『高校生クイズの参加のみなさまにご案内いたします。
 あと十分で球場内への入場を締め切ります。お急ぎ下さい』

スタッフが拡声器を持って球場周辺の高校生に声をかける。
相談をしていた高校生達も次々と会場に入場していく。
一方、駅前では依然として公たち四人が詩織と夕子の到着を首を長くして待っていた。
「あと十分か……」
好雄が腕時計を見ながら言った。
「来るわよ……きっと……」
沙希はジッと改札口を見ていた。
「………………」
未緒は目を閉じて何かを祈るように黙ったままだった。
「詩織…………」
公が天を見上げたときだった。

ババババババババババババババババババババババババババ……

轟音と共にヘリコプターが上空に現れた。
「???」
最初、公はTV局が上空からの球場を撮影するために飛ばせているのだと思っていた。
しかし……窓から身を乗り出すようにして手を振る人物の顔が目に入った。
「詩織!!!!!!」
公は叫んだ。
「詩織だ! 来た!!!」
「え?? どこ?」
好雄が公に尋ねる。
「ほら……あそこ」
公は上空を指さした。
「え?」
沙希も空を見上げる。
ヘリコプターは上空二十メートルくらいのところでホバリングする。
公も大事なことに気づいた。
「どこに降りるつもりだ??」
辺りを見回すが着陸できそうな場所がない。降りられそうな場所は、人混みがある。


「申し訳ありませんが……下に降りることが出来ません」
外井が詩織と夕子に言った。
「ちょ、ちょっと! ここまで来てそれはないっしょ!」
夕子が抗議する。
「ご安心下さい」
そう言うと外井はヘリのドアを開け縄梯子を垂らした。
「どうぞ」
「うっそーーーー!!!!」
詩織と夕子は同時に悲鳴を上げた。

「おい、何か出てきたぞ」
好雄の言うとおり、ヘリから何かが垂れ下がった。
「縄梯子じゃないか?」
公が見ながら言う。
「あ! あれ、朝日奈さんじゃない??」
沙希が指さしていった。
沙希の言うとおり、夕子がドアから身を乗り出し縄梯子にぶら下がった。
「あぁ…………目眩が……」
未緒がまたもや気を失った。
「ちょ、ちょっと! ヨッシー、こっち見ちゃダメだかんね!」
夕子が下に向かって叫ぶ。
スカートで縄梯子を降りようとする夕子を下から好雄が見上げているのだ。
「時間がないから! 急いで!」
後ろから詩織が叫ぶ。五メートルほど降りた夕子に続いて詩織も梯子にぶら下がって降り始めた。
こちらはジーンズなので影響はないようである。
「落ちたら……どうすんだ?」
好雄が夕子に言う。
「そん時は……あんたが受け止めてくれればいいじゃん」
そう言いながらも夕子は降り続ける。既に半分を超えている。詩織も残り三分の二だ。
「気をつけろよ…………」
公も心配そうに声をかける。

「キャッ!」
夕子が悲鳴を上げた。残り五メートルと言うところで夕子は手を滑らせ落っこちる。
「だぁ! 夕子!!!!」
好雄が慌てて受け止めに走る。そこへ夕子が落下した。
ドシン!!
「いってぇ!!」
「あいたぁ…………」
地面には折り重なって倒れる夕子と好雄。しかし、どうやら怪我はないようだ。
「夕子…………」
好雄が真剣な目で夕子を見た。
「ど、どうしたん?」
好雄の真剣な目に夕子が真っ赤になる。
「白か……」
パシーーーーーーン
好雄の頬に真っ赤な手の跡がついた。
合掌……

スタン!
詩織は無事に地面に降り立った。
「詩織!!」
「藤崎さん……」
公と沙希が走り寄る。
「間に合って良かった!!」
「ごめんね。遅くなっちゃって…………伊集院君のヘリに乗せて貰ったの」
「言い訳はいいよ。それより……急がないと!」
「うん…………」
詩織は頷く、そしてヘリに向かって手を振った。
「ご健闘をお祈りしています」
そう言って外井はヘリを上昇させ始めた。その熱い視線が公に送られていた。
「さ、行かないと!」
夕子が立ち上がった。
未緒も意識を取り戻した。
「それじゃ、急ごうぜ!」
「あ、公くん、問題は……?」
詩織が尋ねた。
公たちは説明しながら走り始めた。


