「あの、この辺りでいいんですか?」
高校生たちが並んでいる列の前の方へ行くと詩織が脇にいるスタッフに尋ねた。
「えっと……あなたたちは何番?」
スタッフが詩織に聞き返してくる。
「1番なんですけど……」
「だったら、もっと前。
あそこにゲートみたいなのを作ってあるでしょ。奥のホールの入り口。
あの辺りだから」
スタッフがそう言って前を指さした。
「ありがとうございます」
そう言うと詩織は前へと歩いていった。
公と沙希もついていく。
「なんなんだろね……この一番って……」
公が呟いた。
「でも……一番って気持ちがいいじゃない。何にしても」
沙希がそう答えた。
「藤崎さんたちが一番であそこなら……五番の俺たちはここかな?」
間宮が仲間と共についてきて立ち止まった。詩織たちの5メートルくらい後ろに並んだ。
「これはひょっとしたら……ひょっとするぜ」
間宮が隣の田代と佐藤に耳打ちした。
「なんで、あたしたちがビリなのよ!」
夕子は愚痴をいいながら詩織たちから50メートルくらい離れたところに立っていた。
「へぇ〜、詩織ちゃんたちが霞んで見えるぜ」
好雄が通路の奥にいる詩織たちを眺めていた。
「四十九番って、参加校でいちばん後ろなんですね」
未緒が受付で配布された参加校のリストを見ながらいった。
「この順番って、何の順番なんでしょうか?」
未緒が前に並んでいた学校に尋ねた。
「さぁ……俺らもここに並べっていわれただけやさかいに……」
とその四十八番目の学校……大阪代表・岸和田高校……の生徒が答えた。
「そやけど……嫌な予感はしてるんや。むっちゃ嫌な予感やけど……」
岸和田の生徒が未緒たちにそう言った。
「あ、このあたりみたいやね」
詩織たちの元へ、三人連れがやってきた。
「あんたら、一番?」
その生徒の一人が詩織たちに尋ねた。
「そうですけど……」
「そしたら、おれらはここや」
そう言ってその男さん人連れは詩織たちの後ろに並んだ。
詩織は彼らの胸を見た。
“2.東大寺学園”
と書かれた名札がついている。
(あ、あの有名な東大寺学園だ……)
詩織はもう少しで声に出すところだった。
見ると、その後ろにも次々と学校が並んでいている。
「どうしたの、詩織?」
公が詩織に尋ねた。
「ほら、後ろ。奈良の東大寺学園よ。
その後ろは鹿児島のラ・サール」
詩織が囁いた。
「東大寺学園って……あの全国大会の常連の?」
公が小声で言った。
高校生クイズファンの間で東大寺学園とラ・サールの名を知らない者はいない。
全国大会の常連校。
決勝進出は数知れず、優勝経験もある学校だ。
「ひなちゃん……一番後ろだね」
沙希が後ろの方を見ながら言った。
「そうね……でも、ひなちゃん、元気そうじゃない」
遥か後ろで、他校の生徒たちと話をしている夕子の姿を見て詩織が言った。
ちょうどその時、詩織の目の前に司会者用と思われる演台が運び込まれた。
どうやらまもなく始まるようだ。
「まもなく本番開始します。
参加者のみなさんは正面の司会者席に注目して下さい」
スタッフが指示を出した。
「注目しろったって……あんな遠くじゃよく見えないじゃない……」
夕子が一番後ろでぼやいていた。
「まぁ、そういきりたつなって」
好雄がなだめている。
そうしているところに司会進行のアナウンサーが詩織たちの目の前に現れた。
「ようこそ! 全国大会の会場へ!」
参加者から一斉に拍手が起きる。
「さて、早速ですが、この奥の会場で会食を行う予定です。
今日の料理は、このホテルのシェフが自慢の腕によりをかけて作った絶品です。
楽しみですね……」
「ねぇねぇ……ここのシェフの料理って一度食べてみたかったんだ」
沙希が詩織に言った。
「そんなに美味しいの?」
「うん……本でレシピ見て何度か作ったんだけど……旨くいかないのよね。
まさか実際に食べられるなんて、これだけでも全国大会に来た価値があったわ」
沙希の目は既に夢見る少女になっている。
「でも……それだったら……中に入場させるんじゃないの?
こんな所に並ばせることはないと思うんだけど」
公がそう言ったときだった。
「しかし! すぐに中に入れるほど日本テレビは太っ腹ではありません!
この中に入れるのは、この中のたった36組!
つまり13組は中にも入れずに、おさらばとなります」
「えぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
一斉に高校生の間からブーイングが起きる。
「やっぱりね……こんな事だろうと思った」
詩織が一番前の席で頷いていた。
「詩織は予想していたの?」
公が尋ねる。
「ん〜というか……妙な並ばせ方をしていたからおかしいなとはおもってたの」
「ってことは……もしかして……」
沙希が恐る恐る尋ねた。
「そうよ……あるのよ。……クイズが……」
詩織が答えた。
「そこで、早速クイズを行います!」
司会者がクイズのルールの説明を始めた。
「現在みなさんには、地区予選でやっていただいたペーパークイズ、憶えてますか?
