「移動はそこまで!」
司会者の言葉とともにスタッフがロープでYESとNOのエリアを分けた。

「ひなちゃんと別々になっちゃった……」
詩織はYESのエリアに夕子達の姿を見てつぶやいた。
「一緒に全国大会へ行こうねって言ってたのに……」
一方の夕子は詩織の気も知らず、YESエリアから詩織達に向かってVサインを送っている。
「ひなちゃんったら……」

「風と共に去りぬの作者マーガレット・ミッチェルは風邪をこじらせてこの世を去った。
 答えは……実はこれだ!」

司会者が叫んだ。
電光掲示板に、赤地に白文字で“NO”と浮かび上がった。

「えぇぇぇぇぇーーーーー!!!!」
夕子はペタンと人工芝の上に座り込んでしまった。
「うっそぉ! 超ダサ! なんでよ!」
「おっかしいな……演出的には、絶対にYESの方が面白いのに……」
好雄も納得がいかない表情だ。
「あのう……」
未緒が恐る恐る声をかけた。
「地方予選って放送されるんですか?
 ダイジェストくらいしか映らないと思うんですけど……」
「あ!」
未緒の言うとおりだった。全国放送では全国大会だけだ。
地方予選はダイジェスト版になってしまう。
もちろん関東ローカルで関東大会は放送されるが……。
「考え過ぎってこと??」

一方のNOエリアでは
「やったぁぁぁぁぁ!!!!」
答えが出ると共に公が飛び上がった。
沙希も公にしがみついている。
そんな二人を睨み付けつつ、詩織は夕子の方を見ていた。
「ひなちゃん…………」
詩織の様子に気づいた公が詩織に声をかけた。
「詩織……朝日奈さん、残念だったね……」
「え?」
詩織が振り返った。
「一緒に全国大会行きたかったのにね……」
沙希が詩織に言った。
「大丈夫よ、まだ」
詩織が二人に言った。
「どうして?」
「多分、まだチャンスはあるわ」
詩織は周りを見回しながら言った。


「東京、8チーム。勝ち抜け決定! おめでとう!!!!」
司会者が叫んだ。
一斉に万歳が起きる。
「え? 8チーム? 確か東京は10チーム抜けられるんだったよね?」
公が詩織に確認した。
「そうよ。さっきの18チームのうち、抜けたのが8チーム。
 残り10チームの中からまだ2チームが残れるのよ」
「じゃ、ひなちゃんは……」
沙希の表情にも笑みが戻ってきた。
「まだ、チャンスはあるわ。確率……五分の一……」

「ようし! やったろうじゃん!」
夕子はスタッフに誘導されて勝者席に移動する詩織達を見ながら叫んでいた。
「おい、夕子。大丈夫か?」
好雄がそんな夕子に言った。
「大丈夫よ。なせばなる…………えっと……未緒?」
「…………え? ……あ、はい」
夏の暑さにぼうっとしていた未緒が顔を上げた
「大丈夫? 顔色悪いよ」
「大丈夫です。これでも以前に比べたら丈夫になったんですよ」
「よし、次の問題。獲るわよ!」
夕子が二人に声をかけた。


「それでは、問題を出します」
司会者が再開を宣言した。グラウンドにいるチーム数はグンと減っている。
「国会を傍聴するための傍聴券には映画館の入場券のような切り取り用のミシン目が入っている」
グラウンドにいた高校生からもどっと声があがる。

「詩織、わかる?」
「そんな……しらないよ、こんなの」
勝者席では勝ち抜けを決めた公たちが話していた。
「無いような気がするんだけどな」
沙希が言った。
「そうよね……私も無いと思うんだけど……
 ミシン目を入れるのって印刷工程が一つ増えるから割高になるのよ。
 国会がそんなことするはずがないと思うし……」
詩織も沙希に同意した。
「でも、いい問題だよね。
 政治に興味のない高校生、って言うイメージからこういうのを出すなんて」
公が言った。
「そうよね……ひなちゃん大丈夫かな?」
詩織がグラウンドの夕子を見つめた。