「それじゃ、答えはNO?」
夕子が公たちに尋ねる。
「へっへ〜。お前達がもたもたやってる間にオレ達はちゃんと答えを調べておいたんだぜ」
「詩織、オレ達はYESに行こう!」
そう言って公は沙希と詩織と一塁側へ移動し始めた。
「ちょ、ちょっと公! どうしてだよ!」
好雄が公を呼び止めた。
「もう、時間がないんだよ。説明してる暇はない!
 ……詩織、俺を信じてくれるか?」
公は好雄に言った後、詩織に言った。
「公くん……」
詩織は黙って頷いた。沙希も
「私も、公くんを信じる」
といってついてきた。
「………………」
その様子を見ていた夕子だったが、突然
「ヨッシー! あたしたちもYESに行くわよ! 未緒もいい?」
といって二人の背中を押し出した。
「ちょ、ちょっとまて! 夕子、こら!」
「あ、そんなに押さないで下さい……頭がふらふらとして……」

『締め切り、一分前です。急いで下さい』

受付で係員が叫んでいる。
周りを見ても残っている高校生はいない。六人は滑り込むように飛び込んだ。
詩織と夕子がそれぞれの受付葉書を係員に提示する。
係員はYESと書かれた大きなハンコを見せて、
「よろしいですね」
と念を押す。
「はい。結構です」
という返事を確認して係員は葉書に“YES”とハンコを押した。
これで、もう答を変える事はできない。
6人は通路を通って1塁側スタンドへと歩いていった。


「うわぁ……すごい人……」
沙希はつぶやいた。西武球場のスタンドが人で埋まっている。
最大収容人員三万七千人の8割以上が人である。
おそらく3万人以上いるのだろう。
問題なのは……
「どうすんだよ! この人を見てみろ!」
好雄は公たちに文句を言っている。
公たちのいる一塁側スタンドは人が驚くほど少ない。三千人いるかどうかも怪しい。
一方の三塁側は外野方向にはレフトからバックスクリーンを通り抜けてライトまで……。
反対にホーム方向にも人が続いており、その端は一塁側スタンドの手前にさしかかっている。
「圧倒的にNOが多いじゃねぇか! 俺が言ったろ!」

「ところで、他のみんなは?」
詩織がスタンドを見渡す。
「あそこにいるのは……そうじゃないですか?」
未緒が指さした方向……レフトスタンドに【きらめき高校参上!】と幟を立てた一群がある。
よくよく見ると幟の周辺に見慣れた顔がある。
「あれは……ユイナじゃん!
 ってことは……いるいる……メグミに……ミハル……ユカリもいるよ……ミラも……伊集院君まで……」
「ほんとだ……芹澤君たちもあっちみたいね。奈津江ちゃんがいるわ」
夕子と詩織もスタンドを見ながら言う。
「ってことは……みんな好雄の言葉に惑わされたってことか……」
公がため息をついた。
「惑わされたって?」
沙希が尋ねる。
「考えても見ろよ、第一問ともあろう問題で、一円切手の透かしがあるかどうかなんて問題が出ると思う?」
「でも、前島密の肖像の切手……………………あ!」
未緒が声を上げた。
「まさか……」
詩織も気づいたようだ。
「そのまさかだよ」
公が説明する。
「一円切手だけが前島密じゃないと思うんだ。
 確か……かなり昔に前島密の肖像を使った記念切手が出たことがある、って聞いたことあるんだ」
「それには透かしは?」
沙希の疑問に公は力無く答える。
「そこまではわかんないけど……」
「ううん……これは案外……一円切手で引っかけさせる問題かもしれないわ。
 一円切手=前島密ってクイズでは常識みたいな物だから……そこをついたのかもしれない」
詩織が言った。

「ハーイ! 間に合ったみたいね」
後ろから声をかけられて詩織が振り返った。
「か、片桐さん!」
詩織が叫んだ通り、そこにいたのは片桐彩子だった。そして隣には清川望と早乙女優美もいる。
「優美! おまえこっちに来たのか?」
「そうだよ、お兄ちゃん。
 他の人について行っちゃダメだ、自分で考えなくっちゃ、って清川先輩に言われて……自分で考えたんだよ」
「しかし、驚いたなぁ。
 まさか藤崎さんたちもこっちに来るとは……向こうがあんなに多いんであっちが正解かな、って言ってたところだったんだ」
望が六人を見渡して言う。
「でも、こっちに藤崎先輩たちがいるってことは……これは勝ったかもしれませんね」
「まだ分からないわよ」
詩織が勝ち誇ってる優美に釘を刺した。


実は詩織達も知らなかったのだが……、いわゆる伝言ゲームが起きていたのであった。
『一円切手には透かしは入っていない』
と言う好雄の言葉が、人づてに伝わっていくうちに
『前島密の切手には透かしは入っていない』
となり、いつのまにか
『答えはNOという怪情報が飛び込んだ』
と伝わっていったのである。
過去にも地方予選では第一問で「YES−NOクイズ」通過チームが決まったことがある。
恐ろしきは人の噂である。


ウォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!

大歓声に包まれて司会者がグラウンドに飛び出した。
いよいよ第一問の答えが発表されるのである。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル06:「YESかNOか?」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数36
感想投稿最終日時2019年04月14日 01時16分21秒

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