「お兄ちゃん、起きてってば。遅刻しても知らないよ!」

布団にくるまっているお兄ちゃんの身体を揺する。だけどお兄ちゃんは、

「うう、乃絵美。あと、もうちょっとだけ寝かせてくれぇ!」

と、情けない声を上げた。

「もう! お兄ちゃんたら! また、遅くまでゲームやってたんでしょう!?
 自業自得だよ、それって!
 ほら、お兄ちゃん。早く起きて、起きて!」

ユサユサ。

「のえみぃ〜、お願いだから〜!」
「だぁ〜めっ! ほら、起きてっば」

ユサユサユサ。

「うう、乃絵美の鬼! 悪魔ぁ〜!」

ムカっ。

……………

………

「ふ〜ん?
 お兄ちゃん、そういうこと言うんだ?
 へぇ、そうなんだ?
 いいよ。お兄ちゃんがそういうこと言うならもう絶対に起こしてあげないし、お弁当も作ってあげない。
 あ、そうだ。お兄ちゃん、今度から自分で朝御飯とかも作ってね♪」

がばっ。

「お、おはよう、乃絵美! きょ、今日も、あ、ああ、朝から清々しいな!」
「おはよう、お兄ちゃん。朝御飯できてるから、早く下に降りてきてね」
「お、おう!」
「一緒に食べようね♪」

私が台所に戻ってくると、お母さんが食卓でのんびりとコーヒーを飲んでいた。
お母さんは私に気がつくと、一度天井を仰ぎ見てから話しかけてきた。

「乃絵美、正樹は起きたの?」
「うん。もう少ししたら、降りてくると思うよ」

言いながら私は食卓に着く。
今日の朝御飯は、ベーコン・エッグにトースト、そしてサラダ。
簡単な料理(?)ばかりだけど、朝だからいいかな、と思う。
手抜きって思われるかもしれないけど、朝はそんなに時間が無いしね。

それにお兄ちゃん、わ、私が作ったものなら何でも美味しいって言ってくれるし………

えへへっ♪

ふと顔を上げると、お母さんが私の顔をじっと見つめていた。
その目は、何だか笑っているように見えた。

「な、なに、お母さん?」
「ううん、別になんでもないわよ。
 ただ、飽きもせず乃絵美は今日も顔を真っ赤にさせてるなぁ〜って」

にやにやと、意地の悪い笑みを浮かべながらお母さん。私はその言葉に慌てた。

「え、えっと。そ、そんなことないんじゃないかなぁ〜?」

あさっての方向を見ながら私。自分でも妙に声が上擦っているのが解る。

「じゃあお母さん、鏡、持ってきてあげましょうか? の・え・み?」

うう、お母さんの意地悪。そこまで突っ込まなくてもいいじゃない……

お母さんの視線に耐えきれなくなった私は、それから逃れるために顔を伏せた。
ちろっと、上目遣いでお母さんを見る。

まだ、笑ってる………

お母さんは優しくて、綺麗で。お料理、お裁縫とかも上手で、私の憧れなんだけど………
こういう意地悪なところは嫌いだったりする。
どことなく、意地悪なお兄ちゃんの雰囲気に似ている気がしないわけでもない。

『お兄ちゃんに似ている』じゃなくて、お兄ちゃんがお母さんに似ちゃったんだ、きっと。

くすん。

しばらくの間、お膝と睨めっこしていると、不意にお母さんが声をかけてきた。

「ほら、乃絵美。いつまでも赤くなってないで、早く朝御飯を食べちゃいなさい。
 あなたはただでさえ食べるのが遅いんですからね、学校遅刻しても知らないわよ」
「うぅ〜」

やっぱり意地悪だ。
私が人より、ほんの少し、本当にちょっとだけ鈍いの気にしてること知ってるくせに………それに、私が朝御飯に手をつけない理由も知ってて、言葉にするんだから。

「お兄ちゃんがまだ来てないもん………」

頬を膨らませながら私は、お母さんを睨みつけた。
するとお母さんは、両手を自分の胸の前でぱんっと手を合わすと、

「あ、そうか。乃絵美は正樹のことを待ってたんだっけ?
 ごめんね、乃絵美。お母さん気がつかなかったわ」

お母さんのあまりにも白々しい科白に、私に本来あってはならない殺意が突然芽生えた。

「お、お母さん………っ!」
「あら、やだ。乃絵美、もしかして怒っちゃったの? もう冗談よ、冗談♪」

手を振り、ケタケタ笑いながらお母さん。

こ、この人はぁ〜!

拳を力の限り握り締める。
神様、お許しください。実の母親に正義の鉄槌を下すことを!

