僕が眠りについてから、どれくらい経っただろう。
僕は女の子に出会った。いつも夢の中で出会う女の子だ。目を覚ますと夢での中の事はもとより、夢を見たという事さえも覚えてないのに、夢の中で逢うと、夢の中で話した事も、起きると忘れてしまう事さえも思い出せた。
この天使に会うようになってから、もうじき一年くらだろうか。
「君ってほんとに天使なの?」
不思議な格好の女の子に聞いた。前にも聞いたが、あまりにも気軽に現れる物だから、ついつい聞いてしまう。
「ええ、そうですよ」
そう答えて、不思議そうな顔をした。 水を被ると濡れるの? という質問に当たり前に答えるように。
「それにしても、ほんと美樹ちゃんにそっくりだな」
「世の中には、似てる人が三人は居るといいますからね」
この世の存在とは思えない人の言う事だろうか。
「そんな事より・・・あなたは、何か悩みを抱えていますね?」
「え? わかるんですか?」
「わかります。人は誰でも悩みを抱えている物ですから」
「それって、つまり、誰に言っても適用されるんじゃない?」
「そんないい加減な事じゃないです」
「ほんとかな・・・」
「人を疑う人は、人から疑われますよ」
言葉が胸に刺さった。確かにそうかもしれない。
「私にはわかるんです。天使ですから」
ジョーカーを出された気分だった。確かに、天使じゃしょうがない。
「あなたは、今、好きな人の事で悩んでいますね?」
「わかってるんだったら、いちいち語尾を上げなくても・・・」
「わかってます。いちいち細かい方ですね」
怒った顔も美紀ちゃんそっくりだった。
「雰囲気が大切ですから」
そう言って一つ咳払いをして、
「石塚美樹さんの心がわからない。そうですね?」
「あ・・・うん」
「あなたは、彼女にとって、ただの同居人なのか、それとも・・・」
胡散臭いと思った気持ちは、あっという間に消えた。そのものズバリだったからだ。
美樹ちゃんと一緒に暮らすようになってから、いつからそんな気持ちになったのか、僕にもわからない。ただ、僕が好きになっていけばいくほど、そう思う気持ちが強くなっていったのは確かだ。
「・・・・・」
「わたしがここで教える事は簡単です。でも、それを言う訳にはいかないんです。それに、例え言っても起きてしまったら、まるっきり忘れてしまうんですよ?」
「どうして・・・どうせ忘れちゃうんなら、別に教えてくれても・・・」
「ごめんなさい。そういう決まりごとがあるんです」
そう言って、天使は眉尻を下げた。僕が小さい時に、母さんに無理な事を言って困らせた時も、こんな風に困りながらも、優しく笑ってくれた記憶が微かにある。
女の人にしか出来ない表情のような気がした。
「その代わりと言っては難ですけど、こういうのはどうでしょう?」
「な、なに?」
「その前に・・・あなたは、本当に彼女・・・美樹さんの気持ちが知りたいんですか?」
「・・・・・」
「もし、なんとも思われてなかったら・・・って考えました?」
「!」
軽い気持ちで聞いてはいけない事だったのかもしれない。
僕は、胸が詰まった。
確かにそうだ。一緒に暮らしているからと言って、美樹ちゃんが僕を受け入れてくれている訳じゃない。ひょっとしたら、ちょっと頼りない兄貴程度にしか思われていないかもしれない。あるいは、もう美樹ちゃんの中には、もう他の誰かが・・・・
僕は、頭を振った。
これはどうせ夢だ。適当に考えればいいんだ。
どうせ夢なら、どんな結果になっても、起きれば消えてなくなる。
色々考えた末に、一回だけ首を縦に振った。
「そうですか・・・・わかりました。でも、今からする方法で、美樹さんの気持ちがわかるようになる保証はないです。むしろ、その可能性は低いと思います。でも、少なくとも相手の事を、今よりはずっと理解出来るようにはなる筈です。その後の事は、あなた次第ですけど」
「うん・・・それでいいよ。わからなくても、理解出来れば、なんとかなるかもしれないしね」
正直、がっかりもしたけど、ほっと胸を撫で下ろしもした。
「そうですよ。じっとしているよりはマシですもんね。まずは歩いてみるべきだと思います」
天使がにこっと笑った。美樹ちゃんが同じ台詞を言ったら、きっとこんな表情になるに違いない。
「あ、なにかする前にちょっと聞いてみたいんだけど・・・いきなりこんな事聞くのも難だけど、天使さんにも、誰か好きな人って居るの?」
純粋な興味があった。美樹ちゃんにそっくりな天使が好きになる奴はどんな奴だろうという興味だ。
「好き・・・という感じが当てはまるかどうかわかりませんけど、そういう人は居ます。私と対になっている存在なんです」
天使の頬が、ほんのり赤らんだ。照れているようにも見えたし、恥らっているようにも見えた。
「対って?」
「光があれば、影が必ずありますよね。それと同じように、物事には必ず対という物があるんですけど、私という「女」に対する「男」という存在が居るんです」
「そいつも天使なの?」
そう聞くと、天使はこくりと頷いた。
「今度、もしよかったらその天使さんも一緒に」
「そうですね・・・・一応考えておきます」
天使の歯切れが悪かったが、僕もどうしてもという訳でもなかったから、あえて突っ込んだりはしなかった。言い難い事を抱えている時の美樹ちゃんの表情とまったく同じに見えたからというのもある。
「それでは、そろそろ良いですね。あなたの願いをかなえます」
天使がそう言うと、天使の背中から、どこに隠していたのかと思うくらい、白くて大きな羽がふわぁっと広がった。同時に背後から、ぱあっと真っ白な光が溢れ出してくる。眩しくて目を開けていられない程だ。
「ま、待ってよ。方法って?」
「目を覚ませばわかります」
「そんなのずるいよ、方法くらい教え・・・」
自分の声も、光に押しつぶされて聞こえなかった。

「う・・・・・」
僕は目を覚ました。
昨日は、遅くまで美樹ちゃんとゲーム対戦していたせいか、やたらと眠い。
日曜日の朝の目覚めとしては、中の下くらいだ。
もう一度目を閉じた。
ふぅと息を吐いて。ゆっくりと鼻から吸う。
なんか・・・良い匂いがするな。
もう一度息を吐いてから、今度はゆっくりと吸った。
間違い無い。いい匂いがする。
微かに甘くて、鼻の奥が心地よくなるような、そんな匂いだ。
この匂いは、確か・・・・
どんよりした眠気が、一気にすっ飛んだ。
がばっと上半身で跳ね起きると、見慣れない壁が見えた。窓には、フリルのカーテンがかかっている。置いた覚えの無い棚の上には、ぬいぐるみが並んでいた。
「え・・・ここって・・」
声が出た。瞬間、心臓が止まった。
「わっ! ご、ごめん!」
咄嗟に謝った。謝る謝らないの状況かもわからないが、とにかく謝った。
すると、なぜか、向こうの「声」も謝ってきた。
「僕は・・・あの・・・」
僕?
「違うんだ・・・これは・・・」
違うんだ?
さっきから聞こえてくる声は、紛れも無く美樹ちゃんの声だった。
その声が、ことごとく僕の言葉に重なってくる。しかも、僕とか、違うんだとか、およそ美樹ちゃんらしからぬ言葉遣いで。
慌てていた心が、一瞬だけ冷静さを取り戻した。慌てて回りを見まわす。美樹ちゃんの姿はどこにも無かったが、僕が今どこに居るのかだけは分かった。
とにかく絵に描いたような可愛らしい部屋だった。まるで、女の子の部屋の見本だ。
滅多に入らない部屋だが、この部屋の壁の向こう一枚には、僕の部屋がある。
つまり・・・ここは美樹ちゃんの部屋だ。という事は、僕は美樹ちゃんの部屋で寝ていたって事か?
やばいぞ。もしそうなら、僕は変態扱いだ!
いや、そんな筈は無い。昨日ちゃんと美樹ちゃんは、おやすみなさいと言って僕の部屋から出ていったし、僕もそれから自分の部屋から一歩も出ないで、布団の中に入ったのを覚えている。それに、ちゃんといつも寝る時格好で・・・
胸元に手を当てた。
ふにゅ。
手から伝わってきたのは、そんな感触だった。
そのままの姿勢で、どれほど固まっただろう。それから、慌てて下を向いた。
胸元の面積がやたらにあった。
それに、なんだこの白いひらひらした服は? こんな服を着た覚えなんてない。
僕は、胸元に当てていた指に力を入れた。
指の下にあるやわらかい何かが、僕の指を受け止める。おかしな事に、指はともかく、そのなんだかわからない柔らかい物にも、僕自身の触感があった。
何度かふにふにと弾力を確かめた後、つねってみた。
痛かった。
間違い無い。この柔らかい物は、僕の一部だ。
深呼吸を一回した。重たい空気でも吸っているような感覚。
胸元を覆っている、ふりふりな白い布を、指で引っ張ってみた。
今度は十秒ほど固まった。
呼吸の度に上下する、柔らかそうなラインの塊が、左右二つあった。先っぽに、何か突起みたいなのがついている。それでなんとなくわかった。
これはあれか。ホントに丸くて、しかも大きい。
それが感想だった。写真や絵では見たことはあったが、実物はこんな風に見えるのか。なんてぼんやり思った。
しかもこんな近くで見ている。
これでわかった。
そうか。これは夢なんだ。しかし、随分リアルな夢だな。美樹ちゃんの部屋で、事もあろうに大きな胸をつけてしまうとは・・・ううむ・・・こりゃまた・・・
僕は、凝視していた。
上から見ると、こんな感じに見えるのか・・・・
ごくりと息を飲んだ瞬間、壁の向こうから男の悲鳴が聞こえてきた。
な、なんだ?
慌ててベットから飛び出して、ドアを開けて顔を覗かせた。
すると、隣のドアも開いていた。
一瞬、鏡が置いてあると思った。
鏡の中の僕が、瞬きをした。僕がしていないのに。
僕は頭を小さく動かした。向こうは振らなかった。
目を皿のようにしているばかりだ。
しばらく固まって、僕とは違う動きをする、気持ち悪い自分を見ていた。
そういえば、さっき胸をつねった時痛かったよな。
夢・・・じゃないのか? でも、向こうに、僕が居るし、僕が女の身体になったなんて・・・
一瞬、頭の中を、ある考えが電気のように走った。僕は美樹ちゃんの部屋に急いで引っ込んで、辺りを見まわした。
ベットの脇に、大きな姿見があるのを見つけて、飛びつくように前に立つ。
美樹ちゃんが目の前に居た。
なぜか、ひどく慌てた顔をしている。
首を横に傾けてみた。
鏡の中の美樹ちゃんも、動くスピードや傾けた角度まで、寸分違わず真似をする。
眉を寄せて、難しい顔をして見た。美樹ちゃんも眉を寄せた。今まで見たことない表情になっていた。
手を鏡につけた。美樹ちゃんも手をつけてきたが、伝わってくるのは、ガラスの硬さと冷たさだけだった。
顔を両手で触ってみた。美樹ちゃんも真似をした。
「あ。あ」
声を出してみた。聞こえてくるのは美樹ちゃんの声だけだった。
僕は、ドアの方に取って返し、もう一度僕の部屋の方を見た。
まだ僕が見ていた。その僕と目が合う。
「・・・・・お前・・・誰?」
そう言うと、僕の姿をした奴は、へなへなとくずおれた。

