「ごめん、藤崎さん。勘弁して……」
「そんなことないよ。大丈夫だって……」

後込みする男子生徒を前に詩織が粘る。
「そんな藤崎さんの足引っ張るから……オレ達みたいなバカはバカどうしで出る方が気楽でいいから……
 藤崎さんは優勝狙っているんでしょ?
 だったらもっと頭のいい人と出ないと」
そう言ってその生徒は行ってしまった。
「はぁ……」
廊下に取り残された詩織はため息をついた。

この1週間、この繰り返しだ。
最初は知り合いに声をかけていたが、それでは追いつかず、この二日ほどは見ず知らずの生徒にも詩織の勧誘の手は延びていた。
しかし、はっきりと“優勝宣言”をしている詩織と組もうという剛胆な生徒はおらず、未だに詩織チームの最後の1席は空白のままだ。
「あ、こんな時間……はじまっちゃう」
今日から、放課後に赤井の特訓が社会科教室で行われる。参加する生徒数はそれほど多くない。
高校生クイズへの参加はきらめき高校から100組300人を突破する勢いだが、その大多数は“参加するだけ”のようで、赤井の特訓に参加するのは、詩織らや夕子らを含め、だいたい20人程度である。
「急がないと……」
詩織は社会科教室の方へ走りだした。


その時、廊下の向こうから夕子がやってきた。
「あ、ヤッホー、シーオリン!」
「ひなちゃん。それに……早乙女君に……如月さん?」
夕子の後ろには早乙女好雄と如月未緒がいた。
「もしかして……ひなちゃんのチームメイトって……」
「そだよ。ヨッシーとミオ。未緒が知力、ヨッシーが体力。で、あたしが時の運。
 これぞまさに史上最強のトリオ、ってね」
「私は……体は弱いので何度も断ったんですけど……」
未緒が詩織に言った。
「どうしてもと、頼まれましたので……」
「ううん、大丈夫よ。いい組み合わせだと思うな」
詩織が弱気な未緒を励ました。
「でしょでしょ。あたしなりに考えたもんね」
「おい、夕子。俺は体力か?」
「きまってるじゃん。あんたに知力は期待していないわよ」
抗議する好雄を夕子はあっさりとかわした。
「で、シオリンは?」
夕子の言葉の意味はすぐにわかった。
詩織は黙って首を横に振った。
「公くんは?」
「公くんも探してくれてるんだけど……ダメみたい……」
しばらく考えていた夕子は顔を上げると
「大丈夫だって。申込の〆切は明後日でしょ。まだ間に合うわよ」
と、詩織に言って慰める。
「そうね。あきらめちゃだめよね。
 この前の赤井先生とのクイズ大会でそれは十分にわかったはずなのにね」
そう言って詩織は拳骨で自分の頭をコツンと叩くと夕子に言った。
「さ、社会科教室に行きましょ」
「そうだな。行くか」
そう好雄が言ったとき、
「あぁぁぁぁぁぁ!」
夕子が突然大声を出した。
「ど、どうしたんですか?」
未緒がびっくりして言った。
「ゴッメーン! 今日はノンアンの発売日じゃない。先に行ってて。
 私ちょろっと行ってくっから」
そう言うと夕子は走って行ってしまった。
「あの馬鹿! 人を誘っておいて……」
呆然としている好雄と未緒に向かって詩織が言った。
「あれがひなちゃんの持ち味だから」
「ふふふ……そうですね」
「ま、しゃぁねぇか……」
好雄と未緒も同意した。夕子はどことなく憎めない奴なのである。

