対決の日がやってきた。
詩織は一日授業に身が入らなかった。先生に注意される事、4回。
隣の席で公が心配そうにしているが、詩織は気付かなかった。
(詩織の奴……よっぽど出たいんだな、高校生クイズ……)
伊達に幼なじみをやっているわけではない。
公には詩織の入れこんでいる様子がよくわかった。
(俺が、頑張れればいいんだけど……足を引っ張らないようにしなくっちゃ)
そのころ……夕子は教室で、前日からの睡眠不足を補っていた。
(要するに居眠りしていた、っていうことだね)
4時間目の授業が終わり昼休みになった。
先ほどの授業は、日本史の授業だった。
チャイムがなると教壇の上から、赤井が詩織を手招きして、廊下に出た。
「なんですか?」
廊下で、詩織が赤井に尋ねた。
「準備は出来ているのか?」
「ええ……なんとか……」
後ろで話を聞いていた公が赤井に向かって言った。
「俺達、勝ちますよ」
「ん、その意気だ。頑張れ」
赤井は公の肩を軽く叩くと、詩織の耳にボソっと呟いた。
「押し込みの練習はしておいた方がいい」
「あっ……」
詩織が思わず声を上げた。
(私ったら馬鹿だわ。問題に答えるためにはボタンを早く押さなくっちゃいけないのに……全然練習していないじゃないの。
赤井先生はいくらでもテレビで押した事あるだろうけど、私たちはボタンを押すのは初体験じゃない)
その時は赤井は職員室に向かって歩き始めていた。
「どうしたんだい? 詩織」
赤井が話した事は公には聞こえなかったが、詩織が思わず声を上げたところを見ると何か大事な事を言われたのだろう。
「うん……今日使う早押し機って、確か紐緒さんが作ったのよね」
「あ、伊集院がそんなこといっていたな」
「じゃ、まだ科学準備室にあるわね」
そう言うと、詩織は廊下を走り始めた。
「あ、ちょっと待ってくれよ、詩織!」
公が慌てて追いかけようとした。
「ひなちゃんをよんできて!」
詩織は公にそう言うと、廊下の向こうに消えた。
公が夕子を連れて科学準備室に行くと、詩織が結奈と話をしていた。
「じゃ、紐緒さん、遊びは5ミリ、でいいのから?」
「そうね、もうすこし遊びを無くしてもよかったんだけど、それでは過敏になってしまう。
だから、余裕をもたせてあるわ」
「わかったわ、ありがとう」
公が詩織に声をかけた。
「詩織、いったいどうしたんだい?」
詩織は振り返り、夕子と公に気付いた。
「あのね、早押しクイズは、百分の一秒を争うっていうのはわかるわよね」
夕子と公は黙って頷いた。
「だから、その百分の一秒を縮めるために、ボタンを押す前に裏技を使うの」
「なんだい、その裏技って?」
公が尋ねる。
「こういう早押しボタンと言うのは、ボタンを押して、電極同士を接触させる事によって電流が流れて反応するの。
わかるわよね?」
「……なんとか……」
夕子が怪しげながらも理解をした。
「でも、この類のボタンと言うのは押せばすぐ点くわけじゃないの。
あらかじめ離してある電極が接触する事が大事なわけだから、数ミリ、離れているの」
「それはわかる」
公が頷いた。
「で、少しでも早く押すため、その余裕の数ミリを予め押し込んでおくの……。
電極が接触する寸前まで」
「なるほど、そうしておけば、その数ミリ分、押す時間が早くなる、という事か。
そりゃ、大変だ」
公が天を仰ぐようにため息を吐いた。
「で、その押し加減を練習しよって言うわけ?」
夕子が詩織に尋ねた。
「ひなちゃん、察しがいいわね。ちょっとここで練習しておきましょう。
紐緒さん、いいかしら」
「別にいいわよ。理事長に言われて作った、“結奈特製・スペシャル早押し機”のテストもしていない事だし」
「じゃ、遠慮無く使わせてもらうわ」
「壊さないようにね。
通常の早押し機だと測定は千分の一秒が限界でしょうけど、この早押し機は、特別制のプログラムを組み込んであるので、百万分の一秒まで感知できるすぐれものよ。
その分デリケートだから慎重にね」
結奈に説明を受けると、3人は早押し機を押す練習を始めた。
「赤井先生。藤崎達が科学準備室で何かやっていますけど、放っといていいんですか?」
職員室に入ってきた科学の教師が赤井に詩織達の特訓を教えた。
「何ですって!!」
それを聞いた教頭が立ち上がって叫んだ。
「あそこには、今日使う早押し機が置いてあるはずです。まさか、彼女達……」
「心配いりません」
赤井が教頭に向かって言った。
「私は今までに数え切れないほど早押し機に触ってきました。
しかし、彼女達にはその経験がありません。
ですから、少しでも彼女達を慣れさせようと思って私が指示しました」
「な、何という余計な事を!」
教頭がその禿げた頭を真っ赤にして赤井を詰問した。
「大丈夫ですよ。私は負けませんから」
「そりゃ、赤井先生が負けるとは思いませんが……」
横で聞いていた校長が赤井に言った。
「まさか、負けるようなことはないでしょうね」
「私はクイズチャンプの名誉に賭けて、“正々堂々”戦いたいのです。
ですから、今彼女達が持っているハンデは全部埋めておきたい……ただそれだけです」
「わかりました」
校長はそれだけ言うと、まだ言いたい事がありそうな教頭を連れて校長室へと消えていった。
放課後……
「諸君、いよいよ本日のメインイベントだ!