 こういう時どうすればいいのか、学校では教わらなかったし、漫画や小説では見た事はあっても、解決策は書いてなかった。誰に聞いてもこうすればいいなんて答えは返ってこないだろう。
嘘だ。夢だ。幻だ。重い。助けて。
そう思いながら、倒れていた「僕」を、僕は引きずるようにして自分の部屋に入れて、ベットに寄りかからせた。
間違い無い。こいつは僕だ。鏡の中で何度も見ている僕自身だ。黒子の位置も、何もかも同じだ。だとしたら、僕は一体誰だ? しかも、事もあろうに美樹ちゃんの格好をしている。
僕は、自分の腕を見てみた。
ラインが全体的に柔らかいし、肌も白い。それに、血管も浮き出てない。
繊手ってのは、こんな手の事を言うのか。
美樹ちゃんの手がそうなのか、女の子全員の手がそうなのかはわからないが、男と違うのは確かだった。男の僕が言うんだから間違い無い。
僕は、自分の部屋にある鏡を覗いた。映ったのはやっぱり美樹ちゃんだった。
手で自分の頬をぺんぺんと叩いてみた。
痛い。
疑問が確信に変わった。
「夢・・・じゃないのか?」
わざわざ声に出してみた。聞こえてきたのは、やっぱり美樹ちゃんの声だった。裏声で喋ってるような違和感を飛ばすように咳払いしてから、もう一度声を出してみた。
声は変わらなかった。
まだ僕は認めてなかった。認められる筈が無い。僕はここにこうしているのに、僕が今後ろでぐったりしている。そして、僕は美樹ちゃんの姿をしている。
馬鹿げてる。やっぱこれは夢だ。
幽霊やUFOを信じてない訳じゃないけど、それよりも非現実的だ。幽霊がUFOに乗ってたなんて方が、まだマシだ。
こんな事、あってたまるか。
「う・・ん・・・」
僕の声がした。
振りかえると、ぐったりしていた「僕」が、眠そうな目をこすっていた。
僕が美樹ちゃんになったとしたら、もしかしたら・・・
「美樹ちゃん・・・かい?」
すると、「僕」は、ぼーっとした目でこっちを見てきた。ぼーっとするときって、あんな顔してたのか・・・などと思いながら、反応を待っていると、いきなり「僕」が目をくわっと開いて、
「わ、わたし・・・?」
そう言って、僕を凝視しながら、顔を引きつらせる。
「いやぁっ! なんで、どうして?!」
「僕」の声で言ってきた。
ほっとする気持ちより、気持ち悪い。というのが率直な感想だった。
この反応でわかった。間違いない。美樹ちゃんは「僕」だ。
「美樹ちゃん。落ち着いて。頼むから落ち着いて。僕だよ! …だよ」
名前を言った。僕が僕だとわからせる為に。
「い、いやあ・・」
自分の姿をしたのが目の前に居るんだ。怯えもするだろう。しかし、今はそんな時じゃない。なんとかして、この状態を整理したかったし、させたかった。
「僕だって慌てたいんだ。でも・・・お願いだから話を聞いてっ」
「・・・・・・」
「石塚美樹なんだろっ!君は」
強く名前を言ったのが功を奏したのか、「僕」は、こくんと頷いた。
良かった。これなら、なんとか話が出来そうだ。
「僕は、…だよ。わかるよね?」
怯えた子猫に話し掛けるように、ゆっくり優しく話しかけた。僕だって、どうしようどうしようと慌てたい。なんとかそれを抑えて、美樹ちゃんが落ち着くまで、急かさず待った。
しばらくすると、「僕」つまり、美樹ちゃんは、ゆっくり頷いた。
「起きたら、いきなり美樹ちゃんの所で寝てて、気がついたら・・・・美樹ちゃんもそうだよね?」
美樹ちゃんは頷いた。
ここは、イエスorノーで聞くのが手だな。
「夢だと思う?」
返事は頷き一つ。
そりゃそうだ。僕だって、今でも夢だと思っている。
それにしても、やはり「僕」の仕草は気持ち悪い。同じ首を縦に振る仕草だけでも、中身が違うとこうなのか。
「思い当たる事ある?」
今度は横だった。
「頭とかぶつけた?」
横。
「熱とか無い?」
縦。
「どこも痛くない?」
縦。
「なんか変な物食べた?」
横。
美樹ちゃんの反応は、そのまま僕にも当てはまった。
「やっぱり・・・夢ですよね。これって」
ほんのちょっとの受け答えで、気持ちが落ち着いたのか、そう聞いてきた。
僕は、横にも縦にも振らなかった。本当なら、縦に振りたい所だ。いや・・・縦に振ってみるのも手かもしれない。
「当たり前だよ。こんなのある筈ないんだから」
「・・・・・」
沈黙が答えだった。
美樹ちゃんも、認めたくないけど認めざるを得ないほどのリアルを感じているんだ。
「これから・・・どうするんですか?」
不意に言われた。夢でないのを一番実感しているのは、美樹ちゃんなのかもしれない。
「・・・・」
「病院に行けばいいんでしょうか?」
「これって、病気なのかな・・・」
精神病の一種かもしれないと思ったが、身体が入れ替わるなんていう病気は、聞いた事も見たこともない。しかし、病院に行ったら、確実に精神病扱いされるだろう。それに、最大の問題がある。二人一緒にという事になったら、学校にも友人にも、僕達の状態が筒抜けになってしまう。そうなれば、学校は退学だ。
一生が台無しになってしまう。なんて事もあり得ない事じゃない。
「病院は、最悪の状態になったらって事でいいんじゃないかな。同居もバレるし、やばいと思うんだ・・」
「・・・そうですよね」
「なんでこうなったかわからないけど、突然なった訳だから、突然直るかもしれない」
僕は、美樹ちゃんに近づくと、怯えた表情をされた。
「あ、あの。あまり近寄らないで貰えませんか・・・」
「え?」
普段なら言われてショックな言葉も、「僕」の声で言われたせいか、ショックそのものは無かった。
「怖いんです・・・自分が目の前に居るっていうのが」
「そ、そうなの?」
僕は、慌てて身を引いた。
「なんか変?」
「そういう訳じゃないんです。ただ・・私が私を見るっていうのが・・・」
「そっか・・・」
確かに言う通りだ。自分なのに、自分じゃないなんて、怖いの一言だ。
「まあ・・・とにかく、しばらくは下手に騒がない方がいいな」
「でも、もしですよ。もし、このまま戻らなかったら・・・・」
「・・・・・・」
考えたくなかった事だった。
「もしかして、一生このままなんて事も・・・・」
美樹ちゃんが一瞬にして青ざめた。振るえさえ出始めている。
「私、一生、このままの姿なんて・・・いやぁ・・・」
絞り出すような声と一緒に出てきたのは、涙だった。
正直、思いっきり傷ついた。
確かに、わからないでもない。僕の場合だって、美樹ちゃんの姿で一生居るのはイヤだ。生まれた時から当たり前の様に男だった訳だし、それが今更女になってくれなんていうのは、冗談じゃないの一言で片付けたいくらいだ。それに、美樹ちゃんが嫌いだからイヤな訳じゃない。むしろ、好きだからイヤだった。
美樹ちゃんの涙は、そんな意味じゃないんだろうか・・・そうでないとしたら・・
「美樹ちゃん・・・・」
「返して。私の身体返してください・・・返してぇ・・・」
「・・・・」
返せる物なら、とっくに返している。僕だって返してもらいたいくらいだ。
「泣かないで・・・」
「返して・・・ねえ、返して。お願いっ! 」
何もかも僕に責任があるような声だ。
せっかく落ち着いた筈の時間が、美樹ちゃんの悲痛な叫びと涙で崩れ落ちた。
もうどうしようも無いくらいに。
ふと、ある言葉を思い出した。
女の子が泣くのをやめさせたかったら、何か強いショックを与えて、頭の中で混乱してる情報を整えてやればいい。と。
強いショック・・・つまり叩くという事だ。
聞いた時には、女の子なんて殴れる訳ないじゃないかと思った。
今でもそれは変わらないが、でも今は・・・
僕は、美樹ちゃんに近寄って、平手を振り上げた。
今から叩くのは女の子じゃない。男だ! 男だ!
必死に思いこんでから、
「ごめん」
そう言って、上げた手を振りぬいた。
部屋に、小気味いい音が響く。
美樹ちゃんの涙は瞬時に止まった。唖然として僕を見ている。
「一人で混乱して、一人で泣いて・・・僕だって、どうしていいかわかんないんだ。 それなのに・・・・」
頬に、何かが這っているのを感じた。
「僕」を叩いた手で、そっと触れてみた。叩いた影響なのか、指先は震えている。
そっと離して、指を見てみると、赤くなった指先がきらきらと輝いていた。
涙? 泣いている? 僕が?
理由もわからない涙を見て、初めて悲しくなった。今までの事より、涙その物が悲しかった。今まで抑えてきた気持ちが、わあっと溢れてくる。僕が僕で居られないくらい悲しかった。
「なんだよ・・・自分一人で・・・みんな悪いのは僕のせいか・・・僕だって、元の身体の方がいいよ。それを・・・僕一人が悪いみたいに」
堰を切ったように、涙がぼろぼろ出てきた。泣いているんだと思うほど悲しくなってくる。
「僕のせいじゃないんだ・・・・」
「…さん・・・」
美樹ちゃんの声に反応する事さえ出来なかった。ただ悲しさをなんとか抑えようとするのに必死だった。えぐえぐと泣きながら、何度も涙をぬぐった。拭っても拭っても、次から次へと濡らしてくる。
なんでこんなに悲しいんだろう。こんな気持ちで泣いた事、今まで一度だって無いのに。
「ご・・・ごめんなさい・・・うっく・・ごめ・・・」
美樹ちゃんが、いきなり僕に抱き着いてきた。近寄られたくない自分自身の姿だった筈なのに。
泣いてた。僕同様に。ボロボロ泣いていた。
「僕」にも涙があったんだ。こんなに泣ける涙があったんだ。
そう思った。
「ごめん・・僕こそ。ぶったりして」
抱き着いてきた美樹ちゃんの頭を抱きしめながら、僕は必死に涙を押し戻そうとした。

