いつの頃からだろう。
俺の身長が伸びた頃からだろうか。
一歩踏み出せば、その歩幅は小さかった頃とは比較にならないくらい前に進んでいく。
速く。速く。速く。
いつの頃からだろう。
もしかしたら、時間に追われたせいかもしれない。
こんなに速く歩くようになったのは。
昔はもっとゆっくり歩いていたような気がする。
一緒に歩いている詩織を不意に追い越してしまった時、詩織の足音のリズムが早まったのに気づいて、俺は歩くのをやめた。
「あ、ごめん」
俺は詩織が来るまで待ってからそう言うと、詩織が不思議そうな表情で見つめてきた。
小さく‥‥気が付かないくらいに小さく息を乱して、黄色いリボンの揺れる胸を軽く上下させている。
「え?」
「あ、いや‥‥歩く速度‥‥速すぎたか」
「あ‥‥う、うん」
思っている事を突かれたか、驚いた表情をする。
「ごめんな。気がきかなくて」
苦笑だけが浮かんできた。
こんな事を言う自分に対してというより、詩織を追い越した自分に対して。
追い付こうと躍起になっていた自分が、詩織を追い越すなんて、苦笑のネタにしかならない。
「ううん。別に‥‥でも、ちょっと速いかな」
詩織も、苦笑で返してくれた。ささやかな我侭だろうか。
「ごめんなさい。わがままで」
「いいって、気づかない俺の方が悪い」
「そんな事‥‥」
「いいよ、気にすんなって」
そのまま詩織を見ているのが照れくさくなって、俺は目を逸らした。
鼻の頭を掻く仕草をしてしまったせいか、詩織がクスクスと小さく笑った。
照れているのだと、バレたのだ。
───「待ってくれないと、わたしなんかもう追い付けない‥‥」
「え? なんか言った?」
いきなり吹いてきた少し強めの風が、木々を揺らしたせいで、詩織が何を言ったのかさっぱりわからなかった。
「あ‥‥う、ううん。
ありがとう‥‥って言っただけ」
「そ、そっか」
俺の心をどれほど乱すのかも知らない笑顔で、ニッコリと笑って言われたせいで、俺は鼓動が跳ね上がるのを必死におさえて、歩き出した。
最初の一歩目だけを速く、あとは詩織のスピードに合せて。
その事が、今は難しい。
でも、いつかきっと俺は自然にあわせてやれる事が出来るようになるだろう。
きっと。
後書き
気が利かない主人公。
ただそれだけ。
もっと気づいてやれよ。もっと考えてやれよ。
書いててそう思った。
自分の時間の進み方だけで、生きていくのは無理なんだよ。
相手の時間の進み方も受け入れてやれよ。
それを考えてやれない奴はダメだな。
そこらへんのパラメーターは、これから上げていけ。
なあ、主人公よ。
とか、思う今日このごろ(^^;
なにマジになってんだろう。自分(^^;
作品情報
作者名 | じんざ |
---|---|
タイトル | あの時の詩 |
サブタイトル | 54:ふたりの歩み |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/あの時の詩, 藤崎詩織 |
感想投稿数 | 280 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月09日 09時16分18秒 |
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- [★★★★★★] ゲーム本編には無い設定で、良い感じですね。(^^) もしも、ゲームの中でもこんな感じがあれば、詩織ちゃんの評価も上がるのに・・・と、作者様に負けずに熱くなって考えてしまいました。(汗) PCE版発売から、もう8年も経っているのに、未だにこんな事を考えて居られるなんて、作者様も私も、根っからの詩織ストなんだな〜と、ちょっと嬉しくなってしまいました。(^^)v
- [★★☆☆☆☆] あとがきで さめました。