サッカー部と同様の弱小な空手部に道場なんて物はない。
普段の練習も部室裏の芝生の上だ。
今、そこで沙希と純平が向かい合っていた。
「やぁ!」
沙希が純平に挑みかかる。しかし、あっさりと純平はこれをかわす。
(マジで勝てると思ってんのか?)
「やぁ! とぉ!」
いくらまじめに練習しない純平とて年に数回は試合にも出ている。
沙希に一本決められるわけがない。
「やぁ! やぁ!」
(昔っから……こいつはいつもマジで……変わんないのは……一生懸命な性格だけだな)
純平の思いをよそに沙希は何度も何度も挑みかかる。
が、全てあっさりと純平にかわされてしまう。
そのうちに沙希の道着の前がはだけてくる。
本来、女子は道着の下にTシャツを着るのだが、沙希は下着だけだ。
(………………見えてるぞ……沙希……)
そう思って油断した隙だった。沙希は純平の体に突きを入れようとした。
思わず反射的にこれを寸前でかわした純平は、弾みで沙希のわき腹に手刀をたたき込んでしまった。
(やべ、……マジで入れちまった……)
ドサっと沙希が倒れる。
倒れる沙希を純平が慌てて抱きとめる。そしてそぉっと地面に横たえた。
胸元が大きく広がっている。
道着の前を合わせて服装を整えてやると、背中に周り軽く気合いを入れた。
「……あ、……」
沙希の意識が戻る。
「私……負けちゃったんだね……」
「バーカ……お前に勝ったところで自慢になるか……」
「でも……でも……サッカー部が……公くんがかわいそう……」
(俺もかわいそうだよ……幼なじみの好きな子を取られちまったんだぞ……)
そう思いながら純平は立ち上がった。
「どこ行くの?」
沙希が純平に尋ねる。
「勝負するなら……あいつだろうが」
そう言って純平はグラウンドに向かった。

グラウンドでは公が一人でリフティングをしている。
最後の練習になるかも知れない。その思いが公を集中させていた。
「おい、公!」
純平が公に声をかける。
「勝負しろ!」
「どうしたんだよ、純平」
構わず、純平は続けた。
「PKだ、俺が蹴ってお前が止める。一本勝負。
 素人の俺に決められるようならサッカー部は廃部だ。
 もし、お前が止めたら……」
「止めたら?」
「サッカー部に入ってやる」
公は純平の目を見た。
そして、遅れてグラウンドにやってきた沙希を見た。道着姿の沙希を見て……
「わかった、一本勝負だな」
と純平に告げた。


ゴールマウスの前に公が立つ。構えを取る。
ペナルティスポットの上に置かれたボールの後ろに純平が立つ。
二歩、三歩と下がり構えにはいる。
タタタ……
純平は軽く助走を取り、渾身の一撃でボールを蹴りだした。
バシッ!
「!!」
公には純平の足の振りが全く見えなかった。それくらい速い蹴りだった。
空手部所属は伊達ではなかった。
そして、同時にボールも見失った。
(ボールが……見えない……)
ガッシャーン!!!
大音響がしてボールはゴールマウスの遥か上空の金網に突き刺さった。
大ホームランだ。
「くっそう!! 外しちまったい!」
そう叫んで純平はグラウンドに拳を叩きつけた。

「それじゃ……それじゃ……」
沙希の目が輝いた。
「十一人揃ったのね!」
沙希は公に飛びついた。
「公くん! 揃ったのよ! 十一人揃ったのよ!」
「沙希ちゃん……」
首筋にしがみつかれて公は戸惑っていた。
「私、先生に頼んでくる。十一人揃ったので廃部にしないで下さいって」
そう言うと沙希は教官室へ走って入った。


グラウンド隅の水道で公と純平は水を飲んでいた。
「ありがとうな、純平」
「なんだよ、公」
「なんでもないよ……」
意味ありげに公はにやりと笑った。
「ったく……何で弱小のきらめき高校なんかに……
 お前ならサッカーの強いところ……南都実業にでも行けただろうに……」
「あそこは部員が百人越えるんだ」
「それでも……お前の実力ならレギュラーだろうが……」
「それと……もう一つ」
「それと?」
「南実は男子校だから沙希ちゃんがいない」
公は純平の方を向いて言った。
「このやろ! ヌケヌケと……!」
そう言って純平は笑いながら公の首を絞めようとした。二人とも笑顔だった。
「オッケーーよーー!!」
沙希が走ってきた。
「先生が十一人揃ったのなら考えてくれるって……部は残してくれるって……
 グラウンドも使っていいって!」
三人は笑い合った。

「十一人だ……十一人だ……」
おまじいのように沙希は帰り道そう言っていた。
「これで、試合ができるね」
沙希は公に言った。
「うん、なんとか選手権の予選に間に合ったよ」
「目指そうね、国立競技場!」
「うん、それじゃ、また明日。純平も朝練こいよな」
いつもの曲がり道で公は別れた。

二人になって沙希は純平の前を歩きながら言った。
「ありがとうね、純」
「どうしたんだ?」
「わざと外してくれたんでしょ、さっきのシュート」
「バッカ、んな訳ないだろ」
「うっそだ」
沙希はクルリと純平の方を振り返った。
「嘘じゃねぇよ」
「純が嘘をつくとき、眉毛がヒクヒク動くんだよ。昔から……」
「うそじゃねぇよ!」
「あは、純とは生まれて今まで十八年間のつき合いだもん。すぐに解るよ。
 兄妹みたいなもんだもんね」
(やっぱり、兄妹なのか……)
「だから、私、純の考えてることなら何だってわかるよ」
「え?」
「幼なじみは伊達じゃないってこと」
「それじゃ、今俺が何を考えてるのかわかんのかよ」
「わかるわよ」
「当ててみろよ」
そう言って純平は目を閉じた。
(俺は……お前が好きだ……沙希が好きだ……好きだ……)
「ん……っと、わかった!」
沙希は言った。
純平はドキリとする。

「今日の晩御飯はハンバーグを食べたいな、でしょ」

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトルヒーロー!
サブタイトル第2話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/ヒーロー, 虹野沙希, 主人公, 神島純平, ほか
感想投稿数22
感想投稿最終日時2019年04月09日 11時51分35秒

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