 どれだけ泣いただろう。泣いてから、どれだけ経っただろう。いい加減流すものが無くなって、涙の跡も消えようとしていた。もうちょっとすれば、顔を水でひと洗いしたら人前にも出られそうだ。それに、泣くだけ泣いたら、気分も意外な程すっきりした。壮快とさえ言ってもいい。
考えてみれば、別に痛い所がある訳でもないし、戻らないと即死ぬという状況でもなさそうだ。目さえつぶってしまえば、普段となんら変わらない感覚でもある。それに、お互い帰る場所はここしかない。親にばれたらとか、そういう心配も今の所しなくていい。
泣いた後の自分を見るなんて、なんとも変な気持ちだが、そんな事を思うだけの余裕が出ただけでも、随分マシになったのかもしれない。今日が日曜日であるというのも、そういった気分に拍車をかけるには十分だった。
ベットに腰掛けながら、横に居る美樹ちゃんに、
「とにかく、今は静観しよう」
「はい・・・」
美樹ちゃんは、弱々しくも、柔らかく笑った。「僕」も、こんな笑顔になれるんだ。などと思う。
「貴重な経験だと思えば、少しは楽しくなるかな・・・」
「それはちょっと言いすぎだと思います」
「いや、まあそうだけど」
頭を掻いて、苦笑した。
ちゃんと、指先にも掻いた場所にも、笑う為に吊り上げた唇の端にも、僕が普段感じている感触や感覚と変わらない物がある。女の子だから、何か特別な感触があると思ったが、そうでもなかった。
「とりあえず、今日は家でじっとしてよう・・・」
「そうですね。それしか無いですもんね」
美樹ちゃんの言うのを聞きながら、僕は下を向いて自分の姿を見ていた。ふりふりのベビードレスが、さっきからやたらに目に飛び込んでくる。特に胸元のあたりがやたらに気になってしょうがない。とにかく目のやり場に困る。
「ちょっと着替えていいかな?」
立ちあがって、自分の衣服タンスに向かおうとすると、
「ちょっと待ってください。着替えるんなら、私の部屋でしてください」
「え?」
「あ。と、やっぱり、ちょっと待ってください!」
「な、なに?」
「うそ。信じられない・・・・」
美樹ちゃんの頭の中で、何かが暴走しているようだった。
「なんなの?」
「…さんが着替えるって事は、当然・・・・服を脱ぐ訳ですよね」
「そりゃまあ。当然ね」
「ってことは、服を脱ぐのは私だから・・・」
「あ・・」
なるほど。そういう事か。
「着替えないでください!」
きっぱり言われた。お願いじゃなくて、命令だった。口調もそうだし、目もマジだった。
どうしても、自分が自分じゃない口調を使って、僕を見てくるのにはまだ慣れない。
「そんな・・・一日中この格好で居ろっての?」
下を向いて、美樹ちゃんの寝巻きである、ベビードレスを見つめた。ため息が出た。
「だって、しょうがないじゃないですか」
「しょうがないも何も・・・・」
内心ドキドキしていた。朝、僕が何を見たのか、今言ったらどうなってしまうだろう。なんて事を考えていたせいだ。
そうか・・・今の僕は、美樹ちゃんの身体なんだ。
落ち着いたら落ち着いたで、逆に好奇心が湧き上がってきた。同時に、聞こえないかと心配なくらい胸が高鳴なってくる。
今は自分の身体になっているとはいえ、好きな子の物を見てしまったのだ。理性が吹っ飛んでもおかしくない。
「・・・・わかりました。そのまんまじゃ、風邪引いちゃいますもんね。それじゃ、こうしましょう」
美樹ちゃんが立ちあがって、ドアの方に向かってから、僕を手招きした。
視点が違う事がわかって、ほっと胸を撫で下ろした。


「なんでこんな事を?」
僕は、暗い世界を見つめながら聞いた。
「こうしないと、…さんに見られちゃいますから」
僕の頭の後ろで、美樹ちゃんがきゅっきゅと目隠しの布を縛りながら言った。
「そんな・・・こんなんじゃ着替えられないよ」
「でも、服の前後ろくらいはわかりますよね」
「だったら、僕の服とかでもいいじゃないか。着なれてるし、どこに何があるのかわかるし」
美樹ちゃんの部屋に連れてこられたら、僕は美樹ちゃんの服を着るしかない。それには抵抗があった。
「…さんの服じゃ、私にはぶかぶかだと思うんですけど」
「あ。そっか」
呆気なく僕の希望は崩れ去った。
「はい。これでいいですよ」
縛り終えた美樹ちゃんが、そう言った。
しかし、これは凄い図かもしれない。傍から見たら、男の僕が、女の子に目隠しをしているんだ。
「・・・で、着替える物は?」
もし自分の部屋だったら、どこに何があるのかわかるし、最悪、目隠しされても手探りでわかる。
「えっと。それじゃ・・・」
美樹ちゃんは、なにやらごそごそやりだした。着替える物を探しているんだろうけど、これも凄い図だ。女の子の部屋で、目隠しをした女の子を前にして、着替えを探す男。万が一この光景を見られたら、もう言い逃れは出来ないだろう。
「これとこれとこれ。あと・・・・」
そう言ってから、何かを僕に手渡して来た。布の感触だから、着替えだろう。
「これで全部です」
「あ・・・うん」
「じゃあ、着替えてください」
「ここで?」
「はい」
「美樹ちゃんの目の前で?」
「あ・・・」
美樹ちゃんははっとしたような声をあげる。
「わかりました。じゃあ私は出てます。その代わり、絶対に目隠し取っちゃ駄目ですよ。お願いしましたからね」
「わかったよ・・」
美樹ちゃんが出ていってから、僕は渡された物をベットにおいて、一つずつ確認した。最初は、長袖のシャツらしき物だ。これは僕のと変わりない。襟元を探れば、前後だってわかる。次に触れた物は・・・なんだか広い布だな。筒みたいな・・・・・あ、そうか、これはスカートか。でも、これってどっちが前なんだ? ま、いいか。筒みたいな形だし、まわせばなんとかなるだろう。えっと、後は・・・・
最後に、何かが触れた。
何か、細い物だった。紐ほど細くなく、なんだかうすべったい細い物だ。どうやら布っぽい。手繰っていくと、それが数本ある事がわかった。さらに手繰ると、少し広めの布にたどり着いた。布というより、ざらざらとした質感と、シルクのようなツルツルした触感が両方ある布だった。
何度かたぐると、形らしきものが想像出来るようになった。
「これって・・・・」
想像で形を特定できた僕は、それを広げてみた。
間違い無い。
どの服よりも先に着けないといけない物だろう。
ただ、問題があった。
これは、一体どうすれば・・・
しばらく考えた挙句に、
「美樹ちゃん。ちょっとちょっと、聞きたい事があるんだけど」
すぐに美樹ちゃんは入ってきてくれた。
「なんですか?」
「あのさ・・・これなんだけど、どうすりゃいいの?」
「あっ!」
そう聞こえた瞬間、どたどたと走る音が聞こえたかと思うと、僕が手にしていた物がぱっと消えた。
「これは・・・その・・・着けないと駄目なんです」
多分、「僕」が僕で無くなった時以降に聞いた中で、一番気持ち悪かった喋り方だった。
やはり、美樹ちゃんは美樹ちゃんの声で言うべきだ。
「着けないって訳じゃないけど、着け方を教えて欲しいんだ・・・」
せめて目隠しがなければ、なんとか着ける事も可能だろうが、それ以前に、情けなかった。どうして僕がこれを着けなくちゃいけないんだ。
「目隠ししてちゃわかんないよ」
「駄目です。絶対に駄目ですっ!」
「じゃあ、面倒だからいいよ・・・」
「それも駄目です。形が・・・」
「・・・・」
「とにかく、絶対に着けてください」
「でも・・・」
「私が手伝いますから・・」
「うう・・・」
美樹ちゃんに逆らうつもりは無かった。身体が入れ替わったのも手におえない事態だが、それと同じくらい、手におえない事のような気がしたからだ。
女の子の下着をつける手伝いをする自分の姿を想像した。
なんて情けない図だろう。


