「シオリン! よかったねぇ! 全国大会頑張ってね!」

帰りの電車の中で夕子がはしゃいでいた。
車外はすっかり暗くなっている。
夕子達は本来もっと早く帰れるはずだったのだが、全国大会の説明を聞くため、控え室に行っていた詩織達を夕子達が待っていたのだった。
「あたし達も、応援すっからね!」
「ありがと、ひなちゃん……」
詩織は夕子に言葉を返した。
「ひなちゃん……最後の問題……」
「ダメ! それは言いっこなし!
 ……あたしに気を使わなくても良いよ。
 シオリンったら、全然嬉しそうじゃないんだもん。
 全国大会だよ、もっと喜ばないと!」
「でも……」
「そりゃ、約束は守れなかったけど……
 でも、シオリンがあたし達の分も頑張ってくれるって信じてんだからね」
「うん……」
夕子に気を使っていた詩織が顔を上げた。
「私、全国大会でひなちゃんの分も頑張るね」
「そう来ないと!」


「思ったより朝日奈さんが元気そうで良かったよ」
公がそんな夕子の様子を見て言った。
「そうですよね。国立高校が最後の問題を正解した瞬間はどうなるかと思いましたけど……」
「うん……私もびっくりしたな……ひなちゃんが泣いたととこなんて、初めてみたから」
沙希も夕子を見ながら言った。
国立高校が正解し、最後の席を決めた瞬間、夕子が解答席に突っ伏して泣いていた。
「ごめん……ごめん……ごめんね……」
そう言い続けて……

唖然として驚いている5人を後目に夕子はトイレに駆け込んだ。
しかし、十分後、ケロッとして現れたのだ。
沙希や未緒は何が起きたのか、さっぱりわからなかった。
「どしたの? 沙希、未緒……」
自分を見る不思議そうな視線に気づいた夕子は尋ねた。
「あ……ええ……なんでも……」
未緒がごまかした。
「あぁ! 何か悪口言ってたな!」
「そ、そんなこないのよ。ただ……」
「ただ……何よ」
沙希の言葉に夕子が聞き返した。
「へへ……わかってるわよ、沙希と未緒が言いたいことは。
 あたしって切り替えが早いから……もう、嫌なことは忘れよ忘れよ!
 でないと公くんも喜べないじゃん、せっかくの全国大会なのに。
 沙希もそうだよ。全国大会じゃんか!」
「そうね……そうよね……」
沙希が頷いた。
「あ、でさでさ……全国大会ではあたしの名前を言ってよ。ね、シオリン!」
夕子は明るく詩織との話に戻った。
「夕子……」
そんな夕子を好雄がじっと見つめていた。

「それじゃ、私はこっちだから。未緒ちゃんも一緒だし」
そう言って駅前通りの交差点を沙希は未緒と左に曲がっていった。
「それじゃ、さようなら……」
未緒も四人に頭を下げた。
「あ、明日、報告会だから学校へ来てね」
詩織が二人に声を掛けた。
夏休みに入っているが、今日の結果を赤井に報告に行かないといけない。
「わかってるって。
 じゃ、行きましょ、未緒ちゃん」
「はい、それじゃぁ。失礼します」
沙希と未緒の影が遠くなって、闇の中に消えていった。
「それじゃ、私と公くんはこっちだから」
詩織が右の道を指差した。
「うん……それじゃ、またね」
夕子は真ん中の道をまっすぐと歩き始めた。
「朝日奈さん、明日ね!」
公が夕子の後ろ姿に声を掛けた。
夕子はそんな二人に無言で向こうを向いたまま手を振った。
「夕子……」
好雄がそんな夕子の後を追った。
「さ、公くん、行きましょ」
詩織は夕子の後ろ姿が見えなくなると公に声を掛けて歩き始めた。