グラウンドの片隅で少女が洗濯をしている。
サッカー部のマネージャーであるその少女はちっとも苦痛ではない。
部員達の世話をする、それが純粋に好きなのだ。
「やっほー、沙ぁ希ぃ!」
その少女、虹野沙希に声をかけたのはノンアンを買うと言って抜け出した夕子だ。
「あれ? ひなちゃん? どうしたの?」
「沙希にちょろっと頼みがあんだけど」
「何? 私にできること?」
「沙希をあたしの親友とみこんで、この朝日奈夕子様が頼むんよ」
夕子が頭を下げた。
沙希は驚いた。夕子とのつき合いは長いが彼女に頭を下げられたのは初めてだ。
「ちょ、ちょっとひなちゃん。やめてよ。いったい何なの?」
洗濯を中断して沙希が頭を下げる夕子を止めた。
「実は……」
夕子は上目遣いに沙希を見ながら言った。
「シオリンと組んで高校生クイズに出て欲しいの」
「えぇ!」
沙希は驚きの声を上げた。
「そ、そんな無理よ。藤崎さんと組むなんて!
 ……私、クイズなんてわからないし……」
「大丈夫。根性で頑張れば何とかなるわ」
夕子はいつもの沙希の口調を真似した。
「それに、私は予選の日はサッカー部の部活があるし」
「あれ? でもサッカー部員は殆ど参加申し込みしていたよ」
「えぇ!!」
沙希は2度目の驚きの声を上げた。
「だから、問題ないっしょ。おねがぁい……沙希ちゃぁん……」
夕子の手が沙希の肩に延びた。素早く沙希の肩を抱きよせる。
「わ・た・し・の……お・ね・が・い……」
「ひ、ひなちゃん……な、何の真似???」
動揺する沙希を尻目に夕子は沙希の首筋に息を吹きかけた。
「きゃん!」
沙希は声を上げる。
「あは、沙希はここが感じるんだもんね。
 お・ね・が・い……
 でないと……こうだぞ!」
夕子は沙希の首筋に息を吹きかけながら手を沙希の胸元に伸ばした。
「だめ! ひなちゃん! やんやん! もう……ちょ、ちょっと……あ、そこ……」
「どうじゃ、どうじゃ……これでもまだウンと言わんのか……うりゃうりゃ……」
「ちょ、ひ、ひなちゃん……あ、……だめ……ひなちゃん……あん……」
その時、はた目からみると本当に怪しい二人に声をかける者があった。
「朝日奈さん……それに、虹野さん、なにやってるの?」
「こ、公くん!!」
二人は同時に声を上げ、パッと離れた。
「な、何でもないのよ。これは……」
沙希が慌てて言い訳しようとする。
「やっだぁ……沙希ったら……私の指が忘れられないの??」
夕子が混ぜっかえす。
「ひ、ひなちゃん!!」
沙希が慌てて反論しようとする。
「ふうん……」
公は疑わしげに二人を見た。
「ちょ、ちょっと。公くん、誤解よ!」
抗議する沙希を見ながら公は言った。
「ま、いいや。そうだ、朝日奈さん? 詩織見なかった?」
「シオリン? 社会科教室じゃないの?」
「え? もう行ったのか。まずいな……」
「公くん、最後の一人決まったの?」
「いや、……苦戦中だな……」
夕子の質問に苦々しげに公が答えた。
「ま、何とかなるだろ。それより、朝日奈さんは行かないの? 社会科教室」
「すぐ行くから、先に行ってて」
夕子がそう言うと公は
「じゃ、先に行ってるね」
と言って校舎に入って行った。
公が見えなくなると夕子は沙希の正面に回った。
「沙希、この通り。頼みます」
夕子は地面に正座すると沙希に向かって土下座をした。
「ちょ、ちょっとひなちゃん」
沙希は慌てて夕子を立たせようとした。
「訳を聞かせて?」
沙希の言葉に夕子は詩織が最後のメンバーで困ってる事を説明し始めた。

「に、虹野さん! い、今なんて言ったの?」
帰りに沙希に声をかけられた詩織と公は殆ど同時に言った。
「だから、もし藤崎さんたちが迷惑でなかったら……私をメンバーに加えてくれないかな……って」
「本当に! 本当に私たちと組んでくれるの?」
詩織は飛び上らんばかりに喜んだ。
「もしかして……虹野さん、さっきの……」
公は、放課後の沙希と夕子を思い出して言おうとしたとき、
「ゴホンゴホン!」
沙希が目配せしながら咳をした。夕子との約束なのだ。
それは……、

「ありがと、沙希! お礼に今度のdbカップの決勝チケットを手配して上げるね」
頼みを了承した沙希に抱きつきながら夕子が言った。
「で、ついでと言ったら何だけど……」
夕子はさらに続けた。
「あたしが沙希に頼んだってことは、シオリンには内緒にしておいて欲しいんだ」
「え? どうして??」
「どうしても! 沙希が自主的にシオリンと組もうと考えた、ってことにしておいてね」
「でも……それじゃ……」
「お願い!」
そう言って夕子は再び頭を下げた。
「わかったわ。それでいいのね」
沙希は夕子に返事をした。

「公くん、どうしたの?」
何か言いかけて止めた公に詩織が聞き返した。
「いや、何でもないんだ」
公は沙希の目配せで事情を理解した。
(朝日奈さんって、結構いい人なんだな)
「それじゃ、明日から特訓よ! 藤崎さん、よろしくね」
詩織がいう前に沙希が叫んでいた。

その夜。

Trrrrr……Trrrr……

夕子の部屋の電話がなった。
夕子はやりかけていたゲーム“ファイナルクエスト7”にポーズをかけると電話に出た。
「もしもし」
『朝日奈さんのお宅ですか?』
聞き覚えのある声が受話器の向こうから聞こえていた。
「あ、シオリン! 夕子だよ」
『ひなちゃん? 今日ね、メンバーが決まったの』
「ホント! よかったじゃん」
『あのね……それでね……』
「どったの?」
『………………』
受話器の向こうでしばしの沈黙があった。
『ううん…………なんでもないの…………お互い、頑張りましょうね』
「決勝で。約束だかんね」
『それじゃ』
電話が切れた。


詩織は電話をおき、ポツリと言った。
「ひなちゃん…………ありがとう……」

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル02:「新しき仲間たち」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数38
感想投稿最終日時2019年04月09日 07時44分19秒

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  • [★★★★★★] 相変わらず設定をくずさないで、完成されている話しでかつおもしろくて良い!
  • [★★★★★★] やっとメンバー決まりましたね。