“選手権地区予選 きらめき高校−栄京学園”

看板が立っているグラウンドにきらめきイレブンと沙希は到着した。
「予選なんだな……」
部員が思わず看板を見て声を上げる。
「バーカ、ただの学校のグラウンドだよ」
予選と言っても一回戦や二回戦では大きな学校のグラウンドを使う事が多い。
グラウンドにベンチ用の長椅子を置いただけの物だ。
「勝てるかな?」
「勝てないよな……この前も新田一人に負けたんだぜ」
そう言ってる部員に沙希が声をかけた。
「頑張りましょう!
 新田君は天才かもしれないけど……みんなも頑張って練習したじゃない。
 雑草の戦い方を見せてやりましょう」
(そうだよな。雑草だよな俺達)
純平は思った。部員達も沙希の声に勇気づけられる。
(新田や公は花だ、そして俺は雑草だ)
純平はベンチに座って考えていた。
(雑草の意地を見せてやる!)
「うっしゃ、行くぞ!」


一方の栄京ベンチでは選手達が笑って準備をしていた。
「きらめきって初出場だって?」
「部員が十一人ちょうどなんだろ」
「あぁあ、やる気起きないな……」
そう言ってるところへ新田が現れ、声をかけた。
「よ」
「なんだ、新田じゃないか」
一人が新田に声をかけた。
「一回戦から偵察とは恐れ入るね。でも、今日の相手だと参考にはならんぞ」
「そんなんじゃないよ」
「ま、そう言う事にしといてやるよ。今年こそうちが全国大会に行くからな」
「その台詞は今日勝ってから言うんだな」
「おいおい……なに言ってるんだよ。どこをどうやればうちが初出場のチームに負けるんだ?」
「ま、好きに言えばいいさ。
 だがな、忠告しておいてやるぜ。勝ちたかったら1点もやらないことだ。
 あのキーパーをなめるなよ」
「ま、うかがっておきますがね」

そう言っていたとき審判が現れた。
試合開始だ。

ピーーッ
キックオフのホイッスルが鳴った。

純平はフォワードとして真っ先に敵陣に攻め込もうとした。
しかし……きらめき高校の中盤は全く敵からボールを奪えない。
そうこうするにゴール前まで攻め込まれた。
ビシッ
ゴール右隅にシュートが放たれた。
バシッ
公が横っとびでこれをキャッチする。
「お、なかなかやるね。このキーパー。ま、それくらいやってもらわないとね」
敵はまだ余裕だった。
(公が止めたのはまぐれじゃないぞ)
純平は前線を走りながらボールを待った。


栄京は次々とシュートを放った。しかし、公はその全てをキャッチした。
「なんだ、あのキーパー……どこから打っても止めやがる……」
栄京の選手の頭の中に試合前の新田の言葉が響いた。
(勝ちたかったら1点もやらないことだ)
「馬鹿な……うちは名門・栄京だぞ。こんなところで負けるはずがないんだ」


試合は後半に入っていた。
「沙希ちゃん」
ベンチで選手を見守る沙希の元を新田が訪れた。
「頑張ってるじゃない」
「勝ちます。公くんは一点もやりませんから」
沙希は言う。
「おいおい、いくら守ってもサッカーは勝てないんだぜ。点を取らないと」
新田はきらめき高校の戦力を分析した。
「PK戦になったら栄京のものだ。いくら公でも2本止めるのが精一杯だろう。
 一方きらめきの方でまともなシュートを打てるのは……二人だな。
 あれでも、栄京のキーパーはこの地区では5本の指に入るんだぜ」
「それでも、勝ちます」
沙希は拳を握りしめた。
「じゃ、賭けようか?」
新田は沙希に言った。
「もし、負けたら、僕とデートするっていうのはどう?」
「え?」
新田の申し出に沙希が驚いた。
「自信ないのかな?」
「勝ちます」
沙希はなおも言った。
「よし、賭は成立だ」
新田はグラウンドに視線を戻した。
(さて、賭がどう転ぶかはあの男しだいだが……見せてくれるかな?
時間はもうないぜ)
視線の先には純平がいた。

