「ただいま」

玄関のドアを開けても、詩織は出てこなかった。代わりに奥から声がする。
「あ、おかえりなさい」
俺は、靴を脱いでから、奥の部屋に向かった。
「おい、なにや‥‥」
そこまで言って部屋に顔を出した時、詩織が人指し指を手にあてている。
すぐに納得した。
ベビーベットには、香織が寝ている。
紗織は、今詩織のおっぱいを飲んでいる最中だ。
「あ、悪い悪い」
声を抑えた。
「ごめんなさいね。ようやく香織寝かしつけたものだから」
詩織もひそひそ声だ。こんな事くらいでは多分香織は目を覚まさないだろうが、そこはそれ、気分的な問題だ。
「いや、いいよ。それよか‥‥‥」
何やらおいしそうにおっぱいを飲んでいる紗織を見た。
「良く飲むなぁ」
「香織なんて、もっと飲むわよ」
可笑しそうに微笑んでいる。
「そうそう。あなた。ご飯は?」
「あ、ああ。食べるけど」
「待っててね。今用意するから」
「いいよ。紗織が終わるまで」
つつけば弾かれそうなほど、張りのある玉の肌とでも言うのだろうか。紗織の頬はそれだけの物があった。
「‥‥‥それにしても、ほんと良く飲むんだなぁ。うまいのかな?」
「どうかしらね‥‥」
「でもさ、なんかすごく不思議だよな。
 女って、そうやっておっぱい出して育ててるんだから‥‥男にゃわからないよ」
だいたい、詩織がこうやって赤ん坊を抱いている姿すらも、未だに不思議な感じがする。
ちょっと思い出せば、すぐに詩織が小さい頃の姿が浮かんでくる。それだけに気にすると、途端に違和感を感じるほどだ。
「そうよね‥‥でも、わたしは、もうずっとこの子と居るような気がする」
「まあ‥‥ね、ずっとおなかん中に居たんだろうから」
「うん‥‥‥」
詩織が紗織に向けて、柔らかい眼差しを送っている。俺はこの眼差しが好きだった。
俺に向けてくれる眼差しとはどこか違うが、暖かいのだけは変わらない。


