(どうしよう……どうしよう……)
詩織の心の乱れはその表情にもあらわれていた。
(詩織……落ち着くんだ……)
公は詩織に声をかけようとするが、クイズの進行中なので思うようにいかない。
赤井は向かい側の席から、そんな公と詩織の様子を見ていた。

「早乙女、ちょっといいか?」
次の問題に行こうとしていた好雄に赤井がストップをかけた。
「5分だけ時間をもらえないか?」
「え? いや……でも……その……」
赤井の申し出にどう対応しようかと好雄がチラリと理事長席に目をやった。
理事長は好雄に無言で頷いた。
「じゃ、5分だけ」
好雄が言うと、赤井は公に向かって言った。
「主人、5分だけ時間をやる。藤崎に言うべきことがあるだろう?」


赤井に促され、公はすぐに詩織の顔を自分の方に向けた。
「詩織、何を焦っているんだ!」
「でも……私が……」
「高校生クイズって言うのは、『3人が力を合わせて』勝ち抜くものなんだろ。
 今の詩織は『自分が答えなきゃ』って気持ちが前に出過ぎているんだ」
「でも、公くんもひなちゃんもがんばってるのに……私が足を引っ張って……」
「何、言ってんのよ。誰も足引っ張られてるなんて思ってないよ」
夕子も詩織に声をかける。
「ひなちゃん……」
「俺が答えようと、朝日奈さんが答えようと……それは3人が答えたってことなんだ。
 だから、詩織が間違えても、それは3人の間違いなんだ。
 正解する喜びは誰が答えても味わえる、だから喜びは3倍。間違った苦しみは3人で分けるから3分の1。
 それが3人一組でやることの本当の意味じゃないのか?」
「公くん……」
「詩織は前に言ったよな? 『商品とか賞金とか……そんなんじゃない。自分の力を試してみたい』って。
 なら、今もそうじゃないか。
 この対戦に勝つか負けるかで結果は大きく違うけど……でも、今は結果を気にするんじゃなく、クイズを楽しもうよ。
 俺、まだ始めたばっかりでよくわかんないけど……本当にクイズするのって楽しいな、って思い始めたんだから。
 こんなことで嫌いにさせないでくれよ」
「シオリン、公くんの言う通りっしょ」
「ひなちゃん……公くん……ごめんなさい。私が勘違いしていた。
 そうよね、3人でやっているんだもんね。一人じゃないのよね」
「まだ、挽回はできるさ。
 でも、挽回するためじゃなく……楽しもうよ。次の1問を楽しもう」
公は詩織に言い聞かせた。


(くっそぅ……何で俺だけが教師なんだろうな……)
3人で励まし合う公たちを見て赤井は思った。
(俺が目指していた物は……もしかしたらあれだったのかもな。勝つとか負けるとかじゃなく……)
大学時代から本格的に始めた赤井にとってはクイズは『一人で戦う物』だった。
『3人で戦う』高校生クイズはほとんど経験していない。
赤井にとってはそれがうらやましかった。

(さすがですね。赤井先生。
人間形成、子供達の成長、それを最優先したあなたの判断は間違っていませんよ。
やはり、あなたはクイズチャンピオンである前に『超一流の教師』ですね。
私の眼力に間違いはなかったようですね)
伊集院理事長も微笑みながら舞台上の光景を見ていた。


「そろそろ、よろしいでしょうか?」
好雄が詩織たちに声をかけた。
「ごめんなさい、もう大丈夫です」
詩織は好雄に言った。さらに赤井の方を向いた。
「ご心配かけました。すいませんでした」
「ならいい。俺も中途半端な勝ち方はいやだからな」
「まだわかりませんよ」
公が赤井に向かって言った。
「そうだな……まだわからないよな」
公のその言葉に、赤井はまた、先ほどの光景を思い出していた。
赤井の言葉には、何かうわの空といった感があった。


