居るなんて思えなかった。
クリスマスに相応しい所に行きたいと思っていたかもしれない。
「わたしは・・・別に気にしてないです。それに、二人で決めた事ですよ」
「それはそうだけど・・・」
「それに、クリスマスは、今日だけじゃないんですから」
僕は、はっとさせられた。目から鱗が落ちるというほど、大袈裟で無いにして
も、限りなく近い。
クリスマス、今日だけかと思っていた。
「来年も、こんな風に出来たらいいですね・・・」
「・・・・」
来年。
部屋の契約解除が出来るのが、来年の四月だ。それ以降、もしかしたら、美樹
ちゃんは、部屋を引き払ってしまうかもしれない。そうなったら、今年と同じ
クリスマスは迎えられるだろうか。
ふと、胸の奥が、絞られるように痛んだ。
終わる? 今の生活が?
離れる? 美樹ちゃんと?
「なあ、美樹ちゃん」
「はい? なんですか?」
「・・・・あ、やっぱいいや。ごめん」
僕は、無理矢理笑って、手を振った誤魔化した。
本当は聞こうと思っていた。来年まで・・・今住んでいる所の、契約期限が
過ぎたらどうするのか・・・と。
暮らしはじめた当初。まだ暮らしのスタイルが噛み合っていない頃、美樹ちゃん
は、心底出て行きたがっていた物だ。僕も僕で、窮屈さを感じていたせいで、
いつ美樹ちゃんが本当に出ていっても、一向に構わないと思っていた。
いつからだろう。美樹ちゃんが出て行きたがっていたのが、嘘のように思えて
きたのは。この暮らしがずっと続けばいいと思い始めたのは。
「?」
僕の意図など知らずに、不思議そうな顔をする美樹ちゃんを見ていたら、頭の
中に閃く物があった。
「あ・・・と、そうだ。ちょっと待って」
僕は立ち止まって、ポケットの中の物に手をやった。
なんとなく、渡すきっかけが掴めなかったプレゼントだ。
切り札という訳じゃなかったが、結果的にそうなった。最後に出てきた物だか
ら、結局切り札なのかもしれない。
「これ・・・あげるよ」
僕は、美樹ちゃんに、箱を差し出した。待ち合わせに行く途中に、綺麗な光沢の
緑色の袋に入れて、赤いリボンで口元を結んである物だった。
「もっと早く渡そうと思ったんだけど・・・」
プレゼント。という言葉がなかなか出て来なかった。
「え・・・わたしに・・・ですか?」
「うん」
僕が肯くと、美樹ちゃんがゆっくりと手を伸ばしてきた。その手が触れる前に、
僕は先に手の上に置くようにして渡した。
「・・・・・・」
「べ、別にたいした物じゃないけど・・・」
照れくさかった。これ以上ないくらい。今、自分がどんな顔をしているのか
不安になるほどだ。
「開けて・・・いいですか?」
「え? ここで・・・」
そう言うと、美樹ちゃんが肯いた。
「すいません。ちょっとこれを持ってくれませんか?」
美樹ちゃんが、僕に、待ち合わせの時からずっと持っていた紙袋を差し出して
来た。今の今まで、なんだろうと気になっていた物だ。紙袋にしては、少し大き目
の物だ。口を閉じられるタイプの紙袋だから、中身を見る事は出来ない。
最初の方は、もしかして僕へのプレゼント・・・なんて思っていたが、それに
しては紙袋が大きかったし、今、僕にこうして預けている。プレゼントだったら、
こんな扱いはしないだろう。
「いいよ」
美樹ちゃんから、紙袋を受け取った。紙袋の見かけより、全然軽い。しかし、
今は何が入っているんだろうという事より、袋のリボンを解いて、中身を
取り出そうとしている美樹ちゃんの方が気になった。
美樹ちゃんの表情は、無表情だった。
箱を開けても・・だ。
まるで、時間でも止まったようだった。
表情の変化を想像していた僕にとっては、正直、拍子抜けだった。
てっきり、だんだん笑顔になっていくと思っていた。
「趣味じゃないかもしれないけど・・・・」
「・・・・・」
「美樹ちゃん?」
開けてから、ずっと黙ったままだ。いくらなんでもと気になって、名前を
呼んでみた。もしかしたら、同じ物を持っていて、もらった物に対してなんて
言おうかと、悩んでいるのではないか。
「本当に・・・わたしに?」
箱の中のネックレスから、僕の方に視線が移った。
もしかしたら、今日一番に鼓動が跳ね上がった瞬間かもしれない。
「あ・・うん。一応、クリスマスプレゼントって事で・・・」
一応も何も、クリスマスプレゼント以外の何物でもなかった。ハッキリ言えな
かったのは、鼓動が邪魔したからだ。
今の寒さが気持ち良く感じるほど、顔が熱い。
「嬉しい・・・ほんとにありがとうございます」