「詩織」
公が詩織に声を掛けた。
「どうしたの?」
「朝日奈さん……大丈夫かな……」
公が心配そうに言った。
「どうして……?」
「なんか……空元気って言うか……無理してるって言うか……」
公は先ほどからの夕子を思いだして言った。
「公くんも、そう思った?」
「じゃ、詩織も?」
公は思わず聞き返した。
「私たちに気を使わせないように無理してるって感じだったわよね」
「そんな……詩織はそれ知ってたのか! 俺、朝日奈さんに……」
慌てて公が来た道を引き返そうとしたとき、詩織が公の手首を掴んだ。
「詩織……」
「私たちじゃダメなの……それはわかるでしょ。公くん……」
詩織が首を左右に振った。
「でも……」
「ここは……早乙女君に任せるしかないよ……」
「好雄か……でも、あいつ……気づいてるのか?」
「ふふふ……」
公が悪友の好雄のことを悪く言おうとしているのを見て詩織が笑った。
「大丈夫よ。
 早乙女君は、私たちよりひなちゃんのこと理解してるわよ」
「え?」
公は聞き返した。
「気づいてないの?」
「あ、そうか……中学時代からの友達だからな。
 ……うん……好雄なら、大丈夫かもな」
公は頷いた。
(……ホント……こういうことに関しては鈍感なのよね……)
詩織はため息をついた。
(それが公くんらしいといえば……そうなんだけど……)
詩織は家への道を急いだ。
「あ、待ってよ、詩織!」
公が慌てて後を追った。

一人でさっさと歩く夕子に好雄が追い付いた。
「おい、夕子!」
しかし、夕子は無言で歩き続けた。
「夕子!」
好雄は夕子の手首を掴んで引き留めた。
しかし、夕子は振り向かない。
「こっち向けよ!」
好雄は夕子の肩を掴んで自分の方を向けた。
「お前……」
夕子の目からは涙があふれていた。
「…………………………」
「お前、無理してただろ、さっきから」
無言の夕子に好雄が言った。
「…………………………」
「俺をごまかそうとしてもダメだぞ」
「…………だって…………だって……」
「お前、いつもそうだもんな。
 相手に気遣って、無理して明るく振る舞って……」
好雄が夕子に言った。
「学校では『天真爛漫、いつも明るい女の子』って思われてるかも知れないけど…………
 俺は知ってるぜ……」
「ヨッシー……」
「周りに気を使わせまいと、無理してる。
 ……ホントはお前、寂しがり屋だもんな」
好雄が一人で話し続けた。
「やたらと、みんなを遊びに誘うのも……一人になるのが怖いんだろ?
 わかるよ……俺には。
 今日も、ホントは凄く悔しいんだろ。詩織ちゃんと全国大会の決勝をやるって決めてたんだからな。
 それが目の前で逃げていった。
 でも、みんなに気を使わせないように相当無理してたんだろ」
「ひっく……うう……」
夕子が好雄の胸に顔を埋めた。
「泣けよ……俺にまで気を使わなくても良いぜ……何年のつき合いだと思ってるんだ」
「うう…………うわぁぁぁぁぁ……………………」
夕子は好雄の胸に顔を埋め泣いた。
人気のない夜の町の中に夕子の声だけが響いた。

次の日、学校に詩織達がやってきた。

「そうか……うん……よくやった……うん……」
社会科教員室で赤井が詩織から地区大会の報告を受けていた。
「……朝日奈は残念だったが、ま、仕方ないだろう……で、今日は朝日奈は?」
教室に来た顔ぶれを見て赤井が聞き返した。
報告にやってきたのは、詩織と公、沙希、そして好雄と未緒だった。
「それが……まだ来ないんです」
未緒が言った。
「今日、先生の所に報告に行く約束していたんですけど……」
「そうか……」
赤井は頷いた。
「ショックがあったのかも知れないませんね……昨日は元気そうでしたけど」
未緒が言った。
「早乙女君、何か知ってる?」
沙希が好雄に聞いた。
「あいつなら……心配しなくても大丈夫ですよ」
好雄はそれだけ言った。
「昨日は相当参ってたみたいです……ただ……」
「ただ……どうしたの?」
詩織が聞いた。
「うん……ちょっと時間をやってくれよ。
 あいつなりに気持ちの整理をつける時間が必要だと思うんだ。
 大丈夫、そのうちケロッとしてやってくるって。遅刻はいつものことだし」
「早乙女君……」
詩織が言った。
「ま、いいだろ。早乙女に任せるとするか……」
赤井が頷いた。
「こういうことは若い者同士の方が気心も知れていて、何とかなるもんだ……」
「先生」
沙希が言った。
「その若い者同士って言い方……オジサンですよ」
「オジサン? 俺がか? おいおい……まだ三十だぞ……」
「あ、それじゃオジサンですよ。やっぱり……」
詩織がトドメの一撃を加えた。
教室に笑い声が響いた。
「何にしても、藤崎達は全国大会だ。
 十日しか時間がないからな。最後の総仕上げもしないと……」
赤井が手帳を捲りながらスケジュールを確認した。
「俺達は応援に回るから、ガンバレよ」
好雄が詩織・公・沙希に声をかけた。
「うん、頑張らないとね。ひなちゃんの分も……」
詩織が言った
「そうよ、ひなちゃんの敵を討たないと」
沙希も頷いた。
「そうすれば朝日奈さんも草葉の陰で喜んでくれるだろう」
公が言った。
「勝手に人を殺さないでよ!」
ドアが開いて声が響いた。
室内にいた全員がドアの方を向いた。
「朝日奈さん!」
「ひなちゃん!」
「夕子!」
「朝日奈!」
「夕子さん!」
全員が同時に叫んだ。そこにいたのは夕子だった。
「どしたの? あたしの顔に何かついてる?」
自分を見つめる視線に夕子が言った。
「あ、そっか! あんまり可愛いからびっくりしてんだ!」
夕子はにっこりと笑った。そして、
「ヨッシー、未緒。応援の準備するわよ!」
と、好雄と未緒に指示を出した。そして、詩織の方を向くと、
「シオリン!」
「な、何?」
「優勝だかんね! 優勝じゃないと許さないからね!」
「うん! 頑張るね」
詩織は大きく頷いた。
昨日の無理していた夕子ではない。いつもの夕子だ。
詩織には何よりもそれが嬉しかった。

