「西武球場前〜、西武球場前〜」
ホームに着いた車両から、高校生の集団が次々とはき出される。
 全国高等学校クイズ選手権・関東大会に参加する若者たちだ。
 そろいの法被を着たチーム。幟を掲げてやってきた者。
 少しでも目立とうと奇抜な衣装に身を固めた者。
 それぞれ思いは違えども、目指すはただ一つ。全国大会である。
「ふ〜……やっと着いたな」
 改札を出て好雄が言った。
 「うん、そうだな……」
 公はその人混みに圧倒されながら言った。
 「これ、全部参加者なんですか?」
 暑き夏の日差しに負けまいと大きな麦わら帽子をかぶり日焼け止めクリームを塗ってきた未緒だったが、はやくも顔色が悪くなってきている。
 「未緒ちゃん、大丈夫?」
 「えぇ、大丈夫です。こんなことで足を引っ張っては悪いですから」
 心配する沙希に未緒は答えた。
 「でも、無理はしないようにね。
  気分が悪くなったらすぐに言うように」
 「はい、公さん」
 公の言葉に未緒は嬉しそうに頷いた。
 (公の奴……そう言う言葉が女の子を迷わせる、ってのが解ってんのかね?)
 傍目で見ている好雄は苦笑いを浮かべていた。
 「ところで……」
 未緒は続けた。
 「朝日奈さんと……藤崎さんは間に合うんでしょうか?」
朝早くのきらめき駅。
 詩織・公・好雄・沙希・未緒の5人は待ち合わせ場所に集まっていた。
 他のチームもそれぞれに行くのだが、この2チームは一緒に行く約束をしていた。
しかし、待ち合わせたきらめき駅に夕子が現れなかった。
 「あの馬鹿! また遅刻か? 洒落になんねえぞ」
 好雄が時計を見ながら言った。
 「まずいな……遅刻はだめなんだろ?」
 公も3人が揃ってホームへ向かう他のチームのメンバーを見ながら言った。
 「十時に第一問の問題発表だから……恐らく会場入場の締め切りは……十一時か、十二時。
  それまでに……」
 詩織が言った。
 「ねぇ、二人だけでってのはだめなのかな?」
 沙希がいいことを思いついたとばかりに言うが、
 「参加要綱では三人揃っていないと入場が認められない、とありましたからね」
 未緒に一蹴される。
 「だめだ! 電話にも出ない!」
 公衆電話で夕子を呼ぼうとした好雄が叫んだ。
 「わたし、ひなちゃんの家に行ってみる! 先に行ってて!」
 そう言って詩織が走り出した。
 仕方なく残った四人は電車に乗った。
「ん〜、夕子の遅刻癖がこんなところでひびくとはな……」
 好雄が時計を見ながら言った。
 時間はもうすぐ十時になる。
 続々と西武球場前の特設ステージの前に参加者が集まってきていた。
 「もうはじまっちゃうよ!」
 ステージの様子を見て沙希が言った。
 ステージ上で音声機材のチェックをしていたスタッフが降りていく。
 ハンディカメラマンがカメラを肩に担いで参加者達の様子を撮影している。
 「あ! 公さんだ! 公さーーーーん!!」
 声のした方を見るとそこに立っていたのは優美だった。
 「公さん!」
 走ってくると優美は公に飛びついた。
 「公さん、始まっちゃいますよ。もっと前の方に行かないと映りませんよ」
 と言って手を引っ張ろうとする。
 「ちょちょっと、優美ちゃん」
 公が慌てて優美を制した。
 「よっ、公くんに……虹野さん……お、早乙女君と如月さんも一緒か」
 遅れて歩いてきたのは清川望と片桐彩子だった。
 「あれ? 詩織は?」
 詩織がいないのを怪訝に思った彩子が公に聞いた。
 「それが……」
 公は事情を説明する。
 「それじゃ、間に合わないじゃない!」
 望が大声を出す。
 「んなことは解ってんだよ!」
 いらいらしていた好雄が怒鳴り返す。
 「え〜……間に合わないんですか?」
 優美が情けなさそうな声を出す。
 「優美達、藤崎先輩の後ろについて行こうと思っていたのに……」
 「だめですよ、優美ちゃん。クイズは自分たちで考えないと。
  人の後ろについて行っても……それは後悔の元です」
 赤井の言葉を思い出して未緒が優美をたしなめた。
 『人について行くな。自分たちで考えろ。
  人について行った場合、間違えたら必ず後悔する。
  自分たちで導き出した答えなら……それは間違っても納得がいく』
 赤井らしい言葉だった。
 「だって……」
 優美がプッと頬を膨らませた。
 「いや、冗談抜きで藤崎のチームの後ろを着いていこうとしているチームは結構あるんじゃないかな?
