「おはようございます」
翌朝、荷物を持ってロビーに集合した詩織たちを司会者が出迎えた。
「夕べはよく眠れたでしょうか?」


「ふぁ……」
夕子が大きなあくびをした。
「ひなちゃん、お行儀悪いわよ」
沙希がたしなめる。
「んなこと言ったって、沙希が朝早くから叩き起こすから……」
「しょうがいないでしょ、クイズの時間があるんだから」
そんな話をしている二人を横目で見ながら公は考えていた。
(だったら、もっと早く寝ればいいじゃないか。あんなことしてないで……)


「それでは、高校生クイズ全国大会、二日目。第三回戦をこれから開始いたします」
司会者は進行を続けている。
「いったい何かしらね?」
「例年だったら、ここで推理クイズとか言って、局がタレントさんを使って撮影したミステリー事件ドラマの真相当てなんかをさせるんだけどね」
詩織が首を捻っていると、後ろにいた間宮が言った。
「そうよねぇ……今年もそうなのかしら」
「でもさ……さっき部屋を出る前に、窓から表を見たら……」
間宮が話を続けた。
「バスが三台止まっていたんだ。十二組、三十六人に対してバス三台は多すぎるだろ?」
「そうねぇ……公くんはどう思う?」
詩織が隣にいる公に尋ねた。
「俺がわかるわけないだろう」
公はそう答えた。


「では、三回戦のルールを説明します」
司会者が説明を始めた。
「これからみなさんには、知力・体力・時の運に三人が別れてもらい、それぞれのコースに別々にチャレンジしてもらいます。
 各コースをクリアした人から、この上のメイン会場に戻ってもらいます。
 そして、三人が無事揃ったチームがこのクイズの勝ち抜けとなります」

「うぉぉぉ……」
どよめきが起こる。
「各チームは今から十分で、知力・体力・時の運に挑戦するメンバーをそれぞれ選んで下さい。
 なお、つぎの準決勝に進めるのは……たったの五チームです」


「どうするんだ?」
好雄が夕子に尋ねた。
「そんなの決まってるじゃん。知力が未緒、体力がヨッシー、あたしは時の運。
 これで問題ないっしょ?」
「わ、私が……知力ですか?」
「そうにきまってるじゃん、うちから未緒が知力に行かなくて誰が行くんよ」
「ま、妥当な線か……って、お前が一番楽なんじゃないか?」
「まっさか……いったい何をするのかもわかんないじゃん」
夕子はケロリとして言った。


「俺は……体力だな」
公が詩織に言った。
「そうねぇ……虹野さんはどれがいい?」
「わ、わたし?
 えっと……私は……あんまり自身無いから……運じゃダメかな」
「わかった……虹野さんが運ね……ってことは私が知力か」
「そうよ、やっぱり藤崎さんは知力でないとね」
沙希はにっこり笑って頷いた。


「俺……運でいいや」
田代が真っ先に言った。
「あんまり自身無いからさ。
 運だったら足引っ張ることも少ないと思うし……」
「それでいいのか? 田代がいいんだったらいいけど……間宮はどれがいいんだ?」
佐藤が間宮に尋ねた。
「え? あ、そうだな……俺、体力に行ってもいいか?」
「? いいのか、それで?
 お前はてっきり、知力に行くと思ってたから……」
「ちょっとな……」
間宮はそう言ってごまかした。
(主人……あいつは体力だろうな……
 だから俺も……
 あいつがどれほどの器か……見極めさせてもらいたいし……
 佐藤なら大丈夫だ。地区予選の筆記クイズでは俺より成績良かったくらいだし……)
「うん、大丈夫だ」
間宮は一人で頷いていた。


「各チームよろしいでしょうか?
 では、正面のバスにのって下さい。
 前のバスから順に知力号・体力号・時の運号です。
 間違えないようにバスの横に書いてありますから」

司会者が全員に向かって言った。
「私はこの会場で待っています。早く帰ってきて下さいねぇ。ばいばーい」
手を振る司会者に促され、全員がぞろぞろとバスに乗り込み始めた。

「本日は、高校生クイズ、時の運号を御利用頂きまして誠にありがとうございます。
 それでは本日の皆様のお相手をいたします、アナウンサーを御紹介いたします」

バスガイドの紹介で、局のアナウンサー……メイン司会者の数期後輩……がバスの中で全員に挨拶をした。
「ねぇねぇ沙希……あのさ……」
夕子が隣の席に座っている沙希に話しかけた。
「え? ひなちゃん、何か言った?」
沙希が慌てて夕子の方を向いた。
「もう、聞いてなかったな? あ、そうか。ごっめーん。そっちに田代君がいたんだ。
 田代君、替わってあげよっか」
「あ、いいですよ……」
田代が通路を挟んで反対側の席で真っ赤になっている。
「夕べ、うちの部屋にきたら、“せくしぃ”“あだるとさき”が見られたのにねぇ」
「あ、そんなのがなくても虹野さんは素敵ですから」
田代が真っ赤になった。
「やだ……田代君……」
沙希も真っ赤になった。


一方、知力号では未緒・詩織・佐藤の三人が談笑していた。
「藤崎さんはどんなことをやると思いますか?」
佐藤が詩織に尋ねた。
「そうねぇ……如月さんは、どう思う?」
「そんな……私は、全く……でも、知力を最大限試されるんでしょうね?」
「そうね……佐藤君は、自信ある?」
「そんな、全く無いですよ。如月さんの後をついて行くだけで精一杯ですから」
「ふ〜ん……そうなんだ」
詩織が意味ありげに未緒を見た。
「……そ、そんなこと……」
未緒は恥ずかしさのあまり、俯いてしまった。