一人百問、三人で三百問やったあれですね。
あの成績順に並んでもらっています。
あの時、言ったはずです。この成績が全国大会でも重要だと。
この成績順にクイズに挑戦してもらいます。
一問一答、正解すればそのまま会場に入場できます。
不正解の場合は、列の一番後ろに回ってもらいます。
先着36組が決まった段階でクイズは終了します。つまり……」
司会者が言葉を切った。
「先頭から36組が連続して正解すれば、37番以降の高校はクイズに挑戦すること無く、ここからお帰り頂く事になります」
「げ……なにそれ……」
一番後ろで夕子が悲鳴を上げた。
「そんな……ここ、不利じゃんねぇか!」
好雄も文句を言っている。
「しかたないですね。
考えてみれば、うちのチームは関東大会のペーパークイズで一回落っこちてますからね。
最下位の成績もしかたないですね」
未緒が順位に納得いったようだ。
「それにしても……」
好雄が文句を言うと未緒が、
「まずは、順番が無事に回ってくるかどうかですね……」
と言った。
「何もせずにお去らばってのは勘弁してよ」
夕子が呟いた。
「さて、先頭にいるのは全国一位の東京代表・きらめき高校です。
なんと、きらめき高校は全国大会に2チーム来ています。
キャプテン藤崎さん、もう一つのチームはどこにいますか?」
「あ……はい。一番後ろにいます」
詩織が後ろの方を見た。
夕子がこっちのカメラが自分を捕らえているのを知って手を振っている。
「高校生クイズ史上初の、全国大会二チーム出場をはたしたきらめき高校。
その藤崎チームが全国一位です。成績は……三百問中、二百七十六門正解。
正解率は驚異の九十二パーセント」
司会者がデータを読み上げる。
カメラが詩織たちの顔をアップにした。
「ふえ〜、シオリンさんたち、凄い成績なんだ……間宮、こりゃ釣りあわないぜ」
田代が間宮をからかった。
「ば、ばか……田代、俺はそんなつもりは……」
「無理すんなって、わかってるよ。
お前の藤崎さんを見る目って、ちょっと違うもんな」
佐藤も一緒になって間宮をからかう。
「むしろ、隣にいるあの虹野さんってこにしたら?
俺はあっちの方が趣味だな。
可愛いじゃん、虹野さん」
田代が沙希の後ろ姿を指差していた。
「馬鹿言え、そんなんじゃないよ……
それに、俺たちだって全国第五位なんだ。卑屈になる必要はないって」
間宮はそう言いながら司会者と受け答えする詩織を眩しい者を見るように目を細めて見ていた。
「一番後ろの、もう一つのきらめき高校! 順番が回ってくるように祈っていて下さい!」
司会者が夕子たちに向かって叫んだ。
「もちよ!!!!」
夕子が思いきり叫んだ。
「それでは、ここに問題が入った封筒の束があります。
公平を期するために、これからきらめき高校・藤崎チームにシャッフルしてもらいます」
司会者が詩織たちに歩み寄り、封筒の束を手渡した。
「あ、はい……」
詩織は受け取るとトランプのカードを切るように封筒をシャッフルした。
「どうぞ」
司会者に返す。
「よろしいですか?
では全国大会、一次予選を開始いたします。
問題は難問から簡単な問題まで各種取り揃えています。運も大事です」
(どうかやさしい問題が当たりますように……)
詩織が、沙希が、公が祈った。
(やさしい問題が当たりますように……)
北斗農業の間宮らも祈っていた。
(前の方の人には……難しい問題が当たりますように!)
夕子が祈っていた。
「それでは、先頭のきらめき高校・藤崎チームへ問題。
『落語で、最後の笑いを取る部分をオチと言うのに対し、話の導入部を何と言うでしょう?』」
司会者が問題を読み終えると詩織たちを指さした。
「さぁ、来い!」
公が目の前のマイクの方を向くと、詩織に軽く目で頷いた。
「マクラ!」
公がマイクに向かって解答を叫んだ。
ピンポンピンポン!
正解のチャイムが鳴り響いた。
「正解! きらめき高校一次予選突破!」
司会者が絶叫する。
詩織たちはスタッフの誘導にしたがって奥のホールへと進んでいった。
作品情報
作者名 | ハマムラ |
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タイトル | 栄光への道 第3部 全国大会編 |
サブタイトル | 02:「一次予選開始」 |
タグ | ときめきメモリアル, ときめきメモリアル/栄光への道 第3部 全国大会編, 藤崎詩織, 主人公, 早乙女好雄, 朝日奈夕子 |
感想投稿数 | 27 |
感想投稿最終日時 | 2019年04月10日 21時09分12秒 |
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