「おはよう!」
公が家を出ると門の前に詩織が立っていた。

「あ、詩織、おはよう」
お互い照れくさそうに挨拶すると二人は、学校に向かって並んで歩き出した。
「詩織……」
公が詩織に話しかけた。
「なぁに?」
「もし……もし、試験の結果が悪かったら……ごめんな」
「ううん、いいの。それは昨日も言ったでしょ。私はもういいの」
「でも……」
公は尚も気にする。
「もっと大事なモノも……あるんだから」
最後の詩織の言葉はあまりに小さな声だったので公にはよく聞き取れなかった。
「え? なんだって?」
「ううん、なんでもないの。さ、行きましょう」
詩織はにっこり笑って走り出した。


学校に到着すると二人はまっすぐ掲示板の所まで行った。
そこには試験の結果が張り出されている。
早くも沢山の生徒がワイワイ言いながら集まってきていた。
その後ろの方から、緊張しながら二人は掲示板をのぞき込んだ。
そしてその結果は……
「あ、詩織……」
「え、何? 公君……」
「ほら……あそこ!」
見ると掲示板に貼られた成績表には……


・・・・・
3位主人 公475
・・・・・
・・・・・
・・・・・
10位藤崎 詩織459

……と書かれていた。

公の成績は本当は詩織が受けた物だから当然上位だ。
しかし、詩織の成績は実際には公が受けた物である。
そして留学条件の十番以内をギリギリで達成した。
「公君……」
詩織は公を見つめた。
その時校内放送が鳴り響いた。
『2年A組藤崎さん、2年A組藤崎詩織さん、至急理事長室まで来て下さい』
「詩織、行って来いよ」
公が詩織の背中を押す。
「留学決定の通知だよ。詩織の留学が決まったんだよ」
寂しそうだが毅然として公が言った。
「う……うん……私……行って来るね」
そう言うと詩織は廊下を歩いていった。

公は伝説の樹の下で横になっていた。
(来年の春には……詩織と離ればなれか……)
残念な気もした。
でも、詩織の夢だった留学がかなった。
これでいいのだ。そう思うことで公は自分の気持ちにけりを付けようとしていた。
(詩織……元気で行って来いよ)
公は心の中で詩織に声をかけていた。その時だった。
「こ・う・君」
声に驚いて飛び起きると、そこには詩織が立っていた。
「詩織か、留学の話どうだった?」
「うん、私に決まりだって」
詩織がニッコリ笑って公に言った。
「そうか……良かったな……」
公は複雑な心境だった。詩織の気持ちを考え、にっこりと笑いながら詩織に言うのが精一杯だった。そして再び横になった。
「公君のお陰よ。
 ……隣に座ってもいい?」
「あ、ああ……いいよ」
スカートの裾を直しながら、詩織は公の横に腰を下ろす。
「伝説の樹か……」
詩織は公の方を見ずに、遠くを見つめながら話し始めた。
「卒業の時にここで女の子からの告白で誕生したカップルは永遠に幸せになれるのよ。
 しってた? 公君」
「あ、ああ、知ってるよ」
詩織のいなくなった日のことを考えて、ぼんやりとしていた公は何気なしに相づちを打った。
「私ね……卒業式の日に告白しようかなって考えてるの」
「ふぅ〜ん…………………………………………って詩織は来年の卒業式の時はオーストラリアだろ」
(詩織のいない卒業式か……一緒に卒業したかったな……)
公はぼんやりと頭の中で考え、詩織に答えを返していた。
「断ってきたの」
詩織はあっさりと、しかし重大なことを公に告げた。
「ふぅん……………………………………………………………………えええ!!!」
公は大慌てで飛び起きる。
「オーストラリアに行っちゃったら……ここで誰かさんに告白できなくなるもの」
「だって……詩織……」


