予感は期待を生み、期待は熱気を呼び、熱気は大きな渦を作る。


コロシアムの観客の鼓動が一つになって、空気を大きく震わせた。
ただ興奮と熱狂の渦だけが支配する。平和であればあるほど、それは増大する。
一年に一度、日常という膨らみすぎた風船の空気を抜く為に必要な場であったのかもしれない。

ヴァレンディアに古くから伝わる、大武会「栄光の槍」。
王国の健祖、ヴォガニスト・ド・ヴァレンディアが、兵員登用の為に行った試合が発祥といわれるこの大会は、現在ではお祭りの一つとして存在している。
だが、兵員登用としての機能は失って居る訳ではなかった。優勝者には、カード騎士団への入団する権利が与えられる。武王グラドリエルの旗下であるカード騎士団に所属する事は、栄誉であり誇りでもある。
その為、毎年多くの腕自慢などが集うのだ。
中には、優勝賞品を目当てにするだけの者や、単に自分の力量を計りに来る者も居る。

無論、それだけではなく、近隣諸国からも、この大武会を見ようと沢山の観衆がやってくる。
セレティもそんな観客の一人であった。


商業都市カトゥバトゥで大きな商家の一人娘として育ってきた彼女は、人一倍お転婆で、同年代の男の子には争い事という争い事、無論ケンカも含むが、それに負けた事はなかった。かといって、容姿までが男勝りしている訳ではなく、むしろまったくの逆だった。
ただ黙って笑えば、相手は百年の恋に身を焦がさせるは容易いに違いない。
パーティーで優雅に振舞って見せれば、紳士が彼女の前で膝を付き、手を差し出すだろう。

お嬢さん。一曲お相手願えまいか——
はい。喜んで——

目下の所、その光景は彼女の両親の想像の中でしか実現されていない。
そんな彼女は、十三歳の頃、街の戦士に剣術を習い始めた。
両親は嘆き、彼女を知る者は、一様に、さもあらんと漏らした物だった。

生来の資質がそうさせたのか、セレティは驚くべき速度で実力をつけていき、ついには剣術の師範と肩を並べるまでになっていった。
そして十五歳になったとき、初めてうわさに聞いていた王都ヴァレナディンでの大武会に行ける機会に恵まれた。

前から切望していたもので、商家の娘としての見聞という伝家の宝刀を抜いて、両親に迫った結果だった。
ただ、絶対に大会に出ない事を条件づけられたのは、せめてもの両親の抵抗だったに違いない。

もっとも、セレティは元々その気は無かった。大会に興味があるのは確かだったが、負けん気こそあるものの、それほど自信過剰でもなかったからである。
彼女の本当の目的は、自分より二つ下の若さで女王に即位したグラドリエルの実力がどれほどの物かを見たかったからだ。
伝え聞く話は、どれもセレティを刺激した。嫉妬と言ってもいい。自分とほとんど同じ歳。同じ性別。どんな物かと見てやろうと思った。

かくして、セレティはヴァレナディンへと旅立ち、闘技場の門をくぐった。

闘技場の興奮は、否応無しにセレティを高めていた。

やがて、高らかなファンファーレが鳴りだし、観衆が湧き上がった。
闘技場の正面にあるバルコニーに、小さな姿が現れると、次々と立ち上がって拍手を送り出す。
この場に集う頂点に立つ姿を称えるように。

ヴァレンディアの女王、グラドリエル・ド・ヴァレンディアを。

セレティの場所からでは遠くて小さな粒にしか見えなかった。
あの小さな姿が、この大きな闘技場を揺るがすほどの歓声を受けるのが不思議でしょうがなかった。
ファンファーレが鳴り止むと、闘技場は一気に静まり返った。
セレティは、軽く耳を叩いた。大音響に慣れた耳が違和感を訴えたのだ。

「武とは!」

闘技場全体にあまねく届くような、澄んだ声が響き渡った。
セレティは、なぜここまで静かになるのか理由がわかった気がした。この声を聞く為だったんだ。
それにしても、なんていう声量だろう。

