敗者復活戦に参加している6校のトップで未緒が正解した。
きらめき高校が一歩リードをした。

「行けるわ」
詩織が言った。
「でも、まだわからないだろ?」
公が言った。
「ううん、これで有利なの。
 ほら、バラマキクイズって走って問題を拾うんだけど……最初に並んだ順番は大きく変わることがないの。
 見てご覧なさい」
公と沙希は詩織が指差す方を見た。
丁度、外野のフェンス際から問題を持ってきた好雄が列の最後尾に並んだ所だった。
グラウンドでは未緒の次に並んでいた堀越学園が不正解で走っている。
「ね、これで堀越の選手が並んで、次は……あ、正解したわね。
 今、正解した文教大学付属の選手が並ぶわ……」
詩織がわかりやすく説明する。
「っていういことは……」
公は理解したようだ。
「あ、そうか。問題を読んで考える時間に問題を拾って並ぶことができるのね」
沙希も理解した。
「そう、よほど頑張って走っても、順番が一個入れ替わるかどうか……それくらいでしょ。
 ま、内野の問題を取るか、フェンス際の問題を取るかで多少入れ替わるだろうけど……大きくは順番は変わらない」
「ってことは、朝日奈さん達は常に一歩前で進められるんだね」
公が納得したように言う。
「でも、早乙女君が正解できなかったら……」
「問題はそこだよな……」
沙希の不安に公も同意した。

2巡目に入っている。
正解したのは、きらめき高校と文教大学付属、吉祥女子の三校だ。
好雄がフェンス際まで言って取ってきた問題を司会者に渡した。

「さぁ、今のところ一歩リードのきらめき高校、簡単な問題を取ってきたな……
 では……これを何と読む!」

司会者が問題用紙を好雄の目の前に突きだした。
「………………ちっくしょう!!!」
そう叫んで好雄が走り始めた。
「残念ながら『ハズレ』でした。頑張って走れ! さぁ、次は堀越!」
堀越学園の第一走者が二回目の問題を手渡した。


「あぁ……もう、ヨッシーのバカ!」
夕子が地団駄を踏んだ。
「そんな……早乙女さんのせいじゃないじゃないですか」
未緒がそんな夕子に言った。
「わかってるわよ。わかってるんだけど……」
「気になります?」
未緒が意味有り気に言う。
「ば、バカ……そんなんじゃないんだから……ヨッシーが頑張らないと……私たちも……だからよ!
 そんなんじゃないわよ!」
夕子が真っ赤になって言った。
「あら……誰もそう言う意味で言ったんじゃないんですけど……
 夕子さん、自覚されてるんですか?」
「み、未緒! バカ!」
夕子の顔は真っ赤になっていた。

そうする間に好雄に順番がやってきた。
この間に、堀越1ポイント、開成1ポイント、文教大学付属1ポイント、……そして私立吉祥2ポイントでアンカーに順番がまわっていた。
「ヨッシー……今度こそ頼むわよ……」
夕子の祈りが通じたのか、今度はハズレではなかったようだ。
「問題……あった、よかったなきらめき高校。
 では、『大事なことを忘れないようにメモを取ったりしますが、このメモはどんな言葉の略?』

「えっと…………メモ帳?」
好雄は自信なさそうに答えた。
ブ、ブー!
不正解のブザーが鳴った。
「あの、バカ……」
夕子が呟いた。
「毎日、メモばっかとってるくせに……」
「メモランダムですよね……」
未緒が言った。
「え? そ、そうよ。メモマンダムよ」
「あの……メモランダムです……」
未緒が繰り返した。

この間に開成が正解し2ポイントになった。
そして、順番はリーチがかかっている私立吉祥に回った。
「さぁ、吉祥女子、これを正解すれば決勝だ。
 問題『プロ野球で完全試合を達成した場合、考えられるもっとも少ない投球数は何球?』」

吉祥のアンカーが考えている。計算しているのだろう。

「9回……3人ずつだから……」
スタンドで見ながら公も計算を始めた。
「9掛ける3で27人……全員三球三振で27掛ける3は……」
その時、吉祥の選手が計算を終えた。
「81球!」

