ゲートクイズは進んでいった。
最初は正解チームが続出したが、中盤以降になると間違えて後ろに回るチームもチラホラと出てきた。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……」
好雄が前に並んでいるチーム数を数えている。
「まだ、前に九チームもいるぜ」
「そうですか……中に入ったチーム数が二十八チームですから……あと八チームですね。
通過できるのは……」
未緒が正解チーム数を数えていたようだ。
「えっと……っていうことは……」
夕子が指を折って数えている。
それより早く、北斗農業の田代が言った。
「後二チーム間違えないと朝日奈さんたちまで回らない。
俺達にもう一度回るまでは、あと三チームだ」
「そ、そうなんよ」
いかにも自分も計算できたというように夕子が答える。
「可能性が出てきましたね」
未緒がポツリと言った。
「でも、まだ……わかりません。それにチャンスは一回だけだと思った方が……」
佐藤が自分の後ろに並んでいる九チームを見て言った。
「そうよ! 公くんっていつもそうじゃない! 人の気も知らないで!」
「詩織こそ! あの間宮ってのがお気に入りなら……」
「そうじゃないの! 公くん、信じられない!」
相変わらず、詩織と公の口論は続いていた。
周りのチームはいきなり会場で喧嘩をはじめた二人を興味深そうに見ている。
沙希は必死で止めようとするが詩織と公は聞く耳を持っていない。
見るに見かねた大会スタッフが歩み寄ろうとしたときだった。
「藤崎さん! 公くん! いい加減にして!」
沙希が叫んだ。
ざわめいていた会場が一気に静まり返った。
余りの声の大きさに詩織と公も一瞬沙希の方を注目した。
「藤崎さんも……公くんも……おかしいよ……絶対に……」
沙希の目からは涙が溢れていた。
「私……クイズなんてよくわからなかったけど……
みんなで力を合わせて一つの目標に向かうって凄いなって思って……
よくわかんないんだけど……やっぱり、三人のチームワークとか……そういうの大事なんだなって思って……
そしたらサッカーと同じだなって思ったから……」
「虹野さん……」
「沙希ちゃん……」
詩織と公が沙希のただならぬ様子にたじろいだ。
「三人で力を合わせなくちゃいけないのに……どうして……
いいじゃない、どこのチームが残っても……
みんな勝ち抜こうと思って一生懸命頑張ってるんだもん。
頑張ってるんだから……どのチームも全部応援しなくちゃ……
自分たちが勝つ、負けるじゃなくて……みんな一生懸命頑張れば、それって凄いことだと思うの。
私、地区予選からずっと見てきたけど……どのチームも頑張ってる時ってすっごく格好良かったよ……
でも……今の藤崎さんと公くんって……」
沙希はヒックとしゃくり上げた。
「虹野さん……ごめんなさい……」
詩織が沙希の手を取った。
「私……考え違いをしていたわ。そうよね、みんな一生懸命なんだもんね。
虹野さんの大好きな一生懸命なんだもんね」
「沙希ちゃん、俺がつまらない意地張ったから、ごめん……」
公も沙希に頭を下げた。
「ううん……いいの……」
沙希は泣きはらした目をこすりながら顔を上げた。
「頑張ろうね……根性よ……」
詩織が沙希の口癖を真似て言った。
「うん……」
沙希が頷いた。
公もコックリと頷くと詩織に向かって言った。
「詩織……ごめん……」
「ううん……私の方こそ……ごめんなさい……」
やっと三人に笑顔が戻った。
それを見て歩み寄っていたスタッフが戻っていった。
(よし、それでいいんだ……
一般のクイズと違って高校生クイズは参加者が未熟な分だけ、泣いて笑って……
そうやって成長して行くんだ……)
スタッフルームの隅で座ってモニターを見ていたのは赤井だった。
「赤井先輩、きらめき高校うまく行ったみたいですね」
スタッフの一人が声をかけた。
赤井の学生時代の、後輩だ。
クイズ好きが高じてテレビ番組の製作会社に就職し、クイズ番組を専門にやっているという変わり種だ。
「おっと……俺がここにいることは内緒だぞ……変な誤解は嫌だからな」
赤井はスタッフに言った。
さて、表の廊下では中の騒ぎを余所にクイズが進行していた。
「江戸時代、旗本の中から命じられて、諸大名の様子を探った隠密を何番と呼んだでしょう?」
「お庭番!」
ピンポーン!
「栗の実を包む表面の固い皮を何と言うでしょう?」
「鬼皮!」
ピンポーン!
四十六チームの挑戦が終わった。
ここまで正解チームは三十四チーム。不正解は十二チーム。残る席はあと二つ。
夕子達の前にまだ二チーム残っている。このチームの内どちらかが間違えないと夕子達に回らない。
間宮たちに至っては、夕子まで含めた三チームの内、二チームが間違えないとダメなのだ。
「四十七番目、長野代表・諏訪清陵高校」
司会者の指名で四十七番目の学校が前に進んだ。
「問題、いろはガルタに使われる四十八枚の札は、いろは四十七文字に何という文字を加えた物でしょう?」
諏訪清陵の三人が顔をつきあわせて相談している。
後ろでは夕子たちや間宮たち……ずっと後ろに並んでいるすべてのチームが祈っている。
(間違えろ……間違えろ……)
「ん!」
諏訪清陵のキャプテンが代表して答えた。
ブ、ブーーーーー!!
