「ふあぁ‥‥」

大きいあくびが一つ出た。
それでも、まだ頭がはっきりしない。
寝たまま部屋を見ると、カーテンを通った柔らかい日の光でやわらかい色に染まっている。
今日もいい天気みたい。

時計の針はまだ七時にもなっていない。うん、これなら楽勝ね。

きらめき高校入学以来、こんなに早く起きたのは初めて。
といっても、まだ入学してから三週間くらいしか経ってないけど‥‥‥
うちでは、あたしが一番遅く起きていただけに、今日はみんなをびっくりさせてやるんだ。
でも、お母さんはもうとっくに起きているんだろうなぁ‥‥‥
「よいしょっと」
声を出して、一気に弾みを付けて上半身だけを起こした。
とたんに少しだけ冷たい空気が布団の中に入り込んでくる。
「さむっ」
スウっとする冷たい感触に、思わずもういちど倒れて布団を被った。
やっぱりいきなりっていうのはまずいわよね。
布団の中の温もりを十分に味わってから、それにゆっくりとさよならしながら今度はそろそろと起き上がってみた。
うん、さっきほど寒くはないわ。
ゆっくりと布団から抜け出て、カーテンを思いっきり開けると、刺すように眩しい光で、一瞬目がくらんだ。
「わぁ‥‥いい天気」
雲一つ無い青い空。
目が眩むほどの日の光。
早起きのご褒美かもね。
この勢いのままで、下に行くしかないか。
ちょっとでも立ち止まったら、また布団へ逆戻りだわ。


階段を降りる途中で、すでに朝食の匂いが漂ってきてる。
こんな余裕を持ってご飯を食べるなんて久しぶり。
ダイニングルームのドアを開けた時の、お母さんの驚き様が目に浮かぶわ。
「おはよぉ〜‥‥‥」
元気な部分は最初だけだった。
こっちを見ているみんなの目、目、目。
「あ、お姉ちゃん。おはよう」
紗織がニッコリ笑いながら言った。
「お、香織。どうしたんだこんなに早く」
いつもはあたしよりちょっと早く起きるくらいのお父さんが、ご飯を食べている手を休めて、こっちを見ている。
「あら‥‥どうしたの? 今日は」
お母さんは想像通りに驚いてくれた‥‥‥
でも‥‥‥
「な、なんでみんなそんなに早いのよ」
あたしのせっかくの早起きが‥‥‥
パジャマなのはあたしだけ。
「わたし、今日は部活の朝練なの」
「父さんは、たまたまだ」
紗織のはしょうがないとして、なによお父さんの「たまたま」っていうのは!
お母さんしか居ないキッチンとダイニングルームっていうのを期待してたのに。
でも、お父さんしかいなかったら、それはそれで驚きかもしれない。
「香織、そんなところにいないで早く席につきなさい」
お母さんの優しい声。毎朝ほんとにありがとう。とっても心が休まるわ。
「はぁい」
あたしが席に着くと、すぐにほかほかのご飯を持ってきてくれた。
「お姉ちゃん、今日は早いのね」
「たまにはこんな日もあるわ」
「そういえば、お姉ちゃん、なにか部活やらないの?」
「うーん、今どこに入ろうかって考えているんだけど」
「中学じゃスポーツ万能だったんだから、運動系がいいんじゃない?」
たしかに‥‥‥自慢じゃないけど、体育の成績だけは小さいころから良かった。
中学でのテニス部の全国大会で準優勝まで行った事もあったけど‥‥でも、あの時は悔しくて泣いたっけ‥‥‥
でも、そういう紗織も、バスケ部のエースだものね。
「そうね。でも、じっくり決めるつもりだから」
ふと一番最初に出来た友達、彩の事が頭に浮かんだ。
彩‥‥部活には入るのかな‥‥‥
「あわてないでじっくり考えて決めなさいよ」
お母さんが席に座りながら言った。
「そういえば‥‥‥お母さんは何部だったの?」
「科学部よ」
「え? そうなの?」
意外だった。お父さんからは、お母さんはスポーツ万能だって聞かされてたからてっきりなんか運動部系かと思ってた。