「なんか窮屈だな・・・」
身体をぐいっと左右にひねってみた。必ずどこかで突っ張ってるような気がして、落ち着かない。その代わり、少しだけ肩の辺りが楽にはなっている。
用意された着替えを全部身に着けて思った事は、胸元のきつさだった。スカートのスカスカ感については、思っていた程じゃなかった。ロングスカートだったからだろうか。
「これ、ちょっときついんじゃない?」
「そんな事ないですよ。慣れればなんて事ないです」
「ふぅん・・」
ずっと続けていれば、確かに慣れるかもしれない。しかし、こんなのを一生続けていかなければいけないなんて、なんて不自由なんだと思わずには居られなかった。
これじゃ、思いっきり飛んだり走ったり、動く事も出来ないんじゃないか?
「わたしは、このまんまでいいですよね」
美樹ちゃんは、両手を広げてみせた。寝巻きとして使っている紺色のスウェットの上下は、確かにそのまんまでもいいか。
「まあ・・・いいか」
「でも、やっぱり落ち着かないです・・なんか・・・すかすか・・」
「慣れだよ。慣れ」
僕は、そう言って苦笑した。このままの状態が続いたら、慣れてしまうんだろうか。
不意に、美樹ちゃんがドアの方に歩き出した。
「どしたの?」
「いえ・・・ちょっと」
そう言うなり、そそくさと出ていった。
ドアが閉まった瞬間、いきなり、深い穴に一人取り残されたような寂しさと怖さが、突然やってきた。
泣いてすっきりしたとはいえ、正直、まだ怖かった。
今の今まで、僕の姿をしているとはいえ、同じ境遇の美樹ちゃんが側に居てくれたから、なんとか耐えていられたのかもしれない。
膝を引き寄せて、ぎゅっと抱いた。
自分の身体なのに柔らかい。触れる物、感じる物全てが柔らかい。
美樹ちゃんは、こんな世界の中で生きてるんだ・・・
そう思っていると、ドアが開いた。
頬を赤らめた美樹ちゃんが顔を覗かせている。顔を見た瞬間、束の間の不安が霧消した。
「あの・・・ちょっといいですか?」
「なに?」
「えっと・・・」
顔が真っ赤になっている。「僕」の顔をあんなに赤く出来るなんて、たいした物だ。
「おトイレの事・・・ですけど」
天啓でもあったかのように、ピンと来た。
これが女のカンって奴か?
いや、待てよ・・・・・となると・・・・・見られたって事になるのか!?
ひたすら恥ずかしかった。情けなくなるほど。
僕は必死に言い聞かせた。何事も無い事だ。しょうがない事だと。
「いや、その・・・座ってても大丈夫だよ・・・」
「い、いいんですか?」
美樹ちゃんは、目を丸くしていた。きっと、そういう固定概念があったんだろう。
「むしろ、立ってしないほうが・・・」
僕の身体というロボットに乗った美樹ちゃんとして考えてると、その方がいいだろう。使った事の無い物を最初から使えるとは思えない。
「み、見てませんから・・・・」
美樹ちゃんはそう言い残して、ドアを閉めた。すぐにドタバタと走る音が聞こえる。よほど慌ててたのか、我慢できなくなったのか・・・
何はともあれ、しっかり見られたのは間違い無い。それだけは分かった。だいたい、見ないで出来る筈が無い。
僕の場合は・・・本当に無いんだろうか。
一瞬触ろうかと考えたが、怖くて触れなかった。一つは、あるべきところに無いという恐怖故だったし、もう一つは、美樹ちゃんに怒られそうな気がしたからだ。例え絶対見られてなくても、僕のイメージの中に居る美樹ちゃんに見られてしまう。
僕は、鏡の前に立ったみた。正面には美樹ちゃんが居る。
なんだかやつれている風に見えた。
「美樹ちゃん・・・・冗談だよな?」
返事は返ってこなかった。

 身体の構造に関しての違和感は、実際トイレの時だけで、後はなんていう事もなかった。
ただ、僕のトイレの時に、美樹ちゃんがイヤイヤとダダをこねたが、こればかりはどうしようも無いし、大丈夫絶対変な事はしないと何度も約束してから、処理の仕方まではさすがに聞けないまま、僕は急いでトイレに行ったりで、大変だった。目隠しされなかっただけでもありがたいと思うべきか。
そんな事があったりして、かれこれ、もう二時間は経っただろうか。
美樹ちゃんは僕の部屋から出て行こうとしなかった。なるべく二人一緒に居たいと思うのは僕も同じだ。気持ちはわかる。
僕達は、二人でずっとベットの上に座りこんで、時折思い出したように話すの繰り返しだ。
「私達、本当に入れ替わっちゃってるんですね・・・」
美樹ちゃんが、まじまじと僕を見ていた。諦めにも似た口調だった。
「でも、…さんの腕って、私のより全然太いんですね。血管もこんな浮いて・・」
自分の腕を見ながら、珍しそうに言うのを見ていて、僕も痛感した。本当に入れ替わってしまったのだと。
SFでありがちな、頭をぶつけあったとか、何か強いショックがあるとか、そういうのは一切無いし、ファンタジーみたいに魔法なんてのも無い。つまり、思い当たる原因が全く無い。むしろ、なんかあったのなら、それが元に戻るとっかかりに出来て、色々考える事も可能だったろう。
「あーあ・・・どうなっちゃうんだろうなあ」
僕は、膝をかかえたまんまの格好で倒れこんだ。もう言うまいと思った愚痴が、つい口に出てしまったが、美樹ちゃんは何も返してこなかった。いつまでもこだわってるのは、僕だけなのか。
「…さん、あんまりだらしない格好しないでください」
「え?」
首を起こすと、美樹ちゃんは僕の足元を見ていた。スカートが半端にめくれて、太ももの方まで見えている。
美樹ちゃんが、乱れたスカートを引っ張って、僕の太ももを隠した。
「見えちゃうじゃないですかっ」
「あ・・・そ、そっか」
なんて面倒なんだろう。男の方が絶対楽だ。それに誰も見ないって。
そう思ったが、結局愚痴になるから、口には出さなかった。
もしかしたら、入れ替わった事に一番順応してるのは、美樹ちゃんの方なのかもしれない。なにしろ、大切な物を貸したという意識をしっかり持っている。さっきまで、近づかれるのがイヤだとさえ言ってた筈だったのに・・・だ。
「結構気ぃ使うんだな」
「当たり前です。女の子なんですから」
だったら、こんな格好しなけりゃいいのに。と、心の中だけで反論した。美樹ちゃんに対して・・・というより、そういう格好をする女の子全員にだ。ズボンを履けば、スカートの下を見られる事も無いし、強風の日にわざわざ裾を抑える必要もない。
美樹ちゃんに言わせれば、「女」としての自覚が足りないせいだという事になるかもしれないが、生まれてこの方、そんな自覚を持った事の無い僕には、無茶な話だ。
「女の子って、大変なんだな・・・」
「別に大変なんて思った事は無いですけど、たまに面倒だなって思う事はあります」
「そっか・・・」
それから、しばらくの沈黙。
緊張が解けてきたせいだろうか。いきなり僕のお腹がきゅぅぅと小さな悲鳴を上げた。
「あ・・・」
僕と美樹ちゃんは顔を見合わせた。
こういう時、女としては、頬を赤らめて恥らうべきなんだろう。美樹ちゃんだったら、間違い無くそうしていたに違いない。
「なんか食べようか」
「そうですね・・・」
男でも女でも、腹の減り方に違いは無いようだった。

