「きらめき高校、トップで通過!」
司会者が絶叫し、詩織たちは予選突破をあっさりと決めた。


「なんか……あっけないのね……」
沙希が詩織に囁いた。
「そうね……でも、いいんじゃないの? 難しいよりは……」
「でもさ……詩織……」
公が横から詩織に話しかけた。
「あんまり易しい問題ばかりだと……朝日奈さんたちが……」
「公くん」
詩織が公の方を振り向いた。
「地区予選は、確かに勝ち抜けるチームが二チームだったけど……
 全国大会では最後まで勝ち残れるのはたった一チームなのよ。
 わかる?」
「……それが……なにか?」
「強力なライバルを思いやってる暇はないの……
 自分たちのことで精一杯なの!」
詩織はプィッと横を向くとさっさとホールに入っていった。

(何よ……公くん……
 予選の時からずっと『朝日奈さん大丈夫かな?』ばかりで……
 ひなちゃんが良いなら……ひなちゃんと……)

もっとも、詩織の機嫌が悪いのが自分のせいだとは気づかないのが公である。
その時も、

(詩織、今日は機嫌が悪いな……もしかしたら……あの日かな?)

などと考えていた。

「違うわよ!」
詩織が振り返った。
「え!(ど、どうして……??)

「公くん」
沙希が慌てる公に囁いた。
「もう少し……ね? わかるでしょ?」
「何が?」
「……」
きょとんとしている公に沙希はため息をつくと中へと入っていった。

「凄い! 凄いよ、シオリンさん!」
間宮がブツブツ言っていた。
「さすがはシオリンさん! 完璧だ!」
「おい……間宮……」
そんな間宮に田代が言った。
「そんなに力を入れるほどの問題か?
 結構基本問題だったぞ?」
「理屈じゃないんだよ! シオリンさんは……やっぱり凄いよ!」
しかし、間宮には通じていない。
「それにさ……」
横から佐藤も言った。
「答えたのは藤崎さんじゃなくて、隣の主人とか言う奴だったろ?」
「そうだったか?」
間宮が佐藤に尋ねた。
「は……こいつ……
 おい、田代、気をつけようぜ。
 間宮は藤崎さんしか見えていないから……」
「そうだな……」
田代が頷いた。
「うん……でもやっぱり、シオリンさんは……最強だ!」
間宮はそんな二人に構わず続けていた。

「では続いて、予選二位。
 優勝候補の筆頭です。奈良・東大寺学園」

予選二位の奈良県代表・東大寺学園が解答席に立った。
「問題。
 『お寺で、釣り鐘をつくために吊されている棒のことを何と言うでしょう?』
 さぁ、来い!」
司会者が東大寺学園を指差した。
「撞木(しゅもく)」
東大寺学園の選手があっさりと答えた。
正解である。
東大寺学園の選手はにこりとも笑わずに中へと入っていった。

「さすがに東大寺学園は強いですね」
未緒が最後尾にいる事も忘れて、敵チームを誉めた。
「そんなこと言ってる場合じゃないじゃん!」
夕子が未緒に文句を言っても仕方がないとわかっていながら不平を言う。
「でもさ……」
好雄が横から言った。
「あの問題なら、お寺の多い奈良、しかも東大寺学園ならできて当然だろう?」
「確かに……そうですね」
爪を噛んでいらいらしている夕子を横目に未緒が頷いた。
予選通過はあと34チーム……


「う〜ん……やっぱ、東大寺は強いな……」
田代と佐藤がマークすべきチームとして東大寺に注目していた。
「やっぱり……シオリンさんだ……うん……そうに決まってる!」
間宮は完全に二人に無視されていた。

三番目の鹿児島・ラサールが正解、四番目の鳥取・米子東も正解した。
ここまで不正解チームは出ていない。
「では予選第五位、北海道・北斗農業高校」
司会者が間宮たちを指差した。
三人はゆっくりと解答席に立った。
「うん……これを取れば、シオリンさんと同じだ。うん……」
間宮はなにやらまだブツブツ言っている。
「いいか? 行くぞ!
 問題、『食べ過ぎは良くないことを、俗に、腹八分目に何いらずと言うでしょう?』

司会者が読み終えると同時に三人を指差した。
「おい、間宮、わかるか?」
田代が間宮に囁いた。
「……」
間宮は返事をしない。
「おい、間宮!」
佐藤が間宮の肩を叩いた。
「え?」
間宮が顔を上げた。
「答、わかったのか?」
「あ、……えっと……水!」
間宮が慌てて答えた。

ブ、ブーーーー!!

