あなたは誰?
わたしはわたし。
あなたは私?
わたしはわたし。
あなたは・・・・・
わたしは・・・・・
夢の中なら、聞けるかもしれない。
夢の中なら、答えられるかもしれない。
Q&A
声がした。
「石塚さん。あなたはどう思っているんですか?」
「どう・・・・と言われても・・・」
椅子に座ったままの美樹は、視線を下に向けながら、そう応えた。
困惑がたっぷり滲み出た瞳の色が、微かにゆれる。
「じゃあ、質問を変えましょう。あなたは、今楽しいですか?」
「・・・・はい」
美樹は小さく頷く。
「そうですか。それでは、嬉しいですか?」
「・・・・はい」
一度頷いた頭には、二度目のためらいはなかった。
「どうしてですか?」
しばらくの沈黙。美樹は何度か視線を移動させながら、
「・・・一人じゃないからです」と、押し出すように喋った。
「でも、あなたは一人を望んでいましたよね」
その問いに、美樹は幾分反抗の意を込めた目になって、
「あの時はそうでした。でも今は違います」と、ハッキリと口にした。
ここで躊躇したら、一人に戻されてしまう。言葉に価値や力があるのなら、嘘は言えないし、逆にここで嘘を言ってしまったら、それが現実になるのではないか。
「何が違うのですか?」
「わかりません。でも、違うんです」
何が違うのか、美樹には用意してあった言葉を言ってしまえばいいだけの事だった。だが、あえて言葉にする事はなかった。言ってしまえば、溜めてきた何かがそこから全部漏れてしまうと思っていた。それに、言おうとした事を本当に聞かせたい相手は一人だ。大切に大事にしている言葉は、その人の耳に最初に入れたかった。
美樹はしばらく無言だった。
「そうですか・・・」
そう言って声は途切れた。
声がした。
「小野寺さん。あなたはどう思っているんですか?」
「別に。どうって事ないわ」
桜子は、質問の内容より、質問している側への反抗のように、ぷいと首を横に曲げた。
くだらない質問ね。
顔の向きはそう言っていたが、彼女の心は素直に質問に答えていた。もちろんそれは口を動かす事はない。
「本当にどうも思ってないんですか?」
「余計なお世話よ。私がどう思おうと勝手じゃない」
何かが癇に障ったのか、桜子は腕と足を組んだ。
思っちゃ悪い? 想っちゃ悪い? 自分自身の態度はそう言っているのに、桜子は気づいていない。
「じゃあ、嫌いなんですね?」
「誰もそんな事言ってないでしょ!」
「じゃあ、好きなんですか?」
「な、なんでそうなるのよ。嫌いじゃないから好きだなんて。バカじゃない」
「じゃあ、好きでも嫌いでもないんですね?」
「さあ。どうかしら」
質問のくだらなさを突っぱねるように、ぶっきらぼうに答える。
しかし、嫌いとは言えなかった。嫌いじゃなかったからだ。
しかし、好きとは言えなかった。好きだったからだ。
「そうですか」
そう言って声は途切れた。
声がした。
「並木さん。あなたはどう思っているんですか?」
「そうだなあ・・・わかんないや」
智香は、頬に指を当ててしばらく視線を宙に向けてから、そう答えた。
「何がわからないんですか?」
「うーん。わかんない。どう思ってるかなんて」
「わからないという事は、迷っているという事ですか? 軽いか重いか。厚いか薄いか。多いか少ないか、右か左か・・・それとも・・・」
「・・・・・」
厚くはないが薄くもない。軽くはないが重くもない。多くはないが少なくもない。
揺れ動く天秤。しかし、天秤その物がなんなのか、智香にはわかっていなかった。
呼吸をするのが当たり前のように。なぜ空気を吸いこむのかを考えながら呼吸をしている奴は居ないだろう。
「つまりは、あなたにとって迷うべき事なのですね?」
「そうなのかな?」
「そうではないのですか?」
すると智香は目を閉じ、眉をひそめて眉間に小さな皺を作った。
うーんと小さく唸る。
