ボールはセンターにセットされた。
「公は……俺達はもう、一点もやりませんよ」
純平は新田に言った。
「そいつはどうかな?」
ピッ
『きらめき高校のキックオフで試合再開です。
神島君がドリブルでボールを進める。あっと、新田君そこへボールを奪いに行った』
純平と新田がボールの奪い合いを演じた。
しかし、一対一では新田に一日の長がある。
「あ!」
新田は純平からボールを奪い取った。
『とった、やはり天才! ボールテクニックは超高校級です』
(公、まだまだ点をもらうぜ)
しかし、きらめきイレブンは次々と新田に襲いかかった。
『きらめきのディフェンス陣、次々と新田君にタックル。
しかし、新田君、これを鮮やかにかわす』
「いかせないぜ!」
「この!」
『新田君、チャージを次々とかわす。
しかし、きらめき高校も執拗に新田君に食い下がります。
まるで、……まるで敵は新田君ただ一人だけのように……』
(いいか、みんな。新田に食らいつくんだ。しつこくしつこく……。
俺達の要が公だったように、南実にとっては新田が要なんだ。新田にはシュートを打たせるな!)
純平の指示通り、きらめき高校は戦った。
(これくらい、抜けないようで……)
新田がステップを踏む。その時、純平が新田にタックルに行った。
『神島君、凄いタックル。しかしファールではありません。ノーホィッスルです』
(くそっ……しつこい奴らだ……)
新田はパスを出した。
『新田君、パス。さすがにこれだけマークされては一人では抜けません』
(神島、今日の俺は一人じゃないと言ったろうが……他の奴がノーマークだぜ)
(新田……他の奴らも確かに俺達よりうまいさ……だがな……)
『新田君のパスを受けた鈴木君。フリーだ。シュート!!』
バシッ
『あっと、止めた! 主人君キャッチ! 至近距離からのシュートを見事止めました』
(他の奴らのシュートなら、公は止めるんだ。絶対に!)
『一点許したとは言え、やはり凄いキーパーです。主人君!』
(そうだよな、公……止めるよな……)
「公くん……」
ベンチでは沙希はひたすら見守るだけだった。
『前半残りわずか、それにしてもきらめきイレブン、執拗に新田君に食い下がります。
新田君はあの後、シュートを打たせてもらえません。
かわりに他の選手が雨あられのようにシュートを放ちますが……おっと、これも止めた!
……主人君、これをことごとくキャッチ!
やはり、新田君でなければ主人君は突破できないのか?? しかし……』
「しつこいな……特にあの11番……神島ってのが……かわされてもかわされても……
新田をマークし続けているじゃないか……」
スタンドでも純平の存在を目に止める客が出始めた。
『考えてみれば、凄いマークです、神島君。
新田君の百メートルのラップは十秒五、超俊足フォワードなのですが……
その新田君に一歩も遅れていません。新田君にここまで食らいつく選手は、過去に一人もいませんでした。
これでは南実も新田君にパスを出せない』
(純……)
沙希の目は純平を追っていた。
(純平は前よりずっと速くなっている……毎日走っていたんだ……
今じゃきっと……十秒五くらいで走れる)
公は後ろで純平と新田の戦いを見ていた。
(でも……)
バシッ
シュートが公の思考を中断させた。
『シュートは決まりません……まさに鉄壁のキーパー!』
ズキッ
公の膝に激痛が走った。
(くそっ……きやがったか……このままじゃ……1−0で負けだ……)
「公、大丈夫か?」
純平が公に近寄った。
「純平、新田のマーク外してくれ」
「え?」
「僕だって……このまま引き下がれない。今度は止める」
「おっしゃ!」
(必ず……必ずパスを出すから……走っていてくれ、純平)
(OK! 公、その賭、のったぜ!)
『さぁ、また神島君だ。新田君をマークします。
あ、しかし今度は新田君が神島君を振り切った』
「純!」
やられる、そう思った沙希が叫んだ。
『パスが渡った。
きらめき高校のディフェンスが食い下がるが止められない……止まらない。
さぁ、キーパーと一対一だ!』
(公、この試合もらった)
(新田! 止めるぜ!)
バシッ
『新田君! シュート!』
(絶対に止める!!)
『左下コーナーだ。ものすごい低弾道ドライブだ!』
(公くん!)
沙希が一瞬目を覆った。
(このっ!)
