雪の装いを外そうとしている校舎は、かえって白く感じられた。
休みの間に強まった日差しが染めているのか、まだかすかに残る雪が最後の輝きを放っているのか俺には分からなかった。
予鈴が鳴り終えたあとの中庭には、生徒の姿はまばらにしか見ることが出来なかった。
その中に何人か居る、おろし立ての制服に身を包んだ生徒を目にすると新しい学年が始まったと改めて感じる。
が、今日だけは、予鈴が鳴り終えたからと言って教室に駆け込むわけにはいかなかった。
なにせ駆け込む教室を確認しなければならないし、駆け込む先は教室ではなく講堂だ。
中庭に立てられたベニヤ板に、大きく貼り付けられた模造紙。
その中に自分の名前を探す。
「相沢」という頭から数えて5番目までには見つけられる名字に一年で一番ありがたみを覚える瞬間だ。
案の定、すぐに自分のクラスを見つけると、「水瀬」という後半に埋もれていそうな名前を探す作業にかかる。
あいにくと、俺と名雪の名前は同じ紙の上に書かれてはいなかった。
その事実を口にしようか迷っていると、
「残念」
先を越したセリフを隣で聞いた。
「祐一とおんなじクラスになれなかったよ」
「俺も言おうとしてたところだ」
「でも、隣のクラスなら休み時間にはすぐに会えるね」
その言葉に、俺は少し安心した。
「まあ、隣のクラスならな」
「うん、そうだね」
「どっちのクラスだ?」
「さあ」
名雪はいつもの調子で答えた。
「いまから見つけるよ」
「お前なぁ……」
あきれる声を遮るように、本鈴が中庭に響いた。
「わっ、遅刻だ」
「おまえがのんびりしてるからだ」
「走ればまだ間に合うよ」
いつまでも名雪のペースに合わせるわけにはいかず、俺は全速力で名雪の名前を探した。
結局、名雪は俺のクラスの隣の隣の隣。つまり、かなり離れたクラスだった。
退屈な始業式が終わり、クラスで一通りの挨拶をすませると俺達は昇降口で落ち合った。
浮かない顔で歩いてきた名雪は俺を見るなり、
「やっぱり隣に祐一がいないと、なんか変だよ」
と言った。
俺はわざとらしい声で
「俺はようやく、隣で寝ている生徒を起こす役目から解放されたってわけか」
とため息を織り交ぜながら演じた。
名雪と同じ気持ちだと悟られるのが照れくさかった。
「いじわる」
俺の言葉に拗ねた表情を見せる名雪に
「まあ、慣れるまでの辛抱だな」
というフォローを入れると
「うん」
名雪はまだうかない顔で頷いた。
「まだなにかあるのか?」
俺が訊ねると
「香里とも同じクラスじゃなかった」
さらにうかない顔をした。
「俺は北川とまた同じクラスだったけどな。
しかし、学食チームがこんなあっさりと解散するなんて、俺達は非力だな」
茶化したつもりの俺の言葉に、名雪は少しも笑みを浮かべなかった。俺は、深く息を吐き出して
「じゃあ、中庭に行ってもう一度見るか」
と誘い、名雪を外に連れ出した。
外の空気はまだ皮膚を冷たく刺す力を持っていたけれど、日差しに邪魔をされて、風の流れを楽しむ余裕さえ俺達に与えていた。
中庭は、俺達と同じようにクラス編成表を見直す生徒で、朝よりも賑わっていた。
俺と名雪は3年生の掲示の前に立った。
「『美坂香里』で良いんだよな」
既に探し始めている名雪は俺に「うん」とだけ返事をして真剣な眼差しで紙の上に視線を走らせていた。
俺も模造紙を眺めた。「美坂」という名字はそう多くないはずなので、すぐに見つかると高を括っていた。
しかし、俺は見つけることが出来なかった。
名雪は何度も何度も同じ紙の上に視線を泳がせている。どうやら、俺と同じようだった。
「どうして……」
名雪も言い出すことをためらっているようだった。しかし、その一言は俺達が同じ疑問を持っていることをはっきりと分からせてしまった。
「わたし、職員室に行ってくる」
予想を越えた行動をとろうとする名雪の袖をつかみ、俺は静かに諭した
「あのな、これはどう考えても間違いだろ。職員室で騒ぐようなことじゃないし、あとで香里に電話すりゃ分かることじゃないか」
「うー」
そう言いながらも名雪は諦めたらしく、腕に入れる力を弱めた。
正直な話、職員室の雰囲気がどうも苦手な俺は、行かずに済んでほっとした。
少し気が抜けたせいか、俺は空腹を覚えた。考えてみれば、俺達は朝飯もあまり食べてこなかったのだ。
「そろそろ家に帰るか。秋子さんも昼ご飯を用意してくれてるだろうし」
俺が誘うと名雪は、納得しない顔のまま、さらに二度ほど三年生分の編成表を往復するまで待たせてから家路についた。
家に帰り秋子さんの柔らかな笑顔に迎えられると、名雪は少し表情を和らげたように見えた。
不機嫌そうな名雪に理由を尋ねた秋子さんは
「慣れるまで仕方がないわね」
と穏やかに言い、台所へと戻っていった。慣れたやりとりを見て、やはり名雪に関しては秋子さんにかなわないなと思った。
湯気を立てているミートソーススパゲッティを平らげると、俺はソファに腰掛けた。
食事を終えた名雪もリビングにやってきて、電話の子機を手に取り何も見ずに7回キーをタッチした。
名雪が持つ受話器から漏れる呼び出し音を20回以上聞き、もう一度ダイヤルしてから10回の呼び出し音を聞いたとき、名雪が子機を戻した。
リビングは急に静かになり秋子さんが皿を洗う音だけが俺の耳に入っていた。
「留守みたいだな」
俺は沈黙に耐えかねて、分かり切ったことを口にした。名雪は黙って俯いた。
「遊びに行ってるかも知れないだろ。せっかく授業がない春休みの延長なんだし」
俺の言葉に、名雪はまだ応えなかった。
「あ〜あ」
俺は少し大げさに声をあげて
「教師のミスなんかで名雪が落ち込むことはないだろ。
せっかく、今日は名雪に桜のきれいな所に案内してもらおうと思ってたのに残念だ」
部屋の空気を変えようとした半ば強引な誘いをした。
名雪はしばらく黙っていたが、ようやく理解したのか、
「職員室に確かめに行かせなかったのは祐一だよ」
いつも拗ねた時にするような表情をした。そうしてから、名雪はコートを取りに階段を上っていった。
正直言って、この街のあちらこちらに桜が花を咲かせているなんて驚きだった。
夏に来たことはあったはずだが、この街は雪を身にまとったままじっと佇んでいる姿が一番似合っていると思っていたからだ。しかし、装いを春にしたこの街も薄紅色に恥じらうようで似つかわしいものに思えた。
「本当に春が来るなんてな」
俺は街を見下ろす丘の上で呟いた。
吹き付ける風に髪をおさえながら名雪は
「あたりまえだよ、春に花を咲かせるからあっちこっちに桜の樹が立ってるんでしょ」
と言った。
確かに、枯れた姿を見せるだけじゃ悲しいよな、と名雪の当たり前な言葉をかみしめた。
「名雪は春は好きか?」
俺が訊ねると、間髪を入れずに答えた。
「うん、冬も好きだけど春も好きだよ」
「イチゴも採れるしな」
「うんっ」
笑いながら名雪は付け加えた
「もうちょっと先だけどね」
「そうか。春が続けばイチゴの季節だよな」
俺は自分の言ったことを繰り返すように呟いた。
「祐一は当たり前のこと言ってるよ。冬が終われば春が来て夏になっていくんだから」
俺は名雪に説明しなければならなかった
