「決勝の準備が整うまで、今しばらくお待ち下さい」
スタッフがそう言った。

詩織達の席へ敗者復活戦を勝ち抜いた夕子達がやってきた。
「いよいよ、ここまで来たわね」
隣に座った夕子に詩織が話しかけた。
「なんとか……危なかったけど」
そう言って夕子は笑った。
「行こうね、一緒に……」
詩織はグラウンドを見つめながら言った。
「もちろん……」
夕子もそう言い返した。

「なんだか……隣では盛り上がってるようですけど……どうですか? 主人さん」
未緒が公に話しかけた。
「う〜ん……ここまできたら……やるしかないもんな」
公はそう返事をする。
「そりゃ、そうだ。ここで負けたら……今までの苦労は何だったんだ、ってことになるし……」
好雄が後ろから茶々を入れた。
「でも……早乙女君、さっきのバラマキクイズ危なかったわよね」
そう言って沙希がからかった。
「あ、あれは……その……」
好雄がしどろもどろになる。
「ははは……冗談よ」
沙希がそう言った。
「何にしても、ここまできたら、後は根性よ。頑張るしかない」
「うん、沙希ちゃんの言うとおりだ」
公がそう言った。
「そうね、虹野さんの言う通りね」
詩織が沙希に言った。
「よし、じゃ、手を出して」
夕子がそう言って6人の真ん中に自分の手の甲を出した。
それを見た好雄は、すぐに夕子の意図を見抜いた。
そして自分の手を夕子の手に重ねる。
公が、未緒が、沙希が自分の手を上に重ねていった。
最後に詩織が手を上に重ねる。
6人の手が中央で重ね合わされた。
「シオリン……」
夕子が目で促す。
「きらめき高校、全国大会への最後の関門、勝つわよ」
詩織がそう言った。
「おぉ!」
5人が声を揃えた。
すぐに公が後を続けた。
「最後まで、諦めず、一問一問楽しんで、悔いを残さないように」
「おぉ!」
全員の声が揃った。


「ただ今より、決勝を行います」
司会者が宣言した。
「どんなクイズかな?」
公が独り言を言った。
すぐに司会者が説明にはいる。
「クイズは大声クイズ。あらかじめ各チームが決めたフレーズを大きな声で叫んでもらいます。
 一定の音量に達したチームが解答権を得ます。5ポイント先取勝ち抜け。
 正解1ポイント、お手つきはマイナスポイント無しで1問休み。
 東京は5チーム中2チームが、他県は4チーム中1チームが全国大会に駒を進めます。
 よろしいでしょうか?」

司会者が確認する。
詩織は大声対策を夕子に話そうとしたその時、
「それでは、東京から決勝を始めます」
司会者の宣言と同時にスタッフが東京のチームを解答席に移動させ始めた。
(ひなちゃん……大丈夫かな?)
一瞬詩織は不安感に襲われた。


東京で決勝に進んだのは、私立きらめき高校・藤崎チーム、私立開成高校、私立堀越学園、都立国立(くにたち)高校、そして敗者復活を勝ち上がった私立きらめき高校・朝日奈チームの5チームだ。
開成と堀越はもう一つのチームが敗者復活で夕子達に敗れているため、仇討ちとばかりに夕子達をみつめている。
詩織達はいちばん左端の席につくように言われた。
さらに開成、堀越、国立と続き夕子達はいちばん右端だった。
「よろしいでしょうか? ではお手元のフリップに叫ぶ言葉を書いて下さい」
司会者の言葉と共にフリップにマジックで各チームが書き始めた。

「どう叫ぶ?」
公が尋ねた。
「んとね……有利なのは語尾の母音がAかOになること。
 そうすれば叫ぶときに大きな声が出易いの。逆にIやEにすると大きな声が出にくいの。
 それとあんまり長いフレーズはダメね。いいのないかな?」
詩織はそう言って考え始めた。
「根性! ってのはダメかな?」
沙希が言った。
「あ、いいわね、それ」
詩織が言った。
「うん、それがいい。それじゃ『根性』と叫ぶ事にしよう」
そう言って公はマジックで『根性』と書き込んだ。
「ひなちゃん……なんて叫ぶんだろう?」
詩織は夕子達を気にしていた。