(やられた……)
公は思った。
しかし、沙希はその横で笑っていた。
ブ、ブー
不正解のブザーが鳴った。

「え?」
公が思わず声を上げた。
「違うのか?」
「公くん……27人をアウトにするんだったら……全員が初球打ちでアウトになれば27球で済んじゃうわよ」
沙希が言った。
「あ、そうか……そうだね」
「もう、公くん、しっかりしてよ」
詩織も言った。


「助かった〜」
夕子がホッとして言った。
「今度こそ頼むわよ……ヨッシー……」

吉祥の次は好雄の順番だった。
「問題、国の内外にも天地にも平和が達成される、と言う意味でつけられた、日本の247番目の元号は何?」
(ありゃりゃ……わかんないよ……)
好雄はチラリと夕子を見た。
夕子は好雄をジロリと睨んでいる。
(ここで間違えたら、あいつ怒るよな…………ええい、何か勘で言ってやれ)
「えっと……しょ…………じゃない、へ、平成!」
ピンポンピンポン!
正解のチャイムが鳴り響いた。

「ヨッシー!」
叫びながら夕子が飛び出した。
「任せた!」
好雄は夕子にタスキを渡した。きらめき高校もリーチがかかった。
これで、リーチがかかっているのは開成、私立吉祥、きらめきの3校だ。
堀越と文教大学付属、筑波大学付属駒場の3校は1ポイントで遅れている。


まず、開成に順番が回ってきた。
(ゴクリ)
詩織が生唾を飲み込んだ。正解されると夕子は失格だ。
(お願い……)
未緒は祈った。

「私立開成……これを何と読む!」
司会者の叫び声と共に開成の選手は走り始めた。
開成は残念ながらここでハズレを引いたのだった。

夕子は一か八か、勝負に出た。
吉祥の選手がフェンス際の簡単な問題を取りに行っているのを確認して、内野の難問をとって戻った。
順番が入れ替わった。

「朝日奈さん……勝負に出たな」
公が言った。
「そうね……吉祥がフェンス際に行った、簡単な問題だと正解の可能性が高い……。
 一か八かね……これがダメなら……」
詩織も公に同意した。
「ひなちゃんの得意分野だったら良いんだけど……」
沙希も祈った。

「夕子……」
「夕子さん……」
好雄と未緒が見つめる中、夕子の順番が来た。後ろに吉祥の選手がいる。
これを正解できなければ……吉祥がハズレを引いていない限り、99パーセント、負けは決定である。
「きらめき高校、勝負に出ました。難問を持ってきています。
 ここにはハズレはありませんからね……」

そう言いながら、司会者が封を切った。
「問題、こちら葛飾区亀有公園前派出所、の作者・秋本治が連載開始時に名乗っていたペンネームは何?」

未緒が、好雄が夕子を見つめた。
スタンドからは詩織達が祈るように見ていた。
夕子の後ろでは吉祥の選手が逆の意味で祈っていた。
そんな中、夕子は高々と人差し指を立てた手を天に突き上げて、そして、答えた。
「山止たつひこ!」

ピンポーンピンポン!!

「やったぁぁぁぁ!!!!」
夕子が飛び上がった。
「きらめき高校勝ち抜け! 決勝進出! おめでとう!!」
司会者が叫んだ。
飛び上がる夕子に好雄と未緒が駆け寄った。
「夕子! 夕子夕子夕子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「夕子さん……凄い!!」
三人はグラウンドで抱き合って喜んだ。
「よかった……シオリンとの約束……まだ、破ってないよね……」
放心したように夕子が言った。


「よかった……ひなちゃん……よかった……」
詩織が我が事のように喜ぶ。
「詩織……いよいよだね」
公が肩をたたいた。
「そうよ、藤崎さん。自分のことも大事よ。いよいよ決勝なんだから……」
沙希もそう言った。
「そうね……次は……決勝なんだからね……」
詩織は涙を拭きながら言った。
「これで4チームにひなちゃんのチームが加わって5チーム。
 全国大会に行けるのはたったの2チーム……頑張らないとね……」

グラウンドではスタッフが早押しの機械を並べ始めた。
いよいよ決勝である。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル10:「土俵際、奇跡再び」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数37
感想投稿最終日時2019年04月09日 04時12分56秒

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  • [★★★★★★] 私、今年の高校生クイズの全国大会に出ましたが高校生クイズの雰囲気が良く出てますね。
  • [★☆☆☆☆☆] 出場校名があり得ない組み合わせ。