「‥‥‥‥いや、ほんとにうまそうだな。どんな味すんのかな‥‥」
あまりにも紗織が乳首から離れないものだから、なんとなく興味が沸いてきた。
「‥‥あ、あのさ」
「なに?」
「‥‥俺も‥‥‥飲んでみていい?」
「えっ‥‥」
途端に、詩織の頬が紅くなる。
「‥‥いや、なんか興味あるからさ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
これ以上ないというくらい恥ずかしそうな表情で、俺から目を逸らして紗織を見つめている。
そんな風にされると、こっちまで恥ずかしくなってくる。とはいえ、
以前から一度試してみたいと思った事だ。
「‥‥‥いいけど‥‥」
少しの沈黙の後に、ぽつりとつぶやいた。
「そ、そっか。それじゃ」
いいとは言ってくれたものの、どうした物かわからない。それに、まだ紗織が片方を占領している。
まあ、二つあるのだから、構わないが‥‥‥
「ほんとに‥‥もう」
困った色が限りなく濃いが、浮かんでいるのは苦笑だ。
「じゃ、ちょっと失礼して」
寝ころんで、詩織の膝に手をつけた。
どうも、こう高さがあわない。
なんとか手で上体の高さを調節して、乳首の位置あたりまで頭を持っていった。
「そっち‥‥‥さっき香織が飲んじゃったから、出るかどうかわからないわよ」
「いいよ‥‥」
顔を近付けて、初めて、妊娠前とは胸の大きさが違う事がわかった。なるほど。
「んじゃ」
そう言って、乳首を含んだ。
当たり前のようにやわらかく、あたり前のように暖かい。それに、なにか柔らかい匂いもする。
それより、大きな赤ん坊と化してる俺を、詩織はどういう表情で見ているのだろう。
香織達を見つめる目と、同じ目だろうか。
それとも呆れているだろうか。
どちらも、笑いの色だけは混じっていそうな気がする。
気になったが、目を上に向けたくはなかった。目があったりしたらこの上なく照れくさい。
俺は、吸う方に集中した。
ただ、吸い方がわからない。行為の時みたいに吸っていいものかどうかわからないが悩んでいても始まらない。
吸うと、詩織が「つっ」と声を出した。
驚いて、俺は乳首から口を離した。
「歯があたるから、ちょっと痛い」
「あ、ごめん‥‥‥」
「やっぱり、大人向きには出来てないのよ」
恥ずかしそうに笑っている。
「ちょっと変えてみるから」
もう一度乳首に吸い付いた。今度は歯を当てないように意識しながら吸ってみた。
途端に、口の中にゆっくりと暖かい物が広がって行く。
ただ、味はしない。というより、息をしてないからだろうか。
吸うのをやめて、鼻から息を吐き出すと、すぐに口の中に味が広がってきた。
正直、どんな味と言っていいのか、わからなかった。
なま暖かい牛乳。というほど、味わいはない。メチャクチャ薄いなま暖かい牛乳‥‥‥と言っても、まだ十分じゃないが、それ以外の言葉が見つからない。
正直‥‥あんまり美味しい物じゃなかった。極端にまずくもないが‥‥‥
「どう?」
詩織が興味深そうに訊いてきた。
「う〜ん、思ってたより、うまいって感じじゃないなぁ」
横でまだ吸っている紗織を見て、少し信じられない気分だ。
俺も、赤ん坊の頃には、こうやって飲んでいたのかと思うと、余計信じられない。
「そんなにおいしくないの?」
「なんだ、自分で出してるのに」
「自分で自分のなんて、飲んだ事ないわ。
 それに、届かないし‥‥あなたみたいに飲んでみようって考えた事もなかったから」
「なんだ‥‥‥じゃ、飲んでみる? 一度味を知っておくのもいいと思うけど?」
子供に与えている物がどんな味がするというのは、今後の参考にはなる筈だ。
「‥‥‥うん、そうね‥‥でも」
「あ、ちょっと待ってて」
さっきの味を思い出すと、もう一度‥‥‥という訳にも行かない気になったが、とりあえず、参考にさせる為だ。
何度か深呼吸してから、乳首に吸い付いた。しばらく口の中に貯め込んでから離れた。
俺がどういうつもりなのかわかっているのか、俺が顔を近付けても、何も言わずに、俺の唇を受け入れた。
ゆっくりと、なるべくこぼさないように、母乳を口から口へと受け渡した。
その間にも、紗織は何事もなかったように吸い続け、香織は眠り続けている。
唇を離したあと、詩織は少し口の中で母乳を転がしてから、飲み込んだ。
大人がこんな事をやってるんなんて、この子達には一生言う訳にはいかないな。
大人になって、子供をもてば、もしかしたらこういう事もあるかもしれないが‥‥
「‥‥‥‥うん‥‥‥あんまし‥‥おいしくないわね」
味を何度も頭に蘇らせようとしているのか、視線が上向きだ。
「‥‥‥だろ?」
「うん」
まさか、自分でそんなのを出しているとは思わなかったのか、少し複雑な表情をしている。
「ねえ、あなた。今日ラーメンか何か食べた?」
「えっ!」
昼にラーメン食べた事を思い出した。
しまった!
「ほんのちょっとだけど、ニンニクの味がするんだけど」
「あ、わ、悪い」
怒ると思ったが、なぜか安心した風な表情をしている。
「よかった‥‥‥わたし、今日昼にギョウザ食べたんだけど、それがおっぱいに出ちゃったのかと思って‥‥」
「そんな訳ないだろう」と笑ってみせた。
そんな筈はない。と分かっているものの、子供を持つ母親の体の事だ、何があっても不思議じゃないような気がする。
「あ‥‥‥もう紗織、いいみたいね」
紗織は、乳首から口を離した。
「あ、紗織持ってるよ」
「うん、ちょっとお願いね」
俺に紗織を預けて、詩織はブラをつけ直し、服を整えている。
「紗織、お前、ほんと良く飲むな。おいしいか。ん?」
抱きながら身体を揺すると、紗織はニコっと笑った。
「そっかそっか。うまいのか。しっかり飲んで大きくなれよ」
「あなた。紗織かして」
「あ、ああ‥‥」
服を整えた詩織に、紗織を渡した。
「ほんとあなたたちは良く飲むのよね」
ニコニコ笑いながら、抱いた紗織の背中を軽くポンポンと叩いている。
しばらく叩いていると、ケプっという声が紗織の口から漏れる。
「うん、これでいいわ」
「あ、ゲップか」
「ほんと、良く飲むから‥‥‥」
そう言いながら、香織の寝ている横に静かに寝かせている。
そっと布団をかけてから
「じゃ、ご飯にしましょ」と、俺の方に向き直った。
「ああ、頼むよ。なんか腹減ってきちゃったよ」
「さっきおっぱい飲んだのに?」
頬を赤らめながら冗談を言われるとは思わなかった。
「う‥‥勘弁してくれよ」
苦笑で返した。
昔。ずっと昔。
こんな風な話が出来るなんて、夢にも思わなかった頃を思い出した。

