プロローグ

「公!!! いつまで寝ているの! 遅刻するわよ!」
公たちが3年生になったばかりの、4月のある木曜日の朝。
母親の怒鳴り声で公は飛び起きた。
慌てて時計を見る。
『8時10分』
時計は無情にも遅刻ぎりぎりの時間を示していた。
公は慌てて飛び起きると、熱闘コマーシャルも真っ青のスピードで制服に着替え、マンガで遅刻しそうな生徒がするように、パンをくわえながら家を飛び出した。
ここまでは日常的な光景だ。
だが、今朝はいつもと違っていた。
公の家のとなり……藤崎家の玄関をクロワッサンをかじりながら飛び出してきた人物がいた。
詩織である。
「あ、公くん。おはよう」
「あ、詩織。おはよう」
優等生の詩織がこんな時間に家を出ることは珍しい。
「どうしたの? 詩織」
思わず公は詩織に尋ねていた。
「う〜んとね…。えへ寝坊しちゃったの」
「詩織が寝坊するなんて…どういうこと?」
「実は…」
言いかけて詩織は腕時計を見た。
「あ、公くん。大変、遅刻しちゃう!」
「そうだ! そうだった!」
あわてて、二人は学校への道を駆けだし始めた。

それが公と詩織、そしてきらめき高校の歴史に残るあの夏の出来事、そのプロローグだったことを知っているのは…今はこの作者ただ一人である。

「ねぇ、公くん…」
「ん? なんだい、詩織」
学校の帰り道、詩織は公に話しかけた。
「ん〜とね…、『火星の衛星はフォボスと何?』って問題わかる?」
「ダイモスだろ」
「すごい! 公くん物知りね…」
「そ、そうか?(いったい何なんだ??)」
「じゃぁね…『世界でいちばん北にある首都はレイキャビクですが、では最も南にある首都は何?』」
「え??? え〜と…」
「ブブーー!! 時間切れ。答はウェリントンです」
「あ、なるほど…」
公は納得してしまった。しかし、すぐに、
「だから…いったいどうしたんだ??」
「ふふ…内緒…じゃぁね!」
気がつくと、もう家の前だ。詩織は手を振って家の中に入って行った。
(だーかーら…いったいそれが何なんだよ!!!)
公は詩織が突然、突拍子もない事を始めた事を怪訝に思うだけだった。


1週間後、またもや公は遅刻ぎりぎりで家から飛び出す詩織に出会った。
「どうしたんだ? 詩織。先週も…」
「公くん、遅刻よ! 急いで!」
詩織は公の言葉を遮って、学校へと走って行った。


更にその翌週…同じ光景が繰り返された。
その翌週も…その翌週も…毎週のように木曜の朝は詩織は遅刻寸前で家から飛び出してきた。
さすがに公も詩織のようすがおかしいことに気付いている。
木曜日の授業はいつも生欠伸をかみ殺している。優等生の詩織にしてみれば実に珍しい事だ。
5月のある日、公は思い切って帰り道、詩織に訪ねてみた。

「いったい、どうしたんだ? 毎週木曜日は寝不足みたいだけど…」
「ん〜とね…実は…」
詩織は説明を始めた。
「毎週水曜日の夜にね、パソコン通信でクイズ大会をやっているの」
「???」
「ほら、3月にお誕生日のお祝いにパソコン買ってもらったでしょ。
 あれで、パソコン通信始めたんだけど、そこのクイズのフォーラムでね、毎週水曜日の夜にクイズ大会やっているんだ」
「それで、夜更かししているってこと?」
「うん、そうなの」
「面白い?」
「うん、結構みんな物知りなんだよ。
 クイズのテレビ番組で優勝した事もある年輩の人から、社会人、大学生…中学生もいるのよ」
「ふ〜ん」
「私は、まだ優勝したことないけど…優勝もしてみたいな…」
「レベル高いの?」
「うん、だって出る問題ほとんどわからないの。4択だから勘で答えているんだけど。
 あ〜あ、いつかテレビのクイズ番組にも出てみたいな…」
「じゃぁ、がんばらなくちゃね」
公がそう言うと、詩織は公の顔をじっと見つめた。
「どうしたの? 顔になんかついている?」
「あのね…」
「何?」
「ううん…なんでもないの」
そう言うと、詩織は自分の家に入って行った。
(そうか…詩織…クイズ大会に参加していたのか…)
公が詩織の視線の理由に気付くのはもう少し後の事である。