「俺が育った所は、入学式の頃なんか桜が散り始めてたんだよ」
名雪は「へえ」という顔で俺を見た
「七部咲きの頃なんて『三寒四温』だとか『小春日和』だとか言ってもあんまり文句は言われなかったしな。
だいたい、小学校の朝礼でこのネタがなんど出たことか」
「小春日和」が冬に使われる言葉だと知っているのか、名雪は少し複雑な表情をした。
「だから、実はあんまりピンと来ない。桜が散らないのに進級してたり、イチゴの季節がもうじきだとか」
名雪はしばらく首を傾げてから
「祐一って春は好きなの?」
と訊いてきた。
「寒くなくなるのはありがたい」
「それなら、ここは待っている時間が長くなる分だけ、春を楽しみに出来るんだよ」
名雪は笑いながら一人で頷いていた。
「そうだな」
俺は名雪に向き直って言った。
「寒かったりあったかいのを繰り返したって、春になっていくんだもんな」
「うん、ふぁいとっ、だよ」
そして二人で、もう一度桜の咲く街を眺めた。
家に帰ると、玄関先に迎えた秋子さんが名雪に伝言を伝えた。
「美坂さんから電話を頂いたわよ。香里ちゃんじゃなくてお母さんから」
俺は、その言葉を聞き終えて、はじめて秋子さんが浮かない顔をしていることに気づいた。
「なにかあったんですか」
秋子さんは俺の問いかけにあいまいな表情を浮かべるだけだった。
せっかくいつもの様子に戻っていた名雪は「香里」という言葉にピクリと反応した。
「香里のお母さんから?」
俺は遅すぎる反応に突っ込む気になれなかった。
俺の中の小さな予感と言うものが名雪がなにか感じていることを知らせている。そんな気分になった。
そして、それが何かと分からないことに、もどかしさがつのった。
「なんて言ってたの」
先を促す名雪の言葉に、秋子さんはさらに表情を暗いものにしてこう告げた。
「香里ちゃんね、病気で入院しているそうよ」
俺は結び付けてはならない二つの符号がぎこちなく合わさろうとする音を心の中で聞いた。
名雪は心の底から心配そうな声で
「あした、お見舞いに行くよ」
と、俺を見ながら言った。その顔は親友でありながら何も知らなかったことで自分を責める表情を浮かべていた。
俺は、名雪に頷くと秋子さんは
「そうね、そうしても良いんじゃないかしら」
と言って台所へ戻って行った。
秋子さんの居なくなった玄関に立ちながら俺は、電話の内容を直接伝えた言葉が一言も無いことに気付いた。
全て、秋子さんの言葉だということに。
だけど、俺はそのことを名雪には話さないでおくことにした。
『美坂香里』
彼女の名札を下げた病室のドアノブを回したのは俺だった。
埃のにおいを感じさせない静かな部屋で、白いベッドにじっと目を閉じて横たわる姿があった。しかし、その姿はずっとやつれていて、言われなければ本人だと気が付かなくても不思議ではないように思われた。
「香里」
俺が呼ぶことをためらっていた名前を名雪が口にした。しかし、ベッドの上からは何の返事も無かった。
蛍光燈の音が聞こえるような沈黙に耐えかねたように、名雪は俺から透明なビニールの手提げを受け取ると枕元の棚にそれを置いた。
「お見舞いだよ」
手提げの中は庭に有るプランターから鉢に移した一株の紫色をしたパンジーだった。
「はやく元気になろうね」
そう声を掛ける名雪を見守る俺は、ドアの向こうに人の気配を感じた。
ドアを開けた俺は、その人を初めて会うはずの香里の母親だとすぐに分かった。
俺と名雪は、高台に登って街を眺めていた。
昨日に来たばかりのこの場所からは桜が街のあちらこちらに咲く景色が相変わらず良く見えた。風は昨日よりも強く、少し暖かかった。
そして、その全てが白々しく感じられた。
名雪は病院からここまで、ずっと無言だった。
無理も無かった。親友でありながら何も知らなかっただけでなく、何も出来なかったことが名雪の心に重くのしかかっているようだった。焦点の定まらない視線で、町を眺めていた。
俺は口にする言葉を知らなかった。
娘のあんな姿を見られてしまいながらもやさしく俺達に見舞いの礼を述べた香里の母親。
その言葉を沈痛な面持ちで聞く名雪。
病室に戻ると、床には割れたパンジーの鉢植えがあった。病室を出る間際にはじめて見た香里の瞳は、全てを拒んだ時の名雪のそれと同じだった。
俺は、いますぐ雪が降ってくれることを望んだ。
からからに乾いた、冷たい雪だ。
薄紅色した桜なんて俺達を道化にしか飾らないだろう。
一人の友人の力になれなかった道化に。
桜の花びらを乗せた風がふもとから吹き上げて来て、俺の前髪を目の前で踊らせて去って行った。
目の前が煩わしく、すぐにかきあげようとした俺は、手を止めた。名雪の瞳からは涙が流れていたからだ。
止めた手を名雪の肩に回し、そっと寄せた。今の俺にはこうすることしか出来ないと思った。
そのまましばらくお互いの肩から温もりを感じあっていると、俺は
「香里を助けてあげて」
という名雪の声を聞いた。
俺は返事をせず、ただ名雪の肩にまわした指先に少し力を入れた。名雪に映る香里の心の傷口から、俺にも痛みが流れ込んできた気がしたからだ。
「香里が笑ってないと、私も笑える自信が無いよ」
優しい名雪がそう言うのは良く分かる気がした。
俺は友達である香里の姿に痛みを覚えると同時に、名雪の姿にも痛みを覚えていた。
俺が笑顔を守らなければならない人は、優しい分だけ感じる痛みが大きい。
俺は支えになりたいと願い、約束をした人は悲しみにくれていた。だから俺は頷いた。だけど、一言だけ付け加えた。
「俺に奇跡は起こせないけどな」
指先に感じる名雪の体から少しだけ力が抜け、
「うん、助けてあげて」
小さな声で言った言葉を聞いた。
赤黒い夕焼けに染まる病室は相変わらず音を感じさせなかった。
学校帰りの制服姿で、俺達は香里に何度も返事の無い言葉を話し掛けて音を作ろうとした。
その後ろでは香里の母親が静かに目を伏せていた。
窓から入る光の具合か、香里の顔に刻まれた影は昨日よりも深いように見えた。
成す術も無く病院を後にする二人を、春の湿り気を帯びた風が迎えた。俺は、どうってことの無い風にコートの襟を立てた。
そんな日が三回繰り返された。
俺はただぼんやりと自分の部屋のベッドに座り、雑誌を眺めていた。
このところ毎日感じる脱力感に苛まれないためにはこうやって紛らわせる他に方法は無かった。
静寂に部屋を明け渡さないためにつけたままにしているラジオからは、音楽が受け止める人間全てに平等なリズムで流れていた。
今日で何度目になるか、俺は番組の境目を耳にした。
名雪はもう寝ている時間だろう。俺は雑誌をとじてラジオのボリュームを絞った。
その時、ドアをノックする音して
「祐一さん、起きていますか」
という秋子さんの声が聞こえた。
部屋に入った秋子さんは、ラジオを止めようとする俺をやんわりと制して、フローリングの床に腰を下ろした。
「今日も美坂さんのところに行ってきたんでしょう」
秋子さんは俺に対しては「香里ちゃん」とは言わなかった。
「ええ、まあ」
そう答える俺に、目を閉じながら頷いて
「どうでした」
と訊ねた。俺はなんと答えたら良いか分からなかった。
