『さぁ、キックオフ。
残り五分、きらめき高校、どう攻めるのか?
ボールを持った神島君にぴったりと新田君がマークについた』
「ここから先には……行かせないぜ」
「行きますよ」
パシッ
純平は新田の目の前で前線にパスを出した。
『あっと、神島君、ここでパス。さすがに新田君は抜けないか……
しかし……お世辞にもうまいとは言えないきらめき高校フォワード陣、安易と言えば安易なパス。
これでは……あぁぁぁぁ!』
前線でパスを受けたのは公だった。
『な、なんと、キーパーの主人君がここまで上がっています。しかし……これでは』
「行け! 公!」
純平が叫ぶ。
『きらめき高校のゴールはがら空き、無茶と言えば無茶……
きらめき高校、最後の大博打に出ました』
南都実業の選手がタックルに行く。公はひらりひらりとかわして進む。
『主人君、うまい。フィールダーとしても一流です。抜きます! 速い!
さぁ、ゴール前まできた!』
公はゴール前まで持ち込んだ。
『あ、ここでセンタリング。ここに神島君が待っている!』
純平は頭で合わせに行った。新田も阻止するためにジャンプする。
『新田君がブロックに行く。あっ! シュートじゃない!
神島君、頭で折り返した! バックスをかわした主人君に頭で返した!』
純平は公のパスを頭でもう一度公に返した。
(公! この試合はお前の試合だ。取られたら取り返せ。お前の力で……そして……
お前の最高の姿を……沙希に見せてやってくれ!)
『主人君、シュート!
……ゴール!!! ゴール!!!!』
「公くん!!!」
沙希が叫ぶ。
「やった! 公!!」
イレブンが公に駆け寄る。
『やりました。きらめき高校、残り三分と言うところで、大ギャンブル成功!
またもや試合は振出です!! きらめき高校応援席大騒ぎ。同点です!
これで二対二です!』
南都実業のキックオフで試合は再開される。
『後半三十七分、南都実業は屈辱のキックオフ』
新田がボールを持って攻め込んだ。純平がマークにつく。
「こんなに熱くなったのは……生まれて始めてだ。神島……礼を言うぜ……」
「俺達は……とっくに熱くなってますよ」
『果敢にボールを奪いに行く神島君。しかし、相手は天才新田君』
新田は純平を抜きに行った。しかし……純平は新田の動きに見事について行った。
(神島……こいつ………………天才だ……)
『あぁ、新田君、振り切れない。ストライカー同士のぶつかりあい。
しかし、時間がない。これはPK戦か?』
「あ!」
沙希は重大な事に気付いた。
(PKになったら……公くんの膝……もう……もたない……このままじゃ……負けちゃう)
「頑張って!!! 純!!!」
「パスだ、新田、パスを出せ!」
南都実業の選手が新田のフォローに走る。
(冗談じゃないぜ……ここで逃げて……PKなんかに……)
新田は力ずくで純平を突破に行った。
バシッ
『あ、新田君、この至近距離から思いきり蹴った! ボールは神島君の顔面を直撃!』
「純!!」
『ボールは高く弾けて、神島君の頭上、神島君大丈夫か?』
(こんな痛み……公の膝に比べりゃ)
パシッ
『あ、神島君倒れながらパス! このボールに食らいついていた!
そして、先ほどと同じように、主人君がここまで上がっている!』
(しまった……神島め!)
新田がそう思ったときだった。
ズキン!
公の膝に激痛が走った。
『た、倒れました。主人君、どうしたのか?』
「公!!」
純平は叫んだ。ボールは南実の選手が拾った。
『ボールは南都実業。そして、敵陣深くパスだ!』
(公……)
(負けた……)
純平や沙希はそう思った。
『キーパーはいません。きらめきイレブンここまでか』
「このぉ!」
「よし、田中! 任せた!」
「北沢!!」
『あ、な、なんと……お世辞にもうまいとは言えないきらめきバックス陣が……』
「純平!!」
『ボールを奪い返した! 執念だ!! 執念だ!!』
(純平……あとは……任せたぞ!!)
きらめきイレブンの最後の意地だった。
(みんな……みんな……ここで終わってたまるか!)
公は再び立ち上がった。
『パスは神島君の所につながるか? しかし、時間がない!
神島君、空中でトラップ。そして……』
「いっけぇ!!」
『なんと、この距離からオーバーヘッドキック!』
ボールは南実ゴールに向かって飛んで行った。
『キーパー飛びつく! パンチング! 辛くも防いだ!』
(なに! 公だと!)