そう言うやりとりから数週が過ぎた6月の始め、公は夜に家でラジオを聞いていた。
滅多にラジオなんかは聞かないのだが、今日、学校で詩織に、
「今夜の、『db−FM・突撃Q』を聞いてね。絶対よ!」
と言われたので、しかたなく聞いているのだ。
『さて、突撃Qです。電話の向こうには今日も挑戦者が待ってくれています』
ラジオの向こうからパーソナリティの声が聞こえてくる。
(なんだって詩織はこれを聞けっていうんだろ…)
そう公が思っていたときだった。

『それじゃ、今週の挑戦者です。もしもし?』
「もしもし」
(あれ? 聞いた事のある声だぞ??)
『はい、お名前を聞かせてもらえますか?』
「藤崎詩織です」
(えーーーーー!!!!!!)
ラジオから流れてきたのは紛れもなく詩織の声だった。
『詩織ちゃんは、お幾つですか?』
「高校3年です」
『そうですか。それじゃ、早速挑戦してもらいましょう。突撃ーーーーーQ!』
パーソナリティの叫びと共に、アナウンサーが読み上げるクイズ問題が流れ始めた。
『YESかNOでお答ください。問題、蛙にもまぶたがある』
「YES」
『正解です。第2問、歴代の横綱でしこ名が漢字一字なのは曙ただ一人である』
「NO」
『正解です。第3問…』
公は前にもこの番組を聞いた事があったのでルールは知っていた。
10問のYES/NOクイズに挑戦し、正解数によって賞金が決まるのだ。
そして、詩織は順調に全問を正解していった。
『最後の問題です。上から読んでも山本山、下から読んでも山本山の山本山という山は実在する』
「YES!」
『正解!!! おめでとう。なんと半年ぶりの全問正解が出ました!!!』
「やったーーー!!!!」
『賞金10万円です。詩織ちゃん、何に使いますか?』
「え〜と…幼なじみと、ご飯食べに行きます」
『そうですか、ではあとはスタッフが手配しますので、電話を切らずにお待ち下さい。
 以上! 突撃Qでした』
ラジオからCMが流れ始めた。

公は、窓を開けると詩織の部屋を見た。
窓から詩織がこっちを見ていた。
「公くん、聞いていた?」
「うん、聞いてた!」
「やったでしょ」
「うん、やった…で、ご飯一緒に食べに行く幼なじみって…」
「公くん以外に、幼なじみはいなかったと思うんだけど…私とじゃ嫌?」
「とんでもない。行きます!」
「よろしい」


詩織がラジオのクイズで半年ぶりの全問正解を達成した。
その噂は、あっという間にきらめき高校中に広まった。
理由は簡単である。
その番組を朝日奈夕子が聞いていたのだった。
そして…翌日からきらめき高校に大騒ぎが起きるのだった。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜
サブタイトル01:「詩織、答える」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子, 早乙女好雄
感想投稿数46
感想投稿最終日時2019年04月09日 23時01分16秒

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  • [★★★★★☆] すぐ続き読みます
  • [★★★★☆☆] 某友人がときメモにはまっていたので面白く呼んでおりました。
  • [★★★★★☆] 良いすっね
  • [★★★★★★] 詩織よ・・・。それが正しい頭の使い方だ・・・。(お
  • [★★★★★★] 私詩織にホレましたぁ!!(>∀<)vvまた話作ってくださぃっ☆★SHIORIラブ〜vv