「名雪もいつかは知らなければいけないことですが、祐一さんには先にお話しておこうと思います」
秋子さんは、ひざの上にのせた手のひらを握り締めて続けた。
「美坂さんは、この間、妹さんを亡くしたんです」
俺は声を出すことが出来なかった。
香里に妹が居たことも、そして、香里が受けた悲しみの理由も始めて知ったことだった。
香里や香里の母親が受け止めている悲しみと苦しみなど、俺の想像できる範囲を3つ合わせてもまだ足りないだろう。俺はそれをまともに感じとることさえ出来なかったのだ。
「お話はそれだけです」
ぱたんとドアの閉まる音がどこか遠い世界のもののように聞こえた。
ぼんやりと見上げる天井が遠いものに見えた。
俺はどうしようもなく大きな壁が目の前に聳え立つ気分を感じていた。
俺は一体何が出来るんだろう。
答えは簡単だった。
何も出来やしない。俺は名雪の笑顔を守ることも、香里の力にもなれない。
冬ならば、こんな気分は冷たい空気に凍らせることができた。が、冬が終わろうとする今、どうすれば良いのか分からなかった。だから俺は冬と同じように、冷たい空気に包まれるために、ベランダの扉を開けた。
もう沈んでしまったのか月の姿は見えなかった。
俺は弱い光の中で、ぼんやりとした街灯に照らされる姿を見つけた。名雪だった。
ぼんやりと空を見上げながら。風に髪をなびかせながら。名雪はじっとたたずんでいた。
「まだ起きてたのか」
俺は名雪に歩み寄った。名雪はそのままじっと動こうとしなかった。
「祐一の言う通りだよ」
空を向きながら名雪は言った。
「祐一の言う通りまだ春じゃないよ」
「なら、早く部屋に戻れ。風邪ひくぞ」
自分のことを棚に上げて俺はそう言った。
名雪は動こうとしなかった。肩に手を掛けると、名雪の言葉を証明するかのような冷たさを手先に感じた。
「祐一」
名雪は俺の名前を呼んだ。
「香里はわたしとおんなじだよ。
この間のわたしみたいだよ。
だから……だから裕一しか助けてあげられないんだよ」
俺は名雪に伸ばした手を引っ込めてしまった。
見透かしたような名雪の言葉に、俺の胸はちくりとした痛みを感じた。
「名雪、俺はな。奇跡を起こせないんだ」
ゴメンな……。そう続けようとした俺は名雪に抱きしめられ、声を出すことをやめた。
名雪の冷えた体が、少しずつ暖かくなってゆくことを感じていた。
「わたしはなんにも出来ないんだよ」
俺の胸の中で名雪は声を出した。
「だんだん元気じゃなくなる香里に、なんにも出来なかった」
最後の方は小さくて少し聞き取りにくかった。
俺は名雪の髪をそっとなでた。名雪は腕に込める力をさらに強くした。そして消え入りそうな声で言った。
「悲しいことがあったんだよね」
さすがに名雪も感づいているようだった。
なにを知っているのかは聞かないでおくことにした。
風がそっと吹きぬけ、パジャマの表面からすっと熱を奪っていった。
「中学に入って初めての教室で、香里はわたしの前の席だったんだ。席順が出席番号順だったからだけど。
それから仲良くなって、高校もおんなじ所に来れて、ずっと一緒に仲良くしてきたのに」
名雪の言葉はゆっくりと風に溶けていくようだった。最後の言葉は本当に溶かしてしまったのだろう。
そして、こう繰り返した。
「香里を助けてあげて」
薄闇に慣れた目にはいくつかの星が見えた。
小さくて、見失ってしまいそうな星があった。
俺は小さな星から目を離しながら
「ああ」
と頷いた。
俺は一人で病室に入った。
相変わらず静かだった。今日は香里の母親が来ていないようだった。
俺は少しほっとした。香里の母親にどんな顔で会えばよいのか分からなかったからだ。
ベッドの脇に備えられた点滴から白い液体が香里のからだの中に入っていっていた。
「今日も来たのね」
青白い香里の、色を失いかけている唇から、俺は久しぶりに香里の声を聞いた。香里は薄く目を開いていた。
「名雪は後から来るけどな」
俺のこの言葉への反応は良く分からなかった。
「俺と差し向かいは嫌なら、外で待っていようか」
その言葉にイエスかノーかの反応も無かった。
俺が考えあぐねていても、そのまま香里は何も変化を見せなかった。
結局、名雪が来てからも香里は光の無い瞳でどこかを見つめつづけているだけだった。
名雪の肩を抱きながら、病院の出口に向かう廊下で香里の母親とすれ違った。軽く会釈をしたその顔は、崩れた化粧の上にまた化粧を施していたが、腫れた目元を完全には覆いきれていなかった。
次の日も、香里は白い液体をからだに注ぎ入れているところだった。
俺はまた一人だった。
病室の床が照り返す夕焼けだけが、この部屋に色を添えていた。
「あしたもまた来るの」
香里は目を閉じたまま抑揚の無い声を出した。俺はそれに肯定の答えを返した。
「もう来ないで」
抑揚の無い声ははっきりとそう告げた。
「来るさ」
「みじめよ」
誰が、とは言わなかった。恐らく、香里と俺達両方のことだろう。
「でも来るさ」
「あたしなんかに構わないで」
イントネーションの無い声の底に感じる強い力に、俺はしばらく言葉を失った。
「必ず来るさ」
踏みとどまるような力で、俺は声を絞り出した。
「あたしには心配される権利なんて無いから」
俺はすぐさま首を振った。しかし、香里はなおも続けた。
「あたしには生きている資格もないもの」
突然、空気の固まりを口の中にねじ込まれたような衝撃を感じた。
部屋は少し薄暗くなっていた。
香里のからだに流し込む液体が残りわずかになる頃まで、俺は言葉を持てなかった。
「俺も名雪も、全然そう思ってないさ。香里が居なくなったら悲しい」
ようやく言った俺の言葉に、
「悲しむだけで止められたら、精一杯悲しんだわよ」
少しだけ抑揚を押さえ切れない声を出した。
それからやってきた名雪の、香里の前で演じるいつもの名雪が、俺に強い痛みを連れてきた。
その日は香里の母親には会わなかった。
自分の言葉通り、俺はまた病室に居た。
香里の動きは、わずかに上下する胸が、呼吸を意味しているだけだった。
やがて、病室が染まり始めると香里はようやく口を開いた。
「なかなか死ねないものね」
点滴はまだ半分ほど残っていた。
「つまらない話をしても良い?」
俺が「ああ」と答えると、香里は病室内の空気に染み渡らせるように静かな声で話し始めた。
「アイスが大好きな女の子がいたわ。
良く笑って、良く拗ねて。
冬に産まれたからか雪が好きで。
絵が下手なのに、描こうとしては困らせて」
「あたしはその子が大好きだった」
「でもね、その子は次の冬が終わると居なくなってしまうことが分かるの。
春になると雪が溶けて無くなるように、その子も」
「だから私は、季節のが遅くなって欲しかった。
その子の願いは、春になるとあたしと同じ制服で同じ高校に通うこと。
だけどそれはたった一度しか叶えられなかったの。
そして、毎年繰り返すように季節は夏になって秋が来て、その子は夏が終わってもアイスを食べたがってた」
「あたしはそれを見ていられなかった」
「そして」
香里は深く息を吸い込んだ。
「あたしはその子を殺したの」
俺はもやもやした結晶がみぞおちにのし掛かるような声を聞いた。
