詩織たちは職員室を後にし、3年A組の教室に戻ってきた。
……が、詩織の後ろ姿に元気がない。
「シオリン、どうしたの? 元気無いけど……」
心配して夕子が尋ねた。
「学生クイズ選手権っていうのはね、大学生のクイズ日本一決定戦なのよ。
 それに優勝したって言う事は……赤井先生は相当強いわよ」
「勝ち目ある?」
公が尋ねた。
「1%……あるかないか……かな」
詩織が答える。
「大丈夫ですよ。自らの力を信じる、さすれば自ずと道は開けます」
ゆかりが落ち込んでいる詩織を力づける。
「ありがとう、古式さん。なんだか勇気が出てきたわ」
「そうですよ。落ち込んでいる顔は藤崎さんらしくありません」
ゆかりの励ましに詩織は決意を固めた。
「ところで……3人のメンバーって、どうすんだ?」
好雄の質問に詩織が答えた。
「うん、私の他は……ひなちゃんと……公くんでどうかな?」
「お、俺??」
公が慌てて首を横に振る。
「俺はダメだよ。朝日奈さんは今回の言い出しっぺだろうけど、俺は……」
「公くん……お願い」
詩織が公を見つめた。
「でも……俺、クイズやったことないよ」
その言葉に夕子がポンと手を打った。
「じゃぁさ、特訓しようよ。『打倒、赤井!』で合宿っていうのは?」
「夕子の口から特訓なんて言葉が聞かれるとは……世も末だな」
好雄が茶々を入れた。
「うっさい、ヨッシー! 公くん、これでもやらない?」
「でも……」
公は横にいる、詩織の目を見た。
真剣な目で公を見つめている。
(お願い、公くん。公くんと一緒に出たいの……)
「わかった、どこまでやれるかわかんないけど、やってみるよ」
公の言葉に詩織の顔に笑みが戻った。
「じゃ、決まりね」
「じゃ、今日から合宿だよ!」
夕子の言葉に公が尋ねる。
「で、どこでやるの?」
「ん〜とね……公くんのお部屋」
「お、俺の?」
「公くん、自分の部屋にビデオ持ってたでしょ。
 私クイズ番組のビデオ持っていくから、それ見ながら特訓ね」
詩織の言葉には有無を言わせない勢いがある。
「やった、じゃ、公くんの部屋に行こうよ!」
夕子が先頭を切って歩き始めた。
(しめしめ……これでとりあえず晩御飯は御馳走になれる……一食、助かる〜)
というのが夕子の本音のようだった。

公の部屋に夕子がやってきた。さらに家からビデオテープを持って詩織もやってきた。
他にクイズの問題集も大量に抱えてきている。
「じゃ、ビデオ見る前に、少し問題集をやってみましょう」
詩織に言われて公と夕子は詩織の出す問題を考え始めた。


「食事の献立を表すメニュー、もともとは何語?」
「え〜とね……英語!」
夕子は勢いよく答えた。
「違うよ、朝日奈さん。メニューはフランス語だよ」
公が横から訂正する。
「公くん、正解!」
詩織の言葉に公は自信を持った。
「詩織、次の問題だ」
「じゃぁね、国会で働くステノグラファー、これ一体何をする人?」
「なに、それ。そんなの知らないよう」
夕子が悲鳴をあげる。
「速記者のことだろ。去年の社会科見学で説明あったじゃないか」
公がまた答える。
「公くん、凄い!」
詩織と夕子が同時に声をあげた。


「じゃ、少し、高度にするわよ。早押しを意識して答えてね。
 1996年のアメリカ大統領選挙。民主党候補はクリントンでは共和党は?」
詩織が問題を出す。
「え〜と……ドール」
公が答える。
「だめ! 正解だけど遅い」
「どうして?」
夕子が詩織に尋ねる。
「今の問題なら……民主党候補はクリントンの『ク』あたりで、問題文が共和党候補を答えさせる問題だと気付かなくちゃいけないの」
「ふぇ〜きびしい……」
夕子はソファの後ろにもたれた。
「だって、相手は赤井先生よ、それくらい早めに押さなくちゃ負けちゃうわ」
「じゃ、次ね。イギリス人フレミングが発見したアオカビ……」
「ペニシリン!」
「公くん、凄い!」
公の素早い答に詩織は手を叩いた。
「え、なんでわかんの?」
夕子は納得がいかない様子だ。
「多分今の問題はこう続くんだろ。『アオカビが作り出す抗生物質は何?』」
「そうよ、わかってきたわね」
詩織が褒める。夕子は面白くない。
「だからね、ひなちゃん。
 最初の問題なら『民主党候補』と言う時点で大統領候補者の名前を当てる問題だと気付かなくちゃいけないの。
 となるとその続きは『民主党候補者は誰?』か『民主党候補者はクリントン、では共和党は?』とくるかどっちかだと推理できるでしょ。
 で、続きが『だ』なら『誰?』と考えてボタンを押すの。答はクリントンね。
 で、続きが『ク』なら『クリントン、では〜』と考えてドールを答えるの。
 慣れてくれば出来るんだけどな」
「う〜……」
詩織の説明を聞く夕子。しかし、
「そんなの無理だよ……」
「大丈夫よ。全ては出来なくても自分の得意なジャンルだったらわかるわよ」
「そうかな?」
「そうよ。じゃ、ひなちゃんの得意そうな問題で試してみようか?
 『アメリカで大リーグのチームが二つある都市はニュ……』」
「シカゴ!」
「ひなちゃん、できるじゃない」
「あ、これでいいの?
 『二つあるのはニューヨークとどこ?』って問題じゃないかな? って思ったんだけど?」
「それでいいの。
 とにかく今回は赤井先生が相手だからどれだけ早く答えられるかが勝負になると思うの」
「たしかに……学生クイズ選手権で優勝してる強者だもんな」
「でも、やるしかないもんね」
公の言葉に詩織は答えた。