新田は驚いた。倒れていた筈の公がゴール前に詰めていた。
(あと、一分でいい。それさえもってくれたら……あとは膝が砕けたって……)
『主人君がこのボールを拾った! シュートだ!』
公の渾身の一撃が襲う。
バシ!
『あ、このボールに飛び込んだのは新田君。飛び込んで顔面でブロック!
それにしても新田君の反応は速い……あ、今度は神島君が走っている!』
(させるか、神島!)
『神島君、飛び込んだ。あっと、新田君も応じて飛んでいる!』
ガシッ!
『空中で両者激突!
しかし……新田君の勝ちだ! ボールは神島君の後ろに……』
(このまま終わらせてたまるか……)
純平は体の後ろのボールを何とか蹴ろうとした。
空中で体を廻す。それでもボールは後ろだ。
「いっけぇ!」
純平は体をひねりながら右足のかかとでボールを捉えた。
バシッ………………パサッ…………ポンポンポン……
「純!!!!」
『ゴール!! ゴール!! そして、今、試合終了!
しかし……何と言えばいいのでしょう、あのシュート。
体を空中でひねって……かかとで……
オーバーヘッドヒールキックシュート……そう、空手で言う“後ろ飛び廻し蹴り”のような……
ともあれ神島君、執念の……そして傷だらけの……そして……奇跡のゴール!
終盤の息詰まる攻防は、今、幕を下ろしました。
三対二、優勝は奇跡の大逆転で立った十一人のチーム、きらめき高校です!』
「純!!」
沙希がグラウンドの中に走って行った。
「純!!」
「沙希……」
純平は沙希が自分の方に走ってくるのを不思議な光景を見るように見ていた。
「純んんんんんーーーーーー!!!」
沙希は純平にしがみついていた。
「純! 純! 純!…………」
(沙希?)
「えへ……嬉しいのに……嬉しいのに……涙が止まらないよ……純!!」
沙希の顔は涙でグチャグチャだった。
(沙希? どうして俺に抱きついてるんだ?…………どうして?)
「沙希……服が汚れるぞ……」
純平は沙希を引きはがそうとした。
(どうして、そんなに俺の名前を呼んで……涙を流しているんだよ……)
そこへ足を引きずりながら公がやってきた。
(公……)
純平は沙希を引きはがした。
「ほら、沙希……(行けよ……主役は俺じゃない……)」
沙希は顔を公に向けた。
「公くん……おめでとう……」
「ありがとう……」
「勝ったんだね……本当に……」
「沙希ちゃんのおかげだよ」
「ううん……私は何もしていない……みんなが……公くんが……頑張ったから……」
二人はがっちりと握手をした。
「純平! やったんだな、俺達!」
「勝ったんだな、俺達!」
純平の元にイレブンが集まってきた。純平はもみくちゃにされながら沙希を見ていた。
(沙希……俺は泣かないぜ……涙を流すと……哀しい顔になりそうだから……)
両チームの選手が向かい合って最後の挨拶をした。
「公、完敗だ。全国大会優勝してこいよ」
新田は手を差し出した。公の表情が曇る。
「どうした? お前なら……お前と……あいつなら……できるさ」
そう言う新田に純平が言った。
「任せて下さい……と言いたいけど……残念ながらきらめき高校は全国大会を辞退します」
「なんだと!?」
「純平!」
公が純平に向かって言った。
「最後の試合なのは僕だけだ。
折角優勝したんだから……僕だけでみんなを……まきぞえには……」
「公、それは違うぜ」
イレブンが公に言う。
「なんで膝の事隠していたんだよ」
「膝?」
新田が公の膝を見た。
「まさか、その膝……今日痛めたんじゃないのか?」
「おかしいのは気付いていたけど……そんなにひどかったなんて……」
イレブンが公に言う。
「だけど、辞退する事はないよ。優勝したんだ。僕が欠けた分はいくらだって……」
「確かに人数は揃うよ。
全国大会へ出れるんだし……学校も力を入れるだろうけど、入部する奴はいるだろうさ。
ひょっとしたら……一つくらい勝てるかも……」
イレブンが言葉を続ける。
「でも……俺達の……きらめき高校サッカー部のキーパーは……たった一人しかいないんだ。
公がいない大会で勝っても、ちっとも嬉しくないよ」
「みんな……」
「そういうことです」
全員の言葉を純平が受け継いだ。
「負けたら許しませんよ」
「ああ」
新田が頷いた。
「もう一度言う。公、完敗だ」
公と新田は固い握手をした。
「治せないのか?」
もう一度新田が確認する。
「………………」
公は無言だ。
「そうか……」
そう言って新田は公に背を向けた。
「新田さん」
グラウンドを去ろうとする新田に沙希が声をかけた。