夕子と好雄がなにやらブツブツと話をしている。
「あのう……」
未緒が横から声をかける。
「あ、未緒……ちょっと耳貸して」
夕子が未緒を手招きした。
「………………でね………………で…………なのよ…………でしょ?」
「え? そうなんですか?」
夕子に言われて未緒は思わず声をあげた。
「そうなんだよ!」
好雄も嬉しそうだ。
「残り時間、15秒。急げ!」
司会者がせかす。
「よし、行こう!」
三人は一斉に移動を始めた。


「あ、ひなちゃん……YESに移動している」
詩織が夕子を見て言った。
「おいおい、……これってNOっぽいんだけどな……見ろよ、圧倒的にNOが多いよ。
 印刷にかかる費用を考えたら……絶対にNOなんだけどなぁ」
公も気が気でない。
「でも……早乙女君も、ひなちゃんも自信ありそうな表情しているんだけど……」
沙希が指さしていった。
「ひなちゃん……こんなの知ってるの??」
詩織がつぶやいた。


「正解は…………これだ!!!」
電光掲示板に“YES”が点灯した。
「やったぁ!!!」
夕子と好雄と未緒は三人で飛び上がって喜んだ。
YESエリアにいたのは彼らを入れてたったの2チーム。突破決定だ。
「シオリン!! 追い付いたわよ!」
夕子は勝者席に向かって叫びながらVサインを送った。

「ひなちゃん……よかった……」
詩織が我が事のように涙を流して喜ぶ。
「ふぅ……」
公も席に腰を下ろし、ほっと一息ついた。
「あぁ……疲れた。冷や冷やさせるぜ……まったく」
「でも、いかにもひなちゃんらしいんじゃない?」
沙希が言った。
「一発で合格せずに追試で通過……いかにも……」
詩織が「フフフ」と笑いながら言った。
「それってこの前のテストのこと?」
「そ、あのときも追試だったモンね」
そのとき、
「あ、あたしの悪口言ってんな!」
勝者席に移動してきた夕子が詩織達三人に声をかけながら言った。
「ううん、なんでもないの」
「なんでもないことないじゃん」
「いいじゃないか、夕子。とりあえず第一関門は突破したんだから」
好雄が後ろから夕子に言った。
「そうよね。あれ以上長引いてたら、未緒が倒れるかもしれなかったし……」
勝者席は日陰になっているので未緒も少し表情は楽そうだ。
「でも、ひなちゃん……よくあんなの知ってたわね」
「へっへぇ……」
詩織の言葉に夕子は頭をかきながら言った。
「実はね、去年ヨッシーと国会傍聴に行ってたんよ」
「え?」
「なんか、国会って面白そうじゃん。
 おじさんたちが喧嘩してんの……あーとか、うーとか言って。
 牛歩とか……結構面白かったんよ」
「………………」
詩織は唖然とした。
「ひなちゃんらしいと言うか……何と言うか……」
「でも、よかったよ。両方ともそろって通過できて」
公が言う。
「そうね、きらめき高校で残ったのは私たちだけだから、尚のこと頑張らないとね」
沙希が言った。

「では、勝者の皆さんにはただいまよりペーパークイズ・3択300問にチャレンジして貰います。
 一人100問。3人には別々の問題です。制限時間は10分。1問6秒のペースです」

司会者の言葉と共に勝者席のチームに問題集とマーカーペンが配られ始めた。
「この3択クイズの成績上位チームが地区予選の決勝クイズに進むことができます。
 なお、このクイズの結果は……全国大会でも重要になりますから頑張ってください」

「全国大会でも重要?」
公が首をひねった。
「なんのことだろう……」
「そんな先のことは考えてる暇はないわよ。とりあえずやるの!」
詩織が公を叱咤する。
合図と共に問題集が開かれ全員が問題に取り組み始めた。


『時間との勝負だ。絶対にやり残すな。
 何もマークしなければ0点だが、何かマークすれば3分の一の確率で1点もらえる。
 そのためには問題文を読んでいちゃダメだ。見るんだ。いわゆる速読だな。
 これは練習しかない。体にペースを覚え込ませるんだ』