(はぁはぁ……)
純平は走りながらベンチを見た。沙希の隣に新田がいる。
(花か……だったら……雑草の意地だ……)

(頼む……1点取ってくれ…………PKになったら……負けだ……頼む……)
公も心の中で念じていた。


またもや、ゴール前で相手選手がフリーになった。シュートを放つ。
公は必死でジャンプしパンチングで逃げた。
しかし……弾かれたボールはゴールポストに当たり相手選手の目の前に落ちた。
公はバランスを崩している。
(負ける!)
そう思ったときだった。
シュートを打とうとした相手選手の足元に純平が飛び込んだ。
「ぐぁっ!」
シュートを打とうとした相手選手の蹴りがモロに純平の顔に入った。
「純平!」
力なく転がったボールを公が拾った。
「大丈夫か!」

(大丈夫なわけがない、体をはってシュートを止めたのは立派だが……)
(純!)
ベンチでは沙希と新田が立ち上がった。
「あ!」
沙希が声を上げた。
ゆっくりと純平が立ち上がった。
(どうせ、俺は下手だよ……でも、下手には下手なりの……雑草なりのやり方ってもんがあるんだよ……
雑草にだって……花は咲くんだ……)

「君、大丈夫かね?」
審判が純平に声をかける。
「平気です」
純平は審判に答えた。
「平気なわけがないだろう、血がでてるじゃないか」
純平の額はパックリと割れ血が流れていた。
「とにかく止血しなさい」
「へ……平……気……」
ドサッ
純平はグラウンドに倒れこんだ。
「純!」
「純平!」
沙希と公が走り寄った。
「平気なはずがない! サッカー選手のキック力は生半可じゃない。
 病院に行った方がいい」
新田もグラウンドに飛び込んだ。
「担架だ、担架だ!」
審判が救護班を呼ぶ。


「平気だよ……」
側に来た沙希を制して純平は立ち上がった。
「やれます」
審判にも続行を宣言した。
「しかし、君……」
審判は躊躇した。走り寄った新田も言う。
「よした方がいい、根性は大したもんだが、根性だけでできるほどサッカーは甘くない」
「純!」
沙希も新田に同意する。
「バーカ、俺は元々空手部だぞ、こんなの日常茶飯事だ。
 蹴りの一発や二発でのびてたまるか」
沙希にそう言うと審判に向かって再度言った。
「やります」
(根性だけでできるかどうか……みせてやろうじゃないか……)
「純平!」
「神島!」
チームメイトが純平に声をかける。
「勝つぞ!」
イレブンに純平が気合いを入れる。
「おぉ!」
イレブンの気持ちが一つになった。


「大丈夫なのかね?」
「いいんじゃないの? 時間もない事だし……」
反対側のサイドでは今日一日殆ど出番のない栄京のバックスとキーパーが呟いていた。


(時間がない、純平には無理をさせられない……よし……)
「北沢! 上がれ!」
公は一気にオーバーラップをかけた北沢にロングパスを送った。

「賭に出たな。誰もマークしていない7番にロングパス。うまく持ち込めれば……」
新田は公の考えがよくわかった。
(しかし……)
ズサッ!
栄京は中盤で北沢を潰しあっという間にボールを取り返した。
(だめか……)
公の表情にも諦めが浮かんでいた。


「ったく、天下の栄京フォワードが初出場相手に0点じゃ格好つかないぜ」
栄京のフォワードがボールをゴール前に持ち込んだ。
「今度こそ決めるぜ」
そう言ってシュートしようとしたその時だった。
ザッ
ドコッ
再び純平が相手の足元に滑り込んだ。
キックがまともに腹に入る。
「ウゴッ……」


