「へへ……やっと揃った」

試合に出るという事で、学校側もようやく臨時予算を認めてくれた。
沙希は全員のユニフォームを注文し、ギリギリだが間に合った。
今日はそれを受け取りに行っていたのだ。
「でも、十一人分となると重いね」
沙希は大きな紙袋三つを両手でぶら下げてバスに揺られていた。


「!!!」
満員のバスで沙希のお尻を撫でる輩がいた。
「あ……やめ……」
声を出そうとするが声が出ない。
紙袋で両手がふさがっているので払いのける事もできない。
(やだ……ちょ、ちょっと……)
沙希の思惑とは裏腹にその痴漢の手は沙希のスカートの中に進入しようとしていた。
が。
「いい年して、恥ずかしい事は止めな、おっさん」
そう言って一人の少年が痴漢の腕をねじり上げた。
「あいててて……」
痴漢は声を上げた。


「ありがとうございます」
沙希は少年に声をかけた。沙希と同じ年くらいだろうか。
(どっかで見た顔なんだけど……)
沙希は必死で思い出そうとするが思い出せない。
「荷物重そうだね」
その少年は沙希に言った。
「え? あ、いえ大丈夫です」
「君、きらめき高校でしょ。そこへ行きたいんだけど……」
そう言う少年に沙希は言った。
「じゃ、一緒に行きましょう」
「ありがと、じゃ、荷物持つよ」
そう言って少年は沙希の荷物を両手にぶら下げた。
「あ、悪いですから……」
「いいよ、案内してくれるお礼」
「でも、さっき助けてくれたし……」
沙希はそう言うが少年は荷物を持ったまま歩き始めた。

「ここです」
沙希は校門の所で言った。
「ついでで悪いんだけど、サッカー部はどこで練習してるのかな?」
少年は言った。
「サッカー部ですか? 私マネージャーです。こっちで練習してますよ」
沙希はそう言ってグラウンドに向かった。


グラウンドでは全員練習していた。
そこへ沙希と少年がやってきた。
「マネージャーが戻ってきたぞ」
そう一人の部員が言ったとき、
「横にいるのは誰だ?」
と、純平が怪訝そうな顔をした。
「新田!」
公がその少年に叫んだ。
「新田じゃないか!」
「よっ、公、久しぶり」
新田と呼ばれた少年は公に声をかけた。
「あぁーー!!」
沙希は思わず声を上げた。
(どっかで見た顔だと思ってたら……)
「南都実業の新田駿さん……ですか?」
「あ、やっと解ってくれたんだ」
新田が沙希に向かって言った。
新田駿。南都実業のエースストライカーで天才ゲームメイカー。
ユース日本代表チームの10番も背負っている。
昨年の地区代表で全国大会優勝チームのキャプテンだ。
Jリーグからもスカウト合戦が繰り広げられている。
「そうか、彼女、お前の恋人か……だったら仕方ないな」
新田は沙希と公を見て言った。
「え? ……ち、違いますよ……」
公は言った。
「なんだ、違うのか。だったら俺にも可能性はあるわけだな」
そう言って新田は沙希に手を差し出した。
「新田駿です」
「あ、虹野沙希です」
そう言って沙希は手を握り返した。


「お前が俺と別れて3年か……」
新田が公に声をかける。
「今年やっと予選に出てきたんでどんなチームかなと思って見に来たんだが……」
部員達を見回して続けた。
「なんで、南実にこなかったんだ……。
 こんなチームでお前の才能を埋もれさせていいのか?
 お前ならうちでも……いや、ユース代表でも正GKだった筈だ」
「俺はこのチームが好きなんだ」
公は言い返す。
「いっちゃぁなんだが……このチームでは勝てないぞ」
そう言う新田に純平が詰め寄った。
「あんた、なんだよ、偉そうに!」
慌てて他の部員が純平を止める。
サッカーを知らない純平は新田の事を知らない。
部員達が大急ぎで説明をした。
「はん、いくら一人が偉くったってサッカーは十一人でするもんですよ」
「お前達のはサッカーじゃないよ」
そう言って新田はフェンスを飛び越えるとグラウンドに入った。
「勝負しないか?」
「勝負?」
純平が聞き返す。
「俺一人対お前達全員だ。本当のサッカーという物、レベルの違いという物を教えてやるぜ」

センターサークルにボールがセットされる。
新田は軽くドリブルできらめきイレブンが守る陣地に攻め込んでいった。
真っ先に純平がスライディングタックルに行くが、それを軽くジャンプしてかわす。
ボールは糸で結ばれているかのように足元にぴったりとくっついている。

二人かわす、三人、四人……鮮やかなドリブルだ。
たちまち全員をかわしゴール前に……新田と公の一対一になる。

「これで、決まりだ」
新田がシュートしようとした瞬間、新田の足元に何者かが飛び込んだ。
「!!」
純平が追いついたのだった。
(馬鹿な……あそこから追いついたってのか?)
新田は驚く。ボールは純平に阻まれて空中に舞い上がる。
(くそっ!)
新田はジャンプするとオーバーヘッドキックでボールを捉えた。
ビシッ!
乾いた音を立て、ボールはジャンプする公の手をかすめゴールに突き刺さった。
「十一人抜き……」
部員がため息をつきながらいった。


「どうだ、公」
新田が公にいった。
「うん、いいシュートだった。でも本番では止めるぜ」
「決勝まで来るつもりか?」
南実ときらめきは決勝まで当たらない。
「わからないぜ、勝負はやってみないと」
公は言った。
「そうか、そうだな……」
新田は笑いながら言った。
(確かにオーバーヘッドはまぐれだ。もう一回やれと言われてもできるもんじゃない。
それに公はあの至近距離からきちんと反応していた。それに……)
新田は純平を見た。
(あいつだ、あそこから普通は追いつかないぞ。それにあの脚力……)
新田の足はジンジン痺れていた。
(最後の交錯の時だな、いいキック力してる)
「楽しみにしてるぜ」
そう言うと新田はフェンスを乗りこえて外にでた。
「じゃ、沙希ちゃんもまたね」
そう言って新田は去っていった。


(新田君は……天才だね。でも……私は……)
沙希はグラウンドの中の選手達を見た。
(汗にまみれている雑草の方が好きだよ)

「おい、公」
純平が公に声をかけた。
「なんで、あの時沙希を恋人だっていわなかったんだよ」
「言って良かったのか?」
公が逆に聞き返す。
(あんな奴に取られるくらいなら……お前の方が……)
純平はそう思った。
(いや、お前に取られるのもいやだ……誰にもとられたくない……)
「うっしゃぁ! 練習だ!」
純平は空に向かって叫んだ。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトルヒーロー!
サブタイトル第4話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/ヒーロー, 虹野沙希, 主人公, 神島純平, ほか
感想投稿数22
感想投稿最終日時2019年04月13日 16時18分52秒

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