潮を含んだ風が、船の上を吹き抜けた。
空に帰った風は、仲間にこんな事をいうかもしれない。
綺麗に輝く金色の髪を揺らしたと。
誇らしげに。
海の様に碧い瞳に見送られたと。
切なげに。
誰もがそう思える程、少女は美しかった。
流れる様な長い金色の髪は、光の川を切り取ったかのようであったし、遥か水平線を望む瞳は、曇りの無い水晶の玉に海の色を写しているかのようであった。彼方に何があろうと、決して負けない。そんな意志の強さが、まだ遊び盛りの筈の表情に、厳しさを与えていた。だが、彼女が笑えば、誰もが釣られて笑ってしまうに違いない。
誰もが思うだろう。この子の笑顔が見たい。と。
しかし、彼女の纏っている服が、彼女が楽しそうな笑いとは無縁である事を告げていた。
粗い繊維で編まれたマントの下には、戦士が戦場を駆ける時に身につける物が鈍く光っている。
甲冑。という程粗野な物ではなかったが、飾り物というのとはまた違っていた。最低限の部分を覆い、なおかつ動きを妨げない。実用の為に洗練されたのが、誰にも見てとれるかもしれない。この少女に最も不釣合いで、最も似合う物なのだろう。
マントの腰の辺りから、何か突き出ている物もある。細身の剣の柄であるのは、誰の目にも明らかだった。
飾りではない事は、少女を見ればわかる。
少女は見ていた。
水平線の彼方を。
揺れる船上にあっても、少女の視線は不動だった。
少女は知っていたのだろうか。
視線の遥か先にある国の名前。
ヴァレンディアという、若き女王の治める国である事を。

「ジェストナイ様。女王様が居られません」
部屋に飛び込むなり、片膝をついた騎士が、そう言った。
そんな騎士をチラリと見た老人は、豊かな口髭に手をやりながら、呆れた風なため息を一つ。
重ねてきた歳月を思わせる皺が、また一つ増えたのではないか。と、膝をついた騎士は思った。
王宮の魔法司祭の苦労は、先代王の頃よりずっと絶える事がなかった物だった。
「なんと・・・まったくもって呆れた物だ」
しかし、ジェストナイの瞳には、手のかかる孫を見守る老人のそれと同じ物が浮かんでいた。
「午後の謁見は中止じゃ。集まってくれた皆にそう伝えておいてくれまいか」
「はっ」
いつもの繰り返しであった。
「女王様はいずこへ・・・」
騎士が、ジェストナイに向かって聞いた。
「さて・・・ヴァレンディアに吹く風にでも聞いてみない事にはのう」
どこか可笑しそうに目を細めて、ジェストナイは白い髭を撫でていた。
ジェストナイは、若き女王の足跡を思った。
実りの季節を連れてきた風の中、空を見上げているのだろうか。それとも、海を渡る鳥達を支えてきた風を感じながら、水平線の彼方を見つめているのか。
エルファーランの血は、女王を外へと誘う風なのかもしれなかった。


 自室で、開け放した窓から入ってくる緩やかな風を感じながら、本に目を通していたエリエルの耳に、小さな声が入ってきた。
エリエル自身を呼ぶ声であった。
「・・・・?」
はっと顔を上げたエリエルは、あたりを二、三度伺った。
部屋を明るく照らす日の光と、エリエルの柔らかく長い髪と、緩やかに流れるようなドレスを揺らす風以外は、何も無い。
気のせいかとエリエルが本に視線を戻そうとした時、今度はハッキリとエリエルを呼ぶ声がした。
同時に、何もなかった筈のエリエルのすぐ目の前の空間に、うっすらと人の姿が幻の様に浮かんで来た。しかし、本をベットに出来そうな程小さな姿だ。
「あら・・・」
エリエルは、浮かんできた人影に驚きもせず、そう言ってから柔らかく微笑んだ。
「ごめんなさい。エリエル様」
小さな妖精は、悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、舌をちろっと出した。

