(負けた……)

詩織と公と沙希はがっくりと肩を落とした。
ペーパークイズの結果が発表された。
その時、最後まで詩織のチームは名前を呼ばれなかった。
グラウンド上ではスタッフが名前を呼ばれたチームを各都県毎に整列させている。
(ひなちゃん……私の分も……がんばってね……)


「さて、みなさんには次のクイズに参加してもらう事になるのですが……」
司会者がグラウンド上の高校生達に話しかけた。
「その前に……と……」
司会者は、その場を離れマイクを持ったままスタンドでがっくりとしている高校生……詩織達の目の前にやってきた。
そして……、
「勝者の諸君! おめでとう!
 決勝までゆっくりと、くつろいで待っていて下さい!!」


(え??)
一瞬何が起きたのか解らず、詩織はポカンと口を開けていた。
(もしかして……こっちが……勝者なの??)
「ウォォォォーーーー!」
周りの高校生達が一斉に歓声を上げる。
「詩織! 詩織!」
公が詩織の肩をゆする。
「勝ったのは俺たちだよ!」
「藤崎さん! しっかり!」
沙希も涙を流しながら詩織と公にしがみついている。
「勝ったの……私たち??」
「そうだよ!!」
詩織はやっと、事態を理解した。
そして……
「もう…………高校生クイズ……やることが……ひどい……んだか……ら」
涙を流しながらも笑顔で公と沙希に言った。


「ウッソーーー!!」
グラウンド上では夕子がペタンと人工芝に座り込んでいた。
周りの高校生もあまりのショックで言葉を発する事が出来ない。
「思いきり持ち上げられた後、一気に奈落のそこに落とす……ものすごい演出ですね」
未緒もショックを隠せない。顔から血の気が引いている。
「でも、考えてみれば先ほどから一言もこっちが勝ちとも、向こうが負けとも言いませんでしたからね、あの司会者……
 ただ、つぎのクイズに参加するチームとしか言わなかったし……あら……じゃぁ……」
「次のクイズに参加するって……どういうことだ??」
好雄がぶつぶつ言っている。
そこへ司会者がやってきた。
「さて、諸君、君達は敗者となりました。残念でした」
冷酷に、しかし冷静な声で淡々と話し始めた。
「しかし、もう一度チャンスを与えます。
 君達がつぎに挑戦するクイズは決勝ではなく『敗者復活戦』です!」

「敗者復活戦のルールを説明します」
司会者の言葉と共にスタッフがグラウンドにA4サイズの封筒を捲き始めた。

「バラマキクイズか……」
夕子がぼそりと言った。
「こりゃ……やばいかも……」
好雄はチラリと未緒を見た。

「各都県ごとに行われる、バラマキクイズ。
 各チームでリレー方式をとります。
 第一走者が正解すれば第二走者へ、第二走者が正解すれば、第三走者へ。
 そしてアンカーが正解した、各都県一チームが決勝に駒を進めることができます」

司会者が説明をする。
「私はホームプレート上で待っています。
 ちなみに、内野にばらまかれた問題は難問です。
 外野の問題はふつうレベルの問題です。
 そして、外野のフェンス際には非常に易しい問題が捲かれています。
 遠くまで行って簡単な問題を取るか、近くの難問を取るか……各チームの判断に任せます」


「ひなちゃん……約束よ、絶対に勝ってね」
詩織が呟いた。
「でも……これってちょっと厳しくない……」
沙希がそんな詩織に言った。
「え?」
詩織が沙希の方を見る。横から、公が詩織に言った。
「如月さん……キツイと思うよ……」
「あ!」
詩織は思わず声を上げた。


「どうしましょう……」
東京は一番最後に行われる。グラウンドでは群馬県の敗者復活が始まった。
その時、未緒がグラウンドの隅で待つ間に夕子に声をかけた。
「大丈夫、自信を持って! 未緒なら大丈夫だって!」
夕子が励ます。
「でも……」
未緒は弱気だ。
「如月さん、一か八か……内野の一番近いところにある問題を取るんだ。
 いくら難問でも……如月さんなら大丈夫だって……」
好雄も勇気づける。


「お、高崎北高校は内野の難問を持ってきました」
グラウンドでは敗者復活戦が進んでいく。
「ふだんは毒性の弱い微生物が、宿主の免疫能力が低下したときに感染症を引き起こすことを何というでしょう?」
「えぇぇ!! わからなぁい!」
叫んでその生徒は走り始めた。
「正解は日和見感染だ! 急げ、外野の問題は易しいぞ!」
司会者の言葉を背に生徒達は外野へと向かう。