公は目一杯ジャンプした。
バシッ
『止めた!止めたぁ!!』
(公……あれを止めるのか……キーパーにとっていちばん難しいコースを……)
新田は公のキャッチングに舌を巻いた。
『今度は主人君の勝ちだ。あ、そして……大きく蹴りだした!』
(頼んだぞ!)
公は純平に後を託した。
『しかし、きらめき高校は全員が守備に……
あっと……か、神島君……新田君をマークしていた筈の神島君がただ一人走っています!!』
(なに! しまった……わざとマークを外したのか!)
「純!」
沙希が大声で叫ぶ。純平は敵陣深く切れ込んで行った。
「俺が行くまで蹴らせるな!」
新田はそう叫んで走りだした。
『猛然と戻る新田君。南実ディフェンス、慌てて神島君をブロック、しかし……』
「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!」
『神島君、シュート! ブロックする選手ごと吹っ飛ばす、ものすごいシュート!
キーパー、届かない……あ、しかし、ブロックの選手に当たった分だけコースがそれている。
入らない! 南実命拾い……ボールはゴールポストに当たって高く上がった。
インフィールドだが……新田君がフォローにきています!』
(まったく……焦ったぜ……)
新田はボールの落下点に入った。
(だめか……)
(失敗なの……)
公と沙希も肩を落とした。
『きらめき高校の奇襲も得点ならず……え? あ!』
純平が猛然と突っ込んできた。
(公が痛む膝を堪えて取ったボールだぞ……ここで点をとらなきゃ……)
純平は猛然とジャンプした。
「いっけぇぇぇぇ!!」
ダイビングヘッドでボールをゴールに向けて押しだした。
バシッ……
キーパーがジャンプする。しかし、その手の向こうをボールが通り過ぎて行った。
バサッ
ガツッ
『ゴール! ゴール!! し、しかし……神島君もポストに激突!』
「純!」
「純平!!!」
沙希と公が同時に叫んだ。
その声に押されるかのように純平が立ち上がった。
『五メートル以上を飛んでのダイビングヘッド。
その勢いで激突しましたが……神島君、立ち上がりました!』
「これで、一対一……得点も……俺達の勝負も……これからだ」
純平は新田にそう言った。
(やってくれるじゃないか……)
新田は純平に向かって二やりと笑った。
ピピピーーー
『あ、ここで前半終了。同点です。同点で後半戦に入ります』
「純! 大丈夫?」
ベンチに戻った純平に沙希が駆け寄った。
「平気だよ。俺は中身も外身も丈夫にできてるから。少々の事で傷ついたり壊れたりはしないさ」
「純……」
「俺達の取り柄はそれだけだもんな」
「さっすが、純平……」
「ははは……」
純平の言葉にイレブンもつられて笑った。
(みんな……泥まみれで……どっか怪我してる……)
沙希はイレブンを見た。
「男の人って……すごいね……私はどうして女なのかな……
みんながこうして頑張ってるのに……私はただ、座って見てるしかできないんだもんね……」
「沙希ちゃん……」
その時、純平が沙希の頭をコツンと叩いた。
「ばーか! お前が女だからこそみんな頑張ってるんじゃないか。
俺がいくら叱咤激励したって、褒めたって、格好いい事言ったって……
お前の笑顔と、『頑張ってね』の一言にはかなわないんだから。
こいつらみんな……」
純平がイレブンを見回す。
「スケベだからな」
イレブンに笑いが起きた。
「公くん……」
沙希が公を見る。公がゆっくりと沙希に頷いた。
「みんな……頑張ってね……」
「ようし!」
(沙希、それだけで十分だ。それだけで……)
「行くぞ!!」
『さぁ、後半戦の開始です。
あと四十分、四十分で全国大会への切符が決まります。
いくのはどちらか?』
(行くのは俺達だ……)
両チームの選手がグラウンドに散って行った。
(頑張って……みんな……頑張って……公くん…………頑張って……………………純…………)
後半戦も一進一退が続いた。
きらめきイレブンは徹底的に新田をマークする。
『新田駿……彼が……華麗なスピードとテクニックが信条の二十年に一人の天才が、汗と泥にまみれています。
しかし、それ以上に泥まみれ……汗まみれ……そして血にまみれながらそのファイトに全く陰りの見えない選手がいます。
神島君です。彼もまた凄い選手です』
「たしかに、神島も凄いよ……」
「あいつが一番走ってるんじゃないのか?」
「でも、全然疲れた素振りを見せないぜ……」
スタンドの視線は自然と新田と張り合う純平に注がれていった。
「格好いいな……今まで気付かなかったけど……」
「うん、公くんもいいけど……神島君も……」
女生徒は次第に純平に目を奪われて行った。
「遅いよ……」
その生徒達の後ろで美樹原愛がポツリと言った。
「みんな……遅いよ……今ごろ気付いても……」
「愛……」
「遅いんだ……もっと早く知り合いになりたかったな……」
(もう二年……ううん……五年……でもだめね……幼なじみには勝てないものね……)
『主人君も頑張ります。新田君の一点以外許しません』
バシッ
公は今日三十三本目のシュートを止めた。
ズキン!
