詩織と公は一緒に家に帰る途中だった。
近所の公園で昔懐かしい話をしていたので詩織はその話に夢中になっていた。


突然詩織が、
「ねぇ、公君。覚えている? この神社」
それは夏祭りなどが開かれる神社だ。8月の縁日と初詣以外に行くことは滅多にない。

「ここの境内で遊んでいて……宮司さんに叱られたの覚えてる?」
「あ、そんなこともあったかな……」
公は考え事をしていたので、うわのそらで聞いていた。
「もう……聞いてなかったな」
詩織がプッとふくれっ面になる。
「ゴメン……」


公が気にしていたのは学校で広まっているうわさだった。
それは『藤崎詩織が毎年選ばれるオーストラリアへの交換留学生に選ばれたらしい』という物だった。
確かにきらめき高校では、毎年1名の生徒を選んで、オーストラリアの姉妹校と留学生の交換を行っている。大体1年くらいが目処となる留学だ。
それに今年は詩織が選ばれたというのだ。

昔から詩織はオーストラリアには憧れていた。
詩織がきらめき高校を選んだのもこの「交換留学生」に選ばれてオーストラリアで暮らすことを希望したからだ。

詩織は日頃から、
「オーストラリア行きが決まったら嬉しいな。
 その時はね、1年では帰らないつもりなの……。向こうの高校を卒業して……大学も向こうの大学にしようかな……」
と言っていた。

もしそうなれば、数ヶ月後には詩織はオーストラリアで暮らすことになる。
詩織が好きな公にとっては、困ったことだった。追いかけていこうにも行き先が遠すぎる。


「詩織……」
公は詩織に本当のことを聞こうと思った。
「なぁに? 公君」
詩織は笑顔で公の方を向いた。
「あの……その……や、やっぱりいいや」
「何? 気になるなあ……。いいから言いなさいよ」
「いや、本当になんでもないんだ」
「それならいいんだけど……」
詩織は公の気持ちは無視して話し続けた。
「ねぇねぇ……この石段覚えている?」
「あぁ……」
「もうさっきから……何考えてるのよ?」
「いろんなこと」
「例えば?」
「世界情勢……経済問題……」
「ふふふ……ウ・ソ・だ」
「え?」
「公君……嘘ついてるときは鼻の穴の所がピクピク動くからすぐわかる」
「あ……」
「長いつきあいだもんね。16年だもん」
「そうだね……」
「私たち幼なじみでしょ」
「そうだよ」
(やっぱり幼なじみでしかないのか……)
「じゃ、公君が悩んでるのだったら……私に言って」
「うん、……時期が来たら言うよ」
「わかった。約束よ」


「さ、もう帰ろうか……」
公が詩織に言う。
「そうね。帰りましょう」
石段の上に座っていた二人は立ち上がった。
その時詩織が立ちくらみを起こしバランスを崩した。
「あ、危ない!!!!!」
公は慌てて詩織を抱きとめようとした。
が、詩織の体を両腕に抱きかかえた瞬間、公もバランスを崩してしまった。
「あ、!!」
「きゃ!!」
二人は抱き合うようにして石段を転がり落ちていった。
そして二人とも気を失ってしまった。

どれくらい時間が経ったのだろう? 公は体の節々の痛みで気がついた。
(あいててて……怪我はないのかな? あ、詩織は??)
公は起きあがろうとした。

と、その時目の前に高校生くらいの男が倒れているのに気がついた。

(だれだ? こいつは?)
周りを見回すが詩織の姿が見えない。
(おかしいな? 詩織は一緒に転がり落ちた筈なんだけど……)
公はその男を起こそうとした。
(え?)
公は驚いた。どう見ても、その男は「公自身」だった。
(オレじゃねぇか……)
立ち上がった公は自分の足元を見て驚いた。
(スカートじゃねぇか……?)
よくよく見ると自分の着ているのは、きらめき高校のセーラー服であることに気がついた。
「どうしてオレはこんな物着てるんだ?」
思わず公は声を出した。しかし……
(今の声……俺の声じゃない……)
「どうなってるんだ?」
(あ、……詩織の声だ……)
公は近くの水飲み場に行って自分の姿を水に映してみた。
水に映ったのは公ではなかった。それは間違いなく詩織の姿だった。
反射的に公は右手を自分の胸元に持っていった。そこには自分の物ではない、女性の膨らみがあった。
すぐに手を股間に移動させる。そこにはあるべき物がなかった。
「う……」
倒れている公の姿をした男が起きあがった。
「大丈夫か?」
公は声をかけた。
「あれ、あなた……誰?」
その男は女のような話し方をした。その声は間違いなく公自身の声だった。
「それはオレが聞きたいよ」
「私は……藤崎詩織といいます。あなたは? あれ?」
「オレは主人公……の筈なんだけど……」


「え?? お前が詩織??」
「あなたが?? 公君??」

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル転校生
サブタイトル第1話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/転校生, 藤崎詩織, 主人公, 他
感想投稿数103
感想投稿最終日時2019年04月10日 01時37分16秒

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