「そんな子は最初から居なかったって、あたしの心の中から消したの。
あの子を見ても知らないふりをして、一言も声を掛けないで。
あの子にそうするたびにあたしは心の中で責められ続けてた。
でもあの時、本当にその子は」
「手首を切ったの」
「カッターナイフと一緒にいっぱい買い物をして、自分の部屋に入って、その夜に。
あの子に手首を切らせたのはあたしのせいよ」
「あの子はそれで死ななかったわ。
だけど結局、それから一月経って、誕生日を迎えるとすぐに、あの子は居なくなったの」
「あの子はあたしにこう言ったの。
『お姉ちゃん、ゴメンね』って、涙を見せないで少し笑ったまま。
あの子は最期まで姉と認めてくれたわ」
「だけどあたしは……あたしは逃げてたの。
どうせお別れするなら、悲しいことになるなら妹なんて居なかったら良かったと、ずっと逃げてた。
姉の資格なんてとっくに無いわ。
もちろん、このまま生きている資格もないわよ。
あの子が死んで私が生きているなんて不公平じゃないの。
だから私はあの子のカッターナイフで、手首を切ったの」
淡々と話す香里の口調とはうらはらに、俺は言葉の重みに耐えかねていた。
「やっぱり不公平よ。簡単には死ねないのに、あの子は居なくなっちゃうなんて」
香里の涙を見るのはこれが初めてだった。
「だから、私には人に心配して貰う権利なんて無いことが分かったでしょ」
震える声だった。声を失ったまま、俺は香里に近づいた。
「近づかないで」
鋭い声が病室に響いた。
俺はその声を無視して香里の側に寄り、彼女の右手を握りしめた。
冷たかった。
そのまましばらく、俺は香里の手のひらを暖めた。
「あたしはあの子の手を握ってあげることも出来なかったわ。溶けてしまいそうで、怖くて」
「香里は溶けないよな」
香里の肩から力が抜けてゆくのが分かった。そっと香里がうつむく。俺の手の甲に涙が一雫だけ落ちた。
その日は香里の点滴が終わるまで病室にいた。
次の日、名雪と一緒に病院から帰り夕食を終えた俺は、夜風に当たろうとベランダに出た。
街の灯かりはあいかわらずぼんやりと夜空を照らしていた。
肌を刺す冷たさを感じることが出来ないまま、静かに体を夜になじませていると、家の前に人影を感じた。
普段なら見過ごすその人影に俺はある予感を持ち、玄関を出た。
家の前には北川が立っていた。
俺達はそのまま夜の街を歩き始めた。街外れの並木道に差し掛かると、北川はようやく口を開いた。
「香里はまだ来れないのか?」
俺は否定する答えを持たなかった。
香里は学校に来られそうも無く、なにしろ香里の名前が名簿に無かったのは偶然の過失ではないことが俺の中ではほとんど確信としてあった。
俺はそれを必要な分だけ手短に話した。
「そうか」
北川は話の内容を飲み込むためにしばらく黙っていた。そして
「もし来れそうなら、心当たりがあるぜ。
なんとかなるかもしれない。
でも、確かな話じゃないから言い出しにくかったんだけどな」
俺は、その言葉も有り難かったが、北川も香里のことを心配していたことで十分嬉しかった。
しかし、その希望も翌日にはあえなくつぶれた。放課後に北川が力無く俺に言った「交渉決裂」の言葉に俺も肩を落とした。
その日はそれだけで病院に向かった。
俺は名雪と一緒に病室に入った。
香里は点滴をしていなかった。
白い液体を注ぎ入れていないせいなのか、香里の顔には血が通っていることがはっきり分かった。眠ってはいないようだった。
「香里」
名雪が声を掛けると、香里はうっすらと目を開いた。俺は香里の側に行くと行くとこう言った。
「行くぞ」
名雪も香里も驚いた顔で俺を見た。
それに構わず、俺は白い布団を取り上げた。香里は無表情なパジャマを着ていた。
俺は自分のシャツを渡し、名雪の手からコートをひったくるようにして取ると、病室から出てドアを閉じた。
再びドアが開かれると、困ったような顔の名雪とちぐはぐな服をまとった香里が居た。
「香里、首が寒そうだよ」
名雪が言うと、香里は黙って枕の下から折り畳まれたショールを取り出し、音を立てずに羽織った。
俺は二人を伴って、こっそりと病院を後にした。
弱い風に吹かれながら、弱々しい足取りの香里を二人で支えて歩いた。
そして、夕日が山に差し掛かろうとする頃、俺達は学校の前に立っていた。
「香里」
俺はずっと無言だった香里に呼びかけた。
「香里は学校に戻るつもりはないのか」
香里はうつむいたまま顔を背けた。
「そうか」
ここに来て、名雪は意味をようやく理解したらしく、香里の答になにも逆らおうとしない俺にかわって言った。
「香里もまた一緒に通おうよ。
香里がいなきゃ朝だってお昼ご飯だってつまらないし、ずっとさみしいよ、ね」
香里は顔を正面に戻しながら言った。
「不公平よ」
俺には、その言葉の意味が分かった。
「それに、学校だって辞めてしまってるもの」
香里の視線は、長い影が伸びて行く先の地面に注がれていた。
俺は話を変えることにした。
「外の空気はどうだ」
「良いわ」
そのままの視線で
「病院の13倍はね」
分からない基準を持ち出して答えた。
「また今度出られるか?」
香里はショールの裾を押さえながら頷いた。
「じゃあ、そうするか」
そう言って俺は名雪の方を見た。名雪は俺に微笑んでくれた。
「香里のためならいつでも裕一を貸すよ」
本当に嬉しさを含んだ名雪の笑顔を見るのは、久しぶりな気がした。
香里を病院に送って行くと、もうすっかり夜だった。
肩をならべて歩く俺に、名雪はたずねてきた。
「本当に香里は学校に戻ってこれるの?」
当然の疑問だった。
実のところそれは俺にとっても疑問だった。だから俺は答えをはぐらかした。
名雪はそれを察してしまったのか
「香里が戻ってくれたら嬉しいよ」
俺は、名雪が知らないはずの話を訊ねてこなかったことに安堵した。
昼休み、俺は北川と学食へ行った。昨日の話を詳しく聞くためだった。
「俺も良くは知らなかったんだけどな」
B定食を前にして北川は話し始めた。
「去年、卒業した先輩で生徒会に発言力のある人が居たらしいんだ。その人が何か良い知恵を持ってないかと思っただけさ」
「良い知恵って、あのなあ」
俺は雲をつかむような話に、自分の箸を止めた。
香里が学校に戻ることがとても遠くになってしまった気がした。
「で、昨日の昼休み、会いに行ったわけだ」
終わらなかった北川の話に、俺はその行動力に驚いたという素直な感想を口にした。
「まあ、暇だからな」
そう言って、北川は続けた。
「で、会ったけど、どうも関わりたくないらしくて交渉は決裂」
「まあ、当然だな」
と、転入から半年もたっていない新入りでありながら生徒会の強さを徐々に知り始めていた俺は、ここは納得するしかないところだった。
「あとは……そうだな、教師に直接掛け合ってみるかな。地道に」
北川の言うことももっともだった。
しかし、問題が問題なだけに長く延ばすことも出来ず、それでも、この細い綱しか頼みの綱は無いように思われた。
俺は、考えながら格闘していたアジフライを片づけると、北川に放課後に案内を頼んだ。
両脇に観葉植物が植えられている門を閉じて、インターフォンを鳴らすとすぐに返事があった。どうやら在宅らしい。