「なあんだ。また女王様一人で行っちゃったんだ」
アーリアは、不満そうに呟いてから、ティーカップを傾けた。
エリエルが、グラドリエルの小さな友人、妖精アーリアと知り合ってから、アーリアの為にと、特別に作らせた物だ。エリエルの親指の先ほどの大きさは、アーリアには丁度良いらしい。
「あの子は・・・玉座に座っているより、外の世界に目を向けている方が好きなのでしょう」
エリエルは、娘を見守る母親の様な瞳を、窓から見える青い空に向けていた。
事実、グラドリエルを産んでから、すぐに他界した母、エルファーランに代わって、グラドリエルの面倒を見てきたのは、乳母よりも彼女であった。
グラドリエルにとっては、エリエルは姉であると同時に、限りなく母親に近い存在だった。
「でも、玉座に座っている女王様、とっても素敵だけどなぁ」
「そうですね。わたしもそう思います」
エリエルは、クスっと笑った。
グラドリエルが、外の世界を見に行くという名目で玉座を離れる事が多いのは、窮屈な玉座がまだ馴染まないせいなのを知っていたからだ。それでも傍目からは素敵だと思われている事が、可笑しくてたまらなかった。
「あなたも大変ですね。あの子に付いていろんな所へ行っているのでしょう」
「そんな事ないよ。女王様と一緒に居ると、退屈しないんだから」
「そうですか・・・」