「なにやってんだ、乃絵美? 朝っぱらから」

振り返ってみると、そこには支度を終えたお兄ちゃんが立っていた。

「お、お兄ちゃん! え、ええっと、これはその……あ、あははっ」

顔の近くまでに上げた拳を引っ込めながら、ひきつった笑いを浮かべる私。
そんな私の様子に、お兄ちゃんは怪訝な表情を見せる。
後ろを少し盗み見してみると、お母さんがニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべていた。

「正樹ぃ〜、ちょっと聞いてよぉ〜。乃絵美ったらねえ……」
「お兄ちゃん! ほ、ほら、朝御飯早く食べよう! 学校、遅れちゃうよ」

お母さんの言葉を遮りながら、お兄ちゃんを席に着くように促す。

「あ、ああ……」

お兄ちゃんは納得いかない顔をしているけど、私は敢えてそれを無視してにっこりと微笑んだ。
するとお兄ちゃんは真っ青な表情になり、慌てて席に着いた。

「さあ、た、食べようか、乃絵美」

うん、さすがはお兄ちゃん。私の言うことをいつもきちんと聞いてくれるね♪

「相変わらず尻に敷かれているのね、正樹………」
「お母さん、何か言った?」
「いいえ、何も」

私から視線を逸らし、コーヒーに口をつけるお母さん。

まったく………

お母さんの態度に呆れていると、隣に座っているお兄ちゃんが声をかけてきた。

「乃絵美、早く食べないと学校に遅刻するぞ。
 お前はただでさえ人より鈍臭いんだからな」
「お、お兄ちゃん!」

向かいに座っているお母さんのほうを見る。

うっ……また笑ってる………

「どうした、乃絵美?」
「なんでもない! いただきます!」

もう! お兄ちゃんまで、お母さんと同じこと言わなくてもいいじゃない!

私はトーストを手に取ると、口を大きく開いてそれを食べていった。

「いってきま〜す」

御飯を食べるのが少し遅れちゃったけど、まだまだ間に合う時間。
今日もお兄ちゃんと一緒に学校に向かう。
私がお兄ちゃんを起こすようになってから、こうして一緒に学校に行く日が多くなっていった。
少なくともそれは私にとって、とても嬉しいことだった。

「今日もいい天気だね、お兄ちゃん」

隣を歩いているお兄ちゃんに笑顔で声をかける。だけど、お兄ちゃんは気だるそうに、

「うう。9月に入ったとは言え、今日も暑くなりそうだよなぁ………」

と、言葉を返した。

「うん? どうした、乃絵美? 俺の顔に何かついてるか?」
「………別に」
「???」

そう。お兄ちゃんはこういう人なのだ。
場の雰囲気を壊すと言うか、ちょっと人と違った感性を持った人なのだ。

はあ……

思わず漏れるため息。

お兄ちゃんは嬉しくないのだろうか。
私はお兄ちゃんと一緒に登校できて、そして青空が見れて。たったそれだけのことなんだけど、心の中が幸せで満たされるような、そんな感じがするのに。

私が俯いて歩いていると、不意にお兄ちゃんが、

「まあ、でもいい天気だよな。洗濯日和っていうのかな? こんな天気って」

顔を上げると、にこっと笑ったお兄ちゃんの顔をがあった。

「………うん! そうだね、お兄ちゃん!」

お兄ちゃんの笑顔に対して、私も笑顔で返した。
するとお兄ちゃんは、私の頭をくしゃっと撫でてくれた。

お兄ちゃんに頭を撫でられながら、ふと思い出す。洗濯日和と言えば……

「お兄ちゃん。また靴下とか、部屋に溜め込んでないでしょうね?!」

途端、お兄ちゃんの顔に緊張の色が走った。
私の視線から逸らし、自分のそれを泳がせ始めた。

「お兄ちゃん! あれほど洗濯物を部屋に溜め込んじゃダメって言ったでしょ!?」

両手を腰に当てて、お兄ちゃんの顔を下から睨みつける。

「ご、ごめん、乃絵美!」
「ごめん、じゃなくて、ごめんなさいでしょ!」
「ごめんなさいっ!!」

両手を合わせ、ぺこぺこと頭を下げるお兄ちゃん。

小さくなっているお兄ちゃんの姿を見て、妙に可笑しくなってしまう。
口の端が緩みそうになるのを堪えながら、

「もう絶対に洗濯物を溜め込んだりしたらダメだからね。わかった、お兄ちゃん?」

人差し指を立て、まるで小さな子供を叱りつけるような仕草をしてみせた。

「き、肝に銘じておきます!」
「よろしい」

私がにっこりと微笑むと、お兄ちゃんの強張らせていた身体の力を抜いた。

「ふ〜。部活の練習よりも、乃絵美に怒られるのがよっぽど堪えるよ………」

言いながらお兄ちゃんは、額に流れる汗を拭った。

「何言ってるの。言いつけをちゃんと守らないお兄ちゃんがいけないんでしょ?」
「いや………それは、その…………」
「今度言いつけを破ったら、どうしよっかなぁ?
 食事抜きなんて手ぬるいよね? うーんと………」
「の、のえみぃ〜」