  ほら、あっちの方でもきらめき高校の連中がこっちを見てるぜ」
 望が指さした方向には見覚えのある顔がずらっと並んでいた。
 館林見晴・美樹原愛・紐緒結奈のチーム、その隣にいるのは……芹澤勝馬や鞠川奈津江等のようだ。
 多分、その後ろのリムジンに乗っているのは伊集院レイと古式ゆかりと鏡魅羅だろう。
 まわりを魅羅の親衛隊とレイのSPが取り囲んでいる。
 戎谷淳や十一夜恵の姿も見える。
 その彼らがジッとこちらの様子をうかがっている。
 「ね、優美の言ったとおりでしょ。みんな藤崎先輩を頼りにしているんですよ」
 「ったく……」
 公はそちらを向くと大声で叫んだ。
 「おい! こっちを待ってると時間切れになるぞ! 詩織は遅刻だ!」
 ざわざわとざわめき声があがる。
 やはり、優美の言ったことは本当だったようだ。
 何人かの生徒が公たちのところまでやって来た。
 「詩織ちゃん、間に合わないんですか?」
 愛が心配そうに言う。
 公が事情を説明した。
 夕子がやってこないこと、それで詩織が家まで様子を見に行ったこと。
 「理由の如何を問わず、遅刻は失格よ。
  藤崎さんなら、少しはわたしのライバルになれるかもと思っていたけれども……残念ね。
  強力なライバルが無き今、わたしの野望は達成されたも同然ね」
 結奈がポツリという。
 「アンビリーバボ! 信じられないわ、藤崎さんが失格だなんて……」
 彩子が後ろで叫んでいる。
 「多分……あれだな……。
  藤崎さんが家に行ったら……まだ朝日奈さんは寝ていた、ってところじゃないかな」
 望が言った。
 「俺も……そう思う」
 その言葉に好雄が同意した。
『高校生クイズに参加の皆さん、まもなく第一問を発表いたします。
  正面特設ステージの前にお集まり下さい』
 アナウンスが流れた。
 いよいよ開幕だ。
 ぞろぞろと参加者が特設ステージの方に移動を始めた。
 「仕方ない、みんな行きましょ」
 見晴の言葉できらめき高校生も移動を始めた。
 バタン!
 車のドアが開いた。
 「やぁ、諸君。いよいよ、僕の知性が全国に流れるイベントの開幕だね」
 降りてきて開口一番、レイはそう言った。
 「おや、君たち、人数が足りないようだが?」
 「事情を解ってる癖に……」
 公がレイに向かって呟いた。
 「何か言ったかね?」
 「なんでもねぇよ」
 「しかし……これだから庶民は……」
 「伊集院さん、そんなことをおっしゃってはいけません。
  私達がこうやって参加できるのも藤崎さんが頑張ったから……」
 ゆかりがレイをたしなめた。
 レイにこういうことを言えるのはゆかりくらいであろう。
 「しかし、そのための手配をしたのはこの僕ではないか!」
 「はい、感謝しております」
 ゆかりは素直に頭を下げた。
 「………………くっ…………まぁいい! 行くぞ!」
 そう言ってレイはゆかり、魅羅、……そして魅羅の親衛隊達を引き連れて行った。
 「詩織〜!!!! 間に合ってくれ!!」
 公の悲痛な叫びが響きわたった。
「な、なんだと! どうしてダメなのかね!」
 「要綱をよく見て下さいよ。『参加者以外の入場は不可』と書いてあるでしょう」
 入り口でレイと係員が揉め始めた。
 総勢258名のSPと共に入場しようとしたレイを係員が制止したのだ。
 「おい、庶民の分際でこの僕に命令するのか!」
 係員を怒鳴るレイに向かってゆかりが言った。
 「レイさん、ルールですから仕方がございません。
  SPのみなさんには外で待っていて貰いましょう」
 「しかし……それではレイ様に万一のことがあった場合……」
 SPの隊長が言った。
 「大丈夫ですわ。今日は私の親衛隊……75人が伊集院君をお守りするわ。
  いいわね、みんな?」