「どんな剛剣や鋭剣も、当たらなければ無いと同じです」
ダナスラナの言葉に対して、グラドリエルは無言で剣を構えた。剣を握る手に、うっすらと汗を滲ませながら。
自分の力が通じない。いや、通じないのではなかった。届かないのだ。
舞い降りる柔らかい羽が、掴もうとする指の風を感じて、するりと避けるように。
その焦りは、たった一度剣を合わせただけで、グラドリエルの中に生まれた。
グラドリエルの持つ剣には、三本合わせても足りないくらいの細い剣に、全ての攻撃をいなされ、力を逸らされたのだ。いまだかつて無かった事だった。
「あなたには、風が斬れますか?」
ダナスラナは、ゆっくりと言った。自分を例えたのか、あるいは本当に風が斬れるのかを聞いたのか。
「必要ならば」
かつて、闇を光で斬った。ならば、風も風で斬れる筈。
足に大地を感じた瞬間、渾身の力をこめて、グラドリエルが間合いを詰めた。
疾風のスピードであった。
突き出した剣は、グラドリエルのスピードに乗って、まさに風をも切り裂く電光に変わっている。
刃は、ダナスラナの脇腹を掠るように捕らえていた。急所ではない場所だ。手を抜ける相手ではないと分かっていながらも、あえてそうする。それがグラドリエルという少女だった。
グラドリエルは、ダナスラナのわき腹に血の色を見る筈だった。剣の通った後には、いつも流れてしまう物だ。必殺の自信を込めて繰り出した剣の後には、赤い血は必ず流れた。今度もそうなる筈だった。
止まるような瞬間の中、グラドリエルは、頬に、風を感じた。
疾るような風。
その風のせいだった。戦いの最中に、してはならない事をしたのは。
目を細めた自分が突き出した先にあった筈のダナスラナの身体は幻のように消えた。
「!」
彼女は、グラドリエルの突き出した剣の横に居た。ダナスラナが剣を振り下ろせば、グラドリエルの両腕を切り落とせる位置だ。
互いに、目に映る物が見える距離であった。
ダナスラナの青い瞳に映った自分の影を見て、グラドリエルは飛び退いていた。
必死の自分の姿を映した瞳が浮かべていたのは、微笑みだった。
「っ・・!」
踵を地面に打ちつけて、制動をかけたグラドリエルは、瞬時に剣を構え直した。この隙に必ず打って出てくるであろう攻撃を、相討ち覚悟で迎える為に。
しかし、風は吹いて来なかった。最初から戦いなど無かったような静寂だけがあった。 ダナスラナを見つめた目が、丸くなる。
ダナスラナは、ただ立っていた。最初からそこに立っていただけのように。しかも、闘う気配をまるで感じさえずに。
グラドリエルは、ダナスラナが自分の剣に臆したなどと、微塵も思わなかった。もしそれを言葉にしたら、その声は震えていただろう。
「なぜ剣を収めたのです?」
「闘う理由が無いからです」
「なぜ? 先に襲ってきたのはあなたなのですよ」
そう言いながらも、グラドリエルは剣を下ろして、緊張を解いていた。自分がいきなり挑戦を受けて、初めて交わした剣の一撃に総毛立つ思いをさせられた相手にも関わらず。
「その時は理由がありました。あなたが強いと感じたからです。だから闘ってみたいと思いました」
ダナスラナは、目を伏せながら、とんでもない事を当たり前の様に言った。例え明日世界が終わると告げる時も、彼女の口調はこんな風に違いない。
「でも、それは一時の事。もうその理由がなくなりました」
「私が弱かったからとでも?」
グラドリエルは、胸に手を当てて、ほんの少しだけ声を高めた。
「いいえ。あなたは強い。今まで、私が出会った誰よりも」
「ならば・・・どうして」
悔しさに、微かに歯噛みをした。風を感じた後に見た、青い瞳が浮かべた微笑の色。それがグラドリエルの中から消えなかった。
「言ったでしょう。理由が無くなったからです」
「答えになっていません」
「この理由では、不足ですか?」
「私も、好き好んで闘いを続けるつもりはありません。でも、どうしても本当の理由が知りたいのです。それがある筈です」
グラドリエルの声が、わずかに昂ぶる。すると、ダナスラナはそれに反応したように、
「・・・あなたは強い。強い故に、見えていない物がありますね。いや、見えなくなったのでしょうか・・・」
「なんの事ですか? それに・・・・見えなくなった?」
「いえ・・・本当は知っているのでしょうけれど、あなたはまだその見方をうまく使う事が出来ないのでしょう。私にはそう思えます」
「・・・・・」
何を言っているのか、グラドリエルにはまだ理解の外だったが、無意味な事でないのだけは、ダナスラナの目を見ていてわかった。
「それに、今は最後まで闘うつもりはありません。急に襲撃して申し訳ありませんでした」
ダナスラナは、軽く頭を下げた。
人を食った態度ではない、真摯な態度だった。しかも、優麗な所作で、グラドリエルを驚かせた。
生半可な躾では、こうはいかない。
グラドリエルでも、こううまく行くかどうか。
「・・・・・」
「それでは、私はこれにて」
ダナスラナは、打ち捨ててあったマントを綺麗な動作で拾いあげ、一度空に舞わせる。
見たことも無い舞を見ているような面持ちで、グラドリエルはずっと見ていた。
背中を見せて、歩み去って行くダナスラナは、ぴたりと足を止めて振り返り、
「ひとつ・・・・いいですか?」と聞いてきた。
「は、はい。なんでしょう?」
「どうして私と闘う気になったんですか? 私が敵だからですか?」
しばらくして、グラドリエルは答えた。
「あなたが私を敵と思って襲ってきたのなら、私もあなたを敵として戦いました。でも、なぜか、私はあなたを敵だとは思えないのです」
グラドリエルは、笑顔を見せた。束の間、肩の荷を降ろしたかのように。
「それなら、どうして?」
あまり表情を動かさなかったダナスラナが、この時初めて眉をぴくりと動かした。
「なんででしょうね。正直、私にもよくわかりません。強いていうなら、あなたが強そうだと思ったから・・・じゃ駄目でしょうか」
笑顔が苦笑に変わって、照れくさそうに指で頬を掻いた。目の前の、自分と同じくらいの歳の女の子の受け売りを、そのまま本人に返したせいだろうか。それとも、武人としての血が騒いだ事を、女の子としてのグラドリエルが恥じたのか。
そんなグラドリエルを見ていたダナスラナが、不意に笑顔を浮かべた。
「やっぱりあなたは強い。私にはわかります。その本当の強さが」
ダナスラナが、微笑みながら言った。戦いの最中に見せたのとは違う種類の笑みを浮かべながら。
こんな表情が似合うのは、きっと暖かな日差しを浴びている時かもしれない。グラドリエルは思った。
「それでは、私はこれにて失礼いたします」
そう言って、再び顔を前に向けたまま、今度は後ろを振り向かなかった。
「あ、待ってください。よければ名前を聞かせて貰えませんか? 私は、グラドリエル・・・」
本当の名前を告げる事を、一瞬ためらった。告げてしまえば、自分の素性を相手に明かす事になってしまう事を恐れたせいだ。しかし——
「グラドリエル=ド=ヴァレンディア」
力強く、ハッキリと告げた。
「・・・・ダナスラナ。ダナスラナ・ブラナハム」
短く名前だけ告げて、ダナスラナは歩み去っていった。グラドリエルの名前を聞いても、まるで意に介さずとでも言う風に。
「ダナスラナ・・・・ブラナハム・・・・」
言葉の響きを確かめるように、グラドリエルは、少女の残した名前を口にした。記憶の奥底にある響きに照らし合わせる為だというのは、今のグラドリエルには知る由も無かった。

