「さて、そろそろ時間もよろしいようですので……」
一通りの挨拶が終わった後、司会者がおもむろに切りだした。
「第一問の答を発表したいと思います」
会場から一斉にかけ声が掛かる。
「YES! YES! YES! YES!」
「NO! NO! NO! NO!」
詩織たちも周りと一緒にYESのかけ声をかけ続けた。
両手を前に合わせて神に祈る生徒もいる。
「最終人数を発表します。YES、945組、2835人」
少数ながらも、1塁側スタンドから歓声が起こる。
「NO、9584組、28752人」
約十倍の人数が歓声を上げる。
「合計、10529組、31587人。ご参加ありがとうございます」
司会者の進行の間も、ひたすらYESコール、NOコールが続いている。
「YESの諸君! 人数は少ないが、自信はあるか!!!」
ウォォォーーーーーー!!!!
詩織達もまわりの人間と一緒に右腕を突き上げて叫ぶ。
「NOの諸君! 自信はあるか!!!!」
ウォォォーーーーーー!!!!
NOに入っている者……もちろん大半のきらめき高校の生徒たちも……が一斉に腕を突き上げる。
「公くん……私……怖い……見るのが怖い……」
詩織がてのひらを顔の前に合わせ下を向く。
「詩織……自身をもとう!」
「でも……」
「藤崎さん、根性よ! きっと……きっと……」
沙希が詩織を勇気づける。
「シオリン、大丈夫だよ……」
横から夕子がじっとスコアボードを見ながら言った。
好雄と未緒も視線をセンター方向に向ける。
彼らだけではない……。球場にいる高校生の視線が一点に注がれた。
「正解は………………実は…………これだぁ!!! 電光掲示板に注目!!!!」
一瞬、時が止まったかのように静まり返った。
三万人の人間が同じ方向をじっと見ている。
その瞬間、電光掲示板に青地に白文字で浮かび上がった文字……。
“YES”
ウォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
一塁側から大歓声が上がった。
詩織達はお互いに抱き合い喜ぶ。後ろの席でも望・彩子・優美が歓声を上げている。
いや、一塁側に陣取った数少ない……参加者中、わずか一割にしかならない高校生が飛び上がって喜ぶ。
エェェェェェェェェーーーーーーーーー!!!!!!!!!!
三塁側から悲鳴が上がった。
愛、見晴らきらめき高校の生徒たちもがっくりと腰を落とした。
いや、三塁側に陣取った参加者の九割以上がシートに腰を落とし声も出せなくなっていた。
司会者がその中、淡々と言葉を発した。
「現在発行されている一円切手以外にも……1927年の万国郵便連合加盟50年記念切手を皮切りに様々な物が発行されています。
その中で1946年から1947年に発行された15銭切手と1946年から1948年に発行された1円切手には透かしが入っていたのです。
従って、答はYESとなります。
YESの諸君、おめでとう!!」
同時に一塁側からバンザイが起きる。
毎年、各地の会場で起きる、夏のイベント。
その第一問で九割以上の高校生が涙を飲んだ。
詩織達は係員の指示でグラウンドに降り立った。
各都県毎に別れる。
これから各都県のYES−NO勝ち抜けのために問題が出される。
「YES−NO問題を勝ち抜けるのは東京10チーム、他の県は8チームです」
司会者が宣言した。
東京は現在残っているのは168組である。まだ先は長い。
「問題
“数ある交響曲の中には交響曲0番というものもある”
YESかNOか?」
左右のゾーンを移動する高校生たち。
詩織たちも考えていた。
「どっちだと思う?」
沙希の言葉に詩織は考えた。ふと、赤井の言葉を思い出した。
『問題を自分で作るつもりになれ、そうすれば自ずと答は見える』
詩織は考えた。自分がこの問題を作るとしたら……
(ウラをどう取るかよね……)
ウラを取るとは、その問題の答が正しいのかどうかを確認する作業である。
(YESだとすれば……交響曲0番があるってことよね……
もしNOだとしたら……無いってことを証明するのか……
え? そんなことできるの?)