僕が見たかった笑顔が、今目の前にあった。いや、僕が見たかった以上の笑顔だ。
「素敵なペンダント・・・」
「・・・気に入ってくれた?」
「はい。これ・・大切にします。絶対に!」
美樹ちゃんは真顔だった。
とんでもない大事な物でも渡してしまったのかと思える程だ。
「ま、まあ・・・気が向いたら使ってくれれば」
正直、嬉しくてたまらなかった。でれでれに崩れてしまいたくなる程嬉しかった。
「…さんとお出かけする時に、使っていいですよね?」
美樹ちゃんにとっては、なんでもない言葉でも、僕にとっては爆弾も同じだ。
「もうあげた物だから、どう使ってもいいよ」
僕がそう言うと、
「あの・・・それじゃ、ちょっとお願いがあるんですけど」
「ん? 何?」
「これ・・・着けて貰えませんか?」
「え?」
僕の素っ頓狂な声が、路地に響いた。
「い、今?」
「は、はい・・・」
美樹ちゃんが小さく見えた。元々頭一つ小さいが、そういう小ささじゃない。
なにか、恥ずかしさに押しつぶされているんじゃないかと思える様な、そんな小ささだった。
このまま僕が黙っていたら、本当に消えてなくなってしまうかもしれない。
「うん・・・・いいよ」
むちゃくちゃに暴れる鼓動を抑えながら、僕は答えた。女の子にクリスマス
プレゼントするのも初めてだったが、それを付けるのも初めてだ。うまく着け
られるかどうか、それだけが不安だった。
美樹ちゃんが取り出したペンダントを受け取ると、美樹ちゃんはくるりと振り
返って、僕に背中を見せた。
髪に隠れた背中。ひどく小さく見える。
「・・髪、退けていい?」
「あ、は、はい・・・」
美樹ちゃんの了解があっても、僕はなかなか手を伸ばせなかった。退けると
言っても、どう退けたらいいのか。どこにも触れないで着ける事は可能なのか。
そんな事ばかりを考えていたせいだ。とにかく、退けない事には始まらない。
いくら考えても、いい方法なんて思い浮かばなかった。
こうなれば、なるようになれだ。
僕は、美樹ちゃんから預かった紙袋を置いて、美樹ちゃんの髪を、耳のあたり
から手で触れた。髪の毛は、もっと艶々して固い物だと思っていた。自分の髪の
毛を撫で付ける時の感覚と同じだと思っていた。
全然違っていた。
柔らかい。それに、思った以上に軽い。気のせいか、暖かくさえ感じる。髪に
も、血が通っているかと思う程だ。
感触にどきどきしながら、髪をまとめようとした瞬間、このままどうやって
ペンダントを首に回せばいいのか…という所でつかえた。
髪をまとめた手が離せない。そうなると、片手でペンダントを首に回す事に
なる。そんなのは不可能だ。
考えれば、もっと簡単な方法がありそうだったが、今の僕には方法らしい
方法が思いつかなかった。
「美樹ちゃん、ちょっと自分で髪よけててくれないかな?」
「え・・・は、はい」
すると、美樹ちゃんは、首の後ろに手を回してサッサと器用に髪を束ねて、
いとも簡単に肩から前に回した。
なるほど…と思う暇は無かった。髪を動かしたせいか、微かに匂ってくる
柔らかい匂いか、それとも、露になった白い綺麗なうなじのせいか、さっきから
高まりっぱなしの鼓動が、余計な事を考えるのを邪魔していたからだ。
僕は、ペンダントの紐の継ぎ目をはずして、両手で美樹ちゃんの頭に被せる
ようにして前に回した。このまま腕を回してしまえば、後ろから抱きしめられる体勢だ。
もし・・・そんな事をしてしまったら、美樹ちゃんはどうするだろう。
黙ってそのままで居てくれる・・・・筈もないか。
馬鹿な考えを振り切った所で、またしても難題があった。このまま紐の繋ぎ目
を後ろに回してしまうと、束ねて寄せてある髪まで巻き込んでしまう事だ。
「あ・・ごめん。ちょっとこっちの方、持ってて」
僕は、髪が寄っている方の紐を揺らしながら言った。
「はい」
美樹ちゃんが答えて、紐の片方を持ってくれた。
僕の持っている片方を首の後ろに回してから、僕は、髪と首の透間に手を差し
入れた。首筋にはなるべく触れないように注意しながら。
透間を通す時、正直、手があまり言う事を聞いてくれなかった。鼓動の度に腕
が跳ね上がりそうだった。爆弾を解体する時の気分というのは、もしかしたら、
こんな風なのかもしれない。
幸いにも、束ねた髪と首筋との透間が大きかったせいか、なんとか手を通して、
美樹ちゃんの持っている片方を受け取って、首の後ろに回した。
片方同士を繋げる時、外す時の倍以上時間はかかったが、なんとか繋げた。
僕にとっては、何か大きな事を成し遂げたような感じだ。