「また体で止めやがった!」
ベンチで思わず新田は叫んでしまった。
「純!」
沙希も叫ぶ。
「しかも……あいつ……今度はボールをキープしていやがる」


(どうせ、こんなやり方しかできないけど……
蹴られるの覚悟で突っ込めばボールくらい取れるんだ)
純平はドリブルで攻め上がろうとした。
「純!」
沙希は声援を送る。
「だめだ、ここから80メートル以上ある。持ち込めない。時間もない」
新田の言うとおり、審判は時計を見てホイッスルを鳴らそうとした。


(PKになったら……負ける……)
公は攻め上がる純平を見ていた。
(残念だが……ここまでだな……公。しかし、栄京相手に良くやったよ)
新田は席を立ち上とうとした。
(時間だな……PKだな……やっと俺の出番か……)
栄京のキーパーが一瞬気を抜いたその時だった。

(くそっ雑草にだって……花は咲くんだ!)
バシィッ
純平は思いきりボールを蹴った。
「なんだ?」
「やけくそキックって奴だよ。やっぱ素人だな」
「ここからゴールを狙って届くかよ……80メートルはあるんだぜ」
「おーい、バックス! 行ったぞ!」
栄京の選手も気を抜いていた。
「オーライ、今日、初仕事かよ」
バックスはボールを追った。
「なんだ……結構のびるな」
慌てて下がる。
「き、キーパー!」
「え?」
ゴールにもたれていたキーパーが慌ててボールを目で追う。
「な、なんだ! 届くのか?」
慌ててボールに飛びつく。しかし……
バサッ
ボールは栄京のゴールネットを揺らした。
ピ、ピ、ピイーーー
「ゴール!」
審判がゴールを宣言した。そして……
ピピピイーーー
「タイムアップ!」

「純!」
沙希が立ち上がった。
「純平!」
イレブンが純平に走り寄る。
「は、はいっちゃった……」
純平も呆然とする。
「負けた?」
「ばかな……冗談だろ……まぐれだぜ」
負けた事に栄京イレブンも呆然としていた。
「新田さん!」
沙希が新田に声をかけた。
「まぐれだな。確かに大まぐれの一発だ」
(しかしキック力は本物だ。まぐれで80メートルは飛ばない)
ゴクッ
新田は思わず生唾を飲み込んだ。
「公くん!」
沙希がグラウンドに飛び込んでいく。
(デートはお預けか……)
新田はグラウンドを去って行った。

沙希が走ってきた。
「沙希!」
純平は沙希に向かって叫んだ。
しかし、走ってきた沙希は公に飛びついた。
「公くん! 勝ったよ! 栄京に勝ったよ!」
(そうだよな……誰が見たってヒーローは公だ。
栄京のシュートを止め続けたあいつはやっぱり凄い奴だ。
沙希、あいつはすごいよ)
純平はイレブンにもみくちゃにされながら、抱き合う沙希と公を見ていた。


「おい、昨日の試合、新聞に載ってるぜ」
次の日、新聞を持って部員が部室に飛び込んできた。
「何々……“栄京まさかの一回戦敗退……天才キーパーの前に無得点に終わる”
 おい、公。天才キーパーだってよ」
「“栄京の合計32本のシュートをことごとくキャッチ、
 その勝利への執念が、まぐれの超ロングシュートを生んだ”か」
「まぐれの超ロングシュートだと……」
純平は憮然としていた。
「どうしたの? 純。
 なんだ、やっかんでんの?」
そう言って沙希は純平をからかった。
(でもね、私はちゃんと見てたよ。
純、血を流しても根性で頑張ってたもんね。
ちゃんと私はみてたからね……)

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトルヒーロー!
サブタイトル第5話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/ヒーロー, 虹野沙希, 主人公, 神島純平, ほか
感想投稿数23
感想投稿最終日時2019年04月10日 00時47分10秒

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