在ると言うのを証明するのは簡単だ。
しかし……無いという事を証明するのは並大抵の努力では難しい。
(YESか……)
詩織は判断した。
「YESだと私は思うんだけど……」
公と沙希に言う。
「俺もそう思う。ウラ取りを考えると……交響曲なんて星の数ほど在るんだから……」
公も同じ結論のようだ。
沙希も従う。
詩織達はYESに移動した。
トントン……
詩織は肩を叩かれて振り返った。
「ひなちゃん……ひなちゃんもこっちなのね?」
「そだよ! へっへ……未緒がYESだっていうから……ね?」
夕子は未緒に言った。
「ブルックナーの交響曲に有ったように記憶しているんですが……」
「俺はNOだと言ったのに……」
好雄が後ろでぼやいている。
「あれ? 優美ちゃんたちあっちだ!」
夕子が指さした方を見ると、望・彩子・優美のチームはNOに移動している。
きらめき高校はまたも二手に別れた。
きれいに二つに別れた。
「正解は……これだ!」
司会者が叫ぶ。
電光掲示板にはYESの文字が浮かび上がった。
「やったぁ!!」
沙希がガッツポーズをする。
もちろん詩織たちも飛び上がって喜ぶ。知っていた未緒、推理した公と詩織。
手段は違っても正解にたどり着ける。クイズならではだろう。
「ブルックナーが1864年に交響曲第0番を発表しています。
その後に第1番が発表されました」
司会者が説明する。
「ふぇ〜ん……優美達、負けちゃったぁ……」
優美がペタンと人工芝に座り込んで泣いている。
「優美ちゃん、元気出せよ。
私たちはこれでおしまいだけど……優美ちゃんは来年があるじゃないか」
望が優美を元気づけた。
「でも……」
「Next year. 来年こそがんばってね。優美ちゃん」
彩子も笑顔で優美を立たせた。
「優美……来年こそはがんばります!」
東京のチームはこれで88チームになった。
「問題」
司会者が問題を読み上げる。
「弥次喜多の時代には“おもしろい”ことを、“おもくろい”とも言った」
「YESが二回続いたし……ここはNOかな?」
公が自信無さげに言った。
「だめよ、出目で勝負しちゃ」
沙希がたしなめた。
「赤井先生が言ってたじゃない。出目勝負をするなって」
「でも……こいつは……」
「これって……NOにできる?」
詩織が呟いた。
「え?」
「だって……おもくろいと言わなかったってするには……
この時代のありとあらゆる文献を見て“絶対にそんな事実はない”って証明しなくちゃいけないのよ。
もっとも、文献に載っていないだけで実際は言ったって可能性もあるし……」
詩織が説明した。
「それに……弥次喜多の時代には……っていいうのがねぇ……
いかにもこの時代だけはウラがとれてるって言わんばかりの言い回しよね」
夕子が横から言った。
「ひなちゃん……」
「ってことでうちはYESに行きまぁす!」
言うと同時に夕子達はYESに移動した。
「よし、俺たちもYESだ!」
公も詩織と沙希と共に後を追った。
今回はNOが多い。詩織たちのいるYESは4分の1もいないだろう。
詩織は少し不安になってきていた。
「正解は……これだ!」
電光掲示板に三度YESが輝いた。
「よっしゃぁぁぁ!」
好雄が叫ぶと同時に未緒や夕子も飛び上がって喜ぶ。
詩織たちも抱き合って喜んでいる。
「東海道中膝栗毛の中に“おも黒い”と言う表現が使われています」
司会者が説明した。
一気に減った。東京はこれで18チームになった。
「問題」
司会者が読み上げる。
「小説、『風と共に去りぬ』の作者・マーガレット・ミッチェルは風邪をこじらせてこの世を去った」
「なんだこりゃ?」
公が思わず声をあげた。
「うーん……」
沙希も悩んでいる。
「あれ? ひなちゃん?」
詩織が振り返ると夕子達はYESに移動を始めていた。
「へっへ……いかにもって感じじゃん!
クイズなんだモン。これくらいはあり得るわよね?
演出的にも面白いし。ね、ヨッシー?」
「そうだな……答の発表で『えーーー!!!』って風景が目に浮かぶな」
「でしょでしょ? 赤井先生も言ってたじゃん。
『回答発表の演出にも気を配れ』って」
「でも……」
未緒が横から言う。
「あまりにも出来過ぎのような……」
「俺達はどうする?」
公が詩織に聞いた。
「出来過ぎのような気がするのよね……」
詩織が言う。
「クイズにおける常識も大事だけど……一般常識で考えたら……ね?」
「そうね。『クイズだからあり得るって考えを捨てろ』って赤井先生も言ってたし……」
沙希も納得したようだ。
「じゃ、私たちはNOに行くわよ!」
詩織達はNOへの移動を始めた。
夕子チームと詩織チームの答が始めて割れた。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
---|---|
タイトル | 栄光への道 第2部 関東大会編 |
サブタイトル | 07:「快進撃」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子 |
感想投稿数 | 37 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月11日 08時33分55秒 |
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