・・・春。

冬が終わり、エンフィールドに新たな春を迎えた。
エンフィールドの外れには、ローズレイクという湖がある。
その湖畔には毎年、春になると美しい花を咲かせる1本の桜の木が立っていた。
そう、今年も美しい花を咲かせて・・・。

「ねぇ〜、待ってよ〜!」
「早く来いよ!」
男の子と女の子が駆けていく。
歳は6歳ぐらいだろうか・・・。

「待ってったら〜!」
女の子が男の子に飛びつく。

ドタッ!
「いっっっってー!」
「ごめん、だ、大丈夫?」
「嘘だ。」
「・・・・・・」

春の日差しを浴び、二人は毎日のようにここで遊んでいた。
今と変わらぬ、ローズレイクの桜の下で・・・。

「また遊ぼうね!」
それが別れ際のいつもの約束・・・

そして遠い春の思い出・・・

「いらっしゃい、アレフ。」
エンフィールドの街の中心にある『さくら亭』。昼の混雑も少し落ち着き、看板娘であるパティはその忙しい仕事も一区切りし、カウンターで休んでいた。
「今日は何にする?」
「・・・あ、ああ。いつものランチ頼む。」
パティの言葉にアレフは言葉を詰まらせながら言った。
「どうしたの? まっ、どうせ女の子に振られたんでしょうけど。」
「・・・・・・」
パティの言葉に無言のアレフ。
「アレフ?」
いつもと様子が違うアレフにパティは少し戸惑った。

−がやがやがや・・・−
周りは賑やかなのに、アレフの周りはちょっと暗い。

「・・・なあ、パティ?」
深刻な顔をしてアレフが口を開いた。
「な、何?」
いきなりの事にあわてるパティ。
「ここ最近、宿に女の子が泊まってるか?」
「は?」
「だ・か・ら! さくら亭の泊まり客に女の子がいるかって聞いてるの!」
「リサ。」
即答するパティ、転けるアレフ。(お約束!)
「俺は最近って聞いてるんだ! リサは半年も前からいるぞ! それにあれに『子』が付くか?」
「ごめんごめん、冗談よ。」

アレフのランチが出来上がり、それをアレフの前に置きながらパティは言った。
「おまちどうさま! そうねぇ、いないわよ」
「そうか・・・。」
元気がない割にはランチを食べながら、アレフは言った。
「ところで、それがどうしたの?」
「ん、・・・実はな・・・。」
「うんうん。」
「ローズレイクに桜の木があるだろ?」
「ええ。」
「あの木の下に昼間、俺の知らない女の子がいたんだ・・・」
「・・・はい?」
アレフの言葉に傾げるパティ。
「話し掛けようとしたんだけど、気づいたらいなくなっててな・・・」

(ピクッ!)
「この街で俺の知らない女の子がいたとしたら、旅してきた子だけだよな・・・」

(ピクピクッ!)
「なぁ? パティ、本当に知らない?」
「知るわけ無いでしょ! そんなの!」
パティは怒って、厨房へと消えた・・・。

「・・・誰だろう?」
アレフの悩みはまだまだ続く・・・。

食事を終え、アレフは街を歩きまわった。

(あの子は誰だ? だけど、どこかで会った気が・・・。)

アレフはローズレイクに来ていた。
時が経ち、エンフィールドに夜が訪れようとしている。
空は次第に暗くなり始め、人の姿はもう見えなくなっていた。

・・・・・・!

だが、桜の木の下に彼女は座っていた。
ただ一人、湖を眺めながら・・・。

「君、何してるの?」
こんな時間に一人でいる彼女にアレフは声をかけた。
「人を待ってるの。」
彼女は湖を見たまま、そう答えた。
「だけどもうすぐ夜だぜ。そろそろ帰らないとまずくないの?」
アレフがそう尋ねると、
「そうね。」
つぶやくようにそう言うと彼女は立ち上がった。
「よかったら家まで送ろうか?」
「ありがとう。でも、大丈夫!」
アレフを見て、微笑みながら言った。
「だけど、暗くなったら危ないぜ。」

ピューーーーーーーーーーー!
肌寒い風が辺りをつつむ。

「綺麗だ・・・」

突然の風に、かすかな夕日に照らされた桜の花びらが空に舞い上がった。
花のピンクと夕日の橙、二つは混ざり溶け合ってやがて闇に消えた。

「あれ?」
気が付くと彼女はいなくなっていた。昼間と同じように・・・。
「・・・・・・」
辺りを探してもどこにもいない。
「・・・おかしいなぁ・・・」
アレフは頭をかきながら、仕方なく家路についた。

「さぁ!早く早く!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ〜」
商店街を二人の子供が駆け抜ける。
元気のいい少年と、それを必死に追いかける少女。歳は12歳くらいだろうか。

「そうだ!何か買ってやるよ。」
「えっ、本当?」
少年は言った。
「本当に買ってくれる?」
少女は半信半疑で聞いてみたが、少年の「うん!」という頷きを見て、
「ありがとう!」
そう言ってにっこり笑った。

