「通過チームは、こちらに集合して下さい」
スタッフが通過チームを隣の小部屋に誘導していく。詩織たちもついていった。

「取り合えず、今日のクイズはここまでです。今夜は全員このホテルに宿泊してもらいます。
 鍵を渡しますので取りにきて下さい」
スタッフはそう言って各チームに鍵を配って行った。
ツインルームにエキストラベッドを入れた部屋で一チーム一部屋ずつ割り当てられていく。

「どうなるんだろう……俺たち」
公がその様子を見て言った。
きらめき高校は男女混成チームだ。
現在残っているチームで混成チームはきらめき高校の二チームのみである。
「そうね……まさか同室ってことはないだろうけど」
沙希が言った。
「私は……別に構わないけど……」
詩織が呟いた。
「え? なんか言った?」
夕子が詩織に尋ねる。
「あ、ううん……なんでもないの」


「つぎは……北斗農業は1033号室です」
「あ、はい」
間宮が鍵を受け取った。
「最後に……きらめき高校は混成チームですので申し訳ないですけど別れてもらえますか?」
スタッフが詩織と夕子に言った。
「どちらも男性が一名ですので、男性同士で一部屋……1034です。
 それから女性が4人いますので、それで二部屋……1035と1036を使って下さい。
 この二部屋は中でドア一枚でつながってますから丁度いいでしょう。
 あ、他のチームの部屋もそうですけど、二部屋づつ中でつながってますので気をつけて下さいね。
 一応、男女の部屋はつながっていないようにしましたので」
スタッフが説明した。
「はい」
詩織がそう言って鍵を三つ受け取った。
一つを公に手渡す。
「はい、公くん。早乙女君と同室ね。ひなちゃんは……」
と言って夕子に一つ鍵を渡そうとした。
「あ、うん。そいじゃ沙希、行こっか」
「え? わ、わたしが……ひなちゃんと?」
「え? でも……一応、同チームは私なんですから……私の方が……」
未緒がそう言ったが夕子は聞かなかった。
「だーめ、あたしは沙希となの。ね?」
「で、でもね……ひなちゃん……夕べみたいなことは……」
「あはは……それは内緒。
 どうせ、隣とつながってるんだからさ。一緒じゃん」
「そ、そうね……大丈夫よね……」
沙希はちょっと安心した。隣とつながっているということは、詩織たちもいる。
夕べのようなことはないだろう……
(ところで夕べのことって?)
詩織は首を捻ったが、気にしないことにした。
「これで、襲撃はないですね」
間宮が詩織に言った。
「え?」
「ほら、襲撃クイズとかいって部屋に押し掛けてきてクイズってのが昔あったでしょ。
 きらめき高校がこういう分かれ方をしていたら……そういうことはないでしょ」
「あ、そうね……そうだわ」
詩織は納得した。
「では、明日は8時に朝食、3階のレストランでバイキングです。
 その後、9時に1階のロビーに集合して下さい」
スタッフの言葉で一旦解散となった。

「ここか……」
公はドアを開けた。
隣でも間宮が鍵を開けて入ろうとしていた。
「あ、ってことは……うちの部屋と間宮君の部屋はつながってるのか?」
公が隣にいる間宮に言った。
「そういうことかな? それじゃ、よろしく」
「いや、こちらこそ」
公は間宮に軽く頭を下げた。
それから、中へ入っていく。
「なぁ、好雄」
公は荷物を置いて好雄に言った。
「間宮君が俺に何か言いたそうにしているんだけど……
 俺、なんか悪いことでもしたのか?」
「……あ、……さ、さぁな……」
好雄はそう言って肩を落とした。
(……こいつ……絶対長生きするだろうな……)