「もういいよ」
そういうと、美樹ちゃんがくるりと僕の方に向き直った。
「ごめん、不器用でさ」
「い、いえ・・・頼んだのわたしですから」
髪を元どおり後ろに回して、軽く首を振って馴染ませた美樹ちゃんは、当たり前
だけど、手慣れている感じだ。
僕の手には、美樹ちゃんの髪の感触がまだ残っていた。柔らかい感触は、当分
忘れられそうもない。
「どうですか?」
言われる前に、僕の頭の中ではすでに結論が出ていた。
似合っている。しかも想像以上に。
黒い紐は、紫色の上着に溶けてほとんど見えないが、銀色のレリーフの部分だけ
は、外灯の光を反射していた。小さいけど、綺麗に。小さいからこそ、綺麗に
見えたのかもしれない。
「・・・・似合うよ」
こんな台詞は言えなかったかもしれない。美樹ちゃんが照れくさそうに言って
来たなら。言えたのは、美樹ちゃんの真剣な表情を見たからだ。
「本当ですか?」
僕は肯いて答えた。
「そうですか・・・」
美樹ちゃんは、レリーフの部分を指で摘まんで、きらきらと外灯の光を反射
させていた。
「わたし、このクリスマス・・・ずっと忘れません」
「・・・・」
もしも・・・もしも、いつか僕が美樹ちゃんと離れる時が来るかもしれない。
そうなった時に、今日という日は、美樹ちゃんの中に残っていてくれるだ
ろうか・・・・その時、僕の中にも残っているだろうか・・・
「そうだ。…さん、その紙袋・・いいですか?」
美樹ちゃんは、僕が足元に置いた紙袋を指差した。
「あ、そっか。ごめん」
持ち上げて差し出すと、美樹ちゃんは受け取ってから、紙袋の口を開いた。
紙袋の中から取り出したのは、大きな袋だった。僕がペンダントの箱を包んで
いたのと似たような色の袋だ。口を銀色のリボンで縛ってある。
「あの・・・これ、わたしからのプレゼントです」
静かな路地なのに、なんとか聞こえるくらいの小さな声で言ってから、
僕の方に袋を差し出してきた。
「プレゼント?」
信じられなかった。そのせいで思わず聞き返してしまった。
「はい。似合うかどうかわかりませんけど・・・」
「僕に?」
美樹ちゃんは小さく肯いただけで答えた。
「本当に?」
しつこいと自分でも思う。ただ、それだけ信じられないだけだ。美樹ちゃんが
僕にプレゼントしてくれるなんて、思いもしなかった事だった。それでも、
美樹ちゃんは、返事をうなずきで返してくれた。
もし今が明るい所なら、美樹ちゃんの頬はびっくりするくらい赤くなって
いるかもしれない。
「ありがとう・・・」
僕は、美樹ちゃんから袋を受け取った。
さっきまであんなに軽く感じていた袋の中身が、今は重く感じる。もしかしたら
美樹ちゃんの一生懸命の分だけ重いのかもしれない。
そう思うだけの表情を、今の美樹ちゃんはしている。
「開けていい?」
「・・・気に入って貰えるかどうかわかりませんけど。良かったら・・・」
答えを聞いてから、僕はリボンを解いた。
チラリと美樹ちゃんを見ると、僕と袋をじっと見ていた。僕がさっき美樹ちゃん
がプレゼントを開ける時にしていた目は、もしかしたら今の美樹ちゃんみたいな
目をしていたのかもしれない。
袋を開けると、中に入っていたのは、何かふわふわした物だった。手を入れて
触れると、それが毛糸か何かだという事はわかった。
もしかしてこれは・・・・
期待に胸を高鳴らせて、取り出してみた。
綺麗に折りたたまれたそれが、セーターだとすぐに判った。
「こんな大きな物編んだの初めてだから、うまく出来てなくて、恥ずかしいん
ですけど・・・」
「え?・・・もしかしてこれ、手編み?」
美樹ちゃんは、こくんと一つだけ肯いた。
僕にとって、いや、男にとって、女の子に作って貰う手編みのセーターなんて、
ある意味最終兵器と言ってもいい物だ。それが、今僕の手にある。
黒味かかった赤、いわゆる臙脂色の毛糸のセーターだった。
特に凝ったデザインなどは無く、いたってシンプルなセーターだったが、凄く
丁寧に編まれているのだけは、僕の目から見ても判る。
「なんとか今日に間に合わせなくちゃ・・って思ってたから、単調な色に
なっちゃいましたけど・・・気に入らなかったら、タンスの奥にでも仕舞って
おいてください」
「美樹ちゃん・・・・そんな事出来る訳ないだろう・・・」
「でも・・・」
「一生懸命やってくれたんだろ? わかるよ。これ見れば・・・」
本当は見ても判る物じゃなかった。手にひしひしと感じてくる物だった。
終業式の日から、美樹ちゃんが部屋に閉じこもりっきりの理由は、おそらく
