公になっている詩織は、窓からかつての自分の部屋を見ていた。
ピンクのカーテンの向こうには、自分になってしまった公が机に向かっているようだ。
シルエットでわかる。
「公君……こんなに遅くまでがんばってるんだ……」
時計を見るともう2時を過ぎている。
明日から2学期の期末テストとはいえ、以前の公がこんなに遅くまで勉強することはなかった。
「どうしちゃったのかしら……やっぱり私の代わりってこと、気にしてるのかな」
そう考えながら詩織は部屋の電話の受話器を取り上げた。短縮の1番を押す。
Trrrrr……
Trrrrr……
「はい、藤崎です」
公が電話に出た。
「あ、公君……私……」
「あ、詩織か……どうしたんだこんな時間に」
「だって……ずいぶん遅くまで勉強しているみたいだから……」
「うん……ちょっと思うことがあってね」
「無理しちゃダメよ。別に成績が下がっても……私は平気だから……」
「そ……そんなんじゃないよ」
「そう?」
「うん、そろそろ寝ようと思ってたところなんだ」
「そうね。じゃ、おやすみ」
そう言うと詩織は受話器を置いた。
まだ詩織は公が自分の留学のために必死で勉強をしていたことは知らなかった。
受話器を置いた公は隣の家の窓を見ながらつぶやいた。
「10番以内か……詩織のために、もう一踏ん張りするか」
眠気覚ましのコーヒーを口にした公は再び問題集に向かい合った。
テストの最終日、芸術科目の試験が終わった。
「おう、公。折角試験も終わったことだし、ロッ○リアではねをのばさないか」
好雄が公に声をかけた。
「え??? ロ、ロッテリ○……
いや……それはちょっと……」
公になっている詩織は躊躇した。
「ロッテ○アは……苦手で……」
「ははは、冗談だよ。マクドナルドでいいだろ」
「あ、それならいいよ。わかった」
そう言うと公になっている詩織は好雄と学校近くのマクドナルドに入っていった。
そこには朝日奈夕子が先に来ていた。
「あ、ヨッシー! 公君! こっちこっち!」
トレイを持った二人は夕子の座っている席に行くと腰を下ろした。
「あぁ……終わった終わった……」
「そうだな」
「もう、試験が終わって超サイコー! って感じ!」
「あ、試験と言えば……詩織ちゃんどうだったんだろ……」
「何の話だ?」
好雄の口から詩織に名前が出たので公になってる詩織は聞き返した。
「あれ、公君知らなかったの?」
夕子が意外そうな顔をした。
「だから……何の話?」
「今回の試験で10番以内に入らないと詩織ちゃんの留学、ダメになっちゃうんだよ」
夕子が説明する。
「えーーーーー!!!!」
「公君……知らなかったの?」
「詩織……何にも言わないから……」
「おいおい……幼なじみだろ……」
(そうだったんだ……それで公君……あんなに毎日夜遅くまで勉強していたんだ)
「なんでも、詩織ちゃん一時的な記憶喪失で、勉強していたこと忘れちゃっていたみたいでさ。
なんか、如月さんや、紐緒さん、片桐さん達に特訓を受けてたみたいだけどな」
(公君……私のために……そんな……公君……)
「わりぃ、ちょっと用があるから……」
そう言うと詩織は席を立った。
「あ、公!」
好雄の言葉は耳に入らなかったようだ。
「ま、いいか……ポテトのLはほとんど残ってるし……」
「あ、よっしー、それ半分もらうね」
神社の石段の上で詩織になった公は座り込んでいた。
(やっぱ……ダメだよな……どう考えても……10番以内なんて……)
詩織の夢をこわしたかも知れない……そう考えると公は辛かった。
「やっぱりここにいた」
声のした方を向くとそこには自分……つまり詩織が立っていた。
「や……やぁ、詩織」
「早乙女君と夕子ちゃんに聞いたわよ」
「な……なんの話かな……」
「ごまかしてもダメ」
「だって……オレががんばらないと……詩織の夢だった留学が……」
「そんなこと言っても……元に戻れるかどうかもわからないのに……」
「もし……元に戻れたときに……オレのせいで留学がダメになっていたら……そう考えると……オレ……」
「公君……優しいのね……」
「詩織……」
「私……そんな公君と幼なじみで良かった」
「え?」
「私ね……ずっと公君のこと……す」
「ちょっとまって」
詩織の言葉を公が止めた。
「公君」
「詩織の気持ちは嬉しいよ。オレも詩織のこと……その……ただの幼なじみと言う風には……」
「…………」
「詩織……」
そう言うと詩織になってる公は公になってる詩織を見つめた。
公になってる詩織が目を閉じた。
二人の顔が接近する。とその時、
「こりゃ! 境内で何をやっておる!」
宮司さんの怒鳴り声が響いた。
「きゃ!」
「うわっ!」
びっくりした二人はバランスを崩して石段を転がり落ちていった。
そして気を失ってしまった。
体を揺さぶられて公は気がついた。
「おぉ、気がついたか……よかった」
宮司さんが目の前にいた。
「あ、宮司さん……」
「いや、大声を出して済まなかったな……どれ、そっちの女の子も大丈夫かな?」
「え?」
宮司さんの言葉に驚いて公は隣を見た。
そこには詩織が倒れている。慌てて自分の格好を水飲み場の水に写して見る。
きらめき高校の詰め襟を着ている自分がそこにいた。
「もどったんだ!」
大声を上げると、気がついたように詩織に駆け寄る。
「詩織! 詩織!!」
「う……ううん……」
詩織が目を開けた。
「な、公君……あれ???」
「元に戻ったんだ!! 詩織! 元に戻ったんだよ!!!」
「え……ほ、本当に!」
詩織もあわてて自分を確認する。3ヶ月ぶりの自分の体だ。
「ある!」
公が叫んだ。
「ない!!」
詩織も歓喜の声をあげる。
「公君……」
「詩織……」
「おい……君たち大丈夫かね……頭でも打ったんじゃないのかね」
「あ、宮司さん。どうもありがとうございます」
公は宮司さんに頭を下げた。
「本当に、なんとお礼を言って良いやら……」
詩織も何度も宮司さんに頭を下げた。
そして二人は神社を出ていった。
「頭を打ったのか……救急車を呼んだ方がいいのか……」
訳の分からない宮司さんは、首をひねるばかりだった。
「ただいま!」
「ただいま!」
主人家、藤崎家に、公と詩織は3ヶ月ぶりの「自分の家」としてそれぞれの玄関をくぐった。
懐かしの我が家であった。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | 転校生 |
サブタイトル | 第8話 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/転校生, 藤崎詩織, 主人公, 他 |
感想投稿数 | 100 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月11日 23時25分36秒 |
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