「ひゃっほー!」
部屋に入ると夕子はベッドに飛び乗った。
「……勝っちゃったね」
沙希が荷物を整理しながら言った。
「あったりまえじゃん。あたしたちは決勝まで行くんだから」
「そうね……そうよね」
沙希がそう言っているにもかかわらず、夕子は部屋の奥にあるドアのロックを外した。
「シーオリン!」
隣の部屋に飛び込んでいく。
「あ、ひなちゃん……びっくりした」
詩織はバッグの中から着替えを出しているところだった。
「ねぇねぇシオリン、この後どうすんの?」
「どうすんのって……別に……お風呂に入って……寝るだけかな」
「えぇ! 寝ちゃうの?」
夕子が不満そうにしている。
「だって夕子さん、もう十時ですよ。
 夕方からクイズづくめでしたから」
未緒が夕子に言った。
「そうよ、それに明日も朝は早いんだから」
「だってぇ……」
「もう、ひなちゃん! 遊びに来ているんじゃないのよ」
そう言いながらドアを通って沙希が入ってきた。
「沙希ったら……堅いんだから……もう。
 そんなことじゃ男の子に好かれないわよ」
「か、関係ないでしょ……ひなちゃんには……」
「あ、赤くなった! やっぱ、サッカー部のキャプテン?」
「ち、違うわよ……」
沙希が慌てて否定する。
「じゃぁ……北斗農業の田代君!」
「え……そ、そんなんじゃ……」
瞬く間に沙希の顔が赤く染まっていった。
「沙希ったら……かぁわいい! こりゃ白状させないとね……」
夕子は沙希ににじり寄っていった。
「だ、ダメよ……ひなちゃん……夕べの続きなんて……」
沙希が後込みする。
「あれ? あたし、まだ夕べの続きなんて一言もいってないのに……
 あ、そうか続きをやって欲しいんだ。沙希は……」
「ひ、ひなちゃん……」
脇で夕べの出来事を知らない未緒と詩織がキョトンとしていた。
(だから夕べのことって、いったいなんなの??)


「こんばんわ〜」
突然部屋の奥のドアが開いて、北斗農業の三人が入ってきた。
「お、来たね。飲みねぇ飲みねぇ」
好雄はスタッフの目をくぐり売店の自販機で買ってきたビールを三人に勧めた。
「さっすが、用意がいいっすね」
田代と佐藤は早速腰を下ろすと缶のプルを開けた。
「じゃ、こっちも……」
間宮がポケットからピーナッツやするめを取り出す。
「ほう、そっちも用意がいいなぁ」
公が感心している。
「どうせ、夜はこうなると思ってたんでね」
佐藤がチューハイの缶の詰まったバッグを中央に置いた。
「三人で飲もうと思ったんだけど、折角だからこっちでみなさんと、ってわけで」
田代が旨そうに缶を一本空にした。
「いい飲みっぷりだねぇ……
 でも田代君はさっき……未成年の飲酒はダメだって言ってたんじゃないか?」
公が田代に言った。
「あはは……こいつ、飲んべぇのくせに隣で虹野さんがお酒はダメだって言うから調子合わせてやがったんだ」
佐藤が笑いながら言った。
「え? そういうことだったの?」
公が初めて知ったという声を出した。
「主人……君、あれだけ見え見えの態度で気づかなかったの?」
佐藤が言った。
「こいつはこういう奴なんだよ」
好雄が笑った。
「何が言いたいんだよ」
「ばーか、お前はわかんなくていいんだよ」
横で文句を言う公に好雄は答えた。
「ま、いいか……
 そうだ、好雄。例の好雄メモ、田代君に教えてやったら?」
「お、そりゃいいな……えっと虹野……虹野……」
「なんっすか? その好雄メモって……」
怪訝そうにする田代に好雄が言った。
「あったあった……いいか、耳かっぽじってよく聞けよ……」
好雄はメモの内容を田代に読み上げ始めた。
「あ、いいな……早乙女君、俺に如月さんの……」
嬉々として好雄に頼む佐藤を横目に間宮は何か言いたそうに公を見ていた。


「きゃ……ちょ、ちょっと……ひなちゃん……だめだって……」
「じゃぁ、白状しなさい」
「ダメよ……そんな……
 田代君は、知り合ったばかりで、いい友達だもん……」
「嘘ばっかり……じゃないと……こうだぞ」
ベッドの上で沙希が夕子に組み伏せられていた。
既に沙希のTシャツは捲り上げられて夕子の指が脇の下をくすぐっている。
「朝日奈さん……ちょっとやりすぎでは……」
横で未緒が心配そうに見ている。
「あ、未緒は沙希を庇うんだ……
 いいよ、じゃ、未緒はどう思ってんの、佐藤君のこと」
「そ、そんなこと……ここでは……」
「ま、いいか……今はとりあえず沙希だ。こりゃ……どうだ」
「ダメ……あん、そんなとこ……ダメだって……あん……やん」
夕子の指は沙希の脇腹からだんだん正面の方に廻ってきている。
胸と脇の境目あたりをもぞもぞと動いている。
「もしかして……夕べもこんなことやってたの?」
詩織が面白そうに見ている。
「ちょ……ちょっと……藤崎さんまで……まさか……」
「私も入れて!」
詩織はそう言うと沙希に飛びつき、沙希のスカートをたくし上げた。
「きゃ! ふ、藤崎さん!」
「わ、可愛いパンツ! ブラとお揃いなんだ」
そう言いながら、詩織は沙希の太股をくすぐり始めた。
「さぁ、虹野さん。白状しなさい、田代君のことはどうなのかな?」
「藤崎さん……」
未緒が眼鏡をずり落ちさせながら呆然として見ていた。