これだったに違いない。編み物なんて、どれくらいの時間がかかるのか、僕には
さっぱり解らないけど、眠そうにしていた美樹ちゃんの顔を思い出せば、どれ
だけ大変な作業だったのか、わかるような気がした。
「ありがとう。嬉しいよ」
素直に言えた。胸の奥では、もっと大袈裟に言いたがっていたが、今の気持ちを
言うのに、一言以上必要ないと思ったし、考え付く事も出来なかった。
「本当ですか?」
不安そうに美樹ちゃんが聞いてきた。
「うん、本当だよ」
照れくささも何も無かった。ただ嬉しいという気持ちしか無い。
「気に入ってくれるかな・・・って考えながら編んでいたら、不安でしょうが
なかったんです。でも、嬉しいです。気に入って貰えて・・・」
こんな時、僕はどうしたらいいんだろう。そんな思いで編んでくれた物を持った
まま突っ立っていていいのだろうか・・・
こんな寒い夜の、人気の無い路地で。
「家に帰ったら着てみるよ。こんな所じゃ、大変だしね」
「そうですね」
「それじゃ、そろそろ行こっか」
僕は、袋に元どおりにセーターを戻した。
「その紙袋貰っていい?」
「あ、はい。どうぞ」
美樹ちゃんから受け取った紙袋に、セーターの入った袋を戻した。
「じゃ、行こう」
「はい」
長いようで短かった、プレゼント交換が終わってから、僕達は歩き出した。
しばらくの間、お互い無言で歩いた。
靴音だけが、僕達の代わりに会話をしてくれているような気さえした。
そういえば、いつからだろう・・・美樹ちゃんの歩幅に合わせて歩けるように
なったのは。最初の頃は、僕が先行して、美樹ちゃんが小走りで駆け寄る事も
あった。それなのに、今は並んで歩いても普通に歩ける。
ちらちらと美樹ちゃんを見ながら、そんな事を考えていた。
やがて、人通りの多い道路に出てきた。
さっきまでの人気の無い路地に居たのが嘘のように、クリスマス一色に染
まっている街。僕達の横を通りすぎる人たちも、どこか年末気分を束の間忘れ
たように、どこか柔らかい顔をしている。
「あの・・・・・・さん。お願いがあるんですけど、いいですか?」
人の流れの中を歩いていた時、不意に美樹ちゃんが聞いてきた。
「なに?」
僕が答えた後、しばらくの沈黙。
「腕・・・いいですか?」
「腕?」
「組んでも・・・いいですか?」
「え・・・」
「駄目・・・ですか?」
不意に、通りすがったカップルの女の子の腕は、男の腕にしっかり巻き付いて
いるのが見えた。いや、それだけじゃない。僕達の横を通るカップルは、ほと
んど手を握るか、腕を組んでいる。まるで、この夜だけは特別だとでも言う風に。
特別・・・か。
美樹ちゃんがプレゼントをくれるのも、腕を組んでいいですかと聞いてくるのも
特別な夜だからなのかもしれないな。
「いいよ」
こんな夜には、何が起きても不思議じゃない。
「ありがとうございます」
美樹ちゃんの顔に、笑顔がゆっくりと広がっていく。
「別にお礼を言われる事じゃないけどさ」
「あ・・そうですね」
「僕はいつでもいいよ」
美樹ちゃん側の腕の力を抜いた。まるで、インフルエンザの予防注射をされる
寸前の心境に良く似ていた。注射の時は、いつ痛みが来るか・・・なんて思って
た物だが、今は違った。
少なくとも、痛くはないだろう。
「それじゃ・・・」
美樹ちゃんは言ったが、なかなか腕には感触がやってこない。
じれて、美樹ちゃんの方を向いた瞬間、美樹ちゃんはこう聞いてきた。
「本当に・・・いいんですか? わたしなんかとで」と。
「・・・いいよ。美樹ちゃんなら」
僕は笑って答えた。
「・・・・」
美樹ちゃんの答えは、僕の腕が感じていた。
巻き付いてきた腕の感触。まるで、羽で優しく包んでくれるような、そんな
感触だった。想像したどの感触とも似ているようで違っていた。
ジャンパーの上からでも、何故だか暖かく感じる。寒い夜だからこそ、そう
感じるのかもしれない。
「ちょっとだけ・・・遠回りしませんか?」
僕の腕に絡み付いた美樹ちゃんの腕に、微かに力が入るのを感じた。まるで、
この時間を離したくないとでも言う風に。
「そうだね」
僕達は、人の流れに任せて歩き続けた。帰る方向とは逆へ。
この腕に感じる温かさがあれば、どこへ行ってもいい気がした。
空気を背負って海に臨む時。翼を持って空に望むとき。
もしかしたら、こんな気持ちなのかもしれない。
あと、こんな気持ちも必要なのだろう。
帰る場所があるという気持ちも。
だからこそ、安心してどこへでも行ける。
僕と美樹ちゃん。
帰る場所は同じだった。