不正解のブザーが鳴った。
「残念……正解は『京』です。後ろに回って下さい」
諏訪清稜の選手はがっくりと肩を落とすと後ろに下がっていった。
もう一回回ってくることは九十九パーセント無いだろう。
「やりぃ!」
夕子がパチンと指を鳴らした。
「これで回ってくるじゃん。たった一回のチャンスなんだから、絶対物にしようね」
その言葉に好雄と未緒が頷いた。
「うちは……後一チームです……岸和田が正解したら……夕子さんたちが間違えてくれます?」
後ろから間宮が夕子に声をかけた。
「やだよ〜」
夕子があかんべぇをした。
「やっぱり……」
間宮が肩を落とした。
「シオリンさん……俺……もうダメだ……」
相変わらず詩織を気にしている間宮に田代と佐藤はお手上げ状態だった。
「もし、俺達まで回らなかったら……如月さん、俺達の分も頑張って下さいね」
佐藤が未緒の手を握った。
「あ……あの……」
急に手を握られて、未緒は真っ赤になった。
「まだ、諦めるのは早いですよ。
もしかしたらうちが間違えるかも知れませんし」
未緒がそう言った。
「あ、佐藤! お前、抜け駆け……
あの……早乙女さん、田代がよろしくと言っていたと……虹野さんに……」
こっちは別の話題で盛り上がりだしたようだ。
「四十八番目、大阪代表・岸和田高校、前へどうぞ」
司会者が指名した。
夕子の前にいたチームが前に進んだ。
戯けていた北斗農業のメンバーがゴクリと生唾を飲み込んだ。
「問題、いわゆる五カ国対抗ラグビーの五カ国とは、イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズとあと一つはどこでしょう?」
一瞬悩んだ岸和田高校だが、直ぐにマイクに向かうと答えた。
「ニュージーランド!」
(しめた!)
間宮の顔に笑みが浮かんだ。
ブ、ブーーーー!!!
不正解のブザーが鳴り響いた。
「残念、正解はフランスです。後ろに回って下さい」
諏訪清陵と同じく、二度と回らないだろうと岸和田高校は肩を落とし後ろへと下がった。
「ふぃ〜あぶねぇあぶねぇ……」
田代が言った。
「とりあえず、これでもう一回チャンスができたな」
佐藤も言った。
「次はとるしかないか……よし、やるぞ!」
間宮が叫んだ。
「誰のせいでこんなに苦労してると思ってるんだか……」
田代がボソリと呟いた。
「さぁ、最後のきらめき高校、順番が回ってきました」
司会者が言った。
「朝日奈チームの方です。
すでにもう一つのきらめき高校は正解して中に入っています。
朝日奈さん、藤崎さんに負けないようにがんばりましょう」
「もちよ!」
司会者の言葉に夕子が元気よく応えた。
「その意気だ。問題……」
司会者が問題を読み上げ始めた。
「バレエ音楽『くるみ割り人形』の作曲者はチャイコフスキーですが、その原作の物語を書いたドイツの小説家は誰でしょう?」
司会者が夕子たちを指差した。
「へっへっへ……」
夕子はにっこりと笑った。
「よっしゃ……」
好雄もにんまりとしている。
「未緒、任せたかんね」
そう言うと夕子は未緒の背中を押して、未緒をマイクの前に押し出した。
「こういうのは未緒に任せるに限るもんね」
「あの……ホフマン……です」
未緒が答えた。
ピンポンピンポン……
正解のチャイムが鳴り響いた。
「超ラッキー!!」
夕子が叫んだ。
「正解! きらめき高校、二チーム目も一回戦突破!!」
司会者の絶叫と共に夕子たちは奥の広間へと飛び込んでいった。
「さぁ二巡目に突入します。残る席は後一つです」
司会者が言った。
「では、北斗農業」
司会者の指名で間宮たちは二度目の解答席へと進んだ。
「シオリンさん、絶対追い付くからね……」
間宮が呟いている。
田代と佐藤が不安になる。
しかし、問題は構わず読み上げられた。
「問題、秋田、米山、相撲などが有名な七・七・七・五の四句を基本とする民謡の一種を何と言うでしょう?」
間宮を無視して田代と佐藤が相談を始めた。
「これって……七・七・七・五ってことは……都々逸(どどいつ)じゃないのか?」
「多分……佐藤もそう思ったか?」
「あぁ……田代もか?」
「うん……よし、じゃ、それで行こうか……」
田代がマイクに向かって答えようとしたときだった。
間宮がマイクに向かって答えた。
「甚句!」
「ばか……お前……」
田代が間宮に言おうとしたその時、
ピンポンピンポン!!!
正解のチャイムが鳴り響いた。
「え?」
佐藤と田代がキョトンとしている。
「正解です! 三十六チームがたった今決定しました!」
司会者が叫んでいる。
間宮はスタスタと奥へと進んでいった。
「おい、間宮……」
田代が間宮に後ろから声をかけた。
「お前……」
「は? あぁ、今の問題か?
確かに都々逸も七七七五だけど、問題文の冒頭で秋田、米山、相撲と振ってあったからな。ってことは甚句が正解だろう」
そう言って間宮は歩いていった。
「さすが……」
佐藤がポカンと口を開けている。
「俺達のキャプテンってとこか……」
田代も呆然としている。
「やるときはやるってことか……」
一回戦が終了し、三十六チームに絞られた。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | 栄光への道 第3部 全国大会編 |
サブタイトル | 04:「一回戦終了」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子 |
感想投稿数 | 27 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月09日 16時01分40秒 |
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