指を顎に当てながら考えていると、案の定、情けない声を上げるお兄ちゃん。

「ふふっ。ほら、お兄ちゃん。早く学校行こっ」

言いながらお兄ちゃんの腕に自分の腕を絡める。私が急に腕を組んできたもんだから、お兄ちゃんは一瞬顔を赤くする。
だけど、食事抜きの件が気になるのか、不安そうに訪ねてくる。

「えっと、その、乃絵美さん。食事抜きの件は………?」
「お兄ちゃん、早く早く」

お兄ちゃんの問いに答えないで、腕を引っ張る。

「の、のえみぃ〜〜〜!!」
「あははっ」

お兄ちゃんとそんなことをしながら学校へと向かう。

そんな時間がとっても好き。

お兄ちゃんに満面の笑顔を向けながら、腕をぎゅっと抱きしめる。

「お兄ちゃん! 今日も張り切って行こうねっ!!」

Fin

後書き

ごめんなさい(笑)


作品情報

作者名 KNP
タイトルSweet Sweet Candy Drops 〜Noemi〜
サブタイトルそれ行け! 乃絵美ちゃん!(ぉ
タグWithYou〜みつめていたい〜, WithYou〜みつめていたい〜/Sweet Sweet Candy Drops 〜Noemi〜, 伊籐乃絵美, 伊籐正樹
感想投稿数212
感想投稿最終日時2019年04月09日 09時10分32秒

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  • [★★★★★★] もっといちゃいちゃをつ!!(゜д゜)
  • [★★★★☆☆] ちと乃絵美の性格が違う気もしますが 萌え尽きたので可(笑
  • [★★★★☆☆] おもしろいけど,続きは必要ないんじゃないでしょうか.そういう小説だとおもいます.
  • [★★☆☆☆☆] 乃絵美暴走?
  • [★★★★★★] 感無量です!
  • [★★★★★☆] こういうの結構好きです。続きぜひ読んでみたいです。
  • [★★★★☆☆] 元気なパターンもいいんでないかい(笑)
  • [★★★★★☆] 乃絵美か?
  • [★★☆☆☆☆] こんなの乃絵美じゃな〜い!(涙)
  • [★☆☆☆☆☆] いや、なんとも・・・。弱気な正樹かなぁ、と。(^-^;
  • [★★★☆☆☆] アップテンポだし妹萌ぇなんで嬉しいけど、乃絵美らしくないのがちょっと残念
  • [★★★★★☆] 学校編を期待
  • [★★★★★☆] 若い。実に若い!(笑 と思いました。もうこういう路線が書けなくなったなあ・・(^^;
  • [★★★★★★] こういう乃絵美も、可愛くて良いですね(笑
  • [★★★★★☆] 甘さ120%!!禁断の愛に踏み込んで欲しいと思うのは俺だけ?
  • [★★★★☆☆] つ、つえぇ…(乃絵美が
  • [★★★★★☆] 乃絵美の性格が少し?違うような・・・。(^^);
  • [★★★★☆☆] 乃絵美の性格が(笑)こういうのもいいかも
  • [★★★★★★] 読んでる最中、ず〜っと顔が緩んでました。あ、あと、言葉遣いがおかしいところがちらほらと・・・。
  • [★★★★☆☆] 強いな乃絵美(笑)
  • [★★★★★☆] ほのぼのしてて良いです。こういうの好きなんですよ。思わず読みながらにやけちゃいます。
  • [★☆☆☆☆☆] 誤字脱字がちょっと多すぎかと、、、
  • [★★★★★☆] こういう元気な乃絵美もいい
  • [★★★★★☆] う〜ん、何とも甘ったるい…
  • [★★★★☆☆] こういうアグレッシブ?な乃絵美もけっこういい味出してていいですね。できれば続きを書いて欲しいです
  • [★★★★☆☆] 一寸物足りない、かな?
  • [★★☆☆☆☆] ハァハァ
  • [★★★★☆☆] 元気な乃絵美ちゃんもおもしろかったです。
  • [★★★★★☆] もっとラブコメ風に
  • [★★★★★☆] 正樹の母さんが可愛かった・・・/滅
  • [★★★☆☆☆] 楽しい兄妹の駆け引きがきれいにかけていて呼んでいて気持ちよいです。
  • [★★☆☆☆☆] 乃絵美じゃない・・・・・(涙)
  • [★★★★☆☆] もっと恥ずかしい内容でも可!
  • [★★★★★★] 腕を組むのがポイント
  • [★★★★☆☆] 乃絵美こわっ!!(笑)
  • [★★★★★★] 乃絵美萌でしたw
  • [★★★★☆☆] ふらりと来てみたのですが、楽しかったです。また来てみたいと思いました。がんばってください
  • [★★★★☆☆] ちょいと元気よすぎる気も・・・
  • [★★★★☆☆] 続編を求む!
  • [★★★★★☆] 少しお茶目な乃絵美ちゃん、こんな感じもいいですね。
  • [★★★★★★] いい意味で 壊れ乃絵美だ(笑
  • [★★★☆☆☆] 前後関係がわからないです... 続きに期待します