「では、9−2から再開します」
好雄が言うと同時に問題が読み上げられた。
「六面体のサイコロの目を全部加えると21、では全部……」
ピンポーン
詩織の前のランプがついた。
「720」
ピンポンピンポン
「正解です。では全部掛けるといくつでしょう? と言う問題でした」
詩織が初めて正解した。
得点は9−3だ。依然として赤井が絶対有利であることは変わらない。
(どうしたのかしら? 赤井先生だったら、今のもわかったはずなのに……)
詩織は不思議に思っていた。

「セガサターン、プレイステーション、NINTENDO64、この中で唯一『ときめきメモリアル』をプレイできない機種は?」
ピンポーン
夕子のランプがついた。
「NINTENDO64」
ピンポンピンポン
これで9−4だ。

「新撰組局長・近藤勇の剣の流派はもちろん『天然理心流』ですが、彼はこの『天然理心流』の何代目になるでしょう?」
ピンポーン
公のランプが灯る。
「4代目」
ピンポンピンポン
これで、9−5となる。


(おかしいわ、赤井先生……覇気が全然感じられない……)
詩織は赤井の指が動かないことを不審に思った。
(まさか……)
詩織は、赤井がワザと負けようとしている、と判断した。
(それだったら……許せない……)
詩織は向かいの赤井をジッと睨んでいた。

理事長も赤井の豹変ぶりに気づいていた。
(赤井先生……それは違いますよ……全力でやることが大事です。結果に関わらず。
それはあなたが藤崎さんに教えたことじゃないんですか?)
理事長も赤井の考えを見抜いていた。


赤井は詩織の視線に気づいた。
自分を睨んでいる詩織の視線が何を言おうとしているのかすぐに分かった。
(そうだよな……藤崎……真剣勝負だもんな。全力でやらないと……失礼だよな)
赤井はワザと負けようとしていた自分を恥じた。
(よし、行くか!)
赤井の顔に覇気が戻った。


問題が読み上げられる。
「とんねるずの石橋貴明と工藤静香のユニット『Little Kiss』。このデビュー曲『A.S.A.P』は何の……」
ピンポーン
赤井のランプが灯った。これを正解すれば決定である。
「じゅわいよくちゅーる・マキ」
赤井が静かに、そして毅然としていった。
(決まったな)
赤井は大きく息を吐くと、目を閉じた。


ブ、ブー!!!
(え?)
意外な音に赤井は目を開いた。
(何のCMタイアップソング、となる筈だが、それ以外に展開できるのか……あ!)
赤井はすぐに自分の先読みの間違いに気づいた。
「ダブルチャンス、問題を最後まで」
好雄の言葉に問題が最後まで読み上げられる。
「『A.S.A.P』は何の略でしょう?」
すかさず、夕子が答える。
「As soon as possible」
ピンポンピンポン
赤井の早とちりが出た。
これで得点は8−7となった。
遂に1点差だ。


「まだ気を許しちゃだめよ。赤井先生はダブルチャンスの2点で10点になるんだから、お手つきしたら……決まりよ」
詩織は夕子と公に言った。
二人とも無言で頷く。
「1997年の大阪国体、この国体のマスコットキャラクターの百舌の愛称は?」
ピンポーン
「モッピー」
詩織が答えた。
ピンポンピンポン
「ウォーーーーーーー」
会場からどよめきが起きる。
遂に詩織達が追いついた。最大で7点あった得点差を跳ね返し、8−8となった。


次の問題は赤井が正解して、赤井がリーチを掛けた。
しかし、その次の問題を公が正解した。
両者共に9点となった。
「両者共にあと1点となりました。9−9です」
好雄が盛り上げるように一息ついて言った。
「では、最後の問題になるのか。この問題です」

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜
サブタイトル11:「詩織、立ち直る」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 〜きらめき高校日本一への挑戦〜, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子, 早乙女好雄
感想投稿数43
感想投稿最終日時2019年04月09日 08時46分11秒

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  • [★★★★★☆] ゼンブ読ませていただきました、おもしろいです〜、それにしても今になってトキメモ1っていうのはなつかしい感じですね〜♪、高校生クイズに出てどこまで活躍するか読みたいのでがんばって続きをかいてくださいね♪期待してます。
  • [★★★★★★] 続きが楽しみ!どうなる?詩織たちは勝てるのか?もし勝ったら続きも書いて欲しいな〜