「絶対に負けないで下さいね。
新田さんが負けない限り……公くんは……ずっと一番なんですから……」
新田は沙希に背を向けて歩いて行った。歩きながら、
「優勝カップを届けるよ。宅配便でいいかな?」
と言った。
「はい……!」
沙希が返事をした。そして、沙希は深々と新田におじぎをした。
公の膝の事……そして、きらめき高校の全国大会辞退はすぐにグラウンド中に知れ渡った。
スタンドの観客の視線は公に集中する。
(終わった……)
公は深々とグラウンドにおじぎをし、イレブンとグラウンドを後にした。
競技場に嵐のような拍手が沸き起こった。
「公……」
イレブンが公に声をかける。
「ありがとう……優勝よりも……最高の仲間とプレイできたことを忘れないよ」
「公くん……」
沙希が公を見ていた。
純平が軽く沙希の肩を押した。
「ほら、肩貸してやれよ、沙希」
沙希は公に走りより肩を貸した。
それを尻目に純平はグラウンドを後にした。
(公……やっぱりお前……かっこよすぎるぜ……)
純平は競技場の外に出、裏口の外に座り込んだ。
(終わった……か……さすがに…………すこし…………くたびれたなぁ……)
純平はそのまま目を閉じた。
控え室では沙希が公の手当をしていた。
「大丈夫?」
沙希が心配する。
「沙希ちゃん……約束通り勝ったから……デートしてくれるかい?」
公が沙希に言った。
「………………」
沙希は返事をしない。
「あれ? 純平はどこへ行った?」
「ほんとだ、いねぇな」
選手が純平がいないのに気付いた。
「ひょっとして、のびてるんじゃないのか?」
「ん、あいつ頭打ってるし……」
たちまち沙希の顔に不安が広がる。
「沙希ちゃん……」
公が沙希に話しかけた。
「ごめん……公くん……」
タタタタ……
沙希は控え室を飛び出して行った。
(やっぱり僕は……純平には勝てなかったみたいだよ。
純平……リードしていたのはお前の方なんだぜ)
そこへ報道陣が入ってきた。
(純平……僕は沙希ちゃんに助けてもらってばっかりだったよ。
一度だってわがままも、助けて欲しいとも言われなかったよ。
純平……お前はあるだろう?
沙希ちゃんが困ったときに、助けて欲しいと思うのは……いつだってお前なんだ)
沙希は純平の姿を捜しまわっていた。
そして……眠っている純平を見つけた。
「純……」
(こんなに泥だらけ……傷だらけになっちゃって……)
「痛かった? 痛いよね。痛いに決まってるよね……ごめんね……」
(そうだよね……いつだって純は私のためにがんばってくれたんだよね……)
「ありがとう、純……」
沙希の目からは涙がこぼれ落ちていた。ぎゅっと純平を抱きしめる。
ポタッ……
沙希の涙が純平の手の甲に落ちた。
「ん?」
純平が目を覚ました。
「よかった……一瞬、死んじゃったのかと思っちゃった……」
「勝手に死人にするんじゃない。
俺は百まで生きるんだ。これくらいで死んでたまるか」
純平は抗議した。
「そうだね……本当だね……やだよ……本当に死んじゃやだよ……」
「な、なんだよ……公はどうしたんだよ……ついていてやらなくていいのか?」
「公くんは……今、テレビの人とか記者に囲まれてるよ。
きっと全国的なヒーローになってるよ……今ごろ……。
いちばん頑張った人はここにいるのにね……」
「沙希……」
「でも……純の事……テレビの人とかが気付かなくて良かった……
純は……純は私だけの………………」
そう言って沙希は純平にしっかりと抱きついた。
沙希のヒーローは……確かにここにいた……。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
---|---|
タイトル | ヒーロー! |
サブタイトル | 最終話 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/ヒーロー, 虹野沙希, 主人公, 神島純平, ほか |
感想投稿数 | 30 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月10日 22時47分30秒 |
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- [★★★★★★] 原作(?)の1巻を読んだのですが、いやぁ〜ほんとにいいですね^^
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