「武とは己を貫く為の力です。
そして、力とは、己を信じる事で生まれる物です。
自らを信じ貫く時、そこに正義は生まれます。
しかし、正義は一つではありません。
その正義をぶつけ合い、己を示す場が、今日の「栄光の槍」なのです。
さあ、存分に己を示し、力の限り闘ってください!」

グラドリエルが言い終わると、拍手の音が大瀑布の轟音のように鳴り響いた。
セレティも、拍手に加わる。
武王と言われるだけの小気味よさと力強い一言一言に飲まれていた。

ハッキリとした姿のグラドリエルと相対している自分を想像した。
伝え聞く大剣が、自分に向いている。
どう動くか想像した。
しかし、動く自分が想像出来なかった。無理に動けば、その瞬間、大剣が瞬時に自分を真っ二つにしてしまうだろう。
敵わないかもしれない。いや、敵わない。

絶望感がセレティの肩にのしかかった。
今まで自分はどうして、強くなりたかったのだろう。

負けたくなかった。

ただそれだけだったら、なんてくだらない理由だったのだろう。
もはや、同じ年頃、同じ性であるという事すらも頭にはなかった。遠すぎる相手に嫉妬など出来よう筈もない。

セレティは、ちらりとバルコニーを見た。もうグラドリエルの姿はそこには無かった。
それで少しだけ救われた。見つづけていたら、また想像が広がってしまうからだ。
しばらくして、またファンファーレが鳴りだし、闘技場の中央に二人の男が進み出てきた。
少し沈みかけたセレティの心を引き戻した。

巨漢ともいえる男二人は、片方が大きな剣を持っていた。
殺し合いではないこの大会の性質上、刃は潰されている物を使用してはいるが、直撃すればまともではいられる事は無いだろう。
もう片方は、素手だ。ただ、その筋肉のつき具合は両者明らかに違っていた。
しかし、どちらも一撃必殺の威力があることは、セレティにはわかっていた。
自分など、あの二人の前に出てしまったら、ただの小娘でしかない。
女王様なら違うのだろう。

そう考えているうちに、試合開始の合図が鳴り響いた。
闘技場中央で向かい合った男は、じりじりと間合いを掴みながら、にじり寄った。
闘士から伝わる間合い取りの緊張感がセレティの頬を叩く。

はっと我に返って、闘士を見つめた。

そうだ‥‥自分と同じ歳で、大きくないのなら、あの闘士の前に出れば‥‥

セレティの中で、現実の緊迫感が、想像を圧倒していく。
その時、剣を構えた男が先に動いたのを見た。剣の間合いよりも圧倒的に遠いにも関わらずだ。しかし、セレティにもその動きの意味は理解できた。
足運びで、瞬発力で踏み込んで一気に詰める腹だと。
そのとおりになった。
見かけを完全に裏切る体のスピードで、一気に間合いを詰めた男は、剣を横に凪いだ。
相手が素手である以上、受ける事は出来ない。
ならば、叩き折られるか、上か下かである。
素手の男の姿が消えた。

下!

セレティの読みどおりに、素手の男は、膝を折って身体をあお向けに逸らし、横凪の剣をかわした。
後ろ向きに倒れたまま、腕を使って剣の間合いから逃げるようにとんぼを切った。
しかし、すぐに剣を返した男が、ニ撃目を放っていた。爆発的な瞬発力での踏み込みと共に。

「あと三手先までは‥‥」

突然そう声がして、セレティは横を見た。
いつのまにか、少女が立っていた。

金髪の髪に、葡萄色の瞳をした少女だった。歳は自分と同じくらいだろうか。
それにしても‥‥とセレティは思う。なんて場に合わない雰囲気なんだと。
芯は強そうではあるが、どこか優しげだったし、背も自分ほど大きくない。

「お隣、失礼していいですか?」
「え?」
「座る場所がなくて‥‥そこなら、私一人くらいならと思ったので」
「え、ええ。どうぞ」

確かに、セレティの両脇は少しだけ空間があった。
女性であるというのが原因だろうか。両脇の男が、彼女の方に押し詰めるのをためらったせいである。
セレティは座る場所を左に少しずらして場所を開けた。