Trrrrrr……Trrrrrr……

その時、赤井の机の上の電話が鳴った。
「はい、社会科教員室です」
赤井が電話をとった。
「外線ですか? はい、繋いでください。
 もしもし……代わりましたが……どうもこんにちわ。
 え? はい……ここにおりますが……はい……少々お待ちください……」
赤井は送話口を手で塞ぎ夕子に言った。
「朝日奈、電話だ」
言葉と同時に受話器が夕子に手渡された。
「もしもし……朝日奈ですが?」
夕子が電話に出た。
「え? えぇ!!! あ、はい! もちろん!!」
夕子が電話に向かって叫んだ。

夕子が電話を切ると詩織が尋ねた。
「何かあったの? ひなちゃん……」
「シオリン!」
夕子が大声を出した。
「やったんよ! 嘘みたいだけど……やったんよ!」
「ど、どうしたの? 誰からの電話だったの?」
「日本テレビ! 高校生クイズの担当ディレクター!
 あたしの家に電話して、ここに来てるって聞いたんだって。
 ラッキーだよね、珍しくうちの親が休みで家にいたから」
「で、どうしたの?」
沙希が後を促す。
「あたしも行けるんよ! 全国大会!」
「えぇぇぇぇぇ!!!!!」
全員が驚きの声を上げた。
「ど、どういうことですか?」
未緒が確認する。
「国立高校のチームが辞退を申し入れてきたんだって!
 なんでも学校行事で休めないんだって。
 辞退の申し入れが昨日の説明会の後で、今朝から局で検討した結果……」
夕子が言葉を切った。そして、
「三位のあたし達が繰り上げ出場なんだって!」
と言った。
「うっそ!」
「やったじゃない!」
「やったぁ!」
「やりぃ!」
「あぁ……嬉しすぎて目眩が……」
公が、詩織が、沙希が、好雄が、未緒が喜びの声を上げる。
「それじゃ……ひなちゃんも行けるのね……」
詩織が涙を流しながら言った。
「うん……シオリン……あたしも行けるよ。全国大会!」
「それじゃ……やろうね……決勝……」
「うん……」
詩織と夕子はガッチリと握手をした。
きらめき高校の暑き夏はいよいよ最高潮を迎えることになる。
次の舞台は全国大会である。

第二部・完…………第三部に続く

第三部予告

遂に迎えた全国大会!
詩織たちは数々の強豪校と出会う。
夕子は? 詩織は?
そして、詩織のパソコン通信仲間である北海の帝王の正体は?

「公くん!」
「詩織!」

(当然よ、ひなちゃんの判断は……勝つためなら……私たちを踏み台にしなけりゃ……)

「あ、だめ……ひなちゃん……あ!」


著者初の長編「栄光への道〜きらめき高校日本一への挑戦〜」第三部はただいま鋭意執筆中です。

第三部は第一、二部と同様にNIFTYのパティオ、「ときめき文庫」にて連載いたします。
パティオへの行き方はきらめき書房をご覧下さい。


では、第三部もお楽しみに…See you!


作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル終:「全国大会へ!」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数40
感想投稿最終日時2019年04月12日 09時31分00秒

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