「さあ、あなたの番ですよ」
暖炉の炎と、窓からの月明かりに照らされた表情が、柔らかく微笑んだ。
姉の言葉に、グラドリエルは、ううむとうなったまま固まっている。
女王としての一日の責務を果たした夜、グラドリエルはシドラエルの部屋へ赴いて、カードを楽しんでいた。
シドラエルの手には、二枚のカード。
グラドリエルは、その二枚のカードをじっと見つめて、時折シドラエルの顔に目を向け、またカードに目をやる。それの繰り返しをしていた。視線から、どのカードが危険かを判断するためだったが、シドラエルの表情は、常に穏やかなまま変わらなかった。
やがて、読みが無駄だとわかったグラドリエルは、右のカードに手を伸ばし、手元に引き寄せた。
「あら、残念ですね」
シドラエルは、にこにこしながら、やんわりと言った。その表情には、以前までの病弱な影は微塵も無い。
「こういうのはね。迷ったら駄目なの」
「そういう物ですか」
グラドリエルは、悔しそうにしながらも、内心姉の笑顔を見るのが嬉しくてたまらいのだ。毎晩こうやって姉達の部屋に居る事が多いのは、そういった理由からだ。ただ、今日は少し違う理由もあったのだが、グラドリエルは何も語らなかったし、シドラエルも、何も聞かなかった。
「次はお姉様の番ですね」
グラドリエルは、テーブルの下で、二枚のカードを何度かシャッフルしてから、すっと差し出した。
「・・・・・」
シドラエルは、グラドリエルの持つカードを、瞬きを二回ほどだけの間見て、迷いもなく左のカードに手を伸ばた。
カードを掴んだ瞬間、グラドリエルの右の眉がぴくっと小さく跳ねあがった。
「はい。あがりました」
シドラエルは、同じ竜の絵柄だが色の違うカードを、テーブルの上に広げてみせた。
「また負けました・・・」
がくんと肩を落として、手に残ったカードをテーブルの上に落とした。道化師の絵が、そんなグラドリエルを嘲笑うかのように、口元を吊り上げていた。今日だけでも、このカードに五回も笑われている。
「五勝一敗ですね」
「・・・・・私、カードの才能が無いんでしょうか」
「いいえ。別にこういうのは才能とは関係ありませんよ」
「じゃあ、どうして?」
グラドリエルは、思わず口をついた言葉に、昼間の事を、心の中で重ね合わせた。自分が負けた訳を知りたかったのだ。
「簡単な事ですよ。あなたは、カードを持つ時に、気の行っている方の手の小指が、強張って、気の無い方手よりも深く曲げています。だから、見つけるのは簡単なの」
自分の勝因をばらす事になんのためらいを持つ事無く、シドラエルは口をそっと指で隠してクスクスと笑った。
「それはずるいです」
何か、昼間の事と関わりを見出せるかもしれない。そう思って聞いていたグラドリエルも、これには拍子を抜かれて、抗議の声をあげた。
「でも、カードは人同士がする事ですよ。自分の手の内を考えるよりも、相手を見ていた方が、より勝てるようになるという物です。あなただって、私の表情から読み取ろうとしたでしょう?」
「そ、それは・・・・」
言われてみれば、確かにその通りだった。だが、グラドリエルも、まるで相手を見ていない訳でもない。それどころか、半ば真剣に読み取ろうとさえしていた。ダナスラナの言葉が頭に残っていたせいだ。
「でも、私もお姉様の事を、よく見ていた筈なのに。それに、だからといって、私がほとんど勝てていない理由にはならないと思います」
「言うでしょう? 勝負は時の運と。それに、私は、ほんの少しだけ確実を上乗せしただけ」
「・・・・・・」
「お母様が、良く言ってた事です。勝負は始まってしまったら、時の運。でも、それまでにする事は沢山あるのだと。だから、私はあなたとの勝負では、出来る限りあなたを良く見て、出来る事を探してたんです。でも、あなた程の目があれば、私なんか相手にさえならなくなってしまうかもしれないわね」
「そんな・・・私はまだまだです」
今日味わった二度目の敗北が、グラドリエルから声の勢いを奪っていた。
「グラドリエル・・・あなたは弱くありませんよ。今はまだ強くなる方法を知らないだけ」
シドラエルが微笑んだ。
「それに・・・私がこうして強くなれたのも、みんなあなたやお姉様のお蔭」
首から紐で下げて、胸のあたりで柔らかい光を放っている小さな白い袋にそっと手をやりながら呟いた。
「お姉様・・・」
いつか、姉は妹にこう言った。あなたの元気が私の元気だと。今、姉は妹にこう言っているに違いなかった。
私の元気はあなたの元気と。
姉は、妹の心の内を知っていたのかもしれない。
「さ、それでは、もう一勝負しましょう。でも、今度はもう勝てないかもしれませんね」
「はいっ。今度は負けません」
シドラエルの笑顔が、グラドリエルの中の霧を掃ったのか、グラドリエルの表情に、輝きが戻った。例え一時的な物だとしても、道標には違いなかった。
「あ、そうそう。言い忘れてました。ゲームに勝つには、もう一つ秘訣があるんですよ」
「なんです?」
「今、楽しいですか?」
「え? どうしてですか?」
シドラエルは答えずに、グラドリエルを見つめていた。
「・・・ええ、まあ」
「とても?」
「負けているから、ちょっと悔しいです」
「それじゃあ、まだ私には勝てませんね」
「え?」
「知ってますか? 勝利の女神って、楽しいこととか、笑顔が大好きなんですよ」
そう言って、目を細めた。楽しそうに。
「・・・わかりました」
もし、勝利の女神が居たら、どちらを勝たせたらいいのか、わらかなくなるに違いないと思わせるほど、二人の姉妹の笑顔は、輝いていた。