俺達を迎えたのは、長いストレートヘアをきちんとまとめた、清潔感のただよう女性だった。
俺はその人に会ったことのあるような気がした。
そして、来客に北川の姿を認めると困った表情を浮かべた。
「昨日のお話でしたら、困ります」
胸の前で両手の指を絡ませながら、彼女は照れ笑いに似た表情をした。
俺達はいきなり言葉に詰まった。
言い出す言葉を探していると、玄関の奥にもう一人の女性が現れた。
額に包帯を巻き、右の二の腕も不自然な盛り上がり方をしている彼女は無表情に
「誰」
とだけ俺達の前の女性に訊ねた。
今度は完全に会った記憶が有る人であった。転校したての頃に夜の校舎で出会った生徒だ。
「ええと、高校の方たちで北川さんと、えっと」
無作法にも、俺はまだ名乗っていないことに気づいた。
「相沢です。相沢裕一」
俺は彼女の前で初めて言葉を口にした。
「あ、はい。相沢さん。えっと、佐祐理です、倉田佐祐理。向こうは川澄舞です。どうぞよろしく」
俺は佐祐理と名乗った女性につられて頭を下げた。
「知ってます」
相手は「えっ」という顔をした。
どうやら覚えていないようだった。少なくとも表情の読むことが出来る倉田さんは。
「どこかでお会いしましたっけ?」
再び照れ笑いのような表情を浮かべながら倉田さんは訊ねてきた。この表情は困っている時のものらしい。
「三学期の頭に」
北川は意外そうな顔を一瞬見せた。
相手は納得したかしていないか分からない表情で「そうですか」とだけ呟いた。
「それで、話の続きですけど」
俺が言葉に気を付けて話し始めると、それを遮って
「すいません、佐祐理じゃお力になれそうもないです」
すいません。もういちど繰り返した。
俺達が返せる言葉はなかった。
少なくとも、俺達の都合で倉田さんの手を煩わせることに申し訳なさを感じさせる表情だった。
「すいませんでした」
今度は俺がそう言い、倉田さんに頭を軽く下げた。
舞という女性はそのやりとりを静かに見ているだけだった。
門を閉じて、道路に出ると二人同時に深く息をついた。
「やっぱり駄目か」
俺のセリフは、何も言い出せなかった自分への言い訳でもあった。
「しょうがない、直接学校に掛け合うか」
北川は歩き始めた。
俺はその後を追った。俺は、何が北川をこうも動かすのか不思議だった。
考えてみれば、倉田さんにたどり着くまでにもかなりの手順を踏んだはずだった。
俺はその疑問を口にした。
北川は少し考えてから
「まあ、暇だからな」
昼休みと同じ答えを返した。俺はそれ以上なにも聞かなかった。
曲がり角で北川と別れ、俺はいつもの道を病院へと歩いた。
今日は名雪が先に来ていた。夕日の照り返しを受けながら、名雪は笑顔で香里に話し掛けていた。
これが病院でなく教室なら。
ベッドではなく机なら。
それは放課後に幾度と無く繰り返された、友達同士の風景に違いなかった。
そしてもう一つ、香里に笑顔が戻っていたならば。
俺はその風景を取り戻したいと思った。
「あ、祐一」
名雪は、教室の隅で黙っている生徒に明るく声を掛けるように俺に話してきた。
「あさってに決まったよ」
「は?」
唐突な言葉に俺は戸惑った。
「香里が外に出る日だよ」
「誰と?」
「祐一と」
「どこに?」
「外に」
「誰が?」
「香里が」
「誰と?」
香里は俺達のやり取りに口元をほんの少しだけゆるめた気がした。
名雪は朝錬で珍しく早起きして行ってしまった。
一人で登校途中だった俺は、見知った顔に出会って声を掛けた。倉田さんだった。舞と紹介された女性も一緒だった。
俺が挨拶すると、倉田さんは昨日に見せなかった笑顔で
「おはようございます」
と気持ちの良い声で応えてくれた。しかし、
「ええっと、お名前は……」
名前までは覚えてはいないようだった。
「祐一」
俺が答える前に、後ろにいた舞という人が俺の名前を口にした。
すこし……いやかなり意外だった。
「ああ、そうでした。祐一さん、じゃなくって相沢さん」
「祐一で構いません」
「じゃあこちらも佐祐理で構いません」
それはさすがに出来ないので、俺は佐祐理さんと呼ぶことにした。
「これから学校ですか」
佐祐理さんは、三年間繰り返したその行為を懐かしむような口調でそう訊ねた。もちろん、答えは言うまでもなかった。
「佐祐理さんも学校ですか」
俺は返事の代わりにきいた。佐祐理さんは挨拶の時にした元気な声で
「はい、学校に行ってアルバイトもあるんです」
と、答えた。俺はその隣にいる方に視線を移した。それに気付いたのか
「舞はお見送りです」
佐祐理さんが付け加えた。
「俺は学校のあと病院だ」
「そうですか」
佐祐理さんの気を引かせるようにした答はあっさりと流されてしまったようなので少しがっかりした。
しかし、
「佐祐理は病院が嫌いです」
気を引かなかったわけではなく、言葉を飲み込んでいただけだと分かった。
「嫌なことでもあったんですか」
佐祐理さんに対する口調が一致しないのは、育ちの差かなと思いつつ、俺は敬語でそう訊ねた。
佐祐理さんは笑みを絶やさないまま静かに答えた。
「悲しい想い出があるんです」
俺はその先をきかないことにした。佐祐理さんは
「祐一さんはどこかお悪いんですか」
また明るい声でしかし、場違いと感じさせずに会話を続けてきた。
「頭と顔と性格」
俺は即答した。佐祐理さんは一瞬の間を置いて
「ふぇー」
素直に驚いた反応をした。
俺はすぐに、「納得されたら困るんですけど」と釘をさした。それから
「ただのお見舞いですよ」
本当の目的を告げた。佐祐理さんは
「入院なさってるんですか」
と訊ねてきたので、俺は「ええ」とだけ返事をした。
佐祐理さんはその続きを聞いてこなかった。しかし、俺は無性に先を話したくなり、話をつづけた。
「そいつも病院には悲しい想い出があるはずなんです」
佐祐理さんの顔を確かめずに、それから俺は一気に喋った。
「悲しさに耐え切れずに、全てを拒んで、自分が生きていることさえ捨てようとして、出来なくて。
そしてそのままで、ずっとそのままなんです」
あまり話したことも無い佐祐理さんに何故こんなことを話しているのか、自分自身でも不思議だった。
佐祐理さんは黙って聞いていたが、話が終わると訊ねてきた。
「祐一さんはどうしてそのお友達のお見舞いに行くんですか?」
「分かりません」
そう答えてから俺は少し間を置いて
「最初のうちは、なんとかしてあげなきゃいけないと思っていたけど、でも最近は違う気がするんです」
不格好な敬語を使った話を気にするでもなく、佐祐理さんは静かに先を待っていた。
「自分が笑っていられるのは、自分の周りが笑っていてくれているからだ、って最近は思うようになってきました。
だから、自分のためかも知れません」
佐祐理さんは黙っていた。俺は少し話しすぎたことを後悔して
「なにか間違えたことを言いましたか?」
と訊ねた。佐祐理さんは、照れ笑いのような表情を一瞬浮かべて
「いいえ」
と答えた。
「祐一さんはすごいな、って思ってただけです」
佐祐理さんは胸の前で両手の指を絡ませた。
「そのお気持ちは良く分かる気がします。本当に良く分かります」