「ありがとうございます」

少女はニコリと笑って、開いた場所に腰掛けた。
その時、セレティは少しだけ違和感の本当の正体に気づいた。
そうだ。こんな場所だというのに、さも当たり前のように‥‥まるで山のよう。
その時、歓声がひときわ大きくあがって、ハッとなったセレティは闘技場へ目を移した。

剣の男が、肩膝をついていた。

セレティはその瞬間を見てはいなかった。悔しい。いいところだったのに。

「剣の人が、突きで追い討ちをしかけた時に、素手の人が剣に沿うように身体を回して近づき、腹に拳を一撃。
相当効きましたね。あれは」

セレティの隣に座った少女が、彼女の方を向いてニコリと笑った。
解説してくれた事はありがたかったが、少女も、自分が見逃した瞬間は、自分と目を合わせて居た筈なのに。

「でも、まだ剣の人は立てそうですね」

馴れ馴れしいとも違う、どこか得体の知れない雰囲気に気圧されながら、セレティは苦笑で返した。

「でも、ここまででしょう。今の一撃で彼の脚は‥‥」

そんなバカなと思いながら闘技場を見た。
剣の男は立ち上がっていた。少しもそんな素振りがない。

「そんな‥‥」

そこまで言った時、素手の男が急襲をかけた。株を奪うような脚で間合いを縮める。
剣で払ったが、それもかわされ、再び腹に一撃を食らい、ゆっくりと膝から倒れていった。

瞬間、大歓声があがる。

セレティは、呆然と見ていた。
もとよりこの勝負は、剣を持った方が圧倒的に有利と踏んでいたからだ。

「剣は力ではありません。
料理の出来ない人に鍋と材料を与えても、意味がありませんから」

なんてヘンな例えをする子だろう。
セレティは思いながらも、確かにその通りだ。そう思わざるを得なかった。
事実が目の前にあったのだから。

「‥‥‥‥」
「興味がありますか?」

少女が問い掛けてきた。
セレティは少女の質問の意図を掴みかねて、疑問符で答えた。

「いえ、黙って見ているようでしたので。
他の女性の観客は、どちらかと言えば男の方より、エキサイトする方が多いので」

少女は苦笑した。丁寧な物言いに少しだけ警戒感を強めていたセレティが、なぜかほっと胸を撫で下ろす。そうさせる笑顔だった。
少女の質問は、見る方より、やる方。そう言う意味であった事もわかった。

「ええ‥‥それなりに」

そうしているうちに、闘技場では第二試合が始まっていた。
今度は両者とも剣を持っていた。
第一試合とは違い、間合いを取る事もせず、ただ闇雲に打って出る、力任せの闘い方が続いていた。
両者とも最初の試合に出ていた男よりも一回り大きい。そんな男の振り回す者に当たれば、ただではすまないだろう。
しかし、セレティにとっては特に興味を喚起させる試合ではない。

その時だった。
赤い服の少女がツカツカとやってきた。

どうやら魔法使いの服装のようだということは、セレティにもわかった。
綺麗な栗色の髪がふわふわ揺れていた。歳はほぼ自分と同じ。

「ちょっとアンタ。そこ詰めなさいよ!
レディに席を開けるのは常識よ常識!
そんな図体して座席を取ろうなんて図々しいったらありゃしない」

そう言って、いきなりセレティの隣に座っていた男に詰め寄った。
なんて無茶な物言いなんだろうとセレティは唖然とした。

「どかないとカエルにしちゃうから」

赤い服の少女は、杖を男に突きつけた。
男は少女の勢いに気圧されて、席を詰めた。セレティの隣に隙間が開く。
すると、金髪の少女が困った風に、

「失礼でしょう。無理言ってるのは私たちなんですから」
「ふんっ。いい迷惑だわ」

赤い服の少女は、金髪の少女をにらんでから、ふんとそっぽを向いた。
どうやら自分の両脇に座っている少女は、知り合いであるらしい。

「申し訳ありません」

金髪の少女は、男とセレティに頭を下げた。
自分がしたことではないのに、なんて丁寧に頭をさげるのだろうと舌を巻いた。自分とは育ちが違いすぎる。

「‥‥‥」
「気にしないでください。じきに済みますから」

余計気になるという事は伏せて、せっかく来たのだから、ちゃんと見ないと損をするという商家根性を発揮して、セレティは試合に目をやった。
しばらくは、セレティは試合に見入る事が出来た。ただ少しだけ気になったのは、赤い服の少女が、小さな皮袋から取り出した小さな粒みたいな物を、自分達を中心に一つづつ指で弾き撒いている事くらいだった。気にしていなければ、気づかない行為だったかもしれない。
歓声がどっと沸いた。
闘技場で、対戦相手がどっと倒れた。腕が嫌な具合に曲がっていた。