 人間、空腹でなければなんとでもなるもんだ。
そう実感出来る瞬間なんて、今までそんなに無かった。大概は、満腹満足の幸せがある程度だ。
「こんなに食べたの、初めてです」
美樹ちゃんが満足そうに息を吐いた。
「僕も満腹だよ」
「あんまり食べて欲しくないんですけど」
「何言ってるの。こんなに食えるのに」
お腹をポンと叩いてみせる。普段、どうして小食なのか不思議なくらい良く入った。
「太ったら責任とってくださいね」
「大丈夫だって。これくらいじゃ太りゃしないよ。むしろ食べないと身体が出来なくなるよ。一応成長期な訳だから」
「でも・・・」
「確かに太りたくないってのもわかるし、余計なお世話だと思われるかもしれないけど・・・・でも、やっぱさ・・・もしダイエットなんてつもりなら・・・」
説教臭くなるつもりは無いのに、口から出てくるのはこんな言葉ばかりだ。でも、身体の心配だけは本心だった。照れくさくて、こんな言い方になったのかもしれない。
「・・・いや、いいや。ごめん。気を使うよ。美樹ちゃんの身体だもんな」
「あ、でも・・・心配してくれてるんですよね。私もわかってます・・・これからは、もうちょっと食べます。食べられるのに食べないっていう訳じゃないから、食べられる範囲で」
「う、うん・・・まあ、無理しないで」
自分の顔なのに、なんだか見るのが恥ずかしくて視線を逸らす。
「・・・・・」
気恥ずかしい沈黙ってのは、どうしてこう長く感じるのか。どうしたもんかと思っていると、
「…さん、なんだか優しい」
いきなりそう言って、美樹ちゃんが微笑んだ。なんでだか、「僕」が僕に見えなかった。本当に美樹ちゃんが笑ったように思えた。
鼓動が一つ、トクンと跳ね上がる。
美樹ちゃんも、何かあったら、こんな風に胸が高鳴るんだ。僕と全然変わらないじゃないか・・・
いつも近い所に居ながら、遠いと思っていた美樹ちゃんが、今は近くに居た。むしろ、美樹ちゃんが僕の姿をしているせいで、変な気の張りがなくなって、剥き出しの姿が見えているんだろうか。
「なんだか傷つくな。普段はそうじゃないみたいで」
僕は苦笑した。身体の持ち主は、この苦笑に何点付けてくれるだろう。
「普段は、優しいけど、それと同じくらい意地悪だから」
「ひどいな。意地悪なんてほとんどしてないのに」
「うふふっ・・・冗談です」
仕草はともかく、笑い方と喋り方は気持ち悪い。貸した部屋の内装をどんどん女の子部屋にされていくような感じだ。
「ちぇ・・・」
鼻白んだ気持ちを誤魔化そうと、立ちあがって、
「そうだ。お茶飲むかい?」
「あ、飲みます」
「じゃ、お湯沸かすから、その間に食器洗っちゃうかな」
「私もお手伝いします」
「いいよ。今日の当番は僕だし」
僕は腕まくりしながら、笑ってみせた。僕は向こうだけど、僕はこっちでもある。この場合どっちなんだろうと、しょうもない事を考えた。
手早くテーブルの上の食器を洗い場に運んだ。
ヤカンをコンロにかけてから、洗い始めて、しばらくした頃か。美樹ちゃんが不意に僕の名前を呼んできた。
「ん?」
振りかえらずに応えた。
「私が台所に立ってるのって、こう見えてたんですね・・・」
僕に言ったのか、独り言だったのか。
どちらにしても、なんだか妙に心地よくて、食器を洗う手が軽やかだった。

 いつもは、休日ともなれば、僕や美樹ちゃんそ、れぞれの時間を過ごして、接点なんてそうそうある訳でもなかったが、今日は違っていた。こんな特殊な状況だし、なにより美樹ちゃんと離れてしまうと、いてもたっても居られない不安がくるから、食事の後でも、二人一緒なのは変わらなかった。一緒に暮らすようになってから、結構長い事経つけど、こんなに一緒に居る時間が長いのは初めてだ。
ただ、僕の側に居るのは、「僕」だった。僕のほかにもう一人僕とそっくりな奴が居る感覚の方が強いせいか、男女二人っきりという気分とはほど遠い。
せめて、鏡でもあれば、そんな気分にもなれるだろか。
「…さん、夕方までどうします?」
美樹ちゃんが、自分のベットの上で膝を抱えながら、そう聞いてきた。
「出かける訳にもいかないし、じっとしてないと・・・なんか予定あったの?」
僕は、寝転がった身体を起こして、美樹ちゃんに返した。
「いえ、そういう訳じゃないんですけど」
「ん?」
「私、思ったんです。このまんまずっとうじうじしてても、なんにもならないって。だから、せっかくだから、なにかこのままでしか出来ない事しよう・・・って」
「え?」
いきなりの提案に、面食らった。
「なにかしようって・・・なにするの?」
「例えば、カラオケに行くとか」
例えばと言ってはいるが、美樹ちゃんの目が輝いていた。
「やばいって。外に出るのは。もし知ってる奴にあったらどうするの?」
「だから、変装していけば・・・・」
「・・・・・」
「駄目・・・ですよね」
僕が睨むようにしていたのに気づいたのか、しょぼんと身体を縮ませた。男の身体がするポーズじゃないな。
当たり前だ。大森君や海老原、林檎ちゃんに見られた日には、お互い、それぞれの対応を取るのは無理だ。何かあっても、入れ替わったなんてもちろん信じてくれる筈もない。男っぽくなった美樹ちゃんと、女っぽくなった僕。壊れた二人という噂が流れるだけだ。
これが、見知らぬ土地でならば、状況を楽しんでみる余地もあったかもしれない。
いずれにしても、今日が終わってしまったら、明日からは、嫌でもそれぞれの世界に飛び込まなければならない。しかし、今はそれをあえて考えないようにした。
それにしても、身体の入れ替えなんて事で、もっと気に病むと思っていたが、そうでもないのが不思議だった。現実離れしすぎて、認めきれない所があるせいなのか。
「こんな機会、一生に一度も無いからね・・・・今なら、女性ボーカルの曲も歌えるかもって思えば、行きたくなるのもわかるよ」
ほっと肩の力を抜いて、眉尻を下げた。
「ですよねっ」
曇った空にいきなり晴れ間が覗いた。
「残念だけどね」
手のひらを軽く上げて、首を横に振った。
「あ・・・そうだ。それじゃ、折角だから、こんなお話をしません? 男になったらしたい事とか、女になったらしたい事とか」
「いいね。おもしろそうだ」
実際やるやらないはともかくとして、不可能が可能になった訳だ。現実味を帯びてるだけに、どういう結果になるか面白そうではある。
僕は、美樹ちゃんの方に向き直って正座をした。スカートを一瞬気にしてしまった。このまま長く続いて、なおかつ羞恥心を自覚した場合、癖になってしまうんじゃないだろうか。
「えっと・・・じゃあ、私から。そうですね・・・」
人差し指を顎に当てて、しばらく考えてから、
「・・・学生服着てみたい」と言った。
「それだけ?」
呆気なかった。女の子の願望みたいなのが、もっと出ると思ったからだ。
「男子トイレとか男子更衣室に入りたいとか、男湯に行きたいとか・・・・」
「なっ・・・なにを言ってるんですかっ! 」
美樹ちゃんの目が釣りあがった。やばい。
「ち、違うよ。物の例え・・・」
「なんでそんな事考えなくちゃいけないんですか。私はそんなトコ行きたくもないですっ」
今頬が赤いのは、怒りのせいか。
「そ、そうだよね」
「…さんは、そういう所に入ってみたいとか思ってるんですか?」
美樹ちゃんには、僕の言った事の意味がわかったのかもしれない。男を女に置き換えて言ってきてるのだろう。
「い、いや、別に・・・」
美樹ちゃんから目を逸らして、頬を掻いた。
「本当に…さんなんですね」
もっと何か言われると思ったが、意外にもそんな一言だった。しかも溜め息混じりに。
「え? 何が?」
「…さんが、…さんみたいだから」
「みたい・・・って、僕は僕だけど? なんか変だった?」
そう言うと、美樹ちゃんは首を振ってから微笑んで、
「そういうんじゃなくて・・・。本当言うと、こんな風になってるのって、あんまり実感無かったんです。でも、仕草とか癖とか話し方とか・・・…さんその物だから」
はっとした。驚いたなんて物じゃなかった。
僕自身、そんな仕草や癖とか話し方に、何か特徴がある方だとは思っていなかったし、回りからもお前はどうだとかあからさまに言われた事も無かった。それなのに、美樹ちゃんは僕の知らない僕を知っている。僕を僕だとわかってくれた。
美樹ちゃんの中に居る僕は、どんな風に笑うのだろう。どんな事を話して、どんな風に言葉に耳を傾けているのだろう。
「そっか・・・そうなんだ」
「あ、ほんとに変な意味じゃないんですよ? ごめんなさい。気悪くしました?」
攻守どころが、こうまで変わるのかと思った。僕の事を言う前に、ぷんすかと怒っていた筈なのに、今はあたふたとしている。
出会ったばかりの頃は、こんな子なんだと想像さえも出来なかったのに。
「いや、別になんとも思ってないって。ただ、なにか特徴あったのって人から聞いた事とか無かったからさ」
笑いながら言ったせいか、美樹ちゃんがほっと胸を撫で下ろした。
「私とかも、そういうのあります? 自分じゃよくわからないんですけど」
言われてみて、初めてピンと来た。「僕」の中に美樹ちゃんが見えたのはこのせいか。
いつもは、なまじ美樹ちゃんがそのままだから、わからなかった。当たり前だと思っていた。
別に、その人らしい事なんて、その人以外には当たり前の事なのかもしれない。でも、十分だった。少なくても、美樹ちゃんの中にも僕がいるだけで。
嬉しさのせいかだろうか。沸いてくる悪戯心を止めようなんて思わなかった。むしろ、美樹ちゃんをからかいたくてしょうがなかった。
「そういえばあるよ。凄いのが。美樹ちゃん、ありゃまずいよ・・・自分で気づいてないだろうけど」
「え? え?」
「女の子なのに・・・あたしだったらいやだなぁ」
女言葉を使っても、全然違和感無いのが面白かった。女言葉は女声の為にあるんだな。
「…さんっ!」
からかわれているに気づいたのか、美樹ちゃんが飛びつかんばかりの勢いで声を荒げた。
「きゃあっ!」
悲鳴をあげてみた。まずい。これは楽しすぎる。
「ひどいひどい」
「いや、楽しいね。なんか目覚めたよ」
「やめてくださいっ! もう、変な事ばっかり・・・」
「いや、ごめんごめん」
「もうっ・・・」
美樹ちゃんの頬がぷうと膨らむ。こんな事してるなんて、きっと自分じゃ意識してないに違いない。そういう意味では、僕も美樹ちゃんが知らない美樹ちゃんを知っている事になるんだろうか。
「まあまあ・・・それよか、制服着たいっていうなら、着てみる?」
「え? いいんですか?」
むくれていた表情が一転、驚きに変わる。
「自分の物を自分が着るんだ。別にいいよ」
「本当ですか? それじゃ、是非お願いしますっ」
雨のち晴れ。そんな言葉が閃く。美樹ちゃんに一番似合う表情だが、「僕」にも結構似合う物だ。
「あの・・・それじゃ、せっかくだから、ちょっとお願いがあるんですけど」
「なに?」
まさか着替え方がわからないとかじゃないだろうなと思いながら、美樹ちゃんに耳を傾けた。