体力号は首都高速をひた走っていた。
「いったいどこまで行くんだ」
好雄が目を白黒させていた。
他のバスと違い、このバスは相当遠くまで行くようだ。
「体力か……あんまり自信がないんだけどなぁ……」
公が不安そうに言った。
「でも、やるしかないでしょ。チームメイトのために」
「そうだな、公。間宮の言うとおりだな」
「そっか、自分だけの問題じゃないんだよな。
 全員が頑張らないと抜けられないんだな」
公が納得したように言った。
「僕は、佐藤や田代のためにも体力の続く限り頑張らないといけない。
 だから、主人君も、虹野さんや……主人君を信頼しているシオリンさんのために頑張らないとだめなのさ」
「そっかぁ……詩織のためか……でも詩織は俺のこと信用していないだろうなぁ」
「公、お前……」
「そんなことない!」
好雄が言いかけたのを制止して、間宮が公に言った。
「シオリンさんがどれだけ主人君のことを信頼しているか……信用じゃなくて信頼なんだ」
「へ?」
公が怪訝そうな顔をした。
「シオリンさんは……虹野さんや……朝日奈さん、多分俺もそうだと思うけど、ものすごく信用してくれていると思う。
 でもそんな俺たちでも、シオリンさんに信頼されているか、っていうと……多分そんなことはない。
 シオリンさんが心から信頼しているのは……主人、お前だけなんだ。
 信頼っていうのは、信用と違って、心の奥底から、相手を信じきることなんだ。
 たった一日だけど、シオリンさんに直に会ってよくわかったんだ。
 シオリンさんの本当の気持ちが」
「間宮の言うとおりだな……」
好雄が呟いた。
「好雄……」
その時、バスが止まった。

「WELCOME TO 時の運ステージ!」
司会者が叫んだ。
時の運号に乗り込んだ夕子たちがバスを降りた場所とは……
「ここって……」
沙希が口をアングリと開けている。
「パチンコ屋さんですよね」
田代が言った。
「みなさん、パチンコをされたことがある人はいますか?」
司会者が尋ねる。
誰も返事をしない。
「そうですよね。いるわけがないんです。
 あたりまえです。法律で禁止されているんですから。
 しかし、今日は特別です! みなさんにはこれからパチンコをしてもらいます」

司会者が貸切になっているパチンコ屋を指さした。
「全員にクイズを出題します。正解すれば、玉を二百発差し上げます。
 それをもって中に入りパチンコをやって下さい。
 無事、二千発出した方は、ここから三百メートル離れたところにあるメイン会場のホテルに大急ぎで戻って下さい。
 玉が無くなった人は、またここでクイズに挑戦して貰います」

「げぇぇぇぇ!!」
どよめきが起こった。
その中で、沙希が隣の田代に話しかけた。
「あのね、パチンコが運だって言うのはわかるんだけど……」
「どうしたの?」
「クイズがあるんなら、純粋な運比べとはちょっと違うような気がしない?」
この沙希の疑問は、この後直ぐに解消される。


「ようこそ、知力の館へ」
知力号に乗った詩織たちは図書館の前でバスを降りた。
「今日はこの図書館のホールが知力の会場になります。どうぞ、入館して下さい。
 あ、調べ物をしている人がいますね。みなさん、静かにしましょう」

詩織たちはぞろぞろと二階ホールへと上がっていった。
「では、知力のルールを説明します」
司会者が前で説明を始めた。
「みなさんには、ペーパークイズ百問……三択ではありません、答を書き込んでもらう形式です。
 それにチャレンジしてもらいます。出来た人は解答用紙を持ってきて下さい。採点いたします。
 全問正解すれば勝ち抜けです。
 表に用意した自転車にのって、一キロ離れたメイン会場のホテルに戻って下さい」

「全問正解……きつそうですね」
未緒が呟いた。
司会者が説明を続ける。
「全問正解できなかった場合は……間違った数をお教えします。
 しかし、どれが間違ってるかまでは教えられません。
 そして……答を調べるために、この図書館の資料を使って下さってけっこうです。
 ちゃんとここの司書の方にお願いしてあります。
 ただし、答は絶対教えないように言ってありますので、『この答を教えて下さい』という質問をしても無駄ですのでそのつもりで」

「うっへぇぇぇ!!!!!」
どよめきが起こった。


「体力の会場へ、よくぞ参られた」
体力号は数キロ走った後で、スポーツセンターに到着した。
「嫌な予感がしねぇか?」
好雄が不安を口にした。
「ルールを説明します。今日はここはみなさんの貸切です。
 そして、ここの施設を自由に使っていただけます。
 ロッカールームで体操用の服に着替えて頂いた後で、何でも自由にやって下さい。その前に……」

司会者がいったん言葉を切った。
「みなさんの体重を計らせて頂きます。
 そして、体を動かして体重が0.5キロ……女性はハンデとして0.3キロ、減った人はここから五キロ離れたメイン会場のホテルにマラソンで戻って下さい」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
どよめきが起こった。


そして。

三カ所の会場で同時に三回戦が開始された。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第3部 全国大会編
サブタイトル09:「知力、体力、時の運」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子, ほか多数
感想投稿数0
感想投稿最終日時2019年04月09日 09時17分47秒

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