子供の頃に漠然と思っていた事は、もう覚えてないけど、二人の娘達が、受け継いでいくのだろうか。

Fin

後書き

DESファイルです。(編者注:東京BBSでの公開時は暗号化して発表されました)
なぜかというと、内容があまりにも恥ずかしいというかちょっと赤裸々な感じなので(^^;
いくらなんでも、こりゃいつものイメージとはかけ離れている。という事で‥‥(^^;;;
読んでみて、怒りを覚える方とか居たらイヤだなぁとか思ったんですが、なぜかふとこういうのを書きたくなったので‥‥‥

だったらアップすな。

そういう声が聞こえてきそうですが、なんとなくどれだけの方が興味を持つかな‥‥と思ったもので。
別に、ひどい内容とかっていう訳ではなくて、全然普通の事なんですけどちょっと「変」なので(^^;
(ちなみに、私はそーいう事をした事ないです。将来そーいう状況になったら一回くらいはやってみたいとは思いますが(^^;)
登場人物は主人公(…)と詩織、あとは赤ん坊の香織紗織姉妹。

という訳で、万が一にも「そこまで言って、もったいぶりやがって、どれ読んでやろうじゃないか。ひどかったらカミソリメールだ」と思うような事でもなんでもいいから、興味をもたれた方は、覚悟の上でJINZA宛てまでメールをください(^^;

‥‥ううむ、ひどいDOCの内容だ‥‥‥(T_T) なんか思い上がってるなぁ‥‥


作品情報

作者名 じんざ
タイトルあの時の詩
サブタイトル36:大人の赤ちゃん
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/あの時の詩, 藤崎詩織
感想投稿数291
感想投稿最終日時2019年04月09日 03時00分54秒

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(注) 要望は各投票において「要望無し」あり、「複数要望」ありで入力してもらっているので、合計値は一致しません。

コメント一覧(クリックで開閉します)

  • [★★★★★☆] あの時の詩の新作!!私はJINZA氏の作品を読めるところをここしかしらないのでいつもたのしみに待っています。これからもがんばってください。
  • [★★★★★☆] 8ヶ月の女の子を持つ親です。母乳育児をしているので、自分と重ね合わせてほほえましく読ませてもらいました。(うちのだんなは、横でおっぱいあげてても別に興味なさそうですが・・・。)授乳中の母親の穏やかな気持ちがとても共感できて、よかったと思います。
  • [★☆☆☆☆☆] http://kan-chan.stbbs.net/goods/shine.html
  • [★★★★★★] 男って、何故か皆これをやりたがる(又は実際にやって見る)んですよね。(核爆) 子持ちの友人も、例外無くやった事があるそうです。自分も何時か父親になったら、やっぱりやるでしょうね。(笑) で、お味は?作者さんの描かれた通り、あんまり美味しくはないそうですが・・・。
  • [★★★★☆☆] 人によって多少違うみたいですが、基本的に甘くておいしいですよ(^^;。「ミルキーはママの味」ってマジだから(笑)。でも大人じゃどんなに頑張ってもまともに吸えませんからねぇ…。話的にちょっとそこだけ気になttaりました(^^;
  • [☆☆☆☆☆☆] 作者を3DESで封じ込めておきたいが
  • [☆☆☆☆☆☆] いい
  • [★☆☆☆☆☆] 児童わいせつでタイーホします
  • [★★★★☆☆]
  • [★★★★★★] マンコ
  • [★★★★★★] 続き楽しみにしてますよ!!がんばって下さい!!
  • [★★★★☆☆]
  • [★★★★★★]