「‥‥!」

明らかに折れている。
セレティは息を飲んだ。怪我くらいならすることはあったが、あそこまで重傷を負った事はなかった。

「闘うという事は、ああなる事を意味しています」

金髪の少女が言った。揺るがない声で。

「‥‥‥」
「相手を傷つけ、自分も傷つきます。それが闘うという事です」

何を当たり前の事を。
そう思ったが、少女の言葉には実感があった。
言葉に血肉があるならば、きっと今みたいな言葉がそうなのだろう。

「女性であるならば、それは大変な事です」
「でも、それじゃ、女王様はどうなるの。あんな人達の頂点に立つ人でしょう?」

剣王とさえ呼ばれグラドリエル女王なら、それはもしかしたら、死と血の匂いが常にあるのかもしれない。
すると隣の赤い服の少女が、こう漏らした。

「そんなの簡単よ。
戦わなきゃなんなかったんでしょ。それが人よりちょっと多いくらいで。
まあ、あの性格だし、一度首をつっこんだら、解決するまで抜かないんだろうけど。
あたしからすれば、理解に苦しむ事ばかりよ。
何もかも背負いまくって、立つ足もフラフラなのにね。もっと軽くいけばいいのよ」

つまらなそうに言ってから、また、小さな何かを指で弾いた。

「‥‥‥」

さっきからこの少女はなんだろう。そう思いながらも、少女の言葉がなんとなく頭に残る。

「そうかもしれませんね」

金髪の少女が、ため息をつきながら微笑んだ。
嬉しいのかそうでないのか、よくわからない表情だ。

「でも‥‥」

少女は闘技場に目を向けながら、嬉しそうに言った。
腕を折られながらも、ふらふらになりながらも立ち上がった闘士が、ふらっと倒れこんだのを、そんな目にあわせた相手ががっしりと受け止めたを見ながら。

「悪い事ばかりじゃありませんけど」

少女が苦笑した。照れ臭そうに。

「相手も傷ついた分、自分も傷つけば、痛み分けです」

なんて厳しい言葉を平気で言うのだろう。
セレティは、自分と同じくらいの少女を見つめた。自分より小さな身体の中に、想像も出来ない程の何かが詰まっているような気がした。
ただ漠然と強くなることを求めてきた自分とは根本的に違う。

こんな子なのに。

不思議と悔しさは沸かなかった。
自分よりも強い者ならいくらでもいる。
ただ剣を振り回すだけなら、誰でも出来る。
それだけじゃない何かが、今たまらなく欲しくなっていた。

強くなってみたい。この少女みたいに。

「さってと。そろそろいいかしら」

赤い服の少女が、ぱんぱんと手を叩いて、杖を両手で握りしめた。

「そうですね‥‥」

そう言って金髪の少女が、呟いて立ち上がった。
セレティは呆然とそれを見ていた。小さいのに大きい。そう思いながら。
すると赤い服の少女は、何か聞き慣れない言葉を呟きはじめる。

「これから、何があっても慌てずに、この場から離れてください。
闘技場の出口は、あそことあそこです!」

金髪の少女は突然大きな声でそう言って、指差した。闘技場のスタンドへと通じる階段だった。
いきなりの声に、周囲に居た観客が、一斉に目を向けた。
そうさせるだけの声。この大きな声‥‥この力強さ‥‥
女王の言葉を聞いた時に感じた事が脳裏に閃く
セレティが思った瞬間、足元が金色の光を放った。
慌てて足元を見ると、赤い服の少女が置いた小さな粒が光を放ち、見た事もない模様のような文字を、床に刻んでいた。それが光を吹き上げる。
赤い服の少女は、まるで意に介さずとばかりに、一心に何かを唱えている。魔術学校の生徒が使う詠唱となにか似ている。

なんなのこの子!