「ねね、ビデオ見ようよ」
そろそろ飽きてきた夕子がビデオを見る事を提案した。
「そうね、最近のテレビのクイズ番組を取ってあるから参考にしてね」
そう言って詩織は紙袋を開こうとした。
その間に夕子は机の上のリモコンに手を伸ばす。
「あれ、何かテープ入ってるんじゃない?」
夕子は、そう言って再生ボタンを押した。
『あっは〜ん……いや〜ん…………そこ、そこ……あ、い、いく〜』
テレビ画面には……いわゆるアダルトビデオというものが大写しになっている。
(や、やば……)
公は慌てるが既に遅い。
「やだ、公くん……」
詩織が冷たい視線を投げかける。
「やっだぁ……公くん、こういうの見てるんだ」
夕子が興味深そうにのぞき込む。
「あ、あのね……詩織……これはね、ほら、一昨年卒業した、斎藤先輩がくれたんだよ。
 俺も何か知らなかったから、……でね……? 詩織??」
「その割には……いい場面でテープが止まってるじゃん」
夕子が追い打ちをかける。
詩織は公を睨んでいる。
「し、詩織〜!!」
「もういいわよ、テープ止めて」
詩織の言葉に公は夕子の手からリモコンを奪い取った。
停止ボタンを押そうとした、その時、
「止めないで!」
詩織が叫んだ。
「どうしたんだよ、詩織」
詩織の目が画面にくぎ付けになっているのに気付いた公と夕子は画面を見た。
テレビの画面はいつのまにかクイズ番組の映像になっている。
「あれ? 斎藤先輩、何かのビデオの上に重ね録画したんだな」
公の呟きをよそに詩織は画面に見入っている。
「公くん、ひなちゃん……この人、見たことない?」
詩織が指さした人物を夕子と公は見つめた。
「これって……赤井先生じゃないの?」
ずいぶん若いが、それは若き日の赤井であった。
「このクイズ番組は……間違いないわ。『アメリカ横断ウルトラクイズ』ね。
 雰囲気からして、後半……アメリカ本土でのチェックポイントね」
詩織が画面の番組を分析する。
「それにしても相当古いじゃん。10年くらい前じゃない」
画面の古さや司会者の若さから夕子が分析した。
画面の中では赤井が的確に答えていく。
「強いよ、赤井先生」
公が呟く。
画面の中では赤井がボタンを押している。
司会者が素早く赤井を指名する。
『きた、ダッチマン! これが出きれば勝ち抜けだ!』
「え??」
司会者の赤井への呼びかけで詩織は思わず声をあげた。
(赤井先生のニックネームがダッチマン??)
画面では赤井が正解し、勝ち抜けを決めた。
画面にテロップが出る。
『楽しいフィラデルフィア行き、赤井達人(20)』
(あかいたつひと……達人……だち人……だっち人……だっちまん……ダッチマン……)
詩織は頭の中で赤井の名前の組み替えをおこなった。
(じゃぁ……赤井先生が……ダッチマンさん??)
画面を見ながらぶつぶつ呟いている詩織を夕子と公が心配そうに見ていた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜
サブタイトル07:「詩織、特訓する」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子, 早乙女好雄
感想投稿数43
感想投稿最終日時2019年04月09日 12時37分29秒

旧コンテンツでの感想投稿(クリックで開閉します)

評価一覧(クリックで開閉します)

評価得票数(票率)グラフ
6: 素晴らしい。最高!13票(30.23%)
5: かなり良い。好感触!14票(32.56%)
4: 良い方だと思う。12票(27.91%)
3: まぁ、それなりにおもしろかった3票(6.98%)
2: 可もなく不可もなし1票(2.33%)
1: やや不満もあるが……0票(0.0%)
0: 不満だらけ0票(0.0%)
平均評価4.81

要望一覧(クリックで開閉します)

要望得票数(比率)
読みたい!42(97.67%)
この作品の直接の続編0(0.0%)
同じシリーズで次の話0(0.0%)
同じ世界観・原作での別の作品0(0.0%)
この作者の作品なら何でも42(97.67%)
ここで完結すべき0(0.0%)
読む気が起きない0(0.0%)
特に意見無し1(2.33%)
(注) 要望は各投票において「要望無し」あり、「複数要望」ありで入力してもらっているので、合計値は一致しません。

コメント一覧(クリックで開閉します)

  • [★★★★★☆] 変態公君に軽蔑な眼差しの二人、こ、こわい!
  • [★★★☆☆☆]