「それでは端からフリップを出して下さい」
司会者に言われて詩織は前に出した。
「根性……ですか。よし、では根性で頑張ってもらいましょう。つぎは?」
開成高校は『ファイヤー!』、堀越学園は『勝つぞ!』、そして国立は『国立高校』と書いて出していた。
そして……
「最後に敗者復活を勝ち上がったきらめき高校・朝日奈チーム。きらめき高校の二チーム目は?」
司会者の言葉に夕子が出した。
「超ラッキー!」
と夕子が言った。
「なるほど……敗者復活を勝ち上がれた、ということで超ラッキーですね?
 ラッキーが続く事を祈りましょう」

司会者がそう言った。
(違うんだもん、あたしの口癖なんだもん)
夕子は内心でそう思っていた。

「もう……ひなちゃんたら……それじゃ不利になるのに……」
詩織がポツリと言った。
「ラッキー、じゃ語尾はIだからなぁ……」
公も同意した。
「でもさ、詩織……人の心配より……自分の事だよ。まず俺達が頑張らないと」
「そうよ、藤崎さん……」
沙希も公に同意した。
「そうね……ひなちゃん……信じるしかないわよね……。
 お手つきはマイナスがない、一回休みなだけだから……思い切って行きましょう」
詩織の言葉に沙希と公は頷いた。

「では、決勝を始めます」
司会者が宣言した。
緊張感が走る。
泣いても笑っても……このクイズで決まるのだ。

(やるしかない)
公は乾く唇を嘗めて湿らせ、緊張感を解こうとした。
(根性よ……)
沙希は自分の得意分野が出る事を祈った。
(さっきの失点を挽回しないとな……)
好雄はチラリと夕子の方を見て考えていた。
(私にも……できます。そうですよね、夕子さん)
未緒はさっき夕子に励まされた言葉を思い出して決意した。
(シオリン……全国大会……行こうね……)
(ひなちゃん……負けないで……私も、負けない!)
夕子と詩織も真剣に司会者の言葉を待った。


「問題、東京の都市で、国分寺と立川の間にあった事からその名がついたのは何市でしょう?」
「国立高校!!!」
国立高校が『立川』辺りから叫びはじめ解答権を取った。
「さぁ、来た。国立高校」
司会者が指名する。
「国立市」
笑いながらそう答えた。
ピンポンピンポン
チャイムが鳴り響く。
「地元問題をとった国立高校、一歩リード」

「問題、俗に梅干しの中にいると言われる神様は?」
「勝つぞ!」
「ファイヤー!」
「国立高校!」
「根性!」
「超ラッキー!」

5チームが同時に叫んだ。
ランプがついたのは、堀越学園だった。
「堀越!」
「天神様」
ピンポンピンポン

序盤戦4問を終了したとき、国立2ポイント、堀越1ポイント、開成1ポイントだった。
「きらめき高校、頑張れ」
司会者がそう言った。

(流れを……こっちに持ってこなくちゃ……)
詩織はそう考えていた。
(こちらの得意問題が出ないと……)

(くそ……なんでランプがつかないのよ……あんなに叫んでんのに……)
夕子は自分達の言葉の語尾が原因だとは気付いていなかった。

「問題、スープに使う肉や野菜の煮出し汁の事をフランス語でなんというでしょう?」
「根性!!!!!」
『煮出し』の辺りで沙希が大声で叫んだ。
(流れが来た!)
詩織はそう思った。
目の前のランプが点った。
「きらめき高校、藤崎チーム」
司会者が指名する。
沙希がマイクに向かって大声で叫んだ。
「ブイヨン!!!」
ピンポンピンポン
正解のチャイムがなった。
「やったーーーー!」
1ポイントを獲得し、詩織達にも笑顔が出てきた。


「解答は大声でなくてけっこうですから。マイクはちゃんと拾ってます。
 あんまり声が大きいと声がわれちゃいますので」

沙希が答える際の大声にびっくりした音声担当者が全員に言った。
「あ、すいません……」
沙希が真っ赤になった。

to be continued...

作品情報

作者名 ハマムラ
タイトル栄光への道 第2部 関東大会編
サブタイトル11:「決勝開始」
タグときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第2部 関東大会編, 藤崎詩織, 主人公, 朝日奈夕子
感想投稿数36
感想投稿最終日時2019年04月10日 04時50分24秒

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  • [★★★★★☆] 母音が「I」だと本当に言いにくいですね