目を丸くしている公に向かって詩織は続けた。
「昔の夢はね……オーストラリアよ。
 でもね。それはかつての夢だったの」
「へ?」
「今の夢はね……卒業式の日にここで告白することなの」
「誰に?」
わかっていながら公は信じられないと言う思いで詩織に問い返す。
「もう……鈍感なんだから!」
詩織は肘で公の脇をつついた。
「それでいいの?」
公はもう一度確認した。
いまなら理事長に言って取り消しはできるだろう。
しかし、詩織に答は同じだった。
「うん、だって……私のために公君がんばってくれたんだもの。
 そんな公君と離ればなれになるの……私、いやだもん」
「でも……」
「ううん、オーストラリアよりもっと大事な物が見つかったの。
 私、この3ヶ月でいろんなことがわかったの。
 公くんがどんなこと考えていたのか。男の子の気持ちってどういう物か」
「それは……俺も一緒だよ。
 詩織のこと……ちょっとは理解できたかもしれない」
「楽しんでいたでしょ。女の子の生活を」
詩織は意地悪そうに公に問いかける。
「ちょっとだけね」
「正直でよろしい」
詩織は笑いながら言った。
「だからね。もっともっと公くんと一緒にいたいの。
 きっと……大学も一緒の大学に行けるわよね」
「あ……え? でも…………うん」
公はしどろもどろになる。
「大丈夫よ。
 公くんの成績、きらめき高校のトップ10に入ったのよ。きっと一緒の大学に行けるわ」
「あ、うん」
詩織の言葉に公はうなずく。
「それからね……」
「それから……何?」
詩織の次の言葉を公は待った。
「ううん……なんでもないの」
詩織は答をはぐらかした。
(大学卒業しても……それからも……ずっとずっと一緒……なんて……恥ずかしいわよね)
詩織は言葉を胸の中にしまい込んだ。
そんな詩織の様子を見て、公は3ヶ月の日々を思い出していた。
詩織の本当の気持ち、それはこの3ヶ月の出来事がないと決してわからなかっただろう。
そして……
「もしかしたら……」
「もしかしたら……何?」
公が言いかけてやめたので、詩織が聞き返した。
公が答える。
「神様が悪戯したのかもしれないな。
 いつまでたっても幼なじみでしかいない俺たちに気を揉んだのかも……」
「だとしたら……すてきな神様かな?」
「そうだね」

数分の沈黙が流れた。
公は、今こそ詩織に告白しようと決めた。
そして……
「詩織……俺……詩織のことが……」
しかし、詩織の指が公の口を塞いだ。
「だめよ……卒業の時までは……それまでに私ね、公君に気に入ってもらえる女の子になるからね」
「あ……それじゃ、オレもがんばらないと」
「それじゃ、卒業式の日に」
「うん、ここで会おう!」
そう言って二人は小指をからめあった。
「あ!」
「どうしたの詩織?」
「でも……もちろん、それまで会わないっていうことじゃないわよね」
「もちろん! …………それじゃ明日、遊園地に行こう!」
「うん、いいわよ」
「それじゃ、遊園地の前で」
「うん、それじゃ明日ね。忘れないで来てよ」
「忘れるもんか」
未来の約束と、そして明日の約束のため、二人はもう一度小指をからめあった。
まだ冬は始まったばかりだったが、公と詩織の元には一足早く春が訪れていた。


キャスト


藤崎詩織


早乙女好雄

朝日奈夕子

美樹原愛

虹野沙希

如月未緒

片桐彩子

紐緒結奈


芹澤勝馬

鞠川奈津江

戎谷淳

十一夜恵



主人公

Fin

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル転校生
サブタイトル最終話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/転校生, 藤崎詩織, 主人公, 他
感想投稿数116
感想投稿最終日時2019年04月10日 02時26分16秒

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  • [★★★★☆☆] 性転換(トランスセクシャル・TS)ものとして記憶にあったのでニフティーサーブのときめき文庫で見かけて探していました。
  • [★★★★★★] 設定はコテコテだけど、おもしろかった。
  • [★★☆☆☆☆] 終わり方が安易。もうひとひねりほしい。
  • [★★★★★☆] おもしろかった
  • [★★★★★☆] 設定はありがちだけど、文章がうまくておもしろかった。今度はこれの続編で好雄×夕子あたりを希望。
  • [★★★★★★] ありきたりって書く人もいるみたいだけど僕はこういう終わり方が好きです。
  • [★★★★☆☆] よかったです。
  • [★★★★★★] やっぱ、主人公は鈍感でなくては(笑)
  • [★★★★★★] 続き書いて。
  • [★★★★★☆] 誰も「藤崎詩織」にはなれません(笑)
  • [★★★★★☆] あははー、おもしろかったよ・・・
  • [★★★★★☆] 雰囲気出ててすごくよかったです。ときメモ1の世界って今でもイイですよね…
  • [★★★★☆☆] 詩織と公がタッチの南と達也を見てるみたいだった
  • [★★★★★★] 続きを早くみたい一日でも早く待ってます(^_^)
  • [★★★★★★] 大学編も書いてほしい!!
  • [★★★★★★] 話がまとまっていて良かった。この話はここまでにしておいた方が良いと思う。
  • [★★★★★★] こういったパターンもいいですね。何気にお気に入りになりました