「おおい、公。
 女っ気がないのもなんだ。詩織ちゃんたちを呼んで来いよ」
好雄が公に言った。
「え? でも……」
「その方が彼らも嬉しいだろうからさ、な?」
「あ、はい!」
佐藤と田代が揃って返事をした。
「俺、行ってこようか?」
間宮が立とうとしたとき、公が制した。
「いいよ。俺、行って来る」
公はそう言うと立ち上がって部屋を出ていった。


コンコン……

「あれ? 返事がないぞ?」

コンコン……

公は再度ノックをした。しかし、返事がない。
「おかしいな……どこかへ行ったのかな?」
そう言いながら公はドアのノブを回した。
ガチャリ……
静かに音を立ててドアが開いた。
「? オートロックじゃないんだ?
 ま、いいか。おーい……って……えっ!
公は部屋の中に入っていって目を丸くしていた。

「こりゃ……どうだ沙希!」
「虹野さん、ここ弱いんだ……可愛い……」
「あんあん……ちょ、ちょっと……あ、そこ……ダメ……やんやん……」
「どうだ、沙希。白状しないと……ブラ取っちゃうぞう」
「だ、ダメよ……ひなちゃん……」
これだけ騒いでいてはドアのノックも聞こえないだろう。

ガチャリ

『おーい……って……え!』
部屋の入り口で声がした。
全員が一斉に声がした方を見た。
「こ、公くん!」
全員が声を上げた。

「な、何を一体……」
公は目の前の光景に驚いていた。
半裸状態の沙希を夕子が組み伏せ、詩織が悪戯していた。
「ち、違うのよ……公くん……これはね……そうじゃなくて……」
驚きで力を緩めた夕子を跳ね飛ばすと、沙希は慌てて身繕いをする。
「公くん、ノックくらいしなさいよ」
「したんだけど……」
言い訳する公を詩織は引きずって部屋の外へ出ていった。

「もう……見たんでしょ……」
廊下の隅にある自販機コーナーのソファに腰掛けて詩織は公に言った。
「いや……その……」
公はしどろもどろになる。
「ふふふ……なーんてね。公くんは悪くないもんね」
詩織が笑って言った。
「詩織……」

「おい、公はえらく遅いな……」
好雄は戻ってこない公を気にして言った。
「あ、俺、見てくる」
間宮が立ち上がって出ていった。
「あ、おい! って、行っちゃったよ……
 ま、仕方がないか……
 でも、可愛そうだよな……なにしろ詩織ちゃんは……あっと、これは」
好雄は間宮の気持ちを考えて黙った。
「じゃ……やっぱり?」
田代と佐藤が好雄に尋ねた。
「……見え見えだよな……
 最も、気づいていないのはあの大馬鹿の朴念仁ただ一人なんだけどな……」
好雄は二人に今の詩織と公の状況を説明していった。


「シオリンさん……」
間宮は廊下に出ると詩織の部屋の前まで行った。
その時、廊下の奥から詩織の声が聞こえてきた。間宮は声の方に静かに歩いていった。

「私……今ここにいるのは公くんのお陰だもんね」
「そんなことないよ」
詩織の言葉を公は否定した。
「ううん……そうなの……
 だって学校で赤井先生とのクイズ勝負の時、公くんは私を助けてくれたし……」
「あれは……関係ないよ……」
そう言いながら、公はポケットから小銭を出すと自販機でジュースを買った。
そして、一本を詩織に手渡した。
「ありがとう……」
詩織は缶を受け取ると公に向かって言った。
「公くん……私、どうして公くんを誘ったかわかる?」
「え?」
「だから、どうして、公くんを同じチームに誘ったかって聞いてるの」
「……どうして?」
詩織の言葉に答えに窮した公が聞き返した。
「公くんと……一緒に出たかったの……」
「え? 今なんて言ったの?」
ジュースの缶を開けるのに必死になっていた公は詩織の言葉を聞き漏らした。
「……ふふふ……いいの。今はいいの。
 さ、明日も頑張りましょう」
詩織は立ち上がった。
「行こうね、決勝まで……」
詩織はそう言うと自分の部屋に戻っていった。公もその後に続いて行った。


「シオリンさん……やっぱり……」
階段の脇に身を隠した間宮は二人のやり取りを反芻していた。
「やっぱり……主人君を……
 それなのに……あの主人って奴……聞きしにまさる朴念仁だな……
 あれじゃシオリンさんが可哀想じゃないか……」

間宮は何か吹っ切れたような、そんな表情で二人の後ろ姿を見ていた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル08:「束の間の休息」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数
感想投稿数0
感想投稿最終日時2019年04月20日 12時40分27秒

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