周囲の観客がざわめきだした時、光の中で、大きな叫び声がした。
身体中に腐った冷水を流し込まれたような悪寒を引き出すような叫び、いや、咆哮と言ってもいい物だった。
セレティはその叫びがした方を見ずに、思わず両手で身体を抱える。

「みなさん! 落ち着いて、この光の中から離れてください!」

金髪の少女が叫ぶと、胸の中の悪寒がふっと薄れていくのを感じた。
力強い声。すうっと耳に入って、落ち着きが戻っていく。少女が指差した方向を思い出す。
立ち上がって周囲を見ると、後ろの席の方で、一人の男が胸を掻き毟っていた。
腕が、異様なほど肥大して、獣のような毛が生えている。
恐ろしい咆哮はその男から発せられている物だった。
いや、もうすでに人ではないのかもしれない。服が裂け、盛り上がった筋肉が現れる。獣ともつかない、奇怪な姿に変わっていく。

おぞましい光景だった。
観客がそれから逃げるように、悲鳴をあげながらも、少女が指示した方へと走っていく。
一角で起こったこの光景に、会場も気づいたのか騒然としていった。

「逃げなくちゃ!」

セレティが金髪の少女に向かって叫ぶと、少女は首を振った。

「どうして!」

少女はそれに答えずに、微笑んだ。

「グラドリエル! 早くやっちゃいなさいよ! 結界がもう保たないわ!」

赤い服の少女が叫んだ。

「グラドリエル‥‥?」

セレティは呆然と呟いた。
女王の名前と同じだった。
女王は、ラベンダーの髪に葡萄色の瞳と聞いている、そんなバカな。だって髪が‥‥

その時だった、少女の前に何かが落ちてきた。ガツンと鈍い音がした。
大きな鉄の塊のような長い物が剣とわかるのに時間はかからなかった。
大剣だった。少女の背と同じ程の。
少女は、剣の柄を握り、いとも簡単に引き抜いた。
チーズに刺さったナイフを抜くのと何も違わない。あんな大きな剣なのに。

「女王様! 後はまかせたよ!」

上空からそう声がしたのを受けて、剣を持った少女が頷いた。

「‥‥‥さあ、早く行ってください」

少女は、髪を掴んで引いた。金色の髪はいともあっさり取れてしまう。
その下から、紫色の光がこぼれた。セレティにはそう見えた。
紫色の髪。

「‥‥女王‥‥様‥‥‥?」
「またどこかで‥‥さあ」

セレティは頷いて、駆け出した。
今ここに居てはいけない。私なんかが居るべき場所じゃない。
グラドリエルは、その背中を見送ってから、獣に向かい合った。

「生憎でしたね。私を狙うなら、もっとうまくするべきです。
さあ、私はここですよ」

グラドリエルは、剣を相手に向けて目を細めた。

大会は佳境に入り、決勝を迎えていた。
開始直後に起こった客席でのハプニングが、むしろ拍車をかけたのだろう。
興奮と熱気が、最高潮に達していた。
闘技場の中央で向かい合うのは、初戦で闘った素手の男と、大会で初めてという二剣を操る男との戦いだった。
どちらも、素晴らしい戦いぶりで、会場を沸かせていた者だった。
セレティも、観客席で固唾を飲んで見守っていた。

終わったら、早々にカトゥバトゥに帰ろう。帰ったら両親に言うつもりだった。商家の娘として、商売の勉強をすると。
それでも、剣を捨てるつもりはなかった。
本当に強くなれば、いつでも会えるかもしれない。そう思ったからだ。


十五年後。
若くしてカトゥバトゥの商業の総元締めとなり、国を支える商業の礎を築いた時でも、セレティの胸の中から、あのときのグラドリエルの笑顔だけは消える事は無かった。


「またどこかで」

Fin

作品情報

作者名 じんざ
タイトルプリンセスクラウン
サブタイトルTUWAMONO
タグプリンセスクラウン, グラドリエル, シドラエル, エリエル, ジェストナイ
感想投稿数2
感想投稿最終日時2019年04月11日 03時08分35秒

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