「なんだ……本当に……難しいぞ、内野の問題……」
好雄が目を丸くしている。
「私……」
未緒が顔を覆って座り込んでしまった。
「未緒!」
夕子が叫んだ。
「未緒はいつもそうじゃん。
 何でもやる前から『自分には無理だ』って決めちゃうんだ……いいよね、そういうの楽で……
 でも、あたしは諦めない。絶対に!」
「夕子さん……」
「やる前から投げ出しちゃったら……何もできないじゃん!
 未緒だってやればできるんだよ。あたし、1年生の時から未緒を知ってるけど……
 昔に比べて、未緒って強くなったと思うよ。
 昔の未緒だったら……こんな炎天下ならとっくに倒れていたと思うんだ。
 でも、今日はまだ倒れていないじゃん。
 強くなってんだよ、未緒は!」
「私が……強く……ですか?」
「そうだよ」
「私が……強くなっている……」
「だから……諦めないで。
 いい? 今度弱気になったら……絶交だかんね」
「夕子さん……」
「じゃ、未緒が第一走者、ヨッシーは二番目ね」
夕子がさっさと順番を決めていった。
「夕子……お前……」
好雄が夕子を見ていった。
「な、なによ……あたしの顔に何かついてる?」
自分を見つめる好雄に夕子は真っ赤になって言った。
「お前……今日のブラはストラップ無しか……」
好雄の言葉に夕子は自分の胸元を見た。走り回っていたせいか、シャツのボタンがいつの間にか二つ外れていた。
バチーーーーーーーン!!
好雄の頬に今日二度目の手の跡がくっきりと残った。
そんな二人を見て未緒はクスリと笑った。
未緒の体から緊張感が抜けていった。

「それでは、最後に東京の敗者復活を行います」
順調に進んだ敗者復活はいよいよ東京の順番になった。
「各チームの第一走者はこのライン上に並んでください」
スタッフに誘導されて未緒が歩いていった。
「未緒!」
夕子が声をかける。未緒が振り返った。
「前だけ見て! 絶対に弱気はだめだかんね!」
夕子の言葉に未緒はコックリと頷いた。


「あ、如月さんが第一走者だ」
公が指差した先にはスタート位置につく未緒がいた。
「頑張って……如月さん……」
沙希が祈るように見つめる。
「ひなちゃん……絶対に……勝ってね。信じてるから……」
詩織が呟いた。

「スタート!」
司会者の声で全員走り始めた。
さっきから見ていた限りでは内野の問題は本当に難しい。正解者が出ていない。
各チームの第一走者は一目散に外野へと向かった。
そんな中、未緒はピッチャースマウンドの手前にある封筒を取って、一番に戻ってきた。
「きらめき高校が最初に戻ってきました。難問でいいのか? さて……」
司会者が封筒を開ける。
「問題、ただ一人の芥川賞辞退者・高木卓は明治の大作家の甥になります。
 彼の母の兄であるこの大作家は誰でしょう?」

「げ、何あれ?」
夕子が好雄に言った。
「オレがわかる分けないだろ……」
好雄が言い返した。

「詩織、わかる?」
公が詩織に言う。
「わかんないよ……」
詩織は答えた。
「全然見当もつかないわ……だいたい、高木なんとかって人自体知らないモン」
沙希もわからないようだ。
前途多難……詩織がそう思った、その時だった。

未緒はにっこりと笑った。そして、自信に満ちた表情で言った。
「幸田露伴!」
ピンポーンピンポーン!!
正解のチャイムが鳴り響いた。
「きらめき高校、早くも第一走者が正解! しかも難問をだ!」
司会者が叫んだ。

「ヨッシー! 急いで!」
夕子が好雄の背中を押した。
「よっしゃ!」
好雄は未緒からタスキを受け取ると外野に向かって走り始めた。
現時点ではきらめき高校がトップだ。
「ヨッシー! 少しくらいはいいとこ見せなさいよ……
 これでも、あたしは……あんたのことちょっとは信じてんだかんね……」
夕子が頬を赤らめながらポツリと言った。
未緒はそんな夕子を尊敬のまなざしでじっと見つめていた。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル09:「大逆転、敗者復活戦!」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数37
感想投稿最終日時2019年04月10日 00時07分16秒

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