 確か、物心ついて、なんとか記憶が残ってるくらいの頃、こんな風に服を着せて貰った事はあったが、まさか高校生にもなって、こんな事するハメになるとは思わなかった。
きっと、他人には絶対見せられない状況になってるんだろうな。同じ見られるなら、まだエッチな事でもしてた方がマシかもしれない。
今日二度目の真っ暗な世界を見ながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。
「はい。いいですよ」
そう言われて、ようやく暗闇の世界から開放された。起き掛けに直接見て、おまけに触っちゃったから、今更目隠しなんかいいじゃないか。なんて言ったらどんな事になるだろう。
「・・・・・」
自分の姿がどう変わったのか、鏡も見てないし下も見てないから、わからない。とは言っても、凄い物に変わった訳でもなく、普段見なれている姿になっただけだから、驚くとかそういう事はないと思う。ただ、どんな感じなのかは、美樹ちゃんの提案を聞いて以来、真っ先に興味として立った物だ。
それが今現実になっている。
男のままだったら、きっと僕には一生縁の無い姿だったろう。
今の美樹ちゃんの姿の隣に立てば、丸井高校制服カタログの完成だ。
いつも見ている、女子の制服を僕が着ている。これがどんな奇妙な事か。
「着心地はどうですか?」
そう聞いてきた詰襟の学生服姿の美樹ちゃんは、鏡の中に居る僕じゃない「僕」だった。
「ほんとにこれ毎日着てるの?」
なんで尋ねたのか、理由はこうだ。
足元がスカスカする。さっき履いていたロングスカートとは比べ物にならないくらい太もものあたりが心許ない。とにかくその一点に尽きた。
普段、暑い日にはトランクス一枚で居て、美樹ちゃんに怒られる事もあるくらいだから、それよりもマシな状態な筈なのに、どうしても馴染めそうも無かった。
「そうですけど?」
「走ったり跳ねたり出来ないんじゃない?」
「大丈夫です。走ったり跳ねたり、あんまりしないですから。それに、ちゃんと気をつけてます」
確かに、そういうつもりでいつも居なければ、こんな格好は出来ないだろう。
僕は、胸のリボンを軽く引っ張って整えてみた。
美樹ちゃんは、窮屈そうに詰襟に指をかけて引いている。
なるほど、確かに、「窮屈」には慣れる事が必要らしい。
僕は、ドキドキしながら姿見の前に立ってみた。
なんの事はない。いつも見ている制服姿の美樹ちゃんが立っているだけだった。女子の制服を自分が着たという事で、何か変わった事があると思った僕が間違っていた。
ただ、その姿が、僕の思い通りに動くのだけは面白い。
手を上げ下げしていると、「僕」が鏡の向こうの美樹ちゃんの傍らに立ってきた。
「こうすると、いつもと変わらないですね」
「でもさ、二人で一緒に居るのを見るのって、初めてだよね」
「ですね・・・」
こんなにも近い所に美樹ちゃんは居るのに、どうして今まで無かったのだろう。
もしこうなってなかったら、これからもこんな機会はあったかどうか。
誰かに感謝出来るのなら、してもいいくらいだ。
「私って・・・…さんから見たら、思ったより小さく見えるんですね」
鏡の中の僕をまじまじと見ていた美樹ちゃんは、僕の方に目をやりながら、独り言のように、ぽつりと呟く。
「小柄だとは思うけど、美樹ちゃんが思うほど小さくは見えてないよ」
「そうなんですか? こんなに小さく見えるのに・・・」
「見なれてないからだろうね」
「でも、こんなに違いますよ。ほら」
美樹ちゃんは、僕の頭の上に手の平の高さを合わせて、水平に動かした。
頭のてっぺんが、「僕」の鼻の辺りまでしかない。
「私みたいに、小柄な子とかって・・・あの・・・どう思います?」
「え?」
僕から見たら大柄な「僕」が、不意にそう言った。
「やっぱり…さんにとって、私なんてまだまだ駄目ですよね・・・子供だなって思ってますよね・・・」
寂しそうな表情が鏡に映った。
美樹ちゃんが僕を見上げた時、たまにこんな事を思ってたんだろうか。
だとしたら・・・・
「・・・・思ってないよ」
僕は、鏡の中に居る美樹ちゃんに向かって微笑んだ。
もし、僕が僕のままなら、不安がる美樹ちゃんの肩を抱けたかもしれない。
「僕なんかより、ずっとしっかりしてるよ。美樹ちゃん居なかったら、今ごろこの家の中は、大変な事になってたかもね」
最初は、息が詰まりそうだった同居も、いつのまにか、もう一人にはなりたくないと思うくらい、心地よくなっていた。ケンカだってしょっちゅうあったし、その度に何度も気まずい気分になったりもした。それでも、今、二人でこうしている。
もしかしたら、身体が入れ替わった事なんかよりも、ずっと不思議な事なんじゃないか?
「本当ですか?」
「私が言ってるですから、信じてください」
美樹ちゃんの声。言葉。笑顔。
うまく真似出来たかどうか。
すると、「僕」は嬉しそうに微笑んで、
「わかった。信じるよ」
そう言って、くすくすと笑い出した。
「なんだか、耳元で言われてるみたい」
「似てないよ。もっと普通に喋らなきゃ」
「あ、…さんだって似てませんよ。私、そんな風に喋らないです」
「そっか」
笑うと、美樹ちゃんも釣られて笑った。
ひとしきり笑い終えた後、僕は鏡の中を改めて見つめた。
「どうせ制服着るんだったら、やっぱ僕が詰襟着てみればよかったな」
僕が見たかったのは、つまり、そういう事だ。
「なんだか、望んでたのと違いますもんね」
美樹ちゃんも同じだったのか、苦笑して頷いてきた。
「でも・・・僕が学ラン着るのはいいけど、今の美樹ちゃんじゃ、これ着れないよなぁ」
実際、セーラー服を着た僕の姿は、心に傷を負いそうだったから、見たくはなかった。 結局、入れ替えごっこは、鏡の向こうの見なれた姿があるだけで終わった。
ただ、美樹ちゃんの願望は適ったようだった。自分の制服の後ろ姿がどうなっているか。髪の長さのバランスはどうか。というのを自分の目でチェックしたいという物だ。
チャンス到来とはまさにこの事と言わんばかりに、目を輝かせた美樹ちゃんを見て、僕はふぅと溜め息をついた。

 一日なんて物は、気分次第で、長くも短くも感じる物だ。
嫌いな科目の授業時間を長く感じるかと思えば、長い夏休みは、まるで一瞬のように過ぎていく。
それならば、今日という日は、一体どっちになるのだろう。
夕飯後から、ずっと自分の部屋で、無口なまま膝を抱えている美樹ちゃんに聞いたら、答えてくれるだろうか。
美樹ちゃんは、何かに怯えたように、弱々しそうに膝をかかえていた。
そんな姿を見ていたら、聞こうにも聞けない。それに、さっきから、何かを尋ねても、返ってくるのは生返事ばかりだ。
朝起きてから、今の今までで、すっかり疲れ切ってしまったのだろう。
僕も、さっきから瞼がやたら重くて仕方なかった。それでもなんとかこらえていたのには理由があった。
「明日一日、学校休もう」
楽観視したツケが、今ごろになって、両肩にずしりと来ていた。先送りした問題の、なんて重い事か。下手すれば、僕達の一生を左右しかねない。
「もしこのまんまだったら、行く訳には行かないだろ・・・」
返事は無かったが、構わず続ける。
「明日一日、じっくり考えて、対策練ってさ・・・明後日には行けるようにしないと」
「・・・・」
美樹ちゃんが、理解してようとしていまいと、明日はとにかく一日使って対策を立てなければならない。でも、もし駄目だったら・・・
僕は頭を振った。
駄目な訳が無い。
「いいね。明日・・・考えよう?」
膝を折りそうになる気持ちにムチ打って、なんとか穏やかな声をで言った。
僕はベットから立ちあがった。深呼吸を一つ。
「じゃ、僕・・・部屋に戻る。美樹ちゃん、もう寝た方がいいよ。僕ももう寝るから」
僕は美樹ちゃんの返事を待たずに、背を向けた。
一人になる不安より、今の美樹ちゃんを見ている方が辛かったからだ。
「おやすみ・・・」
振りかえらずにそう言った。返事は無い物と思ったが、
「・・・・おやすみなさい」
小さな声でそう返ってきた。