その言葉は押し付けがましくなく俺に届いた。
佐祐理さんは、絡ませた指を胸に押し付け息をはいて、そして
「お友達を大切にしてあげてください」
半分内側にこもった声で言った。
「分かりました」
分かりきった事に改めて心を動かされながら俺は返事をした。
「ところで」
「はい?」と佐祐理さんはこちらを見た。
「道はこっちで良いんですか?」
駅に向かう道はとっくに通りすぎていた。
「あははははーっ」
佐祐理さんは本当に照れを隠している表情で笑った。
「お話に夢中になっていてつい忘れていました」
「なら、ここで別れましょうか」
俺の言葉に佐祐理さんは笑顔のまま
「ご迷惑でなければ学校までご一緒しても良いでしょうか、佐祐理も久しぶりに高校生の頃みたいに学校に行きたくなりました」
俺は二つ返事で承諾した。
ただ、一つだけ条件を付け加えてから。
「遅刻コースでよければ」
佐祐理さんは笑いながら「はい」と頷いた。
「佐祐理も遅刻ですから」
俺は辺りを見回してからもう一つの疑問を口にした。
「そういえば、もう一人の姿が見えませんけど」
佐祐理さんも辺りを見回した。数秒後
「あ、あんな所に」
と、佐祐理さんが指した場所は二つ前の電柱の影だった。
俺達が戻ろうとすると、舞という人も歩いてきて、お互いがちょうど電柱1つ分だけ歩いた。
「もう、舞、どこ行っちゃったかと思った」
そう言う佐祐理さんに
「悲しいお話するから」
と応える姿がそこにあった。
なんだか舞という人も憎めない性格だと思うと同時に、佐祐理さんが舞に悲しいお話をしたことがあることがなんとなく分かった。
「あ、ゴメンね、もうしないから」
なだめる佐祐理さんの笑顔は、悲しい話など微塵も感じさせなかった。
校門まであとわずかの道のりを三人で歩き、別れる間際に佐祐理さんは俺にこう言った。
「お友達は大切にしてくださいね」
俺は頷いて、二人に別れを告げた。
昇降口の手前で振り替えると、二人はまだ俺を見送ってくれていた。
昼休み、交渉の成果を訊ねた俺に、北川は
「分からないな」
とだけ答えた。佐祐理さん達と会ったことは話さなかった。
翌日の放課後、俺は一人で香里の病室に入った。
香里はパジャマではなかった。
久しぶりに見る香里の母親は、大きなボストンバッグの脇で静かに座っていた。
少なくとも、香里を連れ出すことを引き留めはしないようだった。
俺がベッドに近づくと、香里の母親は軽く会釈した。その顔にされた化粧が乾いていたことに俺は少し安心した。
そして俺は香里がショールを肩に掛けるまで待つと、一緒に病院を出た。
香里からは、ほんの少しだけラベンダーの香りがした。俺は、気持ちを落ち着かせるコロンでもつけているのだと思った。
日はまだ高かった。
ふんわりとした空気に包まれ俺達は街に続く道を歩いた。百花屋で待つ、名雪のところに行くつもりだった。
途中の曲がり角で香里は足を止めた。
どうやら違う方向に向かいたいらしかった。俺は何もきかずにその方向に足を向けた。
そういうことを数回繰り返すと、俺達は噴水のある割と大きな公園に着いた。
噴水の脇に腰を下ろすと香里は
「静かね」
と、ようやく口を開いた。
香里の言う通り、静寂の支配する病室より、水音に包まれるこの場所の方が静かに感じられた。
「具合はどうなのか」
悪いようには見えなかった。前よりも顔色はずいぶんと良いように見えた。
「まあまあよ」
予想通りの答えを返してから香里は続けた。
「完全に良くなりはしないけどね」
俺はなにも言わなかった。しばらくして、香里は言った。
「やっぱり外は良いわね」
そう言って深く息を吸い込み
「桜は散っちゃったみたいだけどね」
辺りを眺めた。
「次はツツジの季節だな」
俺の言葉に香里は何も言わずただ頷いた。
「ツツジが咲いてアジサイが咲いて、夏が来て、コスモスが咲いて葉が落ちて、そしたらパンジーくらいかな」
「パンジー」という言葉に香里は少し反応した。
「もらったパンジーは割っちゃったわ」
「まだ枯れてないよ」
あの後に名雪がプランターに植え替え、その株はまだ花を咲かせていた。
「パンジーは寒さに強いからな」
理由は別のところにありながら、俺はそう言った。
「ごめんなさいね」
それを責めるつもりは毛頭無かった。
そのまま俺達は、噴水の音に聞き入るように黙っていた。それをやぶったのは俺だった。
「香里」
目を閉じていた香里はゆっくりとこちらに目をむけた。
「学校に戻ってくるつもりはないのか」
この間もした質問だった。香里はこの間と同じように目を伏せた。
「戻れないわ」
そして「不公平だもの」と呟いた。
「不公平じゃなかったら行くんだな」
俺は香里から視線を離して言った。
香里はしばらく黙ってから、
「この公園はね、あの子が好きだった場所なの」
俺を見ずに話し始めた。
「二人で良くここに散歩にきたわ。
この噴水の側が一番好きだった。
夏は膝まで池に入ってみたり、冬は雪を溶かしてみたり。そして、ここに座ってアイスクリームを食べたわ。
あの子があたしに、同じ高校に行きたい、って言ったのもここよ。
あたしはその時、あんまりにも小さな願いに呆れて笑っていただけだった……そして」
香里はさらに深く頭を沈め、左手でショールを握り締めた。
「このショールをあげた後、あの子が来たがったのもここ。
このショールはあたしが編んだんだけどね。あげる時に、次のプレゼントはあげられるかどうかわからない、って言ったの。
それでもあの子は、あたしを連れてここに来て、一緒に雪だるまを作りながら、高校に入ることが楽しみだって言ったわ。
あたしは黙って雪玉を転がすしかなかった。雪だるまはちょうどそのあたりに出来たの」
香里が指差すところには当然の事ながら雪の固まりの姿はなかった。
「その雪だるまを見ながらあの子はこう言ったの。
『来年もまたここに雪だるまをつくろうね』って。あたしは曖昧に頷くしか知らなかった」
そして香里は俺を真っ直ぐ見つめた。
「なんにも叶えてあげられなかったあたしが、あの子があんなにも行きたがってた学校に通うなんてずるいわよ。
あの子の約束を守れなかったあたしが、あたしが学校に行く事なんて出来ないわよ」
「しおり……」香里はその場に崩れるように屈み込んだ。
俺は香里の肩にかかったショールに触れ
「少し俺の話も聞いてくれ」
と、香里の震える肩をつかんだ。香里は、目を伏せたまま立ち上がった。
お互い黙ったまま歩いて、行き着いたところは並木道だった。
「ここで、俺のつまらない話があったんだ」
香里はまだ俯いていた。
「七年前の話だ。
俺はその頃いっしょに遊んでいた子とここで約束した。
だけど、それは守れなかった。この間、また出会ったけど俺は結局それを守れること無く別れた」
香里が口にした「約束」という言葉が俺の口を突き動かす気がした。
頭の中は何も考えていなくて、真っ白だった。それでも俺は動かされるまま言葉を続けた。
「その時、名雪としていた約束も破った。
その事すら忘れてた。
俺は多分、思い出したくないんだと思う。
約束をした子とだって二度と会えないような気がしてる。悲しくて閉ざした記憶があるような予感がするんだ」
「俺は、弱いんだ。