そう言って赤井は特訓の時間の最後は必ず3択ペーパークイズを行った。
(この手のクイズで……クイズ研究会の人間なんかが落ちないのは、練習量が多いから……
他のクイズと違ってこれだけは……練習した分だけ成績が上がる)
詩織は赤井の言葉を思い返しながら問題を解いていった。

『時間のかかりそうな問題、計算が必要な問題は後回しにしろ。
 それに固執して全部できないことの方が怖い。
 その時解答用紙にチェックしておけ。回答欄をずらして書き込んだら洒落にならないぞ』

『選択肢を2つにするのも重要なテクニックだ。例えば
 “キューピー人形を作るときに参考にしたのは?
 1.ローマ神話 2.ギリシア神話 3.聖書 ”

 と言う問題を見ると1と2がセットになっていて、3が浮いているだろう。
 実は答えは1だ。3のように浮いている物を外してしまえば後は楽なんだ。
 確率は2分の一になるからな』

(赤井先生の言うとおりだ……)
司会者の「あと2分」の声がかかる頃には詩織は全問の解答を終えていた。
顔を上げるとまだ他のメンバーは下を向いている。詩織が一番のようだ。
「後1分です」
その声とほぼ同時に公と未緒も顔を上げた。周りでもやり終えたメンバーが出てきている。
さすがにここまで残るメンバーである。他の学校も練習していたのだろう。
「後30秒……」


「そこまで!」
全員が一斉に顔を上げた。スタッフが解答用紙を回収していく。
「どうだった?」
詩織が声をかけた。
「オレは全部できたけど……とりあえず勘で答えたのが多いからな……」
公が言った。沙希は
「ギリギリだけど全部やったわ。
 もっとも最後の10問は時間が無くて問題も見ずに印つけちゃった……」
夕子の方はと言うと……
「あぁ……最後の5問くらいできなかったのよね……」
とつぶやいている。
「オレは最後の20問は勘だぞ。
 後30秒と言われたから……もう、問題用紙閉じてひたすら答えを書いたぞ」
と好雄が言い訳をする。
「じゃ、うちのチームで全部ちゃんとやったのは私だけなんですか?」
未緒が言った。
「決勝に残れるのかな……」
詩織がつぶやいた

30分後……

「それでは……続いてのクイズに参加することができるチームを発表します。
 名前を呼ぶチームはグラウンドに出てください。まずは群馬県……」

全員が緊張している。
他県から呼ばれていく。その度に歓声が起きる。
最後まで呼ばれなかったチームはがっくりと肩を落とし、名前を呼ばれたチームは飛び上がって抱き合いグラウンドに飛び出していく。
各県からは5チームずつが呼ばれていった。
そして、最後に東京の順番になった。

「東京、まずは……私立文教大学付属高校」
詩織の後ろに座っていた男三人組が歓声を上げ、飛び出していった。
「私立開成高校・原田チーム、私立堀越学園・高山チーム」
複数チームが残っている高校はキャプテン名が合わせて読み上げられる。
きらめき高校は依然として呼ばれない。
「国立筑波大学付属駒場高校、私立吉祥女子高校」
5チームが呼び上げられた。
(おかしいわ……どうして……)
詩織が不安になってきた。他県が5チームという事は東京は恐らく5、6チームと思われる。
(まさか……)
「最後に……」
司会者が最後を告げた。
「私立きらめき高校………………朝日奈チーム。以上6チーム」
夕子達が飛び上がってグラウンドに飛び出していった。

(負けた……………………………………)
詩織は言葉を発することなくうなだれた。
公と沙希もがっくりと肩を落とした。

(シオリン……)
グラウンドに飛び出していた夕子も詩織が呼ばれなかったことで喜びが半分になっていた。
「あたし……シオリンの分も頑張るからね……」
夕子はつぶやいた。

(ひなちゃん…………ごめん…………約束……果たせなかった……)
詩織の目から涙がこぼれ落ちた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル08:「まさかの敗退」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数35
感想投稿最終日時2019年04月10日 23時43分50秒

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