 ナッツビルの村の住人でも、それ以上奥へ進む事はない森の奥に、一軒の小屋があった。
この世界の影の秘術は、そこから生まれる出るかのような佇まいに、近づく者は誰一人として居なかった。
小さな女王と魔女以外には。
「エルファーランに良く似ているよ。その嫌みったらしいくらいに覇気のある瞳がね。ひっひっひ」
煮込まれている材料を想像したくない色の液体と、並の神経程度ならば卒倒しかねないほどの奇臭を前に、魔女、ルーデナは笑った。深い皺のひとつひとつまで笑っているような錯覚に囚われそうな笑みだった。
「お母様をご存知なのですか?」
「ああ、良く知っておるともさ。今のお前さんくらいの時からの。あの髭じじいは、あの子がワシの所へ来るを快くは思ってなかったようじゃが・・・」
「髭じじいって・・・もしかして、ジェストナイですか?」
グラドリエルは、小さく吹き出した。
「でも・・・お母様、そんな時に、もう世界へ・・・」
「今のお前さんより、ずっとお転婆娘じゃったわい」
そう言って笑うルーデナ。グラドリエルは、対照的に目を丸くしていた。姉達語ってくれる母親の姿からは、想像だに出来なかったからだ。
「・・・それよりも、ブラナハムと言ったね?」
「あ、はい。そうです」
「ブラナハム・・・本当にその娘は、ブラナハムと名乗ったのかい・・・だとしたら、エルファーランも、おちおち寝てはいられないねぇ・・」
ルーデナは、湯気立つ大鍋を見つめながら、独り言のように呟いた。
記憶に引っかかった言葉を手繰り寄せたら、自分の母親の名前も出てきた。その事がグラドリエルを一番驚かせた。

Fin

後書き

『プリンセスクラウン − エターナルウィンド』というお話の予定原稿。
現在シーンのそれぞれのぶつ切りなんで、一本の話としてまとまってません。
とりあえず、これらを見てみて、「どういう話しになるんかいの?」と、ちょっとでも興味を持たれた場合は、コメントの所になんか書いていただけると、続きを書こうという意欲が湧いてくる予定でいます(^^;
例によって、ゲームをやってないと、新キャラはともかく、グラドリエルやお姉様方の言動や人となりの経緯がわからないです。うう・・・


作品情報

作者名 じんざ
タイトルプリンセスクラウン
サブタイトルエターナルウィンド 〜 digests 〜
タグプリンセスクラウン, グラドリエル, シドラエル, エリエル, ジェストナイ
感想投稿数61
感想投稿最終日時2019年04月10日 14時05分57秒

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