多分弱いから、そうしないとやってこれなかったからだと思う。
俺が約束を破った名雪にだって支えてもらわないと立っていく自信が無い。
……でも、みんな、立つためには誰かに支えてもらってるんじゃないのか」
「でも、あたしはあの子の支えになることを辞めたのよ。そんなあたしが支えてもらうなんて出来ないわ」
「違うよ、香里」
俺は息を整えて言った。
「違う。
香里は名雪や俺や他のたくさんの支えになってきたし、それに、香里の妹の支えにだってなってきたじゃないか。
香里の妹があの学校に来たがったのも、楽しそうに通う香里を見てたからだろ。
好きでもない人間がつまらなそうに行く学校に通いたいと思いはしないだろ。
だから、お姉ちゃんでいてやれよ、楽しく学校に通う大好きなお姉ちゃんで」
「あなたに何がわかるの」
香里からラベンダーの香りがした。出掛けに感じたものだ。
「わからないよ。
ただ、俺は香里にどこかに行かないで欲しいだけなんだ。
香里が笑ってないと俺達は心の底から笑えないし、やっぱり香里の悲しい顔を見るのは辛い、それだけなんだ」
「なら、忘れればいいじゃない。あたしが妹にしたみたいに」
「出来ないよ。
香里を忘れることなんて出来ないし、香里だって妹のことを忘れちゃいないじゃないか。
そんなことは出来ないんだよ」
香里は樹の幹に手をついて、大きく息をはいた。
「あたしは死ねなかったわ。カッターで手首を切っても、病院でご飯を食べなくても。
夜になると次の朝は栞の側で迎えるかもしれないって思っても、そうはならなかったわ」
「だけど死ぬのも怖かった。
あなたが来てくれて、名雪が笑ってくれると、死ぬのが怖くて、名雪たちの世界がうらやましくて、決心が鈍ってしまいそうだった。
あなたが手を握った時、人の手がこんなに暖かかったんだって思ったら、捨てたはずの涙が出てきたわ。
学校に退学届を出す時も、手首を切った時も出なかった涙が」
「やっぱり、あたしは死ねない、そして、戻りたいのかもしれない」
「退屈な授業を受けて。
みんなで学食に行って。
休み時間はおしゃべりして。
放課後は遊びに行って。
テスト前には慌てて」
「あたしはあの子が、栞が憧れてたところに、憧れてるの」
香里は俺に背を向けた。俺はその肩にそっと手を置いた。
「戻ろうぜ、香里。みんな待ってる」
俺は角3の茶封筒を香里にそっと手渡した。
「お前を待ってる北川からのプレゼントだ」
それは放課後に北川が『急に決まった。俺が持っててもしょうがないからお前が渡してくれ』と言って俺へ押し付けたものだった。
「やっぱり仲の良い奴が困ると気分悪いしな、それにあいつのノートは出来が良いんだ」
照れ隠しのつもりか、北川はそう言い残して廊下を走っていった。
「お前が居ないと、授業中寝るに寝られないって言いながら、骨を折ってた」
俺が冗談めかして言うと、香里は向こうを向きながら
「名雪に見せてもらいなさいよ」
と言った。声にはもう、さっきの調子はなかった。
「あいつは駄目だ。グッスリ寝てるから」
「行かなかった分、あたしがノート写させてもらわなきゃいけないわよ」
「それは任せてくれ、集めてやる」
「あなたのノートは無いの」
「俺も香里のノートを当てにしてたんだ」
香里はこちらを向いた。封筒を胸に抱きしめるようにしていた。
「ありがとう、相沢君」
香里はその格好のまま俺に飛びついてきた。
俺はしっかりと香里を受け止めた。
香里の体は思った以上に温かかった。どんな氷でも溶かしてしまう温かさを持っていると思った。
「相沢君」
香里が俺を呼んだ。香里に目をやると
「わがままついでに、もう一つ欲しいものがあるの」
「なんだ?」
「私が鉢を割ったパンジー、まだ咲いてるんでしょ。あたしにもう一度くれたら嬉しいんだけど」
「いいぜ。だけどそろそろ季節が終わるぞ」
俺の返事に香里は
「冬にまた咲かせるわ」
と言った。俺は香里の体に回す手の力を少し強めた。
「何色にしようか」
香里は少し考えてから答えた。
「黄色が良いわ」
「わかった」
そう答えると、香里を抱く手をゆるめた。
その時、俺は頬に柔らかな感触を感じた。赤い、香里の唇だった。驚いて俺は香里を見た。
香里は笑っていた。
俺も笑った。
そして、香里にこう、声を掛けた。
「行こうか、名雪が待ってる」
商店街まで来ると、長くなった日もさすがに暮れていた。
俺達はゆっくりとその中を歩いた。百花屋の前には名雪が居た。俺達を見つけると笑いながら言った。
「遅刻だよ、祐一」
「ああ、そうだな」
「今日はおあいこじゃないよ」
「そうだな、イチゴサンデーおごりか?」
「お店、もう閉まっちゃったよ」
「そうか、残念だな」
名雪は笑顔のまま
「でも、許してあげるよ。香里と一緒にちゃんと来てくれたからね」
そう言って香里の横に並んだ。香里は微笑みながら
「名雪、相沢君を貸してくれてありがと」
名雪は「うん」と、さらに笑顔を輝かせた。
貸し借りされていた俺は
「俺は物じゃない」
と言うと二人は最高の顔で笑った。
俺もまた、一緒に笑った。三人で笑うのは久しぶりだった。
それから、三人で病院に続く夜道を歩いた。
病院に寄らず家に帰るのは少し違和感を感じた。
まだ、日の高い内に玄関のドアを開けると、いつも通り「おかえりなさい、裕一さん」と、秋子さんが迎えてくれた。
返事をした俺に秋子さんは話し掛けてきた。
「今日、美坂さんがお見えになったんたんです」
美坂さんというのは香里の母親だろう。
「裕一さんにとても感謝しているそうです」
「よしてくださいよ」
俺が照れると秋子さんは微笑みながら
「そう伝えて欲しいと言われただけですから」
と言い、少し置いてから
「名雪の母親からもありがとうと伝えておきますね」
俺は、秋子さんの口調に「名雪の母親」が誰だか一瞬だけ考えてしまった。
「名雪の母親って秋子さんじゃないですか」
ワンテンポ遅れたことに敗北感を感じながら言うと、秋子さんは「ええ」と答えて台所へと戻って行った。
俺はまだ照れくさかった。
夕食を食べて部屋でくつろいでいると、ベランダの窓をコツコツと叩く音がした。
ガラスの向こうには名雪が居た。
俺は、そのままの服でベランダに出た。
「祐一。ありがとね、香里のこと元気付けてくれて」
名雪は半分泣いているような声だった。
「俺には奇跡は起こせなかったな」
「うん」
それでも嬉しそうな名雪から目を逸らして俺は続けた。
「これは奇跡じゃないから、香里がやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ。
香里には本当に悲しいことがあったんだからな」
「うん」
名雪の声は少し小さくなった。
「それを助けなきゃいけないんだ」
「そう、だよね。だけどわたし、香里を手伝うよ」
俺は名雪を見て、言った。
「名雪との約束もあるしな」
笑顔を守る約束、悲しい時は側に居る約束、そして名雪を支える約束。
「うんっ」
名雪は俺に抱き着いてきた。
「裕一は約束を守ってくれたよ」
「でもな、名雪。
俺は約束だけでこうしたわけじゃないんだ」
名雪は少し不安そうな顔をした。
「名雪も俺も香里も、みんな誰だって支えあっているんだ。