(くっ……このポンコツ膝め……もうちょっともってくれ……)
『主人君……味方選手にスローで廻します……あ!』
ズッキィーーーン
公の膝に激痛が走った。ボールを投げようとしたその瞬間の痛みはボールの軌道を狂わせた。
『手元が狂ったか、力の無いボールが…………これは……』
「公!」
「もらった!」
『慌てて取りに行くきらめきバックス。
ああぁ! 新田君です。
一瞬の隙をついて新田君が出ました。神島君ついて行ってない!』
(しまった!!)
『キーパーと一対一だ!』
バシッ
『シュート! いったか? 主人君飛びつく。届くか! 取れない!』
(やだ、公くん……)
沙希はベンチで立ち上がった。
『あ!』
純平がボールに飛び込んだ。
「純!!!!!!!」
『神島君、顔でブロック! 顔面直撃! が、しかし……しかし……』
パサッ
純平の顔面を襲ったボールはそのままの勢いでゴールネットを揺らした。
『ゴール! 神島君のブロックもかいなし。新田君のシュートを止める事はできませんでした。
二対一、後半三十五分、残り五分で南都実業勝ち越し!』
「すまない……俺が新田のマークを一瞬外したために………………どうした? 公!」
(二対一……僕の膝はもう限界だ……終わったな……)
「公くん??」
立たない公に沙希も心配そうに視線を送る。
「おい、公。立てよ。どうしたんだ」
「純平……もう……」
「その先は言うなよ。
……沙希が見てるんだ。
立てよ、公! まだ五分ある。負けたわけじゃないぞ!
沙希にはお前の最高の姿を焼き付けておいて欲しいんだ。
沙希には、お前が弱音を吐いた姿なんて見せないでくれよ」
(公、お前の膝がどれくらい酷いのか……どれくらい痛いのか……俺にはわからないけど……
沙希の見てる前で弱音を吐くような奴に…………俺は負けた覚えはないんだ!)
公はゆっくりと立ち上がった。
(そうだった……この試合がラストゲームなのは……誰でもない……僕だ……)
「そうだよな、純平。まだ終わっていないよな」
「当たり前だ!」
そうして、純平はベンチの沙希に向かって叫んだ。
「沙希! 公も、俺達も…………まだ負けちゃいないからな!!」
「…………うん…………」
沙希は頷いた。
『さぁ、あと五分です。きらめき高校追いつくか? 南都実業逃げきるか?』
(そうだ、あと五分だ……どうする? 公、神島……。
一度使った手にひっかかるほど俺は馬鹿じゃないぜ)
新田は勝ちを確信していた。
(あと五分で……公くんの最後の試合が終わる……
でも、何とかしてくれるよね……ね、純……何とかしてくれるよね?)
沙希は必死で祈っていた。
「あと、五分でどうする?」
きらめきイレブンは最後の作戦を練っていた。
「あと一人……純平の足についていけるのがいたらな……」
公の言葉にイレブンはうつむいた。
「ごめん……俺達遅くて……」
「いるよ……一人……」
純平が言った。
「え? 誰だ?」
「行こうぜ……」
そう言って純平は公の肩を叩いた。
「だめなのか?」
純平は公に念を押した。
「いや、いけるよ」
公は頷いた。
(これが最後だ……この試合さえもってくれれば……あとはこんな膝……どうなったっていい!)
「やろう……」
「ようし…………行くぞ!」
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | ヒーロー! |
サブタイトル | 第9話 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/ヒーロー, 虹野沙希, 主人公, 神島純平, ほか |
感想投稿数 | 22 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月10日 10時53分51秒 |
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