いつもとちょっと違う帰り道。
ただ詩織が隣に居るだけでそんな特別な感情に浸れた。
なんだか自分が自分でないようで、
頭は動いていないのに口が勝手に会話を進めているみたいだった。
それがいけなかったんだよ。
俺は不覚にも大通りで人とぶつかってしまった。
まあ向こうもよろめいただけで、こっちの不注意も咎められなかった、
全てはそれで終わったはずなんだ・・・・。


冬も押し迫って俺は受験のことしか考えていなかったのかも知れない。
だから頭の中で詩織の存在が小さくなってたんだ。
もちろん詩織のことは好きだった、だから詩織と同じ道を選ぶことによって
これから先の4年間、また今と変わらない2人で居られるそう思って、
俺はひたすら参考書と睨めっこしていた。全ては君のためだったんだよ。
・・・そんなのって俺の言い訳に過ぎないのかな。


お節介な好雄のヤツから休みくらいは一緒に居ろよって言われたけど、
なんだか君も受験前だったし、会う度に深刻そうな面もちをしてたんで
俺もちょっと誘いにくくて、
たまに一緒に帰って取り留めもない話をするだけだった。
俺はそれ以上を望んでいなかったし、君の負担にもなりたくなかった。
そして冬が終わりに近付いて俺達はかねてからの約束通り同じ大学を受けた。
と言っても君が居なかったらこんな大学には手が届かなかったし、縁もなかった、
君と居る場所を提供する役目を果たしてもらえるように、俺は受けたんだ。
試験は出来た。帰る道すがら俺はハイになっていつも以上に取り留めもないことを
君に話していたと思う。君も俺に微笑んでいてくれた。
俺は2人で居る、そんな時間が好きだった。


その一週間後、まさか君が俺に告白するとは思っていなかったよ。
高校の間さんざん世話になった好雄に、帰る道すがら礼でも言っておこうと
思ったのに、すっぽかして伝説の樹に走ったんだ。
そしたら不安そうな顔をした君が立っていてさ、正直びっくりしたよ。
近くて遠かった君と同じ想いでいれたことは光栄だった。
世界中の誰よりも好きな俺に、詩織の気持ちを悟られ無いように・・・
随分俺達って遠回りしていたんだな、っておかしく思ってちょっと笑ったね。


それから君の部屋にお邪魔して、コーヒーをご馳走になった。
君の部屋で、俺の倍くらいの砂糖を入れる君をからかって、
そこから見える俺の部屋を眺めながら
見慣れた部屋が違って見えることに驚いたり、君がよく俺の部屋を見ていたことを
聞かされてもっと驚いたりしてた、でも、もっと驚かされたのはこの後だったんだ、
「ねぇ、これちょっと見てくれない」
と言って俺に封筒を手渡したね。
その封筒には日本人なら知らない人間はいないであろう、
と言えるような芸能プロダクションの名前が書かれてあった。
「これがどうしたの?」
詩織と全く縁の無さそうな物を手渡されて、
話の見えなかった俺はとっさにそう聞いた。
「中を…見て欲しいの」
いくら告白された相手といえども他の人間宛の郵便物を見るので、
少し戸惑いながらも俺は封筒を中からパンフレットと数枚の紙を出した。
パンフレットを一目見た時点で俺はこの郵便物の意図を知った。
「誰がこれを?」
詩織とこの郵便物を結ぶ糸が図りかねたので、俺はまた彼女に聞いた。
「それが・・・」
と言って彼女は顔を曇らせた。
「私と帰った時のことなんて覚えてないわよね」
「え?」
「あの、3ヶ月くらい前の話なんだけどね、あなたとぶつかった・・・・」
悪いけど詩織と帰ったときのことなんてそうそう忘れられる物ではない、
俺とぶつかった人間が居たことだって当然覚えてるさ。
「その人がどうしたの?」
「それが・・・・」
と言ってますます彼女は表情を曇らせた。
「家まで付けてきたみたいなの」
「えっ!?」
テレビの中でしか聞いたことがないような話に俺は耳を疑った、
でもそれだけではなかったんだ。
「そしてね、家に来て名刺を差し出したの。
最初は悪い冗談だと思ってたんだけどなんだか向こうも必死でね、
今度会社から資料を送るから、それを見て考えてくれって・・・」
信じられない話だ。俺は無関心を装いながら彼女を遠回しに責めた。
「なんでもっと早く俺に教えてくれなかったの」
「だって・・・なんだかあなたは忙しそうだったから・・・」
そう言われると俺は返す言葉が無くなった。
たしかにずっと彼女は悩んでいるようだった、俺も気にはなっていたんだ。
でもそれは俺と同じように目前に迫った大学のことだと思っていたよ。
「それで・・・どうするの」
と聞いてみたものの欲しい答えは決まっていた、「NO」・・・・
「私・・・・受けてみようと思うの」
俺は言葉を無くした、まさか・・・・相談に乗らなかった俺の責任を強く感じた。
「私の力で夢を見てくれる人が居るんなら、がんばってみようかな・・・って」
ここまで単純な理由で詩織を口車に乗せるとは、そのスカウトの人間も余程の
人物なんだろう。たった18歳の俺がかなう相手じゃ無いな・・・。
そう思いながら君が夢について最もらしく語るのを見てたんだ。
聞いては居なかったけどね。


ようやく長い演説を終えた君は俺を見つめてこう言ったね
「でもね、私はあなたが一番大切なの。あなたが私を見つめていてくれないと
何にも出来ない気がする、だから私のことずっと見ていてね」
・・・彼女の訴えるような眼差しに俺は折れ、仕方なく彼女に微笑みで返した。
高校最後の3ヶ月が彼女に与えた大きさを感じながらね。
でも俺達はやっていけると思ったんだ、だってあの伝説のことも有るんだしさ。
それに、他ならぬ、ずっと想い続けてきた彼女なんだから。

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作品情報

作者名 雅昭
タイトル悪意に満ちたSS〜詩織編
サブタイトル第1話
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/悪意に満ちたSS〜詩織編, 藤崎詩織
感想投稿数37
感想投稿最終日時2019年04月09日 22時19分23秒

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