パン! とスタートの合図がなると同時に、身体が動いた。
日頃からの鍛錬が物を言ったのか、トップをきってスタートすることができた。
体育祭の、借り物競争で、今俺は走っている。
高校最後の体育祭、悔いの無いように体調は万全だ。
トップを切って走った先には、白い封筒が並べられていた。
自分のコースの所に置いてある封筒を一番でひっつかみ、チラリと後ろを見ると、すぐ後ろにほかのコースの走者が追い付いてきているのが見えた。
俺はすぐに封筒の中から折り畳まれた紙を取り出して広げた。


‥‥‥‥‥

‥‥‥

‥‥


一瞬固まった。


一瞬どころではなかったかもしれない。
他の走者が次々に拾って、封筒の中身を広げているのに気づくのが遅かったくらいだ。
それでも、俺はどうしようかと思って悩んだ。
ほかの走者が、封筒に書かれている物を探し始めてのを見て、俺の腹は決まった。
こうなれば‥‥‥

自分のクラスの応援席に向かって、全力で走った。
紙は、書いた奴への恨みと‥‥‥感謝をこめて握りしめたおかげでクシャクシャになっていた。
応援席の前に立って、俺は探した。
すぐに見つかった。
「詩織、ちょっと来てくれ」
「え? わ、わたし?」
自分を指さして驚いたような顔をしている。
「借り物競争に協力してくれ。早く!」
「う、うん」
出てきた詩織の手を俺はガッシリとつかんだ。
手の感触を味わう暇は一瞬ほどもなかったが、それでも十分だった。
「一緒に来てくれ」
詩織は、頬を赤くしながら、一つだけ頷いた。
よし。
俺はその手を引いてコースに戻り、走り出した。他の走者も何か見つけたらしく、それぞれ手に何かを持って走っていた。しかし、人を連れているのは俺だけだった。
連れているのが詩織じゃなかったら、間に合う事はなかったかもしれない。
俺のスピードについてこれるだけの走りをしてくれただけで、いともあっさり他のやつらを抜いて一番にテープを切る事ができた。
判定員の清川さんのところへ行って、握りしめてクシャクシャになった紙を見せた。
紙を見た清川さんは、俺と詩織とをまじまじを見つめている。
俺はなるべく詩織からその紙が見えない位置に立った。
「そうなの?」
と清川さんが聞いてきた。
「‥‥‥そ、そうだよ。いいじゃないか」
「ふーん。そうだったんだ」
唇の端をつり上げる、小悪魔的な微笑みをされた。
「詩織ちゃんに見せていい?」
紙をヒラヒラと振った。
やばい。文字が見える。
「だ、だめだって。だめだめ」
「どうしたの?」
一等の旗を受け取った詩織がのぞき込んできた。
これを見られる訳にはいかない。
必死に、しかしさりげなく回り込む。
「い、いや‥‥なんでもないよ」
「それより‥‥‥何が書いてあったの?」
俺がその答えに困っていると
「‥‥ヘアバンドが良く似合う女の子だって」と、清川さんが言った。
「そ、そう。そうなんだよ。うん」
「‥‥ありがとう。うれしいな」
ニッコリ微笑む姿を見ていたら、どうにも照れくさくなって、頬を掻いた。
「さ、さあ行こう。一着のところへ」
そう言って、詩織を促した。
あとで清川さんの口を封じておかないといけないな‥‥‥
朝のロードワークを付き合わされたらどうしよう。
まったく、どこの誰だろう。あんな借り物の出題を書いた奴は。
「好きな女の子」
書いた奴は、俺と詩織が走っているのを見て、なんて思った事だろう。
そのおかげで、最後の体育際を詩織と走れたのはいいが、わかってしまったらどうするんだ‥‥‥
「わたし‥‥今日はこれはちまきなんだけどな‥‥‥」
「え? なんか言った?」
「ううん‥‥‥なんでもない」
詩織が手を握り返してくれたところで、俺は走っている時の影響で、さっきから詩織の手をつかんだままだというのに気づいた。
離そうとした瞬間、詩織が小さくつぶやいた。
「‥‥‥ありがとう」
「えっ?」
「選んでくれてありがとう‥‥って」
なぜか、紅くなった頬でこっちを見ている詩織を見ていたら、手を離す気がなくなっていた‥‥‥


午前の部が終わった時とき、放送が流れた。
「体育祭準備委員の方は、準備をしますので、至急テントへ集まってください」
スピーカーから流れる声に、詩織が立ち上がってテントへ向かっていったのを俺は知らなかった。

Fin

作品情報

作者名 じんざ
タイトルあの時の詩
サブタイトル20:借り物競争
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/あの時の詩, 藤崎詩織
感想投稿数288
感想投稿最終日時2019年04月09日 15時24分46秒

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  • [★★★★★★] 詩織がかわいいですねぇ
  • [★★★★★★] これはいいですねぇ
  • [★★★★★★] 駆け引きですねぇ…。
  • [★★★★★★] こりゃええね
  • [★★★★★★] とぼけた清川さんと、詩織ちゃんが、良い味出てますね!
  • [★★★★★☆] 借り物競争を検索したらこのページにたどりつきました!なんでこんなにときめくストーリーなんやー!!!
  • [★★★★★☆] し・・・詩織さんすごいことしますね。
  • [★★★★★★] いい。非常に甘くて良いです。
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