 「はい、鏡さん!」
 魅羅の言葉に親衛隊達が頷いた。
 「しかし……」
 なおも食い下がるSPにレイが言った。
 「仕方ないな。今日は外で待て。それからな……耳を貸せ」
 そばに寄ったSPに伊集院が何かを言った。
 「は、……はい。しかし……」
 「いいか、なんとしてもやりとげろ、これは命令だ!」
 「は、はい!」
 SPを外においてレイたちも入場していった。
「あ〜ん!! 間に合わないよう!!」
夕子はやっとの事で着替え終わった。
 玄関で待つ詩織と共に外に飛び出し、走り始めた。
 「ひなちゃん……やっぱり寝ていたなんて……はぁはぁ……信じられない……はぁはぁ……」
 「そんなこと…………はぁはぁ…………言ったって…………ファイナルクエスト…………
  なかなか区切りがつかなかったから……はぁはぁ……」
 必死で駅まで走る。
 「間に合う?」
 走りながら時計を見て夕子が言った。
 「厳しいわね…………間に合うか…………どうか…………」
 駅まで走って十分。さらにきらめき本線で東京、そこから池袋に出て西武に乗り継ぎ西武球場へ。
 時間的にも間に合いそうにない。
 「シオリンが起こしてくれると思ってたのに……」
 「だって、ひなちゃん目覚まし時計、五個も買ったって言うから……」
 夕子の家に到着し、必死でドアを叩いて夕子をたたき起こした詩織は目を丸くした。
 五個の目覚まし時計が見事に床にたたきつけられて壊されていた。
 「はぁはぁ……駅だよ…………」
 駅に着いた二人は切符を買おうとして手が止まった。
 券売機のところにはこう書かれていた。
『先ほど発生した踏切事故のため、ただ今東京方面は不通となっております。
  復旧まで今しばらくお待ち下さい』
作品情報
| 作者名 | ハマムラ | 
|---|---|
| タイトル | 栄光への道 第2部 関東大会編 | 
| サブタイトル | 04:「夕子の大失態」 | 
| タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子 | 
| 感想投稿数 | 36 | 
| 感想投稿最終日時 | 2019年04月15日 08時59分23秒 | 
旧コンテンツでの感想投稿(クリックで開閉します)
評価一覧(クリックで開閉します)
| 評価 | 得票数(票率) | グラフ | 
|---|---|---|
| 6: 素晴らしい。最高! | 3票(8.33%) | |
| 5: かなり良い。好感触! | 12票(33.33%) | |
| 4: 良い方だと思う。 | 14票(38.89%) | |
| 3: まぁ、それなりにおもしろかった | 4票(11.11%) | |
| 2: 可もなく不可もなし | 2票(5.56%) | |
| 1: やや不満もあるが…… | 1票(2.78%) | |
| 0: 不満だらけ | 0票(0.0%) | |
| 平均評価 | 4.19 | 
要望一覧(クリックで開閉します)
| 要望 | 得票数(比率) | 
|---|---|
| 読みたい! | 35(97.22%) | 
| この作品の直接の続編 | 0(0.0%) | 
| 同じシリーズで次の話 | 0(0.0%) | 
| 同じ世界観・原作での別の作品 | 0(0.0%) | 
| この作者の作品なら何でも | 35(97.22%) | 
| ここで完結すべき | 0(0.0%) | 
| 読む気が起きない | 0(0.0%) | 
| 特に意見無し | 1(2.78%) | 
コメント一覧(クリックで開閉します)
- [★★★★★☆] 面白いことには目がない朝比奈さんには確かに不覚でしょうね。でもよく考えたらいつもコンサートに遅れていたか