赤井達人 対 藤崎詩織・朝日奈夕子・主人公のクイズ対決。もうまもなく開幕である!」
伊集院レイがマイクを持って壇上から客席のギャラリーとなっている生徒や教師達に言った。
壇上中央には伊集院が、そして、左右の解答者席には舞台向かって左手に赤井、右手に詩織・公・夕子が座っていた。
「では、本日の進行役を紹介しよう。
本来なら、わが伊集院家直属の元○HKのアナウンサーにやらせるのだが……どうしてもと言う本人の申し出があり、伊集院理事長の承諾を得た上で、本日の進行を務める、早乙女好雄だ」
レイの紹介に続いて舞台袖から好雄が登場した。
「ようし、準備はいいか? 今日の司会を担当するのは、俺、早乙女好雄だ。
ま、よろしくな。それじゃ、行くぞ!
ニューヨークに行きたいかぁーーー!!!」
「番組が違う!!!!!」
レイに後頭部をおもいっきり蹴飛ばされて、好雄はひっくりかえた。
一斉に会場から笑いが起きる。
頭を抑えながら立ち上がると、好雄はマイクを握った。
「あいててて……え〜とそれじゃ……本日の問題を読み上げるのは……」
好雄の言葉に続いてスピーカーから声が流れる。
「問題を差し上げます、館林見晴です。よろしくお願いいたします」
見晴は舞台袖の別室でモニターを見ながら問題を読み上げる予定になっていた。
(あれ?? この声……それに館林見晴って……確か……)
公が聞き覚えのある声に怪訝そうな顔をしていたことに、詩織は気付いた。
「公くん、どうしたの?」
「あ、いや、なんでもないんだ」
公は詩織を安心させるよう、そう言った。
(やっぱ、間違い電話の……あの娘だよな……)
「ルールを説明します」
好雄が手元の用紙を見ながら両解答席、さらに会場の観客に説明を始めた。
「早押しクイズ。10ポイント先取。正解1ポイント、誤答はマイナス1ポイント。
なお、ダブルチャンスクイズとします。解答権を取った方が誤答の場合、相手に解答権が移ります。
このとき相手は正解すれば2ポイント、不正解の場合でもマイナスにはなりません。
よろしいでしょうか?」
詩織はルールを頭の中で整理した。
(ダブルチャンスの場合、相手は正解2ポイント、不正解の罰則は無し……。
お手付きをすればするほど、相手がグングン有利になるわね)
「公くん、ひなちゃん」
詩織は隣の公と、その向こうの夕子に小声で言った。
「お手付きは相手にものすごく有利になるから気をつけてね」
「んなこと言っても、早く押せ、って言ったのはシオリンじゃん」
夕子が小声で抗議する。
「違うよ、朝日奈さん。
早く押すのは大事だけど、焦るあまりに勘違いして間違えた場合、赤井先生がものすごく有利になる、ということだよ。
なにしろ、こっちが間違えるとマイナス1ポイントで、更に赤井先生が正解すれば2ポイント。
差引3ポイント失うのと一緒なんだから」
公が夕子に説明する。
「それはわかってるけど……」
「だからね、早く、かつ正確に。がんばりましょう」
詩織が二人に声をかけ、顔が引き締まった。
「ねぇねぇ、ひなってさぁ、あんな真剣な顔できたんだ」
「ホント、ひなの真剣な顔って……、はじめて見るよね」
客席の友人にそんな陰口を叩けれているとは……。
(なるほど……お手付きは絶対不利か……。益々、俺の有利になっていくな……)
赤井も解答席でルールを頭の中で整理していた。
(藤崎はある程度は自分をコントロールできるだろう。
しかし……朝日奈と主人は……クイズ初経験だとどうしてもお手付きが怖いはずだ……となると……ワンテンポボタンを押すのが遅れるだろう……)
「それでは、はじめましょう」
好雄の言葉に会場が静まり返った。
続いて、問題が読み上げられる。
「理不尽な事を強引に押し進める事、押すのは何車?」
ピンポーン!!!!
解答者席の前のランプに灯が点った。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | 栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜 |
サブタイトル | 09:「赤井、助言する」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子, 早乙女好雄 |
感想投稿数 | 44 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月14日 06時28分14秒 |
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- [★★★★☆☆] 紐緒さんの限界は何処にある?
- [★★★★★★] いよいよクライマックス。
- [★★★☆☆☆]