「科学部っていえば‥‥‥新任の紐緒先生が電脳部と掛け持ちで顧問やってたけど」

あたしがそう言ったとたん、お父さんとお母さんの動きがピタっと止まった。

「そ、そう‥‥‥紐緒さん、電脳部と科学部の顧問になったのね‥‥」
「そりゃ‥‥すごくなりそうだなぁ‥‥‥」

心なしか、二人とも笑顔だけど表情が引きつって見える。
紐緒先生とは高校の時、同じ学年だったって聞いたけど、なんかあったのかしら。

「ねえ、何の話?」
紗織がじれったそうに聞いてきた。
「来年、きらめきに入ってくればわかるわ。だから紗織も頑張らなきゃね」
「うん」
紗織はいつも素直で、ほんとに可愛い。
一つしか歳が離れてないなんて信じられないくらい。
「ごちそうさま」
紗織がご飯を食べ終えて、食器を積み重ねてから立ち上がった。
「じゃ、行ってきます」
そう言うなり、すぐに出て行く。
なんとなく忙しそうなところは、あたしと良く似てるわ‥‥‥
落ち着いているんだかいないんだか、あたしの妹ながら良くわからないけど。
「しかし‥‥香織がのんびり朝ご飯食べているのを見るなんて、久しぶりだな」
「お父さんだってそうじゃない」
だってあたしはそういうお父さんの娘なんだもん。
お母さんにも言われる。お父さんそっくりね。だって。
そうかしら‥‥‥
でも、お父さんも良く言う。お母さんそっくりだって。
もう、一体どっちなのよ!
言われるたびにそう思う。
「二人とも、いくら早いからって、のんびりしてていいの?」
「詩織、俺は昨日言っておいたじゃないか」
「あら‥‥そうだったわね」
「何、お父さん。どうしたの?」
うれしそうなお父さん。どうしたのかな?
「今日は仕事休みだからな、日帰りで温泉に行くんだ」
「え!」
そんなの聞いてない。
「あなた達が学校から帰ってくるまでには、帰ってくるわよ。
 そんなに遠いところじゃないし」
「え? 何? お母さんも行くの?」
ますます聞いてない。なによそれ。二人だけで!?
「ずるい。二人だけで行くなんて」
「香織は今日学校じゃないか」
「それはそうだけど‥‥‥」
それにしたって、日帰りで温泉なんてずるいわ。あたしと紗織は学生なんだし、どうしようもないじゃない。
でも‥‥‥たとえ今日学校休んでも‥っていう気にはなれないな。今は学校の方がおもしろいしね。
「まあまあ、今度の休日にはみんなで一緒に行くんだから‥‥‥」
「え! そうなの?」
「本当よ」
お母さんに言われて、あたしはお父さんを見た。ニッコリ笑って頷いている。
「ほんとに? うれしいな!」
帰ってきたら紗織にも言わなくちゃ。きっと喜ぶ。
「良かったわね。香織」
「うん」
「それじゃ、せっかく早く起きたんだから、早く準備して学校へ行きなさい」
「はーい」
お父さんに言われるまでも無い。早く行って彩を驚かしてあげよう。
早起きは三文の得ってほんとだったのね。
今日もいい日になりそう。

Fin

後書き

なんかほのぼのする話が欲しくて
ついこういうのを。

なんか同時進行で5つくらい話をかかえちゃって、最近全然アップしてない‥‥(^^;

もうじき、買うのはイヤだけどGETしてしまうときめもSFC版をやったときに、またネタでも涌いてきて、同時進行が8個くらいになってしまう恐れも‥‥‥ぅぅ


作品情報

作者名 じんざ
タイトルこれからの詩
サブタイトル朝食 〜早起きは三文の徳〜
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/これからの詩, 藤崎詩織
感想投稿数36
感想投稿最終日時2019年04月09日 09時29分11秒

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  • [★★★★★★] いいですね〜(^^♪ このほのぼの感がたまりませんね! そう言えば、最近のTVドラマって、こんな感じのって殆ど無いですよね・・・。こう言う平和な日常を描くのって、かえって難しいのかも知れませんね。作者様、頑張って下さいね!