Fin

後書き

 このくそあつい最中に、クリスマスネタとは・・・・

 冬の情景を書くには、暑い中だと駄目ですなぁ(笑 気分的に。
息が白く変わる季節なんて、夏に想像するもんじゃないですな(^^;

 よく、季節物の衣服(水着含む)とかは、その季節になる前から
やってるとか言われますが、季節の時に季節の物以外のを考えるのは
やっぱり無謀だと思ったりする今日このごろ。
来年の夏を見越した物を作るなら、今年の夏にやるべきかな・・と(笑

 夏に夏を思うのが、一番いいイメージを作れるのではないかと思う次第です。
鉄は熱いうちに打て。冷えた鉄にイメージを重ねても、形にはならんですね(^^;


  って、何書いてんだろう〜
  いや、とくに書くことなかったんでつい(^^;

  08とかナンバーになってますが、デスクトップ上にやりかけのが
  一杯あって、たまたまこの08ってのが先に仕上がっただけの話・・ぅぅ

  って、そんなの気にして読んでる人なんて居ないでしょうし、そんなのを
  気に出来るほどの物でもないから、別にいっか・・・(^^;


  相変わらずダラダラと拙作でかつ甘ったるくて、どうしようも無い
  話だなぁ・・と思われつつ(笑

 1998 8/3


作品情報

作者名 じんざ
タイトルふたりぼっち
サブタイトル二人のクリスマス
タグずっといっしょ, ずっといっしょ/ふたりぼっち, 石塚美樹, 青葉林檎
感想投稿数158
感想投稿最終日時2019年04月11日 17時01分46秒

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