「どう? 似合うかな?」
路地のお店で買った小さなブローチを見ながら少女は聞いた。
「うん! とっても!」

二人はいつもの桜の木の下に立っていた。

「そろそろ、お別れの季節(とき)かな?」
少年は桜を見上げながら言った。
「そうだね・・・」
少女も花を見ている。しかし、その表情は少し悲しい。
「楽しかった? 気まぐれな桜の妖精さん?」
少年は少女にそう言った。
「失礼な性格は小さい頃と変わらないわね。」
少女は少年に笑顔をみせた。
「とっっっても、楽しかったわ!」

ヒューーーーーーーーーーー
風が桜の花を舞い上がらせる。

「今度はいつ会えるかな?」
「さぁ、どうかしら? 私、暇な妖精じゃないのよね〜」
「どうだか。」
笑いあう二人。しかしどこか寂しい。

「そろそろお別れね・・・」
「・・・・・・」
少女の言葉に無言の少年。
「また遊ぼうね! 約束だよ!」

・・・約束。
ここで交わされる二人の約束。小さい頃からの二人だけの約束・・・。

「うん! 約束だ!」
「このブローチ、大切にするね」
「ああ。」
「だから、絶対忘れないでね!」

ピューーーーーーーーーーー!
強い風が走り抜け、全ての花が舞い上がる。

「また遊ぼう! 約束だ!」

ニコッ!
少年の言葉に笑顔を見せ・・・

・・・・・・!

少女の姿は消えていった・・・。

見れば桜の花はもう無い。全て散ってしまった。

「また、会えるよな?」

少年には聞こえた。風に乗って聞こえる小さな声を・・・


約束だよ・・・・ア・レ・フ・・・

がばっっっっっっ!
アレフはベッドから飛び起きた。
もう朝はとっくに過ぎ、昼に差し掛かろうとしている。

アレフは急いで着替えると表に駆け出した。
サーカスの横を通り、公園を抜け・・・。

「ハァハァハァ・・・」
アレフは辺りを見回す。
やがて呼吸を整えると静かに歩み寄った。

「君、何してるの?」
湖を眺める女の子に声をかけた。
「人を待ってるの。」
彼女は湖を見たまま、そう答えた。
「僕は君に会いに来た・・・。気まぐれな桜の妖精さん。」
「失礼な性格は小さい頃と変わらないわね。」
彼女はアレフを見てニッコリ笑った。
「それとも、もっと失礼になったかな?」
その言葉にアレフは苦笑した。
「だめだよ。約束はまもらなきゃ。」
彼女の胸にブローチが光る。
「あっ! そのブローチ!」

今朝の夢が蘇る・・・。
遠い・・・6年も前の記憶・・・。

「ちゃんと、埋め合わせしてくれるよね?」
彼女はアレフに言い寄った。
「こ、怖いお言葉を・・・」
「や・く・そ・く!」

小さい頃、アレフは彼女に出会った。
彼女はこの桜の木の妖精。そして、春に時々現れる気まぐれな妖精。
別れ際にするいつもの約束。

「また遊ぼうね!」

アレフは忘れていた。遠い思い出を・・・約束を・・・。

「ごめんな。忘れてて」
アレフは彼女に言った。
「言う言葉が違うでしょ?」
彼女は悪戯っぽく笑う。

「どこか遊びに行こうか?」
「うん! アレフ!」

桜が風で舞う・・・
二人が出会った季節・・・

約束・・・

・・・そして新しい春の思い出・・・

−End−

後書き

RAS.「・・・長すぎません? これ・・・。」
青葉「・・・元が短編小説級の長さだからな・・・。」
RAS.「・・・だけどさ・・・」
青葉「・・・改行が多いだけだったりして・・・。」
RAS.「・・・そう思うと、ほんと僕たちって・・・。」
青葉「・・・文才無いね・・・。」
RAS.「・・・この先、どうする?」
青葉「・・・夏・秋・冬のこと?」
RAS.「・・・そう、『四季の思い出』シリーズ!」
青葉「本編も書いてないのに?」
  ※注意:本編とは、二人で構成して作ってるオリジナル・ストーリーです。
RAS.「・・・・・・(沈黙)」
青葉「どうするの?」
RAS.「・・・リクエストが来たら書きましょう!」
青葉「マジで?」
RAS.「・・・・・・(再び沈黙)」
青葉「ところでさ・・・これからSSどうする?」
RAS.「評判良かったら書き続けましょう!」
青葉「まず、苦情の嵐だな・・・」

原作:青葉 零
悠久Ver.構成:RASVEL
掲載許可番号:raln0001


作品情報

作者名 RASVEL&青葉 零
タイトル−春−
サブタイトル−春− 風の中で‥‥
タグ悠久幻想曲, アレフ, アルベルト, ヘキサ
感想投稿数23
感想投稿最終日時2019年04月12日 17時53分42秒

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  • [★★★★★☆] イブもしくはクレア主人公で一本作って。