洗面所で、コップに立ててある緑色の歯ブラシに手を伸ばした手が止まった。
これは違うか・・・
そのまま横に動かして、もう一つのコップに立ててある、赤い歯ブラシに手を向けた。
これは自分のだ。僕が使うべき物だ。
そう言い聞かせながらも、やたらに騒ぐ胸の内を抑える事が出来なかった。
本当は風呂に入って落ち着きたかったが、美樹ちゃんが許してくれるとは思えなかったから、歯磨きと顔を洗うだけで済ませた。
美樹ちゃんはどうするつもりだろう・・・


部屋に入って、すぐに着替える事にした。
目隠し無しの着替えだったが、何も見ないで、普段通りに着替えた。
当然美樹ちゃんの身体には、僕の服はぶかぶかだったが、自分の服の匂いを嗅いだら、少しだけ落ち着いた。
僕も美樹ちゃんの事は言えないな。相当参ってる。


天井を見ていた。
真っ暗な天井だ。
普段なら、カーテンの隙間から入りこんでくる月明かりで、目が慣れてくれば、かろうじて漫画の絵くらいなら見えた物が、今は見えなかった。どうやら、月は出てないらしい。
かろうじて、カーテンの向こう側に、街の明かりを微かに感じる程度だ。
ベットについてから、何度溜め息をついたろう。
さっきあれほど眠かったのが嘘のように、眠くない。
僕も美樹ちゃんのように、怯えているのかもしれない。
今の状態に。明日からの事に。
ぎゅっと目をつむった。
不安が形になって、瞼の裏に現れてくる。
耐えられなくなって、目を開けた。
こんな事を、何度繰り返したかわからない。
明かりをつけて、ベットから抜け出し、睡魔が誘いに来てくれるまでじっと待ってようかと思った。
どうせこのまま居ても眠れないんだ・・・
そう思った時だった。
小さな音が聞こえた。ドアの方からだ。
耳を済ましていると、もう一度聞こえてきた。
この音は・・・ノック?
上半身を起こして、ドアに向かって、
「・・・美樹ちゃん?」
そう言うと、「はい」と「僕」の声が返ってくる。
「・・・どうしたの?」
「入っても・・・いいですか・・・」
僕は慌てなかった。なぜか、こうなる予感があったからだ。
「いいよ」
応えると、すぐにドアが開いた。
僕が、枕を抱えるように持って立っていた。これが美樹ちゃんの姿だったら、僕も慌てもしただろう。
「いきなりごめんなさい。今、いいですか?」
「いいよ。眠れなかったんだろ」
美樹ちゃんは、頷き一つで答える。
「電気点けていいよ」
「あ、はい」
美樹ちゃんの手がスイッチに触れたと同時に、僕は、手で目を覆った。
すぐに、瞼の向こうに、光を感じる。
ゆっくり手をどけて、目を明るさに慣らしてから、開いてみた。
まだ眩しい。
それでも、暗いよりはマシだった。最初から、こうしてるべきだったか。
布団から抜け出して、壁を背に、ベットに腰掛けた。
「寝てたんですか?」
部屋に入ってきた美樹ちゃんが、心細げな表情を作る。
「寝れないから、起きようと思ってた」
僕が笑うと、美樹ちゃんは安心したように胸を撫で下ろした。
「座んなよ」
横に動いて、美樹ちゃんの為にスペースを空ける。
不思議なくらい素直に僕の隣に腰掛けてきた。美樹ちゃんからすれば、僕は女の子だ。その隣に座るくらいなんでも無いのだろう。僕も、中身が美樹ちゃんとはいえ、男が横に座る訳だから、緊張も無ければ、抵抗も無い。
「一人で居るの、やっぱり無理みたいです」
照れくさそうに笑っているのを見て「そっか」とだけ答えた。
「今日は眠れるまで、ここに居ていいですか?」
「いいも何も、むしろお願いしたいくらいだよ」
「・・・はい」
そう言って、持っていた枕で口元を隠した。
赤くなっている自分ってのは、やっぱり馴染めない。

 安心感があるだけで、こうも違うのか。
なかなか降りてこなかった瞼が、今は耐え難い程に重い。二人揃ってから、まだ二十分も経っていないのに。
このまま目をつぶれたら、どんなに気持ちいいだろう。
美樹ちゃんもそれは同じだったのか、すでにこくりこくりと船を漕いでいた。
時折、がくんと首を大きく曲げて、その度に薄く目を開けて、またすぐに目を閉じてしまう繰り返しだ。
「美樹ちゃん、眠いんだったら布団に入りなよ。ここ使っていいからさ」
肩を軽く揺すると、「うん・・・」とだけ言って、また目を閉じた。
「駄目だって。こんな寝方してちゃ」
強く肩を揺すると、今度は少し大きく目を開けて、カクンと頷き、まるで落ち葉の下に隠れようとする虫みたいに、僕の布団の中にもぞもぞと入っていく。
よっぽど眠かったんだな。
とは言え、僕も人の事は言えないくらい眠い。
「ちょっと詰めて」
そう言うと、美樹ちゃんは素直にもぞもぞと壁際の方に動いていった。今何か言えば、なんでもしてくれそうな気さえする。
僕は、空いた所に、潜り込んだ。
女の子と一緒に布団の中。なんて意識するには、相手の姿は違いすぎた。
僕の枕は美樹ちゃんに乗っ取られたのに気づいて、布団の上に置いてあった美樹ちゃん愛用の枕を引っ張りこんで、頭を乗せた。長い髪が広がって、顔にかかった。
一度触れてみたかった髪の毛が、目の前にある。
近くで見ると、本当に綺麗なんだな・・・
指で触れてみた。思ったほどふわふわしていた。
寝返りを打って、美樹ちゃんの方に顔を向けてみると、すっかり熟睡していた。
初めてだった。自分の寝顔を見たのは。
美樹ちゃんの目に映る僕ってのは、こんななんだろうな・・・
不意に、瞼がゆっくりと重くなってきた。降りるにまかせて、目を閉じてから、耳を澄ませてみた。
「僕」の寝息と、僕自身の呼吸音が聞こえる。
鼻を利かせてみた。
僕の布団の匂いに混ざって、柔らかい匂いが届いてくる。
僕の・・・いや、美樹ちゃんの匂いだ。
どうしてこんな匂いがするんだろう。
なんでだろう・・・・なあ・・・
あまりに心地よさに我慢出来ずに、