「残念、正解は腹八分目に……医者いらずです。
 北斗農業、一番後ろに回って下さい」

詩織たちは中へ入ると籤を引かされた。
引いた番号の席に付けというのである。


「あそこだな……」
公は素早く籤に書かれた番号の席を見つけると席に着いた。
沙希と詩織も席に着く。
「凄い会場ね……」
沙希が会場になっているホールの天井を見上げて言った。
「そうね……」
詩織が呟いた。
後から遅れて、東大寺学園、ラサール、米子東と強豪が入ってくる。


テーブルは九人掛けになっている。各テーブルに三チームずつ座れるようになっているのだろう。
詩織たちの席に来るチームはまだ無い。
各チームがバラバラになっている。
「すごいな……どのチームも正解してる……朝日奈さんたち、やばいかな……」
公が入り口の方を見ていった。
また、詩織が不機嫌そうな顔になる。
「ん、んん!」
沙希が咳払いしながら公の脇腹を肘でつついた。
「いて! ……虹野さん、痛いよ……」
沙希はため息をつくしかなかった。

「!!」
詩織が入り口を見て目の色を変えた。
順調にいけば、次は第五位の北斗農業の筈である。
なのに……入ってきたのは予選第六位の山形県・山形東だった。
「間宮くん、間違えたんだ……」
詩織がポツリと呟いた。
「え? あ、ホントだ。間違えたんだ……」
公は嬉しそうに言った。

(あのチーム強そうだったモンな……
 強豪が一つでも落ちるのは良いことだよ。
 朝日奈さんのチームまで回る可能性が高くなるし……)
純粋にそう思っていたのだった。

「公くん……そんな言い方はひどいわよ」
詩織が公に言った。
「ひどいって……何が?」
「間宮くんは、私の友達よ。
 その人が間違えたのに喜ぶなんて……公くん、そんな心の狭い人だったの?」
「な、何言ってるんだよ! 俺、そんなつもりで……」
公と詩織が口論を始めた。
「ちょ、ちょっと……公くん、藤崎さんも……落ち着いて!」
沙希が慌てて二人の間に入った。
「そうか、わかったぞ!
 詩織のさっきからの態度、間宮ってのが気に入ったんだな。
 そりゃ、よかったね。長らく会いたかった人に……通信上でしか会えなかった人に会えたんだからな。
 でも朝日奈さんは決勝をやろうって誓った仲じゃなかったのか!
 その朝日奈さんのことを心配しないで、間宮とか言う奴を心配して……
 言ってることとやってることが違うじゃないか」
慌てて沙希が間に入った。
「公くん……藤崎さん……」
「公くん! ひどいよ……私……」
沙希の制止も聞かず、二人は口論を続ける。
東大寺学園を筆頭に他のチーム、後から入ってきたチームも興味深そうに詩織たちを見ている。

「どうしたん? 間宮くんたち、間違えるなんて……」
夕子が後ろにやってきた間宮たちに声をかけた。
「朝日奈さん……だったよね……いや、ちょっとこいつがね……」
佐藤が間宮を指差して呟いた。
「間宮くん? どうかしたん?」
夕子がボーっとしている間宮に声をかけた。
「……」
間宮は返事をしない。
「どったの?」
「実は……」
田代が夕子の耳に囁いた。
「恋煩い……ってやつでしょうね」
「え??」
夕子は思わず聞き返した。
「何! 聞こえたぞ!
 ようしチェックだチェック!」
田代の言葉を聞きつけた好雄がメモを取り出す。
「ヨッシーはうるさいの!」
夕子が好雄の頭をパカーンと叩くと、間宮の方を見た。
「……シオリンさんか……やっぱいいよな……」
そう呟く間宮。
「あらら……重傷だね」
「あのう……佐藤さん?」
未緒が隣にいた佐藤に声をかけた。
「実は藤崎さんは……」
未緒が話しかけたときだった。
「はい、未緒! それは黙っていようね!」
夕子が未緒の口を塞いだ。
「んぐんぐ……ううおあん(夕子さん……)
口を塞がれたので未緒は話すことができない。
「黙っていた方が面白いっしょ!」
「んぐう……ぷはっ! でも……」
やっと手を離してくれた夕子を未緒はじっと見た。
「あ、なる……ほど……」
好雄がポンと手を打った。
「なんですか? なんなんですか?」
田代と佐藤が夕子達に尋ねる。
「いいっていいって……ちょっち間宮くんには気の毒だけどね……
 これも人助けだと思って……ね?」
夕子はニヤニヤと笑っている。
(こいつ……間宮を利用して、公と詩織ちゃんの仲を何とかするつもりだな……
 可愛そうに……間宮は当て馬かよ……)
好雄は横で間宮を気の毒そうに見ていた。
「でも……」
未緒が何か言おうとするのを夕子が再び口を塞いだ。
弾みで眼鏡がずり落ちる。
「未緒、とにかく黙ってる!」
「あ、……はい……でも……」
未緒は眼鏡を拾うとかけ直しながら仕方なく頷いた。


(あ、……如月さんって子……眼鏡を取ると……可愛い……)
未緒の隣にいた佐藤が未緒の素顔を見てちょっとドキッとしていた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル03:「恋する年頃」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子
感想投稿数26
感想投稿最終日時2019年04月10日 02時26分13秒

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