不意にぱっと目を開けて、
「多分、そうなんだと思う。でもやっぱりよくわかんないや」
それでいいや。わかってるけどわかんない。わかんないけどわかってる。それでいい。
智香は答えよりも、自分の中の結論に、満足そうに頷いた。
そう言って声は途切れた。
「並木智香」 PM 8:50 自室
「さ、いいぞ」
僕は、よくシャッフルした二枚のカードを並木の前に差し出した。
暇つぶしで始めたババヌキでも、ここまで白熱してれば面白い。
最後二枚の応酬が、かれこれ十回は続いている。二分の一の確率で十回。これは凄いと言えば凄いが、こうなるにもちゃんと理由のひとつまみくらいはある。
相手の表情や考えを読んだ結果だろう。
最初の二回は偶然。三回目から、少し表情を気にした。四回目からは、表情を読み取る為に、相手の顔をじっと見る照れも薄れた。見る方としても、見られる方としても。
九回目くらいからは、表情のフェイクも使い出す余裕もあった。
並木は、指をそれぞれのカードに移しながら、僕の反応を見ている。相当イライラしているのは、見ていてわかる。分かりやすい奴だ。
並木が今つまんでいるのは、ジョーカーだ。
ふうん。それでいいのかい。という風に、ニヤリと笑ってみせた。
さっき引っ掛けた手だ。もう一度通じるかどうかは並木次第。
しばらく考えた後、並木は、横のカードに指を移しかけて、思い止まって、そのまま勢い良く最初に選んだカードを引きぬいた。
手元に引き寄せてそのカードを見た並木の表情が、面白いくらいにイヤそうになっていく。
十一回目。
多分、後にも先にも、一対一のババヌキ勝負でここまで続く事は無いだろう。
「ああもうイライラする」
なぜか、そう言いながらの表情は笑顔だった。
「お前さ、なんで表情で俺を騙せるのに、自分で騙されんだ?」
「ボクは騙してなんかないよ。そっちが勝手に深読みしてるんだろ」
「んじゃ、次は勝てるな」
「次からは騙すかもね」
並木は、ニヤリと口の端を吊り上げた。
不思議とそんな表情も似合った。不思議と色っぽい。
ドキっとした事を悟られる前に、カードに目を移した。
確かに僕の目の前に居るのは、女の子だ。
今まで男だとは思っていなかったが、あからさまに女の子とも思っていなかった筈なのに。
「小野寺桜子」 PM 6:45 食卓
「小野寺さん、どしたの?」
箸で芋の煮転がしを、皿の上で文字通り転がしながら、その行為が面白いんだがつまらないんだかわからない表情に、僕は聞いた。
「別に・・・」
「芋嫌いだった?」
「別に。嫌いじゃないわ」
そう言って、大きなため息をついた。息に灰色が付いていたような気がする。
「そっか」
しばらく、小野寺さんは芋を転がしつづけていた。
こうなると気になる。僕の作った料理に口でもつけたくないのかと思う。
「なんかやな事でも?」
「そういう訳じゃないけど」
「だったら、食べなよ」
「いいでしょう。私が何してても」
そう言って、僕をきっと睨み付けてきた。
なんだっていうんだ。まったく理解に苦しむ。
「食い物で遊んでる見るの、あんま気分良くないんだ」
腹にためたくなくて、ハッキリ言った。
「別に遊んでないわよっ。そういう気分なだけ」
僕の言葉に呼応して、小野寺さんの声も高くなる。
「嫌いだったら嫌いってハッキリ言えばいいのに。それとも、僕の作ったのなんか、食う気がしないとか?」
「だから違うって言ってるでしょう。わかんない男ね」
「わかんないのは小野寺さんの方だよっ」
頭でも掻きたい心境だった。さっぱりわからない。
「ふんっ・・・どうせ私はわかんない女ですよっ」
そう小さくごにょごにょと言ってから、芋に箸を突き立てて、丸ごと口に入れた。
しばらく良く噛んでからごくりと飲み込むのを見ていると、
「なによ。人が食べるところ見て面白い?」