だから、俺は香里が居なくなると不安だったからかも知れない」
俺の下手な説明に、名雪は少し首をかしげて
「でも、おんなじ事だよ。
裕一も香里も、みんな居なきゃ嫌だもの。
わたしは大好きだよ、裕一も香里も」
と答えてくれた。俺は笑いながら
「どっちが」
と訊くと、名雪は頬を膨らませて
「裕一はイジワルだよ。でも」
そう言いながら頭を押し付けてきた。
「もう香里には貸してあげないよ」
俺達は、そのまましばらくベランダに居た。
名雪と一緒の登校で滑り込みセーフを果たすと、北川が俺に話し掛けてきた。
「隣の隣の隣のクラスに新しく入ったヤツが居るらしいぜ。しかも美人らしい。
……ったく、去年俺のクラスには男しか入ってこなかったのにな」
「悪かったな」
俺は毒づいて自分の席についた。
そして、北川の話の意味が今頃ようやく気づいた。
学食には名雪が来ていた。いつもよりニコニコとして俺達に声を掛けた。
「待ってたんだよ」
名雪は二人分の荷物で四人掛けのテーブルを一つ確保していた。
そして二人分の食事を抱えた香里がやってきて、トレイを置いた。
二つともAランチだった。
「またAランチか」
俺の言葉に名雪は笑顔のまま
「違うよ」
と答えた。
「どこからどう見てもAランチじゃないか」
俺は北川に同意を求めると、北川は俺の意見を採用した。
「でも、違うんだよ」
本当にどこが違うのか分からなかった。
「今日のイチゴのムースは採れたてなんだよ」
そうか。
今年も変わらず、イチゴの採れる季節がまたやってきた。
そう思うと、無性にイチゴが食べたくなった。
「名雪のイチゴのムース、半分よこせ」
「駄目だよ」
名雪はさっと、トレイに覆い被さった。
「わたしのはあげないよ」
じゃあ仕方ないな、と席を立とうとした俺に、名雪は
「でも特別におごってあげるよ」
そう言うと、俺と一緒に席を立った。
いつもと同じように長い列に並ぶと、名雪は俺に話し掛けてきた。
「祐一、わたし香里とおんなじクラスになれたよ」
「そうか」
「うんっ、嬉しいよっ」
名雪の笑顔が眩しくて、俺は名雪の髪を撫でた。名雪は困った顔をして
「もう、おごってあげるのやめにするよ」
と笑った。
「それは困るな」
俺も笑った。
「でも、イチゴのムース半分で許してあげるよ」
名雪の笑顔が眩しいのも当然だった。
だってイチゴの季節だからな。
後ろのほうでは、そんな俺達を見ながら、笑っている二人の姿があった。
自由話
はいどうも、後書きのために本編を書いている雅明です。
コミケ前一週間で2本目の作品です。つまり、8日前まではなにも備えをしていなかったって事です。
災害の時には真っ先に終わりますね、気を付けましょう。って、自分のことですが。
しかも、例によって本編が仕上がる前にコレを書いています。
でも日付はクリスマス本番日です。どうなるんでしょう、出ているんでしょうか、というか出せよ>俺。
今回の作品はHDDは吹っ飛ぶわ、途中で構成に致命ミスを見つけるわ、DATは壊れるわテレコは電池ボックスが割れるわ犬に吠えられるわ、谷に落ちて途中の樹に引っかかるわ、和牛商法に引っかかるわで大変でした。どこまで本当なんでしょうか。
ネタは、忘れもしない京浜東北線大船行き最終電車(品川0時08分発)で酒の入った我々二人が繰り広げた「Kanon全年齢版」の追加シナリオ放談に端を発します。
その時は、天野シナリオがやりやすいし、是非プレイしたいと力説されたのですが、秋子さんシナリオもシリアスとギャグを詰め込んだらいけるという事を言っていた気がします。
で、もちろんサブキャラで秋子さんに迫る登場回数を持つ美坂姉の話も出まして、「これはやらないだろう」という結論に達しました。
理由は大体お解りでしょう。
# ちなみに、唯一の立ち絵を持つ男キャラである北川君は、なんの話も出ませんでした。
「ときメモ2」の匠君のように、主人公からヒロインを奪っていきますと、とってもダークな話が作れますけど。
(横浜0時39分着)結局のところ、佐祐理シナリオの補強が一番楽そうで有りそうなのですが、あと2週間以内には結論が出ているでしょうからこの辺で追求しないでおきます。
で、まずは天野で話を作っていくと。すぐに浮かんだ選択肢は二つ。
- 主人公と天野がくっつき、なおかつ天野が過去を語る
- 真琴が『奇跡』で主人公の元に帰り、天野と三角関係を作る
私は他人のSSを拝読しておりませんので、実際有るかも知れませんが(おそらく有りそう)1番だと、恐らく誰かとバッティングする。
2番だと……恐らく結末は真琴とくっつくでしょう、真琴が存在する意味が無くなりますから(^^;
それともここで北川君が真琴を奪……。
いや、さらにどんでん返しで天野と真琴で結末を迎えて、主人公は厳寒の地に独りぼっち(って、名雪と秋子さんはどうした)。
ついでに、
- 天野が実は真琴と同類で、妖孤の主だった
という設定をいじった謎な事を考えてみましたが、ダルいので却下になりました。
そうして紆余曲折を経て今日に至るわけです。
しかし、私の遅筆は留まるところを知らず、改善を試みてかじった「速記」も上達せず。
筆記以前に頭の問題でもあるので結構難しいです、はい。この後書きくらいすらすら書ければまあ満足なのですが。
構想をそのままさっと文字に出来ると便利そうですねえ、二次創作に限らず。
ここ数年、パソコン通信を含めて文章というものからかなり遠ざかっていたのですが、アルバイトで関わった出版物にこっそりと記事を書き込み「二度と文章は書くまい」と固く心に誓ったつもりがなんだかこんな事やってます。
# ちなみに、その道ではとても有名なその出版物を同人誌化させたのは私です。ごめんなさい。
# 10月の予定だった発売日が今では未定になっているのは私のせい……じゃないと思います。
う〜む、やれやれ。
年頃でありながらクリスマスイブを一日中原稿に費やすなんて人生の選択肢をどこで間違えたのでしょうか。
こまめにセーブしておかなかったことが悔やまれます。
ほら、keyのソフトって「一つ前の選択肢に戻る」というのが無いじゃないですか(それは関係ない)
それではこんなところで、またどこかでお会いしましょう
作品情報
作者名 | 雅昭 |
---|---|
タイトル | Coda |
サブタイトル | |
タグ | Kanon, 美坂香里, 倉田佐祐理, 川澄舞, 相沢祐一, 水瀬名雪, 北川, 他 |
感想投稿数 | 42 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月09日 10時20分19秒 |
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- [★★★★★★] 佐由理さんの登場は話を冗長にしていないでしょうか・・・。
- [★★★★★★] 泣きました!(嘘)でもかなりの力作だと思います。
- [★★☆☆☆☆] これって名雪シナリオですか?
- [★★★★★☆] 全キャラ HAPPY END での後日談が多い中、このような形での後日談は新鮮でした。