「こんばんわ」
いつのまにか、目の前に天使が立っていた。相変わらず、天使に見えないほどの気軽さだ。
僕が、昨夜のことを思い出して、聞こうとした時、
「今日一日はどうでしたか?」と来た。
ピンと閃く。
「もしかして、方法ってのは、僕と美樹ちゃんを入れかえる事だったのか?!」
噛み付かんばかりの勢いで、詰め寄ろうとしたが、身体が動かなかった。
「そうです」
「そうです・・・って、こっちは大変だったんだぞ!」
動かない身体の、なんていうもどかしさか。
「楽して相手を知ろうなんて、ちょっと甘いと思うんですけど・・・」
天使が、独り言のように言った。確かにそれはそうだが・・・
「だ、だからって、あんな事を・・・・」
「私はただ願いをかなえただけです」
「何も言わないで、勝手にやったんじゃないか。入れ替えなんて言ったら、僕はオーケーなんてしなかった」
そうは叫んだ物の、どうも力が入らなかった。
天使の姿が、美樹ちゃんにそっくりだからという事もあった。
「・・・ごめんなさい」
そう言ってしょぼくれた。どこか申し訳なさそうな表情。これも美樹ちゃんそっくりだった。それ故にずるい。僕が強く言えなくなってしまう。
計算して言ってるんじゃないだろうな。
「い、いや・・・・もういいよ。大変だったけど、いろいろわかったし」
本当の所、感謝してもいいとさえ思っていた。でも言えなかった。
言ったら悔しいじゃないか。
あんだけ大変な思いをさせられたんだ。
「美樹さんの気持ちも?」
「いや、それは無理だったけど・・・」
昼間の事が頭に浮かんだ。
どんな姿をしていても、美樹ちゃんは美樹ちゃんだとわかった事。僕を僕だとわかってくれた事。
少なくとも、今までよりずっと美樹ちゃんを近くに感じるようになった。むしろ、気持ちよりも、凄いことを知ったんじゃないだろうか。
「良かったですね」
そうか。彼女は天使だった。肝心な所は全部お見通しって事か。
「い、いや、まあ・・・・・」
「ふふっ」
おかしそうに笑った。
「わかってれば、またやってみたいな」
冗談半分、本気半分だった。
「ごめんなさい。こういうのって、一回きりなんです。お互いの了承が・・・・」
天使は、そこまで言った時、あっというような表情のまま、手で口を隠した。
「了承?」
「あ・・・はい。えっと・・そうなんです」
僕から視線を逸らして、口篭もった。何か隠している口調だった。美樹ちゃんと全く同じだからすぐにわかる。
「お互いって?」
「あ・・・い、いえ・・・・・」
「なんか隠してる?」
「え? いや、あの、その・・・えっと・・・ごめんなさい。出来たら今の質問取り消してもらえませんか? どうしても嘘が付けないんです・・・」
隠してますと言ったも同然だ。それよりも、嘘が付けない事を素直に言った天使に、好感を持った。天使は嘘つかないって奴なのか。
「お願いします・・・ホントはこんな事聞かれないようにしなくちゃいけないんです」
今にも消えそうなくらい、しょぼんと身を縮ませている。突つけば泣いてしまいそうだ。
「わかったよ。聞かない。聞かなかった事にする」
「ありがとうございます」
ぱっと顔を輝かせた。そういう表情が似合う所まで、美樹ちゃん似だ。
「それより、美樹ちゃんは大丈夫なの?」
「大丈夫です。もう戻してる筈ですから」
言葉の端々に、?と思う所があったが、僕は流した。
「なにはともあれ、これで終わりって事か。やれやれだ・・・」
夢の中なのに、両肩にどっしりと疲れがのしかかってきたようだ。
「それでは、またいつかお会いしましょう・・・」
「・・・行っちゃうの?」
「はい・・・」
天使が名残惜しそうな表情に見えたのは、僕の気のせいだろうか。
いつものように、天使が、大きな白い翼を広げた。
その羽から溢れてくるような真っ白な光に、僕は目を細めながら、手の平を翳した。
なんだか今日は特に眩しいな・・
指の隙間から、何事かと見ると、美樹ちゃん天使の横に人影が見えた。
あれは・・・・?
かろうじて見えた顔には、見覚えがあった。
普段は鏡の中にしか居ないが、昨日一日だけは違っていた。
あれって、美樹ちゃん天使が言ってた、対になってる奴なのかな?
だとしたら・・・二人揃う偶然って・・・
頭の中が真っ白になって、それ以上は考えられなかった。

「夢にしてはリアルでしたよね」
放課後、校門の所で、僕を待っていたという美樹ちゃんと一緒に帰っている時に、そう言ってきた。
本来なら、同居がバレ無いように、なるべく一緒に帰る事はしない。しかし、今日はどうしても一緒に居たかったし、朝起きて元に戻っていた時の混乱の整理もしたかった。
「ほんとに夢だったのかな」
「夢ですよ。だって、あんな事ある訳ないじゃないですか」
「二人して、まったく同じ夢を?」
「偶然ですよ。偶然・・・多分」
「でも、起きたらなんで美樹ちゃん僕の服着てたんだ?」
今日の朝の慌てぶりを思い出しながら聞く。
「えっと・・・なんででしょうね。あ、そうだ。寝ぼけて…さんの部屋に入っちゃって、着替えちゃったんですよ。きっと」
「だとしたら、壮絶な寝ぼけっぷりだよね」
僕自身、そうだと思いたかった。だいたい、身体が入れ替わって次の日に元に戻ったなんて、そんないい加減な事がある訳が無い。朝起きたら美樹ちゃんが、僕の服を着て寝てたなんて事があっても、信じろという方が無理だ。
どうしたって夢だろう。日曜日は、きっと覚えてないくらいずっと一日中ごろごろしてたに違いない。たまにそういう日があってもいい筈だ。同じ夢を見たのだって、きっと美樹ちゃんの言う通り、偶然だろう。
「でもさ、いくら寝ぼけてても、僕の布団に入ってくるかな。普通」
そう言うと、美樹ちゃんの頬が、見るも鮮やかに赤らんだ。湯気でも出そうな勢いだ。
「そ、それは・・・私が…さんのベットに潜り込んでいる所に、後から入ってきたんじゃないですか! 普通、そんな事します?」
矛先が僕に向いてきた。そればかりか、いきなり変態扱いだ。
「いや、待って。そりゃ違う。起きたら、僕が壁際に居たよ。って事は、先に入ったのは僕って事になるんじゃないか?」
「でも、私、ちゃんと壁際で・・・」
そこで言葉が止まった。何か、腑に落ちない事でもあったんだろうか。
「寝ぼけてて、ちゃんとってのも・・・」
「ち、違いますっ! それは、…さんが寄ってくれって・・・あれ? あれ?」
美樹ちゃん同様、僕にも訳がわからなかった。
ただ一つ、説明が出来るとしたら、昨日の事が夢じゃないという事にしなけりゃならない。
それだけはどうしても認めたくなかった。認めたくても無理だ。
溜め息を一つ付いた。もうどうでも良かった。そうだ。あれは夢なんだ。
「あ、うん。やっぱり寝ぼけてると、いろんな事起きるよね」
「そ、そうですよね!」
溺れかけた所に飛んできた浮き輪に捕まるような気持ちだったに違いない。美樹ちゃんがそう言って、うんうんと勢い良く頷いてきた。長い髪がふわふわと揺れる。
「でも、今思うと、結構面白い夢でしたよね」
「そうだよね。楽しかったよ」
僕は夢と割り切った。割り切って話せば、結構楽しい話になりそうだった。
不思議な事に、こうして話している最中でも、美樹ちゃんを遠く感じなかった。なんて言ったらいいだろう。通い慣れた道を歩いてる気分とでも言えばいいのか。
以前でも、別に遠いとは思ってなかったが、こんな風に近く感じた事はない。
初めて出会った頃があったなんて、信じられないくらい、今の美樹ちゃんは近かった。
髪を触らせてくれと言ったら、それくらいならと笑顔で頷いてくれそうな気さえする。
確信かどうかを確かめたいという気持ちが、素直に出てきた。もちろん、辺りを見まわすくらいの気持ちは残っている。
最初、ちょっと驚いたように目を丸くしてたが、しばらくして、「はい」と返ってきた。
確信が持てたのは良かったが、言わなきゃ良かったと思ったほど恥ずかしくて、思わず「ごめん、冗談だよ」と謝った。
「もう、からかわないでください」
美樹ちゃんが真っ赤になって声を荒げた時、ふわりとした何かに頬を撫でられた。
はっとして降りかえったが、何も無かった。
草がさわさわと揺れているだけだった。
風か・・・
そう思っていると、美樹ちゃんがあっと声を上げた。
「なに? どしたの?」
「見てください。これ・・・」
美樹ちゃんが指で摘んでいたのは、二枚の白い羽だった。こんな綺麗な羽を持った大きな白い鳥って一体どんな鳥なんだ。
「どうしたの、それ?」
「今、ふわふわと落ちてきたんです。二枚一緒に」
「へえ・・・」
「一つ、…さんにあげます」
僕は、美樹ちゃんが差し出してきた二枚の羽のうち、小さい方を選んだ。
「ありがと」
受け取った羽を、空に翳してみた。
なんでだろう。不思議な気分になる羽だな。
それから、なんとなく無言で歩いた僕達は、ある交差点に差し掛かった。、
「それじゃ、私、スーパー寄ってから帰りますね」
「あ、そっか。うん、それじゃ・・・」
ここから先は、一緒には帰れない道だった。
美樹ちゃんは左の道へ進んでいく。
僕はそのまままっすぐ進んだ。
僕も、振り返らなかったし、おそらく美樹ちゃんもそうだろう。
帰る場所は一つなのだから。
また羽を見た。
美樹ちゃんの背中に、こんな色した翼があったら、天使みたいに見えるんだろうな。
想像したら、おかしくなった。
天使らしくない天使になった姿や台詞を想像したからだった。


Fin

作品情報

作者名 じんざ
タイトルふたりぼっち
サブタイトル美樹と僕
タグずっといっしょ, ずっといっしょ/ふたりぼっち, 石塚美樹, 青葉林檎
感想投稿数164
感想投稿最終日時2019年04月13日 17時42分48秒

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コメント一覧(クリックで開閉します)

  • [★★★★★★] ギミックとしては使い古されたネタですが、作者のオリジナリティのあるストーリー展開でとても楽しめました。
  • [★★★★★★] 美樹にゃんも彼の姿の天使と出会っていたんですね〜
  • [★★★★★★] 王道だ〜(笑) ぜひ映画を見に行ってほしかった(笑)
  • [★★★★★★] 良かったよ!!!!!!!!!!!!最高!
  • [★★★★★☆] この作品だけ読んだので前後関係判りませんが、単体の作品としてもなかなか良くできていたと思います。
  • [★★★★★★] ずっといっしょ はまだクリア出来てない私ですが天使を登場させたのは意表をつかれました。この調子で続けたらかなりいいHappyEndへ持っていける予感がします、御一考を。ありがとうございました
  • [★★★★☆☆] ほんわかしてていいですね。
  • [★★★★★☆] 異性間の人格交換。周囲からは軽視されがちですが僕は大好きです。色々なSSの人格交換に期待します。
  • [★★★★★☆] http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/6376/ で、ミステリ系サイトをやってます。TS-WEEKというところで並んで紹介されていたので読みました。僕のは適当臭いんですが、JINZAさんのは本当にどきどきもので、すごくよかったです。
  • [★★☆☆☆☆] よくわからない