毎日の特訓は続いていった。

新メンバーの沙希も持ち前の根性で頑張っていた。
特に、料理などの家庭的なことに関する問題は詩織が舌を巻くほどだった。
さらに、赤井はこうも言った。
「勝ち抜く上で、一番難しいのはどの辺りだと思う?」
その言葉に好雄が答えた。
「やっぱ……最後の決勝なんて難しいんでしょ。実力者が揃ってるだろうし……」
「違うな」
赤井が即座に言った。
「一番難しいのは、最初のYes-No問題だ。
 何千ものチームがここで約十チーム位に絞られてしまう。運の要素がかなり大きい。
 逆に言えば、ここを勝ち抜けてしまえば、実力のあるチーム……藤崎のチームや朝日奈のチームはそこそこいいところまで行けると思う」
「なるほどなぁ……」
公が頷いた。
「そこで、Yes-Noクイズ突破が重要な課題になる……」
赤井は攻略法を説明し始めた。
それはどんなものか? それは、後述することになるであろう。

アッという間に日は過ぎていった。7月に入り、熱きクイズの夏がやってきた。
一学期の定期テストも終わり、夏休みを間近に控えたある日。
そう、関東大会前日……
詩織は部屋でパソコンを操作していた。

苦労しましたが、ここまできました。
いよいよ、明日は関東大会です。
悔いの残らないように、全力を尽くします。
それでは結果は後日報告します。

p.s. 他に参加されるみなさん、お互い頑張りましょう。

シオリン

クイズフォーラムのメンバーに最後の決意を表明した。
(いよいよだ……)
詩織は書いたばかりの文章をアップロードしはじめた。


公は詩織の部屋の灯を見ていた。
「詩織……」
机に向かい、詩織から借りていたクイズ問題集を読み返し始めた。
落ちつかない。
バッグの中を改める。忘れ物はないだろうか。
電卓、辞書、地図帳……携帯電話……ありとあらゆる問題に対応するために持っていく資料は膨大な量になる。
詩織は
「そんな物持っていっても現場では役に立たない」
と言ったが、持って行かないよりは持っていった方がいいだろう、というのが公の考えだった。
「明日は……頑張ろうな、詩織……」
已然として灯の就いたままの向こうの窓に声をかけ公はベッドに入った。


「うんしょ……うんしょ……」
沙希は弁当の下ごしらえをしていた。
詩織の話によると集合時間は朝十時だが、第一問が発表され、結果が出るのは夕方になるとのことだった。
「お腹が空いたら……勝ち目がないもんね」
来るべき予選に沙希も緊張の夜を過ごしていた。
「サンドイッチがいいよね……少しの時間でもつまめるからね。
 あ、でもおにぎりも作ろうかな……あ、鮭と明太子がある……これでおにぎりも作ろっと……」
冷蔵庫の中身をチェックしながら沙希はメンバー全員のお弁当作りに集中し始めた。
「これくらいしかないもんね。私ができることって……」


「あ、お兄ちゃん! ずるいよ!
 それは優美が持って行くんだからね!」
好雄は予選に備え公と同じように資料を揃えていた。
「馬鹿野郎、お前と違って俺は優勝目指しているんだ。シッシッ、あっち行け!」
優美は自分が持って行こうとした資料をバッグに詰める好雄に抗議したが、好雄に無理矢理取られてしまった。
「ずっるぅい! 優美だって全国大会行くんだもんね。清川先輩と片桐先輩と、最強のチームを作ったんだからね」
「そんなこと言ってもダメ。お兄ちゃんは今回ちょっとだけマジなんだ」
「そんな事言うと……こうだぞ! でぇーーーーい! 優美ボンバーーー!!」
「ぐぇーーーーーーーー!!!!!!!」
兄妹喧嘩は夜遅くまで続いていた。


未緒は部屋の机に向かっていた。
図書室で借りてきた新聞の縮刷版に目を通していた。
『いいか、時事問題を制する者はクイズを制す。
 時事問題こそが勉強によって結果が大きく変わる問題だ』
赤井の言葉がきっかけで、未緒はこの一週間はずっと図書室で新聞を見ていた。
「確かに……高校生は新聞を読まない、という風潮があるとすれば……出題者は新聞から問題を作りたくなるでしょうね」
未緒は出題者の立場を考え、新聞から問題になりそうな記事を拾ってはメモを取っていた。
「体力のクイズでは……足を引っ張ってしまいそうですから……こういう所は私が貢献しないとダメですね」


「これでよしっと」
夕子は五個目の目覚まし時計を枕元にセットした。
「なんで朝十時集合なんよ。起きられるかな?
 だめだめ、起きないといけないんだからね」
会場は西武ライオンズ球場。西武池袋線の西武球場前駅だ。池袋からでも四十分かかる。
池袋に出る時間を考えると……かなりの早起きが必要になる。
朝が苦手の夕子は今日の帰り道、時計店で目覚まし時計を大量に買い込んだのだ。
「今回はマジで遅刻できないもんね」
夕子は時計を見た。
「まだ九時か……」
脇においてあるゲーム機に目がいく。
「ちょっとくらい大丈夫だよね」
そう言いながら夕子は、やりかけのゲームの続きを始めた。
次第に熱中していく夕子は時間が立つのを忘れていった。

「あ!」
詩織は会議室への書き込みをした後で、こんな書き込みを見つけた。

みなさん、こんにちは。
北海の帝王です。

やりました! ついにやりました!
先日、高校生クイズの北海道予選があったのですが……
わが、北斗農業高校は全国大会進出を決めました!!

来月、全国大会のため東京に行きます。
あ、シオリンさん。関東予選もそろそろですね。
ぜひ頑張って下さい。全国大会で会えると信じています。

それでは御報告だけ。

北海の帝王

「北海の帝王さん……全国大会なんだ……私も負けられないな……」
詩織はパソコンの電源を切りながら、呟いた。
「ひなちゃん……決勝で会うんだもんね」
机を離れベッドに向かった。
「虹野さん……がんばろうね」
布団をめくり中へ入る。
「早乙女君……如月さん……全国大会に行けるように……ひなちゃんと頑張ってね……」
詩織は目を閉じた。
「公くん……公くん………………………………きっと……きっと……勝とうね」
詩織はゆっくりと眠りに落ちて行った。


朝が来れば、関東大会の開幕である。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル03:「それぞれの前夜」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数36
感想投稿最終日時2019年04月11日 02時47分30秒

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