きっと僕を睨んできた。確かに食べてる所を凝視されるのは、気分が良くはないだろう。はあっと溜息をついて、僕も自分の分に手をつけた。
「・・・まずくないわね。うん」
一瞬、まずいみたいに聞こえて、僕は目を丸くした。
「え?」
「別に。まずくないって言っただけ」
なんで怒られないといけないのか。
頬を真っ赤にしながら、目を吊り上げたのを見て、僕は肩をすくめた。
「石塚美樹」 PM 10:40
一人で居るのもいいが、二人で居るのもいい。
少なくとも僕はそう思っている。
例え、僕が学校の課題をしていて、美樹ちゃんが後ろでゲームをしていてもだ。
勉強中は静かにしろ。集中しろ。
確かにそれは尤もだと思う。
だが、そうじゃない事もある。
「…さんっ、ここ、ここはどうすればいいんですかっ!」
美樹ちゃんの声に振りかえると、美樹ちゃんは前のめりになって画面に見入っていた。
パッドを持つ手に、思いっきり力が入っている。思わず身体が動くタイプだ。もちろん、ゲーム慣れしてないからという事もあるだろう。
「そこは、まず上の段に乗ってから、助走をつけて思いっきり飛ぶんだ。結構タイミングが難しいけど、落ちつけば大丈夫」
「こ、こうですか?」
案の定、ジャンプに合わせて、身体が動く。画面の中のキャラは、その努力に報いずに、足場にたどり着けずに落ちていく。
「もっと落ちついてやれば大丈夫だよ」
苦笑してから、また机に向かった。
それから、「えいっ」とか「あんっ」とかいう声を背中で聞いていた。
別に、うるさいとか気が散るとかそういう事が無いのは、本当に不思議だった。むしろ、捗るくらいだった。
普通なら、「気が散るからやめてくれ」とか言うべきなんだろうな。僕は、おかしくて口元だけで笑いながら頭を掻いた。すると、ゲームの音がピタリと止まる。
「あ・・・ごめんなさい。うるさかったですか?」
美樹ちゃんの心配そうな声。僕の仕草を気にしての事だろうか。
「いや、別にいいよ遊んでて。一人で勉強やってても陰鬱になってくるだけだし」
振りかえらずに、そう言って、勉強を始めるフリをした。
「・・・そんなもんですか?」
美樹ちゃんには、わからないだろう。ただ居てくれるだけで落ちつくっていうのが。
少なくとも、僕にとっては・・だ。
「そんなもんだよ」
「そんなもんですが・・・」
今振り向いたら、美樹ちゃんは一体どこを見ているんだろう。どんな表情をしているんだろう。気になったが、僕は振りかえらなかった。それを想像するのが楽しかったからだ。
「じゃあ、もっとやってていいですか?」
「いいよいいよ。飽きるまでやってて」
こう言わないと、美樹ちゃんが行ってしまうような気がした。居て欲しいなんて直接言えれば良かったのか。
「じゃあ、私、お茶入れてきますね。適当にお茶菓子も持ってきますから」
「あ、うん」
僕は素直にそれを受けた。
お茶が無くなるまでの間だけは、美樹ちゃんは確実に居てくれる。
これから始まる時間に、少しだけ胸が高鳴った。
美樹ちゃんが鼻歌を歌いながら部屋から出ていってから、僕は一つだけ大きく息を吐いた。
後書き
訳のわからん話ですいません〜
いろいろなスタイルの模索って事で勘弁してください(^^;
いうなれば、ちょっとした実験って感じです。
まあ・・・失敗ですね(^^; こりゃ。
作品情報
作者名 | じんざ |
---|---|
タイトル | Meal with ... |
サブタイトル | Q&A |
タグ | ずっといっしょ, ずっといっしょ/Meal with ..., 小野寺桜子, 並木智香, 石塚美樹 |
感想投稿数 | 16 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月10日 13時32分47秒 |
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